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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十章 神谷神奈と魔導祭
346/608

170 裏――メイジ学院――

2024 3/29 文章一部修正









 魔闘儀二回戦全試合が終了した。

 生徒達も教師陣も解散し、Dクラス担任教師である(まだら)(よう)は生徒のお見舞いに向かう。


 試合で怪我をした重傷の坂下と、手酷くやられたであろう葵の二人。以前生徒に対して教師らしからぬ態度をとっていたため、斑は少しでも受け持っている生徒に教師らしく接しようと思っていた。過去の経験から最初は邪険に扱ってしまったが、彼の心は生まれ変わり今では生徒のことを大事に思えている。


「五木兄弟……か。彼等はどこから来たんだろうか」


 保健室に行く途中、斑は二人の男子生徒を頭に思い浮かべる。

 疑問に思うのは高すぎる実力。Aクラス所属の生徒が強いのは当然であるが、五木兄弟は異質であり強さが桁違いだ。

 Dクラスにも桁違いの強さを持つ生徒はいるが彼等は別格。

 現に他の生徒とは一線を画す葵が惨敗してしまっている。


 そんな高い実力を持っている子供は有名になって然るべきなのだ。

 魔法使いの世界では強い魔力を持っていれば目をつけられる可能性が高い。

 その世界の末端にいる斑でも、世界中の強者の名前くらいは知っている。


 例えば脱獄不可能と言われるハーデスという監獄の看守長クロノス。


 数か月前ではあるがそこから脱獄出来る程の実力を持つ怪盗サウス。


 過去現在で見ても世界最強と言われる大賢者神音。


 歴史の陰に隠れているが時の支配人と呼ばれる人間。


 そしてこのメイジ学院の学院長であるマージ・クロウリー。高年齢にもかかわらず彼の魔力は日に日に増しているという噂まである。


 ――しかし五木兄弟という人間は知らない。

 耳に挟んだこともない二人。彼等の存在が酷く異質に見えたのは気のせいではないだろう。


「明日の魔闘儀準決勝、神谷と影野は五木兄弟と戦う。神谷と影野は確かに強いが……果たして勝てるかどうか」


 校舎の方に歩いていると、斑は五木兄弟を見つけた。


「五木兄弟……あんな場所で何を……?」


 校舎に入るにしても反対、つまり五木兄弟がいるのは校舎裏だ。

 怪しい。奇妙なことをしているだけならいい。危険な遊びをしているのなら教師として止めなければならない。以前の停滞していた斑ならばスルーしていたが、既に過去から歩き始めているし見逃す選択肢はない。


「「コード。837292738」」


 五木兄弟が何か妙な、暗号のような数字を二人揃えて口にすると、突如ガシャンという重低音が響き校舎裏の地面の一部に正方形の穴が空く。


「……っ!?」


 動いた場所には空洞ではなく階段が下に続いており、五木兄弟は躊躇なく階段を下りていく。

 摩訶不思議な仕掛けを目にした斑は、彼等に関わるのは本能的に危険だと感じた。危険だが、この先に何があるのか知らなければ注意も出来ないので階段を下りようとする。


 斑は未知の場所へ行く緊張と恐怖で冷静ではいられない。

 この時、余計な詮索はせずに逃走を図るべきだった。


「この先は、いったい……」


 斑がごくりと息を呑んで階段を下りようとして――戻った五木兄弟と目が合った。


「……あ」


 どう言い訳すればいいのか。それとも教師らしく注意すればいいのか。

 なかなか判断できない斑に向かい、五木兄弟は深い笑みを浮かべながら近付く。


「あっはっはっはっは、気付いていたぞここに近寄ったことには。なあ弟者」


「そうだね兄者、でも偶然みたいだし半殺しで済ませようか」


「……あ、ああ、あああああああ!?」


 笑顔で近寄ってくる五木兄弟から斑は全速力で逃げ出した。

 逃げて、逃げて、逃げて、恥も忘れて逃げ続ける。本能的に危険を感じ取ったことで逃げる以外の選択肢は消失している。注意などしてもただ甚振られるだけだろう。


「……うわあああ!?」


 そして斑の正面に五木兄が突如として上から現れる。それに驚き一歩二歩と後退ると何かにぶつかる感触があり、恐る恐る後ろへ振り返れば五木弟が立っていた。


「ああああ!? な、なんだ……何をする気だ!?」


「そんなに騒がれては困るなあ。俺達はただお前の記憶を消したいだけさ」


「そうそう、僕達の家が見つかってしまったからその記憶をね」


「ふ、ふざけるな……記憶を消すだと!?」


 そんなことが出来る筈がないと強く思う斑だがそれは正しい。

 五木兄弟は記憶を消すと言っているが、実際は記憶が吹っ飛ぶくらいに殴るつもりなだけである。二人の拳が視認出来ない速度で迫り、斑は頭部に恐ろしい程の痛みを受けた。



「「さようなら」」




 * * * 



 特撮好きなAクラスの男女を倒した神奈と影野。

 二人は試合が終わってから保健室へと急ぐ。


 観客席から見た限りでは五木兄弟が融合して誕生したイツキの力は凄まじく、ニゲラという力を使った葵でさえその力には及ばない。はっきりとした力の差があるなら、攻撃されたことでそれなりのダメージを負うという証明でもある。


 試合会場があるドームから少し離れた校舎、その保健室まで駆けて扉を開ける。

 そこには葵を運んだ日野、昨日保健室に来た坂下と日戸、そしてつい先程終わった二回戦で怪我を負った天寺と葵がいた。


 白いベッドに寝ている葵達を一瞥した神奈は、近くの椅子に座る日野に問いかける。


「……怪我の具合はどうだ?」


「さっき保健室の先生が見てくれてよ。怪我はしてるけど問題ねえんだと。手加減されてたらしいぜ。まあ、一日安静にしてればいいんだとよ」


「……そっか、まあ怪我が酷くなくてよかったよ」


 所々に青い痣を作ってしまったが問題なしと聞いて神奈はホッとする。しかしその怪我を見て、負わせた側の五木兄弟の顔を鮮明に思い出し歯を食いしばる。


「……神谷、さっきの試合勝ったんだろ? 明日あいつらの(かたき)をとってくれ。お前なら勝てる……よな?」


「勝てると言いたいけどあの二人の底が見えない。必ず勝てるって断言は出来ないな……でも勝つさ、私達二人でな」


「そうですね神谷さん、彼女達の分まで戦わないといけませんし負けられませんね」


 神奈の勝利宣言に影野も同意して頷く。

 不安はある。五木兄弟が二人でいる時は問題ないが一人になったら厄介だ。

 彼等が一人になった時、異常な変化を見て神奈は咄嗟に〈ルカハ〉を使っていた。


 その結果は――測定不能。

 正確には数値が300000(三十万)程で安定せず常に変動していたのである。

 今まで見たことのない結果が原因の不安を神奈は払拭出来ない。


「あれ、隼はどこだ? それに斑も見てないんだけど」


「隼の野郎なら帰ったよ、もう用はないってさ。斑のやつは見てねえな……今日いたか?」


「いたって……最初の方、教師の座っている場所にいたよ」


 自分が受け持つ生徒が大怪我をしているのに、見舞いにも来ない教師に全員腹が立っている。影が薄いとはいえいたことを憶えている神奈は尚更だ。


「とりあえず今日は帰るとするか。影野、お前もだ。明日の試合に万全な状態で臨むためにな」


「はい、神谷さんがそう言うのならば帰ります。そういうわけだ日野君、俺達は帰らせてもらうよ」


「ああ、そうしろよ。俺はもうしばらくここに残る。……誰かがいてやらねえと、こいつら、寂しそうだからな」


 日野は冷やしたおしぼりを絞りながらそう言うと、葵達の痣のある場所に当てて冷やしていく。それを見て任せても大丈夫だと分かった二人は宣言通り帰る。


 学院の庭を帰るために歩いて行くと、神奈は視界の隅に気になるものが映ったので目で追うがすぐに見失う。


「悪い影野、お前先帰れ」


「え、一緒に帰りましょうよ二人っきりなんですから! そう、二人っきりなんですよ!?」


「いいから帰れ、正直気持ち悪い。それに……用ができたから」


 神奈の真剣な瞳を見て影野は何かがあると理解する。

 そして神奈の命令ならばほぼ実行する彼は頷いて、心配そうに問う。


「……大丈夫ですよね?」


「問題ない」


「分かりました、それじゃあまた明日!」


 影野は足早に帰っていき、一人になった神奈は校庭の隅を通って走る。

 先程影野と話していた時に視界を過ぎったのは紛れもなく斑洋。なぜ隠れるようにしていたのか分からないが、神奈はそこに何かがあると感じた。


 数分後。神奈はようやく斑を見つけた。

 顔にいくつもの青痣を作り、白目を剥きながら鼻血を垂れ流している状態で。


「おい、なんだよこれ……なあおい……くそっ、誰がっ……!」


 彼を見つけたら葵や坂下の見舞いに来なかったことを怒るつもりだった。

 だからこんな事態になっていると思いもしなかった。

 神奈は酷い有様で倒れている斑に近寄り怪我を凝視する。


「痣……誰かが殴ったのか。腕輪、どう思う?」


「そうですね、殴られています。おそらく何十発と重い一撃を喰らったんでしょう。記憶が一部飛んでいる可能性もあります」


「その通りだね、彼はどうやら知ってしまったらしい」


 腕輪以外の声が聞こえたことで顔を上げると、正面に悠然と神音が立っていた。


「お前、いつからそこにいた?」


「安心しなよ。私がやったんじゃないし、誰がやったのかも知らない。やられているのを見ていたら助けているさ」


「分かった、なら質問を変えるけど……知ってしまったってなんのことだ」


 何かを知っているという確信があって神奈は神音に問う。


「この学院の……秘密部屋さ」


 溜めを作って神音はそう告げた。


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