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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
九章 白部洋一と夢現世界
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139 発想――ゼロ――


 レイは速人の顔を見て「ああ」と言葉を漏らし誰なのかを思い出す。


「君は……元第一部隊隊長の隼速人だね、君は危険だと聞いているよ。殺してでも上には行かせない」


「ふん、面白い。今の俺の実力がどこまで通用するのか試してみたかったところだ。どの道お前に負ける程度ではあの女に勝つことは出来ないからな」


 両者が戦闘態勢に入る。

 速人は元から出していた剣を構え、腰を僅かに落とす。

 レイは両手両足に紫色の魔力エネルギーを纏わせる。


 魔力を纏わせたことで生身とは硬度が桁違いに上昇する。夢現世界にてレイは強い敵と戦うときはいつもこうしてから戦闘を開始する。グラヴィーのことなど最初から敵としてすら見ていなかった。今日初めてレイは本気で戦う姿勢を見せたのだ。


 グラヴィーは霞む目でもどうなるのかを見届けようと、しっかり二人を見る。しかし霞んでいたからか、元々の動体視力では捉えられないからか、二人の姿はほぼ同時に掻き消えた。少なくともグラヴィーにはそう見えていた。


 二人の動作に遅れ、キンッと金属同士がぶつかったような音が数秒の内に数百以上は鳴り響く。その多さに連続する音が一つになって一回の音に聞こえる。

 衝撃波があちこちで発生し、床が砕け、壁が切り裂かれ、轟音が鳴る。あまりにもレベルが違いすぎる戦いを見て……というか見えなくて、グラヴィーはこの戦いに自分が入る隙などないということを悟る。


「分身の術」


「増えた? 本物は……」


 レイが速人が増えたことに困惑した表情を浮かべる。だが速人の背後からの奇襲も、残像を利用したフェイントも全て防ぐ。それどころかレイは防御と攻撃をほぼ同時に行い残像を消し始めた。

 結局レイの攻撃に残像は全て消えてしまい、残った本人にの腹には拳が叩き込まれた。しかしそれに速人は表情一つ変えない。


「身代わりの術」


 痛みがなかったのは別の物と入れ替わったからだ。レイの目には自分の拳が叩き込まれて割れてしまう壺が映っていた。


(この壺! 傍にあった壺!)


「散失斬」


 突然目の前で起きた不思議なことに動揺したレイは「しまっ……!」と焦った声を出すが遅い。

 速人が斬りかかる。腕だけの残像が作り出され、太刀筋が予測できない。レイはその技を回避しようと身をよじり辛うじて急所は外させた。……とはいえレイは切り刻まれた。体中のあちこちが切り傷だらけであり、出血が酷くなる。


(さっき、あの青髪の男の意地を身をもって知ったんだ。なら僕も倒れるわけにはいかない)


 ――どんな傷を負ってもレイは倒れない。


「なぜ倒れない……不死身かお前」


 速人はレイがまだ倒れない以上剣を収めない。


(倒すには超・神速閃しかない。あれなら喰らえばもう立ち上がれないだろう)


 速人は超・神速閃を使用しなければ完全には倒せないことを悟る。しかし問題があった。速人はここに来る前にもそれを使用し、反動で足に多少ではあるが痛みが駆け巡っている。つまりまた使えばこれ以降の戦いには全力で参加できないということだ。


「仕方ないか、まずは隙を作らなければ」


 レイはボロボロの状態でも隙がなかった。未だにその目は周囲を見渡しており、警戒しており、闘気も衰えない。少し動きが鈍くなったが微々たるものであり、速人よりまだ手負いのレイの方が強い。


 速人が隙を伺いながら攻め続け、レイが倒れないという意地を張って守り続ける。

 時折反撃をするレイ。その一撃は凄まじく、喰らった速人の意識を一瞬失くす程だった。


「ふぅ……そろそろフィナーレだね」


「……チッ」


 いつの間にか立場は逆転していた。速人が優勢だったことなどなかったかのように床に膝をつき、全身血塗れのレイは一息吐いて自分と同じく傷だらけの速人を見下ろす。

 その光景はグラヴィーにとって絶望の一歩手前である。


(嘘だろう……? アイツでもダメならどうしろというんだ……? 僕達の中でトップクラスの戦力のはずだ。それが倒れそうになっている今どうすればいいんだ……?)


 しかしグラヴィーは一歩も動けない……立ち上がることも出来ない。だが窮地に立たされても尚、その瞳を通じて速人が諦めていないことを感じ取る。


(あれは……隙を伺っている? でもダメだ、何かする前にやられる。敵わない……足りない……足りない……? まだ……試していないことがあった……)


 動くことに激痛が走るグラヴィーは耐えながら右腕をレイへと向ける。


「重力操作……無重力(グラヴィティ・ゼロ)……」


 グラヴィーがやったのは重力操作だが、今までとは趣向が違う。


「なっ、何が起きてっ!?」


 レイは戸惑っていた。突如体の動作が遅くなり、空中に浮かび上がる。床に下りようと手足を動かすが、逆効果になり上昇していく。

 これは重力増加や重力向き変更とは違う――無重力状態。

 今まで敵には使用していなかった。そもそも使う発想がなかった。重力を倍増させ負荷をかける今までとは逆転の発想だ。


 速人はそんな突然起きた現象に驚きつつも、グラヴィーが起こしたのだと理解する。そして作られた決定的な隙を見逃すほど速人は甘くない。


「超・神速閃」


「なっ!? くっ!」


 空中で無様にもがいているレイに速人は超速の刀を振るう。

 レイはどうにか躱そうとするが体の動きが遅く、間に合わないと悟る。なのでレイは腕を胸の前でクロスさせ防御の構えをとった。しかしそんな苦し紛れの防御も意味を為さず、凄まじい速度で壁に叩きつけられる。

 レイの意識は飛び、その体は力なく床に落下して倒れる。


「余計なことを……ぐっ……してくれたな」


 速人は技の反動で足が筋肉痛のようになりつつも、グラヴィーの方に平然と歩いて文句を言う。素直に礼を言えないのはもう諦めるしかないだろう。しかしそんな態度だからかグラヴィーからの返答はない。


「おい……気絶してやがる」


 グラヴィーはレイと同じように気絶していた。

 元々蓄積されたダメージが限界だったのに、無理に意識を留め魔技を使用したことが原因である。

 その顔には苦しそうな表情が浮かんでいた。それを見て速人は軽く舌打ちし、グラヴィーを肩に担ぐ。


「勝ったんだ……せめて嬉しそうな顔をしておけバカが……」


 速人はグラヴィーを担ぎながら、洋一達の後を追うべく歩き出した。


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