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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
二章 神谷神奈と侵略者
34/608

20 浮遊――空を自由に飛びたいな――

2023/10/07 誤字修正

2023/11/03 誤字修正








 平和な月曜日。

 学校に向かう前、神奈は宇宙人にどう対抗すればいいのか考えていた。

 未知の存在に対して今のままで確実に勝利できるなど自惚れはない。宇宙が広いのは知っている、となれば神奈よりも強い生命体がいても不思議でもなんでもない。


「神奈さん。やはりここは戦力増強のために、新たな魔法を覚えておいた方がいいのではないでしょうか」


「……それもそうか。よし早速教えてくれ」


 魔法を覚えるのなら外の方がいい。

 神奈は庭に出て、腕輪に魔法の教えを乞う。


「今日は緊急事態も迫っていますし三つ教えましょう。まずオキシドという魔法を教えますよ。これは優しい魔法なのできっと神奈さんも喜ぶでしょう」


 この腕輪が教えてくる魔法など、神奈からすれば碌なものではないと思っている。しかし何もしないよりはマシであり、戦略の幅が広がるなら覚えておいて損ではない。


「まず酸素が湧いてくるイメージをしてください」


「まずが難しすぎる! なんだ酸素が湧くイメージって!」


「では空気を放出するような感じでいいです。想像したなら〈オキシド〉と唱えてください」


「……こうかなあ? ……オキシド!」


 ――何も変化がない。

 攻撃魔法でないことは確実。補助魔法だとしても何も感じない。

 前例もあるので、神奈は鏡で自分の顔を見てみるが何も起きていない。


「……なあ、これどんな魔法なんだ?」


「これはまさに革命的! 発想の勝利とも言えるでしょう。なんと酸素を無から生み出すことができるのです!」


「使い道なくない?」


「なにを言いますか! 酸素があれば水の中でも呼吸でき、宇宙でさえも神奈さんなら生きれるんですよ? 凄いじゃないですか。それに環境にも優しそうでしょ?」


「知るか! ていうか普通生きてて宇宙とか行かないし、水の中で呼吸したら水も入ってくるだろ!」


「あ、それは盲点でした」


「次だ次、早くしろ」


 期待はすでに消え失せている。

 予想を遥かに上回る下等魔法。酸素を生み出せるにしても一呼吸分が限度。本当に使い道が思いつかない、はっきり言えばデッパー以上に使えない魔法だろう。


「では続いてはロックです。鍵を閉めるイメージをしてください。それができたら扉に触れてロックと唱えてください」


「今度は簡単だな。戦闘には関係なさそうな名前だけど………ロック」


 何の変化も起きていない。

 変化というのなら神奈の目の前の扉からガチャという音がしたくらいだ。これは神奈の想像通りなら戦闘には全く役立ちそうにない。


「ちなみにこれは?」


「鍵を開け閉めできる魔法です! これで戦闘中に自分の部屋に泥棒が入らないかと考える心配はありません!」


「戦闘中にそんなこと考えないわ! ああ、もう次だ!」


 ここで魔法を教わっている目的は強くなるため。だというのにこれでは全く強くなれない。せいぜい日常で少し楽ができるようになっただけだ。


「そんなにキレないでくださいよ、なんと最後はとっておきです! 空に浮かぶイメージをしてください!」


 言われた通りに神奈はイメージしてみるが、イメージだけで想像がつく。


「そしてレビテーションと唱えてください」


「レビテーション」


 唱えた瞬間に認識できるか怪しい変化が訪れた。

 地面を踏んでいる感覚が神奈からは消えていた。体が空中にほんの僅かではあるが浮いたのだ。想像がついていたので驚きは半減している。


「どうです凄いでしょう! なんと一ミリのみ空中に浮けるのです!」


「だからなんの役に立つんだよ! なにこの魔法!」


 たった一ミリ。それだけ浮いたところで便利さなど特にない。浮遊感はあっても、ただ浮くだけで自由に飛び回れたりはしない。


「まあそこはほら、ゲームのダメージ床的なものが大丈夫になります」


「毒沼とか私は加護で大丈夫なんじゃないの」


「……ですね」


 結果、腕輪の教えでは強くなれないことが証明された。

 酸素を生み出し、扉の鍵を閉め、一ミリ空中に浮く。これでどうやって宇宙人を倒せばいいのか見当もつかない。しかし神奈はこういうこともあろうかと、新たな魔法を別の者に習っていた。


「フライ」


 神奈の体が一ミリどころではなく家よりも高く上昇する。

 フライ。これは実質レビテーションの上位互換だ。浮くだけではなく、自由に空を飛べる性能は戦闘にも活かせる素晴らしい魔法である。


「え? あの、なんで教えてない魔法を……」


「この前さ、リンナのところに遊びに行った時に教えてもらったんだよ。お前は家に置いて行ってたから知らないだろうけど」


「私の役目えええ!」


 もう腕輪に魔法を教わらなくても、リンナから教わればいいかもしれない。そんなことを神奈は実感しつつあった。


 時間も有限なので神奈は学校へと向かい始める。

 少しイライラしているのは腕輪のせいだ。万能と評されるはずの腕輪など最初から存在していなかったのだ。


「神奈さん、どうやらイラついているようですね。あ、もしかして月に一回来る女の子の」


「それはまだ来ないだろ。あとイライラしてるのはお前のせいだ」


「そんなっ、どうして」


「どうして? 毎度毎度役に立たない魔法教えやがるからだよ。色んな魔法を教えてもらったが結局全部使えないのばかり。それでイライラしない方が無理ってもんだろ」


「ぬぐっ、あれらは全て素晴らしい魔法なんですよ! 使い方が分かってないだけです!」


「ならその使い方教えろよ!」


 そうこう言い争っている内に教室に辿り着く。

 笑里と才華に挨拶をした後、神奈が周囲を見渡すと一週間休んでいた夢咲も席にちゃんと着いていた。神奈と会う目的を果たした今、休む理由はもうないからだと悟る。


「あれ夢咲さんよね。元気そうでよかったわ」

「そうだね、風邪治ったんだね」


(ああそうだね、私を宇宙人なんて面倒に巻き込んだけど良かった。あれはズル休みだけど来て良かったね!)


 神奈に気付いて夢咲は会釈する。その後は読んでいた本に視線を戻す。

 この日も、次の日も、一週間が経っても――何も起きない。

 宇宙人達の動きはなく、神奈は喫茶店でレイとジュースを飲んだり、笑里達と遊んだりと、いつもと変わらない日々を過ごしていた。


 本当に宇宙人なんているのかとさえ最近思いはじめるほど何も起こらない。夢咲もいつ何が起こるかまでは予知できないので、動き始めるまで待つしかない現状にどうすればいいのかと頭を抱える。


 しかしある日。才華がおかしいと思って神奈に相談したことがあった。


「最近夢野君がおかしい? ごめん、誰だっけ」


 その内容は同じ教室にいる生徒の様子についてであった。


「ほら、同じクラスのUFO大好きな男の子よ」


「どう変なのさ?」


「偶然見たんだけど、一階の自動販売機の前で、お金を入れないでボタンを連打していたの。それに授業もまともに聞いてない。最近の雰囲気もなんだか怖くて、友達からも別人みたいだって言われてるわ」


「……それは変だな。授業は私もだからともかく、自販機のボタン連打って普通はしないもんな」


 それから神奈は夢野を観察してみることにした。ずっと見ていると分かるのだが、彼がおかしいというのは本当のことであった。

 当たり前の誰でも知っているようなことを初めて知ったように口にする。もっともおかしいのはお金の価値すら忘れていたことだ。日常的に使うもので常識的なことなのに、お金を忘れるというのは考えづらい。記憶喪失のような症状だと観察して理解できる。


 変なのは元からか、あるいは途中からか、夢野と仲が良いという男子に神奈が話を聞いてみたところ、どうやらおかしくなったのは一週間ほど前……神奈が夢咲に会った日であることが判明した。

 おかしくなった原因が絶対にある。そう思った神奈は夢野を尾行し続ける。


「あ、アイスの当たり棒捨てやがった。もったいないなあ」


 コンビニに行った夢野が普通に買い物をし、暑くなってきたためか棒アイスを店の入り口付近で食べ、残った木の棒をゴミ箱に投げ捨てる。一連の流れを見ていても夢野のおかしなところというのは減ってきていた。学習しているというのが妥当な考えだろう。


 夢野が捨てたゴミ箱から当たり棒を取り、店員に渡して神奈は考える。

 今日でもう尾行して三日目。そこらの幼児レベルの知識も補填されて、特におかしな行動もなくなってきている。奇妙になった原因というのも分からず、このまま尾行していても得られる物があるかは謎である。


「神奈さん、最近ストーカーが板についてきましたね」


「変なこと言うなよ。私はこの世界の平和のために尾行してるんだ」


 当たりのアイスを貰ってから、再び神奈は尾行を開始する。

 再開してから少しして、奇妙なことに気付く。いつもなら家に真っすぐ帰るのに、この日だけは逆方向に向かっている。進んでいく先には裏路地と緑が多い山しか存在していない。


 夢野の動きはさらにおかしくなり裏路地に入っていく。

 くねくねと曲がり角を曲がる様は、まるで尾行されているのに気付いて尾行者を巻こうとしているかのようだ。そんな彼を追うのが次第に困難になり――


「いない……いったいどこに」


 素早く曲がり続ける夢野を見失ってしまった。

 見失ったものはしょうがないので、神奈は近辺を地道に捜索することにする。



 * * * 



 緑多い山付近。

 神奈が見失っている夢野は現在、とある人物と接触しようとしていた。


「フン、素人丸出しの尾行をしやがって。僕の素性に気が付いたのか、疑っているのか。気付いたのなら始末しなければな。……すまない、待たせてしまって」


「別に構わん、この俺もついさっき来たところだからな。それで――報告を聞こうか」


 夢野が話しかけたのは、灰色のマフラーをしている細身の男。


「この星の原住民のほとんどは雑魚だ。一流の格闘家というやつも見たのだが、僕達から見れば児戯に等しかった」


 予想していたとばかりに頷く男は動きを止め「ほとんど?」と問いかける。別に驚くべきことではないが、やや眉を顰める。


「中にはいるものだ、僕らと対等に戦えそうなやつも。この体、夢野とかいう子供に変装したものなんだがそいつが通ってる学校に二人強いのがいた。敵に回すと厄介そうなやつがね」


「そうか、警戒しなければならない者もいるようだな。ちなみにその強い者というのは――そこに隠れている貴様のことか?」


「……何を言って」


 そう細身の男が視線を向けた先には木が数本立っていただけだ。

 細い木から一つの人影が飛び降りてくる。それは黒い上着、黒いズボンを履いている神奈と夢野のクラスメイト――隼速人。


「な、尾行は一人ではなかったのか……! しまったな、あまりにも片方が素人で油断してしまった……」


「ふっ、貴様を怪しんでいたのは神谷神奈だけではないということだ。こそこそしやがって、怪しさを隠す努力くらいしたらどうだ?」


 二人の少年の元へ速人は歩いて行く。

 まんまと尾行されていた事実に、夢野は悔しさを味わって唇を噛みしめる。どちらにも冷めた視線を送っている男は静かに口を開く。


「これは貴様の失態だな。始末しろ」


「分かっている……! こんな奴は僕一人で十分だ。おい確か隼だったな、貧弱なお前達との力量差を見せつけてやる」


「痛めつける前に答えてもらおう。貴様らがどこの国の暗部かをな」


「うん? ああ、そういうことか……。まあ……お前が想像してるどんな国よりも遠い場所さ」


 正体までは勘付いておらず、速人が懸念していることは別にあると夢野は理解する。

 始末してしまえばまだどうにでもなる。強さへの自信から夢野は戦おうとしている速人を嘲笑する。恐怖して泣き喚く姿を想像しながら手に力を込める。

 速人と夢野――二人の少年は真正面から衝突した。


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