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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十章 神谷神奈と魔導祭
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172 日記――とある魔法使い――

 2024 3/29 加筆修正








 五月○日。


 ある日、幼馴染の親友からこんな取引を持ち掛けられた。


「お金は出すから、君の力を調べさせて」


 マージ・クロウリー。十三歳。産まれた時からの白髪を短く切り揃えている男だ。それが俺であり、取引と称して提案してきたのは幼馴染であるマルーナ・メルロード。


 マルーナは黒髪の少女で、背は小さく弱気であるが頭はいい。まだ子供なのに株やらギャンブルやらで大儲けしている、決してそれはギャンプル好きのダメ人間だというわけではなく、生活費として稼いでいただけだ。


 父親の会社が倒産し、母親は体が弱くて働けない。そんな家庭環境を助けるために頭の回転の速さを利用して、手っ取り早く稼げる株などに目をつけたのだ。


 そんなマルーナは生まれてすぐに不思議な力を扱い始めた俺に目をつけた。


 俺は幼い頃から火の玉を出したり、風を吹かせたり、大木をへし折る力を振るったりしていた。原理は全く知らない。キーワードを口にしてイメージすれば、それが出来るということだけ分かっていた。


 そんな力を持っていた俺にマルーナは金の匂いを嗅ぎつけたんだろう。

 俺の家も決して裕福とは言えないし、貧乏だということが分かっている。そんな家庭環境だったからか、それともマルーナの頼みだからか、俺は不思議な力を調べさせることにした。




 五月□日。


 自分の力について調べること一週間。詳細は分からないが、御伽噺の魔法のようだったのでこれからは魔法という名で統一する。

 マルーナは何を調べているのか教えてくれたが、俺の頭ではついていけず理解することが出来なかった。



 六月▽日。


 魔法について調べること一か月は過ぎた頃、マルーナが一人の少年を連れてきた。


 くすんだような紫髪でおかっぱ、そして小太りの少年だ。マルーナの話によれば俺と同じく魔法を使えるらしく、さらに使える魔法が俺より多いようだった。


 同い年であることが判明したその少年、マルゲリータは研究に協力してくれるらしい。元から知識があったマルゲリータの協力で研究は進み、魔法について少し仕組みが分かってきた。


 人間の体には魔力器官と呼ばれる臓器があり、そこからは常に魔力というエネルギーが少量作られている。魔法を使えるのはこの魔力器官の力を引き出せる者のみであり、溜められた魔力を消費して魔法を使うことが出来る。



 六月□日。


 魔法には属性がある。個人の適性によって使える属性魔法と使えない属性魔法があることが分かった。


 マルーナが魔力を感じとる機械を作り出し、さらにそれで適性も分かるようにグレードアップした。その機械によれば俺の適性はマルゲリータの適性よりもすごかったらしい。


 勝ったという優越感に浸りながらマルーナの手伝いをしていると、マルゲリータのやつが研究に関しては俺よりも役に立つということが分かってしまう。

 魔力も適性も俺の方が上ではあるが、研究に役立てるマルゲリータの方がなんだか羨ましく思えた。



 八月Φ日。


 時間が過ぎ、俺達三人の研究は順調に進んでいた。


 マルーナは天才的な頭脳で魔法を応用した様々な機械を作り出し、それをプロの商人に売り捌き収入を得ていた。もちろんその収入は俺達で均等に分ける。


 誰でも簡単に火が(おこ)せ、井戸から汲むことなく水が出せ、天気すら予測出来るなど様々な機械は町に革新をもたらしている。



 九月$日。


 マルーナが悩んでいる。どうやら誰でも魔法が使えるように魔力器官の研究をしたいようだが、手に入らないようだ。人間の臓器なんて手に入る筈もない……誰かのものを奪わない限り。


 最近になってマルゲリータがマルーナに熱い目線を向けているのに気付いた。

 男二人に女一人、一緒に居れば色恋に発展するのも珍しくはないだろう。

 それは分かっていたのだが……なぜか気にくわない。



 十月Ψ日。


 気にくわない。


 十一月○日。


 気にくわない、気にくわない。


 十二月□日。


 気にくわない、気にくわない、気にくわない。



 三月×日。


 俺は魔力器官を偶然手に入れることが出来たので、マルーナにプレゼントした。彼女はすごく喜んでいて、その笑顔を見ていると心が温かくなる。


 魔力器官は臓器なので手に持った感触や色などが気持ち悪かった。しかも驚いたことに魔力器官は人間が死んでもその活動を止めることはしばらくないらしい。ドクドクと動いていたので気持ち悪さが増す。


 しかしあの男がしばらく来ていないことで、マルーナの表情は曇る。


 ただ、それだけが――気にくわない。



 四月△日。


 魔力器官の研究を続けて一か月が過ぎたが、マルーナはあの男がいなくなったことで手が止まっていた。

 既に行方不明になってからずいぶんと経つ。あの男は死亡扱いになっている。しかしマルーナはまだ生きているとうわ言のように呟き続けていた。


 あの男は死んだ。それは間違いないのに、いなくなったはずなのに……彼女の心からはいなくならない。


 それが何故かは理解したくない。していても、気付かない振りをしよう。

 俺は何も気づいていない。マルーナが……■■■■■■■■■■■■■■■。



 五月α日。


 魔法は不思議な力だ。それはこの日記を見返しても、人生を振り返っても理解できる。


 不思議ということは未知。

 未知ということは何が出来るか分からない。

 何が出来るか分からないということは、何でも出来る可能性があるということだ。


 マルーナはあの男を蘇らせると宣言した。


 死者を蘇らせるなど聞いたことがない。作り物の世界では死霊使いなどもいるようだが、現実ではそんなものいない。しかし非現実的なことでも魔法というものを知っていると可能なのではと思えてくる。


 しかし死者蘇生なんてことをするには膨大な魔力が必要であろう。

 それこそこの世界を滅ぼしかねないほどの――強大な力が。



 六月&日。


 死者蘇生が出来るかもしれない。

 そんなことを思ったのはマルーナと共に資料を見ていた時だった。


 禁断の魔導書と呼ばれる、世界の禁忌が大量に封じ込められていると噂の本がある。その資料を見て目を見開き、すぐビリビリに破きトイレに流した。

 二度とマルーナに見つからないように、知られないように、復元などさせないために。



 七月Σ日。


 念のため、禁断の魔導書をなんとか見つけ出し通りすがりの人間に渡した。文字の研究家と言っていたので丁度良かっただろう。あの本に書いてある文字は見たことがなく、何が書いてあるのか一文字も読めなかった。未知なら研究のし甲斐があるだろと押し付けて何とか受け取ってもらえた。これでもうマルーナに渡ることはない。


 しかしいつしかマルーナは方法よりも力を求めるようになっていた。

 魔力があれば不思議な現象が起こせる。それならば自分も魔力を手にして、人智を超えた力を手に入れられたなら、死者蘇生でもなんでも出来るだろうと彼女は言う。


 天才の彼女は一日とかからずに自分の魔力を見つけ出して開花させた。



 八月β日。


 たった一月。これはマルーナが俺の力を超えた期間だ。

 天才だったのは分かっていたけどいくらなんでも早すぎる。


 彼女は「目標があるから強くなるのも早い」と答えたが、その答えを聞いて俺は自分の目標がないことに気付く。

 夢がないわけではない。

 目標としていることに魔力が関係してないから強くなる必要がないのだ。



 九月γ日。


 マルーナは目標を度々口にする。


 魔力を極限まで高め、魔の道を極める『魔導の深淵』への到達。それが彼女の口にする目標……いや、それは過程にすぎない。本当の目的は……何一つ変わっていないのだろう。


 日に日に強くなっていく彼女は既に化け物と呼ぶに相応しい力を身につけていた。それでも「まだ足りない」と悔しそうに呟く。


 彼女が言っていた『魔導の深淵』というのはいったい何なのか。

 明確な基準がないので分からない。

 いったいどこまで強くなれば満足するというのか。



 十月Δ日。


 ――死んだ。


 唐突な死だ。それはここに書いている今でも信じられない。

 何が起きたのかよく分からない。マルーナの体はひび割れて鮮血が溢れ出たのだ。内包している力を抑えきれなくなって、器から外に溢れたようだった。


 魔力器官から放出される魔力が高まりすぎたことが原因かもしれない。マルーナは元々魔力を扱えなかったので、魔力器官が俺より小さかったのではないかと推測する。


 彼女は目標に向かい強くなりすぎたのだ。

 しかし、彼女が死んでしまったことで俺にも目標が出来た。


 ――死者蘇生。俺はマルーナを蘇らせる。

 そして二人でこんな危ないことなどせずに普通の日常を過ごすのだ。



 ?月?日。


 この日記を書くのも随分と久しぶりなので書くことが多そうだ。


 マルーナが死んでからというもの、儂は自分を高めることに専念していたがどうしても限界というものが来る。彼女は天才だからか限界という壁を超えて、超え続けてしまったことで死んだのかもしれない。

 しかし儂は彼女ほどの天才ではなく、限界の壁を超えることが出来なかった。


 限界まで鍛えたと納得する儂は、これ以上単純に鍛えただけでは強くなれないことを悟り、道具に頼ることにする。


 魔力を急増させる道具、そんなものが都合よくあるわけがなく諦めかけていたが名案を思い付く。


 ――学校を造ればいい。


 魔力という力を持て余す連中を集めて、情報と力を集める。まずはそこから始め、自分が『魔導の深淵』に至れないならば他人を利用することにする。

 世界は広い。儂以上の天才など多くいるだろう。


 天才といえば、ある噂を聞いたのだったか。

 日本という国には規格外の魔力持ちが生まれやすい。そんな噂。

 儂は初めて自国を出て海外に行き、日本の政府関係者を脅して学校を造らせた。


 学校を建てて五十年以上経つ現在。

 儂は『魔導の深淵』に至れる人間を探し続けたが見つからなかった。

 誰もが儂より弱く、その実力など吹けば飛ぶようなものである。

 政府には優秀な者がいたら引き渡す約束をしたので渡し続けていた……あの時までは。


 儂は真理に辿り着いたのだ。

 普通の人間だからダメなのだと気付く。

 儂は人造人間を作ることにする。最初から『魔導の深淵』に至れるような生命体を自分で作ればよかったのだ。しかし専門知識がない状態ではあまり実験が捗らず、時間だけが経っていった。


 この時から政府には優秀一歩手前の生徒を渡している。

 最近の実験体が弱いと言われたが知るか。

 薄汚い政府より儂の方が有効活用出来る。


 だいたい奴等、儂よりも悍ましい実験を重ねているくせに偉そうで気に入らん。

 あの計画、確か名前は……大賢者復活計画。


 絶対に成功せんだろ。天寺……何とかが優秀とか自慢しに来た直後の話だったか。数年前に製作した仮の大賢者が暴走して施設がいくつか壊れたし、実験体にも逃走される始末。いっそのことそのまま自滅でもしていろ馬鹿共。


 ある日、魔力を急増させる道具を作っている少女が入学してきた。

 南野葵。彼女は権力を持つ人間に恨みを持っており、その復讐のために魔力の実という道具を自力で作り出す。


 作ったといっても完成したわけではなく、効果はあるがまだ実験段階だと言う。儂も不良品を使って落胆したくない。彼女の復讐劇を見守って判断することにするが……思わぬ邪魔、いや好都合の出来事が起きる。


 実験代わりになったDクラスの戦闘、それを見て儂は魔力の実に期待するのを止めた。

 パワーアップしたといっても『魔導の深淵』にはほど遠い。

 あれは求めていたものに遠く及ばなかったが、ヒントにはなった。


 ――他の人間の魔力器官を使って人造人間を製作すればいい。


 魔力器官は鍛えようと思えば鍛えられる。数十人分も融合させれば素晴らしい実力になってくれるだろう。

 目標に届く可能性がある、そう考えた儂はすぐに製作を開始する。

 他人の魔力器官など役に立たなかった卒業生を使えばいいのだ。


 一般的に優秀とされている人間の魔力器官数十人分が存在する人造人間が完成する。しかしまだ及ばない。『魔導の深淵』に至るには相応の時間が必要なのだろう。


 儂にも寿命がある。今年で百七十歳を迎えたので長くは待てない。

 いつかは至れるかもしれないが、待てない以上別の手を考えるしかない。


 全ては魔導祭、それが終わるまでに計画を練るしかないだろう。


 計画としては――。



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