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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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185 走馬灯――俺が変えてやる――

2024/04/14 文章一部修正

腕輪「面白すぎる! この作品は超爆笑できるじゃん! と思ったら評価お願いしまーす」

神奈「評価するハードル高すぎない……?」











 人生なんてすぐに終わってしまうものだ。

 現在、少年がそう思っているのは真横にトラックが迫っていたからだった。

 あと僅か数ミリで激突して少年の命を刈り取るだろう。悲惨な結果が訪れるまで、少年には時間が止まっているように長く感じられた。


(ああ……なんだこりゃ? 死ぬのは分かってる、だから早く来いや。なんで止まってんだこのトラック野郎……!)


 まるで時間が止まったかのように思考が加速していく。

 仮に時間が止まっていたとしても、自分が動けないのだから意味がない。

 心の中で溢れ出てくる誰に向けたものでもない文句を叫び続けていると、少年の頭には過去のイメージが流れてきた。


(くそっ、胸糞悪い映像だ……話に聞いたことがあるが、走馬灯ってやつか……?)


 小学校の教室。クラスの三十人程度の生徒が全員集まっていて、ほとんどの生徒が一人の男子生徒を嗤っていた。

 男子生徒は女児が欲しがるような可愛らしい魔法少女のステッキを持っており、嗤われたことで涙目になっている。


「ぷはっ! おい、使ってみろよ! ミラクルクルクルキッラキラって魔法少女ミラクルンみたいに言ってみろよ! 魔法があるんだろ!?」


 嗤っている生徒のリーダー格はクラスでも人気者だった。

 人気者の男子が揶揄うなら周囲の生徒も揶揄い始める。たとえ不本意なことでも、周りに合わせるのが賢い選択だと幼いながらに全員が分かっているのだ。


 涙を流してジッと耐えるステッキ持ちの男子生徒を見て、一人の少年が声を荒げる。


「おいっ、お前ら止めろよ! 可哀想だろ!」


 当然のように注目は声を荒げた少年に移る。


(あれは……俺だ)


 人気者の男子は「はぁ?」と声を上げて、困ったような表情をした後に口を三日月のように歪ませる。


「おいおい、みんな! こいつアレのこと庇うみたいだぞ! てことはああ、お前も魔法なんてものがあると思ってんのかなあ?」


「……あってもいいだろ」


「は? なんだって?」


 小声で聞き取れなかったと分かった少年はもう一度声を荒げる。


「あってもいいだろって言ってんだよ! 他人の趣味にいちいちケチつけてんじゃねえよ!」


「うるせえなあ、生意気だよお前。おいみんな囲め! こいつウザいからボコボコにしようぜ!」


 人気者の男子の言葉を皮切りに、少年は周囲の生徒から暴力を受けた。

 殴られ、蹴られ、椅子で叩かれることもあった。それでも人気者の男子はなにか足りないと思っていたが、妙案を思いついたとばかりに手をポンと叩く。


「なあ、お前も殴れよ」


 人気者の男子がそう声を掛けた相手は、最初に揶揄われていた男子生徒だった。


「な、なんでそんなこと!」


 当然男子生徒は抵抗を見せていたが、耳元で何かを囁かれると息を呑んで拳を握る。

 暴力を受け続けていた少年の目前に男子生徒が来て、誰もがまさかと思い見守る。


「お前、まさ、か……!」


「ごめんっ」


 男子生徒の拳が少年の腹にめり込む。

 鳩尾に入ったことで強い痛みに襲われて、少年はその場で嘔吐してしまう。


「うっ、うぼっ、おえええっ……!」


「うわっ、吐いた! ゲロ吐いたあ! 今日からこいつのあだ名ゲロゲロにしようぜ!」


「それじゃ蛙じゃね? ゲレゲレってどうよ」


 少年の心配など誰もすることなく、どうでもいいあだ名を決めようとしている。


(そうだ、この日から俺のあだ名がゲレゲレになった。まあそれはどうでもいいとして、この時から今まで忘れたことはないぜ。腐りきったクズ共への恨みは……!)


 少年はそれから自分を鍛えることにした。性別が男だったこともあり、筋肉は早めについて強くなっていく。中学生の頃にはもう誰に絡まれても拳で倒せるくらいになり、一番に人気者の男子を叩きのめした。


(そうさ、忘れてねえ、忘れられねえ。同じ人間なのにこの差はなんだ? どうしてこんな虐めが出てくる? 原因なんてどうでもいい。俺はただ、こんなことが起きないようにしたいだけだ……!)


 自分の目的を強く頭に浮かべた瞬間、止まっていた時間が動き出してトラックは少年を撥ね飛ばした。

 その後、少年は転生の間に行き、管理者に違う世界に送られることになる。



 * * * 



 とある町の裏路地。複雑な迷路のようになっているそこで、黒いタンクトップを着た一人の少年が、自分より体格のいい少年五人を踏みつけていた。

 五人の少年から悲鳴が漏れるとその足がどけられて、代わりに辛辣な言葉が飛んでくる。


「失せろ……テメエ等程度じゃ力不足だ。ロールプレイングゲームの雑魚敵くらいの価値しかねえよ」


 その少年の名は――神神楽(かみかぐら)神人(しんと)

 鬱陶しいほどに神という文字が付けられている名を持つその少年は、前世での想いを胸に秘めて日々努力していた。しかしその考え方は少し歪んでいる。


「ああいう虐めをなくすには圧倒的力で上から抑えつけるしかない、それも全人類が対象だから人類全てを超越した存在にならなければならない。早急に俺が強くなる必要があるってのに、周囲の敵は全員雑魚雑魚雑魚! これじゃあ強さの上がり方がイマイチだ……!」


 虐めを嫌っている割に、不良を殴り倒しているという矛盾には気付くことはない。

 神人にとって誰かを倒すのは目的の強さに辿り着くための行為であり、正しいと疑っていないからだ。


「それにしても風が冷たいな」


 神人は冬が近いというのに黒いタンクトップ一枚しか上に着ていない。下は動きやすい伸縮性があるが薄いズボン。誰もが季節に合わない服装と思うだろう。

 針のようにツンツンとしている髪が風で動くのを感じながら、神人は強い者を求めて普段のように町を歩く。


 昼だというのに学校にも行かず、ただひたすら強さを求めて戦い続けている。

 強くなりたいという想いは誰よりも強いと神人は自負している。

 そこらにいた不良を倒しても強さは一定の位置で止まってしまい、強くなるためにはもっと強い誰かと戦う必要がある。そう考えている神人は人通りが少ない道で嫌なものを見た。


 ピンク髪の少女が、金属バットなどで武装した不良四人に囲まれている。


「おいおい、相変わらず治安が悪いなこの町は。女一人に四人掛かりかよ情けねえ、あんな程度の連中数秒で片付けられるが……妙だな。あの女、怖がる素振りを見せてねえ。状況を嫌でも理解しているはずだが、まさか……問題ないとでも思ってんのか?」


 少女の雰囲気が怖がるものでもないため、神人はすぐに助けようとせず物陰から様子を伺う。

 一方、絡まれている少女は面倒そうに頭を掻く。片方の腕には紙袋が抱えられており、中には様々な果物が入っている。


「しまったなあ……近道だから通ったけど失敗したか? なあ、妹が楽しみにしてんだよこの果物。だから早くどけ」


 ピンク髪の少女は自分よりも高身長である男達を怖がらず、乱暴な言葉遣いをして強気な態度をとる。その態度が気に入ったのか、四人の不良のリーダー格だろう男が笑みを見せる。


「いいねえ、強気な女は好きだぜ? まあここは俺達シャンプーヘッドのシマだ。通るってんなら有り金出せっていつもなら言うんだが、お前上玉だしなあ。今日だけはその体で支払ってくれて構わないぜ?」


「ああ? シャンプーヘッドってなんだよ、ダサいなその名前。嫌に決まってんだろ、怪我したくなかったらとっとと通せって。ただでさえ寄り道してちょっと遅くなってんだ、早く帰らねえと怒られちまうっての」


「へっへっへ、おいおい……状況分かってんのか? これからもっと遅くなっちまうんだよ。家族への詫びは考えとけよ? たっぷりと楽しませて――」


 喋っていたリーダー格の男の顔面に拳が叩き込まれたことで、言葉が中断されて十メートル吹き飛ぶ。


「り、林巣(りんす)さん!?」


 リーダー格の男が気絶して動かなくなり、残った三人が驚愕する。

 体格差がある少女の非力そうな腕で、たった一撃でやられるなど誰も思っていなかったのだ。


「さてとっ、そんじゃあ雑魚は雑魚らしく瞬殺するかな」


 少女は首を振ってコキコキと音を鳴らすと持っていた紙袋を真上に投げる。真横にいた二人を裏拳で吹き飛ばし、背後にいた最後の一人の顎を蹴り上げる。その一連の動きは不良達の目には映ることなく、やられた誰もがなぜ自分が倒れているのか気付かない。


 少女は真上から落ちてくる紙袋を受け止めて、自宅に帰るために去っていく。

 不良を倒した動きを見た神人は抑えきれない笑みを零していた。


「くははは……! おいおい強いじゃねえか、決めたぞおい。せっかく見つけたメタル系だ、ぶっ倒して経験値にしてやる……!」


 そんな危ない男に尾行されているとも知らず、少女は歩き続けて自宅に到着する。

 自宅といってもその建物は一軒家やマンションというわけではない。黒一色であり、半円のドームのような形をしている珍しい建物だ。

 入口付近に二人の人影が見えて少女は顔を歪める。


「遅いですよベータ、また寄り道でもしてたんですか?」


「そうだよ……イータとシータが待ちくたびれてるんだから」


 二人は紙袋を持っていた少女、ベータと同じ顔をしていた。

 鮮やかなピンクの髪色と顔の作りは一緒で、外見で違う部分は服装と髪型くらいなもの。しかし服装と髪型だけ違えば人の印象は変わるものだ。


 入口の右にいるのは真面目そうな少女、アルファ。

 入口の左にいるのは虫も殺せなさそうな大人しい雰囲気の少女、ガンマ。


 建物に住む人間は全員リンナ・フローリアという少女のクローンである。かつてはアンナ・フローリアという女性に支配され、非道な行いに加担した者もいるが、神谷神奈の活躍により支配からは解放。全員が事実を受け入れて大人しく生活している。


「わりぃ、わりぃ、んじゃ早くメシにしようぜ? 今日の飯なんだ? キーマカレーか? それともスープカレーか? 普通のカレーライスってのもアリだな」


「どうしてカレーになってるんですか。出発する前に今日の昼食はピザだと言っていたでしょう」


 家に入りながら頭を抱えるアルファに続いてガンマが口を開く。


「うん、下の子達が頑張って作ってたから楽しみだよね」


「ほう、ピザかあ。なんか最近この場所って工場と見間違うな。この前もパン作ってたり、ラーメン作ってたりしただろ? 室内に畑もあるよな?」


「そうですね、でもそれも仕方ないでしょう。私達はクローン……迂闊に外出すれば素性がバレるかもしれない。リスクがある以上最低限に外出を控えなければいけません。アンナの研究資料を燃やしたとはいえ、その成果である私達が存在している以上は油断出来ないのです」


 アルファ達は自分自身に危機感を抱いているので、買い出し以外でほとんど外出をしない。もしもクローンの製造法が悪人に知られてしまった場合、悲劇が繰り返されるからだ。


「だよな、アタシ達は存在が禁忌みたいなものだし」


「この前ゲームセンターに寄り道したバカは誰でしたっけ? 今日も少し遅かったですが」


「い、いやいや、行ってない行ってない!」


 慌てて手を振り否定するベータだが、パーカーのポケットから何かが落ちる。

 キンッと高いが小さい金属音を立てて転がったそれは、ガンマの足元に転がったことで屈んで拾われる。

 落ちたのは小さなコインであり、表面にはゲームセンターの名前が彫られていた。

 それを見てからアルファは後ろを歩いていたベータに鋭い目を向ける。


「わ、悪かったって! で、でも新しく並んだダメオカートが気になっちまってさあ」


 証拠が出たことで否定出来ないベータは言い訳を述べるが、アルファの目の鋭さが和らぐことはない。さらにガンマも険しい顔になりアルファ同様敵意を見せる。


「な、なんだよ、そんなに睨むこと――」


「誰ですかあなたは!」


 意味が分からなかったベータは「へえっ?」と間抜けな声を出す。


「――懐かしいコインだな」


 しかし背後から知らない声が聞こえたことでベータも険しい顔に変わる。


「それってあれだろ、あそこのゲームセンターのやつ。最近行ってねえな。それくれねえか?」


「誰だよ……お前」


 振り返ったベータの正面には黒いタンクトップ姿の少年、神神楽神人がいた。








 神神楽神人 戦闘力260


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