173 人造人間――研究の成果――
2024/03/29 文章一部修正
読み終わった日記を神奈は音を立てず机に置く。
学院長の過去を知ったが神奈と神音は何も話さない。
感想を神奈は心に留める。まるで、かつての自分のように感じてしまった。
前世において神奈が魔法を追い求めた理由も死者蘇生である。
死んだ両親にまた会いたいと願い、自分の願いを魔法なら叶えられるのではと思い特訓した。その過程で一人の人間に消えない傷を負わせ、未だに罪悪感が残っていた。今更どうしようもない話だが神奈は前世でやり残したことがある。
「進もう」
過去は今、関係ない。
神奈は今しなければならないことに集中し、まだ続く部屋の先を見に行こうと決めた。日記に書かれた人造人間の話が真実なら、この先に人造人間がいる可能性が高い。
神奈達は先に進む。
部屋は続き、壁や柱の光が赤い部屋に出ると――魔力弾が飛んで来た。
濃い紫の魔力弾を二人は真横に跳んで躱す。
「避けられたか……Dクラス神谷神奈、なかなかやるな。なあ弟者」
「そうだね兄者。あの南野って女もだけどやっぱりDクラスはおかしいよ」
「……五木兄弟」
入っていたことは知っていたため驚きはない。
目前に立ちはだかる二人の少年に神奈達は険しい目を向ける。
人造人間がいるはずの部屋に五木兄弟がいるということは、つまりそういうことなのだと納得する。葵を倒した圧倒的な力は作られたものというわけだ。
「さて、意外な客人。ようこそ俺達の家に」
「俺達の……家?」
「だが帰るといい。今すぐ引き返せば見逃そう」
五木兄が唐突にそう言い放つ。
「どういうつもりだ、いやそれ以前にお前らはいったいなんなんだ」
「……話していいことは話してやろう。どうせ日記は見たんだろう? 話さなければ去ることに納得もしないだろうしな」
日記という言葉で学院長の日記だと気付いて神奈は頷く。
「君達は人造人間、違うかな? それも他人の魔力器官をふんだんに使用して作られた。外道な実験の完成品」
五木兄弟が話し出す前に神音が口を開く。
「……その通り、俺達は人造人間さ。父様に作られたんだ」
不思議そうな顔をして神奈は「父様?」と呟く。
「なんだ? 別に間違ってないだろう? 俺達は父様に作られた。だから父様と慕って何が悪い? なあ弟者」
「うん、そうだよね兄者。僕らは父様を慕い、その目的達成の手伝いをすると決めている。そのための第一段階がまず負けないことなんだ」
神奈は無言になる。話の意味が分からないのでリアクションも取れなかった。
理解出来ていないのが伝わって五木兄弟はやれやれと肩をすくめる。
二人同時に寸分の違いもなく動くので神奈は少しウザいなと思う。
「日記にも書いてあったろう? 魔導の深淵への到達が父様の目的。そしてその過程で生み出されたのが俺達。魔導の深淵に至る可能性がある以上、負けて失望させるわけにはいかないんだよ。なあ弟者」
「そうだね兄者。そういうわけで明日の試合も負けないよ。さあ、聞きたいことは聞けただろう? だったら立ち去りなよ」
「立ち去れって……あのなあ、まだ――」
最後まで言いきる前に神音の手が肩に置かれて神奈の口は止まる。
神奈は「なんだよ」と神音に目を向けるが、それに対して首を横に振られる。
「今日のところは引き返そう。学院長が何をしたいのかも、五木兄弟の正体も知れた。これ以上深く首を突っ込めば確実に争いになる。君もそれは避けたいだろう?」
「……でも」
「まだ機会はいくらでもある。調べるなんてことはいつでも出来るけど、それは今じゃないんだ。知りたいことは知れた。それでいいじゃないか」
数秒うーんと首を動かす神奈だったが、納得して身を翻す。
大人しく帰ろうとした神奈達に五木兄弟の声が掛かる。
「明日の試合、俺達が最強であると父様に認めてもらうためにせいぜい引き立て役になってくれ」
甘く見ているというよりは、強さを認めているからこそ言っている。そう感じた神音は神奈の代わりに言葉を返す。
「明日の試合、準決勝を楽しみにさせてもらうよ。そこでの負けっぷりをね」
「負けが確定するような言い方だね」
「それはお互い様だろう? 彼女は君達よりも強い。それだけは断言できる」
「それは楽しみだ。ところでふと気になったんだが……君、泉沙羅じゃないのか?」
「さあ……どうだろうね」
神音は僅かな笑みを浮かべて神奈の後を追っていく。
そんな二人を見送った五木兄弟は翌日に向けて闘志を燃やしていた。
* * *
夕方、学生などが帰宅途中の時間に神奈は帰宅した。
家に着くなりリビングで寛ぎ、お菓子の袋を開けて中身を口に運ぶ。
ポテイトチップスと書いてあるスナック菓子は薄くスライスされたジャガイモを揚げたお菓子。のりしお味であるため手が油で汚れ、塩と海苔がつく。それでも美味しいのでついつい食べてしまう。
「明日ですね、大賢者神音との再戦は」
声に出すのは神奈が付けている腕輪だ。
「再戦って言っても、私が前に戦ったのは禁断の魔導書で蘇った全盛期。転生後の神音と戦うのは明日が初めてだ。神の系譜じゃないとはいえ、あの魔力は化け物クラス……魔力加速でどこまで戦えるやら」
返す神奈の声は重い。自分と神音の実力差を正確に計ったことで差がはっきりとしたからだ。
死者蘇生で蘇った偽物ではあるが一度だけ神奈は神音と戦っている。実力は本体と遜色ない肉体相手に、神奈は協力者二名と力を合わせてなんとか戦えた。もしも神奈一人だったなら遊ばれて殺されていたのは分かっている。
転生で神の系譜が消えてパワーダウンしたといっても格上だ。
「そんなわけで魔法ですよ! きっと勝つ糸口になる魔法をお教えしましょう!」
「……さあて、いいテレビやってねえかなあ」
「無視しないでくださいよ! これは革命的な魔法なんですから!」
「絶望的の間違いだろ」
腕輪が教える魔法に対しては冷めた態度の神奈。
大声で腕輪が「いい魔法ですよ」と叫ぶが、これまでの魔法をおさらいした神奈は態度を変えない。
「今日教える魔法はこちら! 〈ハヤグーイ〉です!」
「……ほらぁ、やっぱりクソ魔法じゃないか」
「まだ効果を聞いてもないのに何を言ってるんですか!? この魔法の効果は素晴らしい! なんと二百グラムまでの物体を胃の中に転送出来るのです!」
「ほらあ! やっぱりクソ魔法じゃないか!」
期待外れ……いや神奈にとって期待通りだった魔法だ。
地の底にまで到達していた期待度は、全てを貫通して地球を飛び出している。もはや何を教えられたところで期待度は戻ってこない。
「だいたいなんだよ唱えた瞬間に胃に転送するとか何のための魔法なんだよ。しかも胃ってことは食べ物しかダメだよね。それならちゃんと味わって食べるわ! さあ言ってみろ! この魔法にどんな使い道があるのかを!」
どのように使えばいいのか腕輪も説明出来ず「さぁ?」ととぼけた声を出す。
「……寝ましょうか」
「ああ、もういいや。早いけどもう寝よう。明日は大事な決戦だからな」
早くも床に就く神奈はスース―と寝息を立てる。
学院の秘密も知ったことで疲れは倍になっていた。
* * *
学院の秘密を知った日の翌朝。
校門近くで神奈は不思議なものを見つける。
学院全体を囲んでいる赤い線、結界の役目を持つそれの本数が増えていたのだ。
「もしかして一本じゃ足りなかったのか? 二重結界にしなきゃ無理とか?」
「……どうなんでしょうね。念には念を入れてということなのかもしれないですよ?」
神奈の疑問に腕輪が答えるが、その声には自信がまるきりなかった。しかしそんなことを考えているのもそこまでで、気持ちを昂らせて試合会場に向かっていく。
五木兄弟。神野神音。ついでに斎藤凪斗。
戦う相手を思い浮かべながら神奈は力強くドームに入場した。
腕輪「ハヤグーイがダメだというのなら、ハヤノーミならどうですか! これは液体を胃に転送する画期的な魔法です!」
神奈「別にそれハヤグーイだけでも出来るよね!?」




