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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十章 神谷神奈と魔導祭
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156 猫耳――オムライス――


 神奈とマヤの二人は影野のおかげで無事に校舎の中に入ることができ、様々な出し物を見て回っている。

 中の出し物はカフェとお化け屋敷、他にも迷路なんてものもあった。そんな色々なものがある中で、行列ができていた店を発見したので見てみるとメイド喫茶と書かれていた。


 メイド喫茶。そこは白黒のメイド服を着こなす可愛い女子が接客をする喫茶店である。ただしただの喫茶店と違い萌えという要素を大事にしている。


「おかえりなさいませーご主人様! 奥のテーブルにどうぞ!」


 行列に並んで三十分。ようやく中に入れたので席に着く。


「私こういったところには来たことなかったなあ」


「安心しろ、私も来たことないから」


「ご主人様! ご注文は何になさいますにゃん?」


「にゃん? ……じゃあこの、オムライスで」


 メニュー表に書いてあるものを神奈は注文した。そのオムライスの正式名称はなんと【キラキラオムライス、濃厚でとろける卵に萌え萌えキューン!】である。ぶっちゃけてしまえば名前はオムライスだけでいいだろうと神奈は思う。


「あのご主人様? ちゃんと名前で言ってくださあい。にゃん」


 あからさまに神奈は狼狽えて「……えぇ?」と呟く。

 この【キラキラオムライス、濃厚でとろける卵に萌え萌えキューン!】を告げなければ注文完了にならないとは酷い話だ。しかし店のルールだというのなら今日は、今日だけは仕方ないと割り切る。


「キラキラオムライス、濃厚でとろける卵に萌え萌えキューン……を下さい」


 羞恥で顔を赤くして俯き、プルプルと体を震わせて神奈は注文した。


「はあいオムライス一つですね。にゃん」


「店員は言わないのかよ! じゃあ私にそれ言わせる意味なくない!?」


 すぐさま神奈はバッと顔を上げて怒りのままに叫ぶ。


「意味はありますよぉ。もえってやつですにゃん」


「おい何が萌えなんだよ。こっちは恥ずかしさしかないよ」


「いえいえちゃあんともえたでしょう……心が」


「もえるってそっち!? なんで客の心を怒りで燃やすの!?」


「いわゆる炎上商法ってやつですにゃん」


「……たぶん間違ってるよ」


 炎上商法といえば過激なアピールをして注目を集めるマーケティング。確かに人の心を怒りで燃やすのだが、猫耳メイドがやったのは確実に違う。まず注目が集まらない時点で成り立っていない。


「そちらのご主人様はどうなさいますかあ? にゃん」


 猫耳メイドがまだ注文していないマヤへと顔を向ける。

 人気歌手にこんな注文させたくないなと思う神奈だが、やはり羞恥に悶えるマヤを少し見てみたい気もしてきた。


(さあ、何を注文するんだ? このまっくろ珈琲萌え萌えキューンか。それともメラメラチキンライス萌え萌えキューンか。うーん、やっぱりプッチンプッチンメガプリン萌え萌えキューンか。……ていうかメニュー表のやつ全部萌え萌えキューンって付いてるの!?)


 メニュー表に書かれている名前の後半は全て萌え萌えキューンである。どう考えても後半がいらない。


「では同じのものを」


「かしこまりましたにゃん」


「それでいいのかよ!」


 少し悩んだマヤは結局神奈と同じ物を頼んだ。それはいいのだが対応が全く違うことに神奈は腹を立てる。

 あとであの猫耳メイド痛い目にあわせてやろうかなどと心で呟いて、何かしらの罰を想像していく。だが過激な罰しか思いつかないので考えるのをやめた。


 しばらくすると料理が運ばれて来る。名前に負けないくらいの見た目だ。

 光り輝くような卵。それをスプーンで掬うと中には鮮やかなケチャップライス。神奈は涎が垂れそうになるのを堪えて口に運ぶと卵が口の中で溶けるように消え、濃厚な味を残す。ケチャップライスはその味を殺さずに調和している。


(これは確かにキューンとする……!)


「ああご主人様あ! まだ最後のケチャップ文字を書いてませんよお!」


「むぐっ、そんなものはいらないぞ」


 ケチャップをかけるなどとんでもない。今あるオムライスにケチャップを足したら調和していた全てが崩れて台無しになってしまう。だが猫耳メイドが神奈に配慮するはずもなかった。


「じゃあ今からかけちゃいますねえ」


「ちょっまっ!」


 キラキラと輝く黄金をどろっとした赤い液体が塗りつぶしていく。その赤い液体は文字になり、最終的には文章となった。驚くことに【もっと注文してね】と欲望丸出しの言葉が書かれた。マヤのオムライスにも同じケチャップ文字が書かれる。


 最悪な気分でオムライスを食べ終わり、さっさと出ようと会計を済ませるために神奈達はレジへ並ぶ。そんな二人の前に立ったのは先程と同じ猫耳メイドだった。


「はぁい、オムライス二点で三千円になりまあす」


「じゃあ、三千円で」


「はあい、また来てくださいね? ……あ! にゃん?」


「二度と来ないと心に誓うよこの猫耳ダメイドが! キャラ設定くらい守れ!」


 語尾に「にゃん」と付けるのか付けないのかはっきりしてほしかった。わりと値段が高かったこともあり、神奈は来年も再来年もこの猫耳メイドがいるクラスには行かないと誓う。



 * * *



 メイド喫茶を後にした神奈達は次の出し物に向かっていた。

 次はマヤが興味を示した巨大すごろくだ。教室一部屋がすごろく場と化している。


「ではここがスタート地点なので、このサイコロを振ってください」


 巨大すごろく。通常のすごろくとルールは同じだが、マスが大きく自分の足で進むことが出来るので気持ちよくプレイできる。

 マヤだけが参加してサイコロを振ることにした。直径五十センチメートル程の巨大サイコロだ。


 巨大サイコロを「えいっ」と投げたマヤ。出た目は六。いきなり進める最高値である数字が出たことに神奈は驚く。

 すごろくにはマスによって一回休みなどのイベントが発生する。いったい六マス目には何が書いてあるのかと二人は見やる。


「えっと、百円払う……え?」


「はい残念でした、百円払ってください」


「ええ!?」


「ちょっ、嘘だろおい! これ現実で金とられるの!?」


 マヤは渋々自分の財布から百円を取り出して近くの男に渡した。

 気を取り直してもう一投。今度は何が出るかと楽しそうに振る。


「あ、一だ。えーっと……三百円罰金」


「はあい三百円です」


「うっ……ぅ……」


「おいいいい! もう止める、もう止めるから! マヤ、早くここから出るぞ!」


 ついに泣き出しそうになってしまったマヤに、神奈はこれ以上すごろくを続けさせたくはなかった。

 だいたいこのすごろくのマスをよく見れば罰金のマスばかりである。最終的には千円単位と金額も上がっていくので、もし最後までやっていたら万単位で払う羽目になっていただろう。


「止めるんですか? それなら三千円払ってください」


「止めるのにも金とるの!? ああもう払うから!」


 そうして神奈達は逃げるように校舎を出た。もう二度と悪魔の巣窟に戻るつもりはない。

 少し走って校舎裏にまで逃げた二人。マヤの目からは僅かに涙が流れ、体は震えていた。


「文化祭って……怖いんだね」


「勘違いするな! 全国の学校に申し訳ない!」


 断じて文化祭とはこんな悪魔染みた出し物ばかりではない。宝生中学校が特殊なだけである……と神奈は信じている。


「……ふぅ、なんだかトイレ行きたくなっちゃった。ごめん神奈、私行ってくるからここで待ってて」


「一応ボディーガードだから付いてくよ」


 マヤが目を丸くして「え、中まで?」と問いかけるので神奈は「外まで」と告げる。

 校舎裏のトイレに二人は向かう。ひと気の少ない校舎裏では何があるか分からないので神奈も警戒しながら、小屋のようなトイレの外で立って待つ。


「はぁ、ここの生徒マジで頭おかしいな……」


 神奈が呟いていると、なにやら近くで話し声が聞こえてきたので魔力を耳に集める。


「結局、十六夜マヤは殺せなかったな」


「ああ、でも問題ねえよ。今日のライブで俺達の方に客が流れた様子を撮影してネットに流せばあいつの名声は確実に落ちる。なんせ自分が通っている学校なのに客が全然来ねえんだからなあ……!」


 会話の内容から声の正体がロックロッカーだと悟る。

 十六夜マヤを殺せなかったということは殺し屋に依頼した、もしくは自分達が犯人だと宣言しているようなものだ。


「お待たせ神奈」


「……っ! あ、ああ待ってないよ」


 今すぐ捕まえたいのにそれが出来ない。

 マヤを一人にするわけにはいかないのだ。もし一人にしてすぐに刺客が来たらさすがに戻る前に殺される。しかしロックロッカーが犯人だということだけは、今日何かしてくることも含めて判明した。


(お前らの思い通りにはさせないぞ。マヤは殺させないし、ライブは絶対に成功させてみせる)


 一人警戒を強めて神奈はマヤと一緒に歩き出した。











猫耳メイド「私これ以降出てこないのかなあ……あ! 出てこないのかにゃあ?」


神奈「まずはそのキャラ定着させろよ。いや、これはこれでいいのか? こういうキャラってことでいいのか?」


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