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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十章 神谷神奈と魔導祭
351/608

173.6 得点――近付く点数――


 ストーン収集にてCクラスが全滅してから十分。

 影野(かげの)統真(とうま)はBクラスの上級生二十五人に魔法で拘束されていた。

 青い腕輪を付けた上級生達は影野を油断なく見据えている。


「……酷いですね先輩方。一年生を大人数で囲んで魔法を使うなんて」


「そうしなければならない程にDクラスが厄介なんだよ」


 影野を拘束している魔法は〈光輪具(サークルキャッチャー)〉という中級無属性魔法。

 輝く光の輪が体を縛って身動きを取れなくする拘束魔法だ。

 一つなら影野も問題なく抜け出せるが、現在掛けられている数は二十五。

 いくら影野でも簡単には抜け出せない。


「まったく、Dは最弱、落ちこぼれって聞いていたんだけどな。君は知っていたかい? Dは死んでも構わない、生きる価値がないクラスだと言われていたのを」


「ああ懐かしい。Aはエース、Bはベター、Cはコモン、Dはデスでしたっけ。四月に担任から言われたことがありますよ。今回を機に名前の意味を変えてほしいですね」


「変えるとしても、何に?」


「――デンジャーなんていかがでしょうか」


 影野がそう言って力むと二十五の〈光輪具〉が砕け散る。

 Bクラス上級生達は愕然とした。拘束専門の魔法であり、自分達が使えば鋼鉄以上の硬度を誇る〈光輪具〉から強引に抜け出すなど、想像を絶する実力差がなければ不可能な芸当。ましてやそれを二十五個の輪に締められている状態で(おこな)っている。いったいどれ程の実力を秘めていれば出来るのか想像も付かない。


「ふっ、危険か。なるほど的を射ている」


「本当ならKクラスになりたいですが、Dならデンジャーしかないでしょう」


「K?」


 不思議そうな顔をしている上級生の一人に影野は満面の笑みを浮かべる。


「神谷さんを崇めるクラス! 女神の化身でもある神谷さんを崇め、俺が生み出した神谷教に入り、今日も生きていることを日々あの人に感謝するのです! さあ先輩方もあの人を信仰しましょう!」


「……遠慮しておくよ」


 確かにこいつはデンジャーだとBクラス上級生達は改めて思った。

 魔力とか身体能力ではなく、謎宗教を作ってのめり込んでいる在り方がだ。


「……異端者め、ならば排除対象だぞ先輩方」


 怒る影野が大きく速い魔力弾を放ち、上級生六人をまとめて観客席送りにする。

 凄まじい威力の魔力弾は直線状にある住宅を崩壊させ、長い更地を作り出す。

 攻撃の跡を見て上級生達は驚愕して、残った内の一人が大声を上げる。


「ま、待て! 入る、是非その宗教に入らせてくれ!」


 一人の大声がきっかけで動揺が広がっていく。


「なっ、プライドがないのかお前! 自分が助かるために命乞いなんて!」

「あれは命乞いなのか?」

「か、なんとか教に入れば見逃してくれるなら入るぞ!」

「私も入る! あの癖毛ちゃんを崇める!」

「おいお前まで何を言って……やっぱり俺も入ろうかな」


 上級生達の意見が纏まってきた頃、影野は笑ったまま魔力弾を生成する。


「よしっ、俺達Bクラスは神谷教に入る。だからこの種目で俺達を狙わないでくれ!」


「無理です。神谷さんにBクラスの相手を任されているんですよ。神谷教に入るなら覚えてほしいことが一つ。絶対的なルール。神谷さんのお言葉は全てにおいて優先してください」


 新たな信者達に影野は躊躇なく魔力弾を連続で放つ。

 結局のところ、信者になろうとならなかろうと同じ結果だった。

 Bクラスの生徒はストーン収集で影野に蹂躙されることになる。



 * * *




 幻で作られた中世ヨーロッパのような街を日野(ひの)(あきら)は歩く。

 無駄な戦闘を避けるため最初は物陰に隠れつつ移動していたが、その必要はもうない。Cクラスはとっくに全滅し、Bクラスも次々数を減らしていっている。参加人数が少なくなったおかげで日野は他の生徒を見かけなくなった。


「お、あったあった」


 日野は浮いているカラフルな菱形の石を見つけて手に取る。

 第三種目ストーン収集で勝利の鍵となるマジックストーンだ。

 一つ集めるごとに五百点を得られるので日野はマジックストーンを集め回っている。現在十個集めたので既に五千点。終了時点まで保持していられれば大量得点が得られる。


「へっ、これであいつらも俺のことを見直すだろ。俺だって少しはクラスに貢献しねえとな」


「――殊勝な心掛けだ、ね」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえて日野は硬直する。

 ぎこちない動きで振り向くと、目に映ったのは予想通りの女子生徒。

 外見からは想像も付かない強さを持つ一年Aクラス、(いずみ)沙羅(さら)。日野は知らないが彼女のかつての名前は神野(かみの)神音(かのん)。大賢者と称され、現代において神奈よりも強い最強クラスの人間である。


「ぬおおおおお!? ま、待て待て待て! お、俺は弱い、お前は強い、お前が俺を倒したら弱い者虐めみてえじゃねえか? た、たたたたた頼むから見逃してくれ!」


 恐怖で一歩後退る日野に神音が近付く。

 歩きながら彼女は日野に向かって手を伸ばし……肩を叩いて通り過ぎた。

 通り過ぎて尚、未だ恐怖に支配されている日野の鼓動はとてつもなく速い。


「安心しな、よ。そんなビクビクしないでも攻撃したりしないから、さ」


「ほ、本当か?」


「この種目はマジックストーン集めがメインだから、ね。血気盛んな連中は他クラスの生徒を退場させてポイントを得ようとするけど、そんな奴等は競い方を勘違いしたバカ共、さ。戦うにしても石を奪うために戦うべきだろう、に」


 酷い言われようだが神音は間違っていない。

 ストーン収集は名前の通り石、マジックストーンの採集がメインの種目。確かに他クラスの生徒を退場させてもポイントは得られるが、この種目を考えた人間は純粋に石を集めてほしかっただろう。それが蓋を開ければ石を無視して他人を潰そうとする者ばかり。考案者は今頃涙を流しているかもしれない。


「あれ、でも、俺の持っている石を奪わなくていいのか……って何言ってんだ俺はああああ!? すまん今のなし! 何も聞かなかったことにしてどっか行ってくれ!」


「私は今世、地道な作業も悪くないと思っていて、ね。自分で探して集めたいから奪ったりしない、さ」


「よし言質取ったぞ! 怖いからさっさとどっか行ってくれ!」


「傷付くね。あ、もうすぐ付近が戦場になるから逃走をオススメする、よ」


「何言って」


 日野が戸惑っていると勢いよく物体が飛来し、橋の手すりが粉々になった。

 何事かと驚いて目を凝らした日野の視界に映るのは黒髪の同級生、隼速人。


「隼!?」

「……お前達か」


 驚く日野と冷静な神音を一瞥した彼に――何かが飛来する。

 五木兄弟だ。兄弟が遠くから突進してきて彼と肉弾戦を繰り広げる。


「いいっ、何だって五木兄弟!?」


「日野、もっと離れろ! 邪魔だ!」


「え、お、おう」


 言われた通り日野は離れるが、速人と五木兄弟も戦いながら離れていく。

 恐ろしく高レベルな戦闘は日野の目に映らない。今この場で三人がどんな攻撃をして、それに対して防御するか躱すかするのを理解しているのは神音のみ。

 戦闘力の数値的には五木兄弟が有利だが速人は技術で差を埋めている。


 魔力の強化ありきな高い身体能力は驚異だが動きは素人。

 攻撃が単調にならないよう五木兄弟は努力しているが通用はしない。現に二対一にもかかわらず傷を少ししか負わせられず、反撃を何度か喰らっている。


「お、おいどういうつもりだお前等! 魔力弾か魔法を使えよ! 魔力攻撃が当たれば退場に出来るだろ!?」


「ふん、俺は前から魔力弾だの魔法だのが気に入らないんだ。魔法の知識は学んだが使う気はない。使い方も覚えていない」


「バカヤロオオオオオオオ!」


 魔法学院に来ておいて魔力攻撃を使わないのは速人くらいなものだ。

 授業を受けて日野ですら魔力弾を撃てるようになったのに、彼は知識だけ得て自分ではやろうとしない。魔力とイメージがあれば誰でも使えてしまう魔法を彼は認めない。強くなるため必死に努力してきた過去を嘲笑されている気がするのだ。


 魔法はダメで魔技(マジックアーツ)を使用するのはちゃんとした技術だからである。

 今年に彼が編み出した、というかレイの〈流星脚〉を真似した〈超・神速閃〉は魔法と違う。苦労して習得したので彼は魔技(マジックアーツ)を魔法と別枠として見ているし、実際それは正しい。


 魔技(マジックアーツ)は魔力の操作や別エネルギーへの変換技術。

 魔法使用の際に魔法名とイメージでスキップ出来る工程を自力で行うのだ。


 限られた種類しかない魔法と違い、魔技は訓練次第で何でも出来る。実際トルバ人が使った重力操作や空間操作は、未だ魔法としては存在しない効果。魔技でしか辿り着けない可能性。

 使いやすさで言えば魔法が上だが、実力向上を目指すなら魔技を使った方が強くなれる。


「愚かだな。体術は学ばせてもらったし、愚者には退場してもらおう。なあ弟者」


「うん兄者、愚かだね。見せてやろうよ魔法の素晴らしさ」


 速人の在り方を嘲笑う五木兄弟は上空へ跳び上がり両手を彼に向ける。


「「〈火炎放射(フレアブラスト)〉」」


 超高火力の炎が速人のいた住宅地を呑み込む。

 炎の波は拡散し、日野のもとにまで流れてきたが神音が魔力障壁で守る。


「は、隼あああああああああああ!」


 炎が消えた時には街の一部が黒焦げになっていた。

 魔力障壁を神音が解いた瞬間、日野は駆け出して五木兄弟に叫ぶ。


「おいお前等ふざけてんじゃねえぞ! 殺すことねえだろ頭イカれてんのか!?」


「何も見えない雑魚は口を挿むな。あの男ならあの程度の炎じゃ死なないだろう」


「重傷でもう戦えないだろうけどね。僕達兄弟の魔法を受けたんだから」


「安心しな、よ。心配しなくても隼は死なないし無傷だから、さ」


 神音の言葉に五木兄弟が「ありえない」と異を唱えようとした瞬間、兄弟は黒焦げの住宅地を注視した。

 炭と化しても形を成していた家が崩れ、中から無傷の速人が出て来る。

 白を基調とした制服は袖が焦げてしまったがそれ以外に被害は見られない。


「ちっ、制服が焼けた。とんでもない火力だな」


「隼お前無事だったのか!」


「ギリギリ防げた。次は厳しいが――」


「「〈火炎放射〉」」


 悠長に話す時間を与えず五木兄弟が二発目を放つ。

 超高火力の炎が再び街の一部ごと速人を呑み込む。


 速人が一発目を防いだ方法では二発目を防げない。

 最初の〈火炎放射〉を防げたのは、彼が〈超・神速閃〉を使って何千回も回転したからだ。途轍もない速度の回転で新たな空気の流れを生み出し、炎が自分に当たらないようにした。一か八かの賭けだったがやってみればなんとかなったのである。


 今回も同じことをすればいいのだがそれは出来ない。

 未だ速人は〈超・神速閃〉の、正確に言えばレイが多用する魔技(マジックアーツ)の反動に慣れていない。自分の身体能力を超える動きは体にダメージが発生し、使用後はすぐ筋肉痛のような状態となる。連続で使用すれば足が壊れる可能性すらある。


 打開策がない以上、速人は火傷覚悟で炎を突っ切ろうと考えた。

 ――しかし、無茶な行動をする前に速人の周囲に紫の膜が出現。


「神谷神奈。あの兄弟は俺の獲物じゃなかったのか」


「いや、時間切れだ。あいつらぶっ飛ばす役目は私達に譲れ」


 炎の放出が止んだ時、速人の前には神奈と影野の二人が立っていた。

 三人を覆っていた紫の膜、魔力障壁は静かに崩壊していく。


「「……今のでも防ぐ人間がいるのか。ならこれはどうかな。〈大地の怒り(アースラース)〉!」」


 五木兄弟が両手を広げると同時、街の端側八方向から巨大な岩の棘が飛び出る。

 両手を合わせると同時、八箇所の岩の棘の前に更なる棘が出現。連続して飛び出る岩の棘は大地を切り裂きながら神奈へと向かっていく。その攻撃規模のせいで、神奈達以外に残っていた生徒がダメージを受けて退場してしまう。


 巨大な岩の棘が八方向から接近してくるのを神奈は魔力障壁で迎え撃つ。

 影野は神奈の、日野は神音の魔力障壁に守られて無事だ。速人は難なく回避出来た。

 岩の棘は魔力障壁を打ち破ろうとするが叶わず完全停止。

 神奈は見事に防ぎ切り、影野と共に五木兄弟を見据える。


「もう止めとけよ。決着なら魔闘儀でつけられるだろ、準決勝は私達の戦いだ」


「「いいだろうDクラス、魔闘儀で雌雄を決しよう。開始を震えて待つがいい」」


 第三種目ストーン収集の終了時間は間近まで迫っている。

 戦いは止め、DクラスとAクラスはマジックストーン収集に力を入れた。

 少ない時間で両クラスはマジックストーンをかなり集めてストーン収集は終了した。

 終了と共に各クラスの得点表示が動く。



 Aクラス 18100点→17100点

 Bクラス 13200点→7400点

 Cクラス 18500点→7600点

 Dクラス 7290点→14790点



 各クラス得点を見て五木兄弟は疑問を抱く。


「ん? なぜ俺達のクラスはマイナスされている?」


「君達のせいだ、よ」


 不思議そうな五木兄弟に神音が説明する。

 今回の種目、ストーン収集において得点に関わるルールは三つ。

 マジックストーンと呼ばれる石を一つ入手するごとに五百点。

 生徒に魔力攻撃を与えると、受けた生徒のクラスにマイナス百点。

 味方に攻撃を与えるとマイナス千点。


 神音や他の生徒はマジックストーンを集めていたが、先程の大規模な五木兄弟の攻撃のせいでAクラス生徒がダメージを受けたのだ。神音以外が退場し、自クラス生徒を七人も退場させたことで七千点マイナスされた。マジックストーンを集めた得点は消えないがプラスよりマイナスの方が多かったのである。


「ま、まあ、失敗は誰にでもある。なあ弟者」


「そうだね兄者。それにAクラスは一位だし、優勝って結果は変わらない」


「……どうか、な。結果は分からなくなった、よ」


 残すのは魔闘儀による模擬戦のみ。

 準決勝と決勝をDクラスに勝利された場合、得点は僅差でAクラスが負ける。

 最後まで結果が分からなくなった状況に対して神音は静かに笑った。


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