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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十章 神谷神奈と魔導祭
345/608

169 無敵――コンビネーション――

2024/03/30 文章一部修正









 五木兄弟と葵、天寺の試合が終わると同時に神奈達は立ち上がる。

 空の彼方に吹き飛んでしまった葵を追いかけようとするが、速人と日野が神奈と影野を手で制す。


「お前達は次の試合だろう。追いかけるのは俺と日野だけで十分だ」


「そういうこった。お前らは次の相手ぶっ倒して、明日であの兄弟ぶっ倒してやれよ」


「……頼んだぞ」


「試合が終わったらすぐに保健室に行くよ。あんな魔力をぶつけられたんだ……きっと怪我してる」


 神奈と影野も追いかけたいが目前に迫る試合を放棄するわけにもいかない。

 二人は葵のことを速人と日野に任せて、観客席から戦闘場所に降り立つ。

 少し遅く観客達から歓声が沸き起こるが、神奈達にそれを気にしている余裕はない。


 歓声の多くは凄まじい戦いを見たからであり賞賛の声が溢れ返っていた。

 二回戦第四試合、神奈達の試合開始時間まであと十分。時間が少しでも惜しい二人は落ち着きなく、足の指を地面にトントンという風に小刻みに叩きつける。


「……ん? 何だこの音」


 相手を待っていると神奈達に謎の音楽が聞こえてきた。


「特撮で使われているような音楽ですね」


 突然流れた軽快な音楽を不思議に思っていると、二人の男女が観客席から飛ぶ。


「とうっ!」

「はあっ!」


 黒いヘルメットを被る少年、白いヘルメットを被る少女が芝生に着地する。


「黒い闇にも正義あり! 一年Aクラス、仮面ブラック!」


「白い光で救済する正義の医者! 同じく一年Aクラス、仮面ホワイト!」


「「二人合わせて! ホワック仮面!」」


 着地した後で決め台詞を言い放ち、ポーズを決めるブラックとホワイトの後ろではなぜか爆発が起こり、灰色の煙がモクモクと上がっていく。


「合わせる場所間違えてんだろ」


「普通は白黒仮面とかですよね?」


「いや、そのチョイスもどうかと……まずそもそも名前がダサいしどうしようもないのか」


 神奈は諦めたように呟き、早くも戦闘場所に集合した二人の敵を見据える。

 白を基調とする制服は着ていても頭は白黒ヘルメットというふざけた見た目。とても強そうには見えないが、Aクラスである以上油断禁物だと神奈達は気を引き締める。


 二回戦は神奈達の戦いで終わりだがここまでDクラスは一組も残っていない。このまま魔闘儀での得点チャンスを逃せば最下位を覆すのは難しい。最下位のままでは退学となるため負けるわけないはいかないのだ。


「いやあ、まさかDクラスが相手とはね」


「何か文句でもあるのか?」


「いやないとも! ただ驚いているだけさ! Dクラスの生徒が良い人ばかりみたいだからさ。それでも勝つのは俺達だけどね!」


「いいや私達だね……!」


 ブラックは明るく笑いながら勝利宣言するが神奈も同様に宣言する。

 試合出場者の四人は静かに睨み合う。


「分かった、それじゃあいい勝負をしよう! あ、その前にもう一度自己紹介をしよう! 俺の名は黒い闇にも正義あ――」


「それはさっき聞いたよ! あとそれ毎回言うの!?」


 空気が緊張して引き締まったり弛緩したりとはっきりしないなか、影野一人だけが場の雰囲気に流されず表情を変えていない。一番危機感を持っているのは彼だろう。

 試合開始まで残り一分を切ってから、神奈達は既定の二十メートル以上離れる。

 開始まで残り数秒となった時、ブラックとホワイトが目配せをして頷き合う。


 試合開始合図のバーンと大きな音が響いた瞬間、ブラックは神奈に、ホワイトは影野に向けて同時に駆け出す。

 無駄のない動きで二十メートルの距離をゼロにしたブラックとホワイトに対して、神奈と影野は冷静に拳を顔面にめり込ませようと振るう。


「……なっ!?」


 しかし神奈達の拳が直撃してもブラック達はなんのアクションも見せず、吹っ飛びもせず逆に拳を叩き込む。胸に直撃した拳はAクラスなだけあり高威力だったが、神奈達にとっては大した意味をなさない。衝撃で数メートル吹き飛ぶもダメージはほぼない。


「……おいおい、どうなってんだよお前ら」


「それはこっちの台詞なんだけどなあ。普通、そんなに効かないわけがないんだけど」


 両者の攻撃は効き目がなく、お互いに困ったような表情を浮かべて拳を握る。

 ヘルメットで顔が隠れているのブラックホワイトは何を思っているのか神奈達には分からず、得体の知れない奇妙な感覚を覚えた。


 神奈は鋭くブラックを睨みつけて視認できない速度で腹を殴る。

 今度は先程よりも強く、二倍以上の力だ。しかし制服に少しシワができた程度でブラックにダメージは見込めない。


「……魔法だよな?」


 拳は制服で止まってしまいそれ以上奥に届かない。

 さすがにそんなことがあるわけないと思う神奈はブラックに問う。

 神奈には何かの魔法としか思えなかったのだ。実際この世界で摩訶不思議な現象が起きる時は大抵が魔法関係である。


「そうだよ、これは俺の魔法〈無敵(インヴァルネラブル)〉。俺しか使えない最強の魔法さ。その名の通り俺に攻撃は効かない。物理攻撃も、魔力攻撃もね」


「……そんなのがデメリットなしなわけないだろ? それにあっちの女にも影野の攻撃が効いてないのは何でだよ」


「当然そう思うだろうね。この魔法は俺一人では発動できないんだ。誰かこの魔法を知っている者と意識をリンクさせて強く念じなければならない。二人で発動するからこそ効果は二人に現れる」


「破る方法はただ一つ。私達を完璧に、同時に攻撃することよ。二人で発動しているからこそ、少しでもタイミングがズレればこの魔法は破れないわ」


「なんでペラペラと自分の力を喋るんだい? 黙ってた方が有利だろう?」


 ブラックとホワイトに影野は当然のことを訊ねると、ブラックは腕を組んで返答する。


「俺達はこう見えて特撮好きなんだが――」


「どう見てもそうにしか見えないよ」


「ヒーローは少しでも敵と対等であるべき、そういう私見があるんだ。俺もそうでありたいと思うんだよ、だから教えた。満足してくれたかな?」


「……はっ、個人的には好きだな。その心構え」


 神奈は静かに笑みを浮かべると拳を先程よりも強く握る。

 戦う意思がブラック達には威圧感として伝わる。


「でも今は試合中だ。自分から不利になったことを後悔するぞ」


「自分の言葉と意思に後悔なんてしないさ」


 会話をそこで途切れさせて四人は同時に動く。

 同時に攻撃すれば破れるという弱点が分かれば対処法は容易い……ように思える。現実は想像よりも上手くいかない。神奈達はお互いを見ながら攻撃タイミングを合わせようとするが、ブラック達に攻撃されるのもあり上手く合わないでいた。


 息を合わせるなんての一朝一夕で出来ることではない。

 それも相手から殴られたり蹴られたりされながらだと少しのブレが生じる。


「あなた達が強いのは分かったわ! でもコンビネーションなら私達に勝てる者はいない!」


「そういうことだよ、俺達は互いのことをなんでも知ってる! 趣味も嫌いなものもやりたいことも全部だ! 正に一心同体!」


 お互いを知りあうことで息を合わせる。ブラック達の強みは〈無敵〉という強い魔法と同じくらいに厄介なコンビネーションだ。

 双子ならばシンクロする例もあるが、ブラック達はメイジ学院で出会ってから一年経たずに双子すら上回る団結力を生み出していた。お互いの意思が混ざり合い、強く感じるほどの信頼は半年弱という時間では通常作れない。だが難しすぎるそれを二人の相性もあって現実に可能としている。


 そんなブラック達に対して神奈達はお互いの事を詳しく知らない。

 影野は神奈の事を好意的に思っているし、神奈もそれは分かっているがそれだけだ。神奈は彼が自分を好きなのも悲しい過去も知っているが……知っているだけなのだ。そんな程度ではコンビネーションは生まれない。


 ブラック達を超える信頼など、出会って半年弱の二人に作り出すことは相性の問題で到底不可能。


 殴られ、蹴られ、神奈と違い影野には多少の痛みが襲い始めていた。

 ブラック達と神奈達の実力差は相当なものであるが、そもそも神奈と影野の実力差もかなり開いている。二人が受けるダメージは平等ではない。


 押され続けている神奈達は、ブラック達の回し蹴りを同時に喰らって背中同士で衝突する。


「……影野、私が好きな歌手は……知ってるよな」


「知ってますよ、まだ記憶に新しいですしね」


「これだけは言っておく。私の好きな歌は〈BELIEVE〉だ」


「それは意外ですね、神谷さんならもっと激しい曲が好きだと思っていました。でもまあ俺も好きですよ、あの歌は……なんだか心が温まるんですよね」


 神奈達はいきなり試合に関係のないことを口にする。

 お互いのことを確認し合うように言葉を交わしていく。


「「BELIEVE」」


 ――そしてそれは始まった。

 神奈と影野の歌声が唐突にブラック達の耳に入る。


「これは確か……十六夜マヤの」

「……ねえ、まさか」


 ブラック達は神奈達が歌う意図を察する。

 同じ歌を歌うことでリズムを合わせて同時攻撃を出しやすくする作戦。効果的なのは彼等も認めるが単純すぎる。出来るわけがないとブラック達は自分に言い聞かせるようにして攻撃を重ねていく。


 口から出る歌声は受ける攻撃で度々止まってしまうが問題ない。

 ブラック達が息の合った攻撃をするので、止まるのもまた歌いだすタイミングも同じだ。そして神奈達は歌いながら拳を振るう。二人の速度はほぼ同じであり、息が合い始めている証拠である。


 一回、二回、三回と続けていく内に神奈達の攻撃速度は徐々に合ってきている。

 ブラック達の顔はヘルメットに隠れているが焦りの表情が浮かぶ。

 歌がサビの部分に突入した時、百は超える攻撃のすぐ後にその瞬間は訪れる。


「ぐえっ!?」

「かはっ!?」


 神奈達二人の攻撃速度が完全に一致して、初めてブラック達にダメージが通ったのだ。歌の抑揚に合わせて攻撃をする二人の戦法は最強コンビネーションに勝利した。


「まさかっ! こんなことがっ!? 私達と同等の信頼をっ!?」


「いや信頼だとかそんなすごいもんじゃないだろ。これは歌の力だ、マヤの歌の中でこの歌は息を合わせやすいからな」


「そうですね、あの歌はいい曲ですし誰にでも歌えるような抑揚です。誰にでも歌えるからこそ誰でも息を合わせられる」


「そういうこと、いわばこれは私達二人というよりはマヤも含めた三人の力って感じかな。……つうわけでお前らは追い込まれた。もう終わりだ」


 神奈達二人の攻撃リズムは合ったが威力は全く違う。

 手加減をしているとはいえ、神奈の拳の威力は影野のものより数段上だ。

 ブラック達は〈無敵〉という力がなければかなり優秀程度の力しかない。当然神奈の一撃に耐えきれる筈もなく、ブラックの体からは力が抜けて気絶する。


「一人じゃ〈無敵〉は発動しないだろ?」


「さあ反撃させてもらうよ、ホワイト!」


 〈無敵〉という力がなければホワイトの力は影野に遠く及ばない。

 それが分かっていながらもホワイトは諦めずに抵抗する。

 影野の拳が何度も体に突き刺さり、トドメと言わんばかりに重い一撃が腹にめり込みホワイトの体からついに力が抜ける。ブラックとホワイトの二人が気絶したことにより、神奈達の勝利が確定して試合終了の音が鳴り響く。


「あんた達……コンビネーションだけは私達より上だったよ」


 神奈はそう告げた後、葵が運ばれているであろう保健室へと影野と共に駆けた。


 魔導祭二日目、魔闘儀第二回戦終了。

 二日目終了時点での各クラス得点。



 Aクラス 17100点→18100点

 Bクラス 14700点→13200点

 Cクラス 17500点→18500点

 Dクラス 7790点→7290点




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