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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
二章 神谷神奈と侵略者
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19 未確認――宇宙人の侵略――

夢野「おっ! 最初に俺が出てる! これからは俺が主人公だな」

神奈(……誰だこいつ)



 宝生小学校にて。もうその日の授業は終わり、帰りのホームルームが始まろうとしている時間。

 神奈が所属しているクラスで、唯一ともいえるUFO好きの少年――夢野(ゆめの)宇宙(そら)は興奮気味に口を開く。


「だからあそこはUFOが出たんだって! 宇宙人もいるんだって!」


 夢野の友人である少年――大沢(おおさわ)基弘(もとひろ)は呆れたように「はぁ……」とため息を吐き、またいつもの病気が始まったとうんざりする。


 こうして未確認飛行物体、俗にいうUFOの話をされるのは今日が初めてではない。テレビや雑誌などで情報を手に入れると、夢野は毎度のこと大沢に話してくる。最初こそ友人の話を真に受けて、大沢自身も盛り上がっていたが、毎度毎度情報の調査に行っても何もない。さすがに二十以上も噂の土地に行って見つからなければ真実も見えてくる。


「お前、それ何度目だよ。UFOとかいつまで信じてるんだっつうの。あんなのテレビの視聴率取るためとか、雑誌を買わせるための作り話。偽物だよ、偽物」


 そうとしか大沢は考えられなくなっていた。

 嬉しそうに話す夢野に付いていっても、どこにもUFOなどありはしない。もし仮に本当にいたとして、ここまで見つけられないのはもうUFOに嫌われているとしか思えない。


「本当だって! 俺は今日確かめに行くんだよ、お前も行こうぜ!」


「行かないって、バカバカしい」


 再び大沢はため息を洩らす。

 夢野も自分の好きな趣味に、もう大沢が興味なさ気なのは知っていたが、あまりにも反応が酷いのでムッとする。


 確かに未確認飛行物体なんてデマが多い、信じるのもバカらしいなんて思う者もいる。それでも夢野は信じている。いつか宇宙人に会えると本気で思い続けている。その想いを否定されるのは友人だろうと気分が悪くなる。


「ムッ、今に見てろよ。証拠映像撮ってきてやるからな」


「はいはい」


「おい本当だぞ、付いてこなかったことを後悔するなよ。宇宙人と握手して友達になってやるんだからな」


 いつの間にか勢いで目標が大きくなっていた。

 単にUFOが好きなのは、宇宙人も好きだからだ。夢野は宇宙人と会いたくて情報を集め続けている。見境なく情報を信じた結果、一時期本気で危ないカルト宗教団体に入ってしまったこともある。

 首から紐で下げているカメラを持ち、夢野は大沢が付いてこないことに不満を隠さない顔になっていた。


「はいみんな席に着いてくださーい」


 帰りのホームルーム開始時間。クラスの担任教師が教室に入って来て、席に着けと生徒に言い聞かせた。それだけでザワザワと騒がしかった教室が静かになる。


「はい着きましたね。では帰りの会を始めます。連絡事項は特にないんですけれど……やっぱりみんな、夜知留(やちる)ちゃんのことが心配かな?」


 話の内容が普段と一つだけ違う。困ったような表情で女性教師も話したその内容。

 今日で一週間も休み続けている女子生徒――夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)についてだ。


「心配しないでね、風邪だって先生は聞いているから。きっと明日には学校に来るよー。でもプリントが多くなってきたので、誰かが届けてあげないとね。それじゃあ夜知留ちゃん家に一番近いのは……神奈ちゃんね! 一週間分のプリントを届けてあげて!」


 突然すぎて神奈は驚くが「はい」と返事は忘れない。

 一週間分も届けなければいけないのは机の引き出しの容量の問題か。それともキリがいいからか。どちらにせよ、プリントが入った大きな封筒を神奈は託された。


 件の夢咲という女性生徒は一人でいることが多い。誰かと一緒にいるところを神奈は見たことがない。休み時間も外で遊ぶことなく、ずっと読書しているようで暗い印象を与える。

 そんな関わりのない夢咲と、家が近所だったということを神奈はあまり信じられない。


「それじゃあみんな、雨も増えてきたけど風邪は引かないようにね。さようなら!」


 生徒達は「さようなら」と元気に返す。

 夢咲の休む理由が風邪だというのなら心配する必要はない。教室内のほとんどの者がそう思った。

 帰りのホームルームも終了。生徒達は友人と話ながら、もしくは疲れた表情で教室を出ていく。神奈も帰ろうと席を立ったとき、周りに集まる女子生徒が二人――笑里と才華だ。


 二人が神奈の元に来るのは珍しくない。休み時間にかなりの頻度で二人は神奈の方へと向かってくるのだ。

 校門前まで、神奈達は一緒に歩いて行く。


「それにしても、夢咲さん家って私ん家と距離近かったのか……初めて知ったよ」


「もう一週間も休んでいるのよね。先生は風邪と言っていたけれど心配だわ」


 一週間とは長いものだ。体が弱いわけでもないし、風邪でそんなに長引くものなのかと神奈は疑問に思っている。まさか亡くなったなんてことはないだろうが、才華の言う通り心配になってくる。


「笑里、藤原さん。夢咲さんってどんな奴だったか分かる?」


「うーん、私は知らないかも。最近は神奈ちゃんと才華ちゃんと一緒にいてばっかりだったし」


「私も少ししか話したことがないわ。どんな人までかはちょっと……ごめんなさい」


「まあすごい気になるわけじゃないしいいんだけど」


 いじめなどが起きている気配はなかった。しかし教師が風邪だというのだから、生徒は風邪だと思うしかない。誰も夢咲のことをよく知らないのだから、受け入れるしかない。

 心配は色々と考えるごとに徐々に重くなり、神奈は面倒という感情も含めて深くため息を吐いた。


「そんじゃチャッチャと届けてきますかね。というわけで笑里、一緒に帰れないや」


「うんしょうがないよ」


「そうよね、先生から言われたんだもの」


 校門まで一緒に歩いた神奈達は別れる。

 才華は黒塗りの車で、笑里は歩いて家に一直線に帰っていく。頼まれたこともあり、神奈はクラスメイトの夢咲が住んでいるという場所へと向かっていく。


 教師から渡された茶色い封筒には、住所、電話番号、郵便番号が記入されており、その横には手書きの地図が書いてある。家を知らない神奈でも夢咲家に辿り着けるというわけだ。


 歩き続けて十分ほど。神奈は古い木造建築に辿り着く。 

 近所だという夢咲家は、神奈の家から歩いて三分ほどの距離で確かに近かった。


「……ここ、人が住んでたのか。廃墟だと思ってた」


 まるで幽霊でも出そうなほど外見がボロボロで、とても人が住んでいるとは思えない場所であった。廃墟と言われた方がまだ納得できる。神奈は地図を見直してみたが、やはり地図ではこの家が夢咲家となっている。


 錆びもある古びたインターホンを神奈は鳴らす。

 チャイムの音は聞こえるが、誰かが移動するような音は聞こえてこない。


「出てこないな」


 三分ほど経っても誰も出てこない。

 聞こえなかったのかもしれないと、神奈はもう一度押してみた。しかし人が出てくることはない。


「出てこないな……。地図を見間違えたか?」


 方向音痴なつもりも、地図が読めないつもりもなかったが、神奈は家の外観もあって間違いであったかと思い始める。

 もう一度封筒に書かれている手書きの地図を見直す神奈に、右手にある腕輪から声が掛けられる。


「いえ間違いありませんよ、地図も住所もこの家を指しています。もしかしたら出かけているのかもしれませんね」


「でも一週間も休むほどだぞ? まあもう治ってるって可能性もあるけど、もしかしたら寝込んでいるのかもしれないし」


「そういえば先生が一人暮らしだと言っていましたね。玄関まで来れないほどの病なんでしょうか」


「……風邪とは言ってたけど、いくらなんでも風邪で一週間も休まないはず。何かあるのか? でもそれなら生徒に届けに行かせないで、教師自身が行くはずだよなあ」


 神奈は腕輪と状況を推測するが、心当たりがないので考えもまとまらない。

 その場で考え込むが結局答えは出ず、プリントをポストに入れて帰ろうと決めた。


 ポストも酷いもので、神奈は「うわぁ」と引き気味の声を漏らす。

 全く掃除されていないせいで虫が湧いている。雨が降ったわけでもないのにナメクジが数匹いるなど異常だ。ゴキブリがいなくてよかったと神奈は胸を撫で下ろす。


 蜘蛛もいるポストに封筒を入れるのはどうかと思うが、掃除していない方が悪い。神奈はもう帰りたいと思い、虫だらけのポストに封筒を入れようとし――気付いた。

 ――目の前にある玄関の扉が少し開いている。


「……なんで扉が開いてるんだ」


 明らかに異常なのは家の外観でも、虫だらけのポストでもない。一番の異常は開けっ放しの玄関に他ならなかった。


「不用心ですねー、まあ言われなければ人なんか住んでないと思うでしょうけど」


「でも一人住んでるんだ。寝たきりなら扉が開けっ放しなのはおかしい。出かけているにしても、一人暮らしなら警戒心も自然と持つはず、掛け忘れるとは考えづらい……」


「……神奈さん一度だけ扉開けっ放しで出ていったこと覚えてます? まあそれは置いておいて、もしかしたら誰かが侵入したのかもしれないですね」


「可能性はあるな、確かめよう」


 何者かが侵入したのではとみて、神奈は夢咲家に突入することに決めた。

 不法侵入者にバレるといけないので「お邪魔します」など言わない。物音を立てないようにこっそりと夢咲家に入っていく。


 家の中は外ほど酷い状態ではなかったが、触れれば扉はガタガタ、床はミシミシと音を立てており、今にも壊れてしまいそうであった。最低限の掃除がされていることが唯一の救いか。

 慎重に進み、神奈は一階を捜索してみたがそこには誰もいなかった。キッチンには蛇口から水がポタポタと垂れており、片付けていない皿が置かれている。


 不気味な家だと思いつつ二階に上がったところで、神奈は一枚の写真を見つけた。

 壁に画鋲で打ち付けられている不思議な写真。そこに映っていたのは――


「これは……笑里と藤堂? なんでこんな絵が?」


「あの場にいたんでしょうか?」


「いや、いなかっただろ? あの場にいたのは私達だけだったはずだよな?」


 かつて笑里に憑りつき、神奈に襲い掛かり戦うことになった悪霊の藤堂零。

 笑里が寂しそうに砂場で遊んでいる。その目前に邪悪な笑みを浮かべた藤堂が立っていて、遠くには笑里の父親である風助が倒れている。

 実際にその場面に遭遇したわけではないが、写真の場所は夜見野公園。心霊スポットとして噂になっていたゆえに子供は近寄らない場所だ。偶然通りかかり写真を撮ったという可能性は低い。


 ――進んでいくにつれ不思議な写真は増えていく。


 吸血鬼が不気味に笑い、神奈と対峙している写真。

 願い玉により力を得た隼速人と戦う神奈の写真。

 アルファ達が神奈の家を破壊している写真。

 破壊の使徒となったアンナ・フローリアの写真。


「全部私が会ったことがある奴等だ。でもおかしいな……あの時、関係者以外いなかったはずなのに」


「もしや……あ、写真が途切れてますね」


 壁にあった写真は突然、一つの部屋の前で途切れる。そこには可愛く夜知留と書かれたネームプレートが掛けてあった。疑いようもなく夢咲夜知留の部屋である。ネームプレートはやけにきれいであり、家の汚さと合わなくて気持ち悪さを与える。


 ごくりと息を呑んで、部屋の扉を開ける。

 部屋には窓から空を見上げている少女が立っていた。神奈が入ったことに気付いたようで、少女はゆっくりと扉の方へと向き直った。

 藍色の髪の毛は首にマフラーのように巻きついている。垂れている目は眠たそうであり、黒い隈が下に浮き出ている。不気味さ全開の少女は小さな口を開く。


「待っていたわ。ようこそ、神谷神奈さん」


「待ってた、ね……。来ることが分かってたとでも言うつもりか。……あの趣味の悪い壁の写真はなんだ? どうして私と関わりのないお前があんな写真を持ってる」


「落ち着いて話をしましょう? 一つずつ答えるから」


 話の通じない相手ではない。これならゆっくりと話が出来そうだと神奈は思う。


「……まずお前は本当に夢咲夜知留なのか」


「そこから? いや私は紛れもなく本物なんだけど」


 少し予想外の質問だったのか少女――夢咲は困惑する。


「じゃあ次、この家はなんでこんなに汚いんだ」


 予想していた質問が夢咲に何一つ飛んでいかない。


「……え、そこなの? それは掃除が大変だから……じゃなくて、もっと他に言うべきことがあるはずだよね?」


「いやそこだろ、住んでるくせに清潔感ほぼゼロじゃないか。天井付近には蜘蛛の巣だってあるんだぞ? さすがに蜘蛛はいないけど汚いことに変わりないだろ――掃除しろよ!」


「掃除から離れて! なんで他人にそんなこと言われなきゃいけないの? だいたいあなたはもっと気にするべきことがあるでしょ! 最初に聞いたあの写真とか気にならない!?」


「あ、そうだ。なんなんだよあの写真は」


「そんな言われて思い出したみたいな反応……」


 わざとらしく「ごほんっ!」と咳払いをして、夢咲は改めて口を開く。

 話が予想していたよりも逸れたが、ここからが本題だと真剣な表情を作る。


「……あの写真は、私のとある能力によるもの。あなたにとっては固有魔法と言った方が分かりやすいかな。……私は寝るときにたまに予知夢を見る。そして写真を生み出すことができる。……予知夢の内容を一部映した写真をね」


「また魔法かよ。しかも私が使える魔法よりすごいし」


「やはりそうでしたか。固有魔法に関しては人それぞれでデータなどないですが、写真から微弱な魔力を感じたので魔法だと思いましたよ」


「さすがね喋る腕輪さん、その通りよ」


 腕輪のことも知っていたようで夢咲は驚く様子もない。

 あらかじめ予知夢で知っていたのだ。壁に貼ってあった写真が魔法によるものなら、夢咲は今までに起きたことを全て知っているということになる。腕輪のことを知られていてもおかしくはない。


「待て、まだ分からない。なんでわざわざこんな回りくどく能力を紹介する必要がある。それに、そもそもどうして説明する必要があったんだ」


「……信憑性を示すため。こんな能力だもの、嘘くさくて信じられないと思ってね。それとこうでもしなきゃ、あなたと二人きりで会うこともできなかったでしょう」


「そんな珍しい固有魔法だ。隠したいのは分かるんだけど、なんでわざわざ私に言うんだよ」


 話の核心に神奈が迫っていることを察し、夢咲は深呼吸して、一拍置いてから落ち着いて話し出す。


「あなたにしか解決できない危機が、この地球に迫っているの」


「危機……? 地球……?」


 落ち着こうとしても震える声で夢咲は告げる。


「宇宙人よ、宇宙人が攻めてくる……」


 小さく震えながら言って、夢咲は手に持っていた一枚の写真を神奈に渡す。

 燃え盛る炎。倒壊したビル群。そこには荒れ果てた風景と、一人の青髪の少年が映っていた。何度まばたきしようと少年というのに変わりなく、神奈と同年代の少年にしか見えない。


「……宇宙人、この男がか? 人間にしか見えないんだけど」


「人間のような見た目をしているというだけ。……その写真はさっきも言った通り、一シーンを映し出したもの。空から大きな円盤が現れ、この近くにある山に着陸する。そこから現れた一人の宇宙人。近いうちに何もしなければ、こんな光景が生み出されることになるの」


 恐怖が夢咲を支配している。手足と声が僅かに震えていた。


「そして夢で見たけど、この宇宙人はとんでもなく強い。だから強い人にしか頼めないの」


「それで目を付けたのが私ってわけか」


 確かに神奈は強い。控えめに言っても強い。

 裏社会のエリートだろうが、破壊の使徒だろうが、最強の悪霊だろうが、全てを簡単に倒せてしまうくらいに強い。夢咲の人選は正解と呼べるだろう。


「あなたの強さは予知夢で散々見てきたわ。一度は隼君に頼もうと思ったけれど、パワーアップした彼の実力でも(かな)わないと思う。でもあなたなら勝てる、あなたしか勝てない……! 突然こんな話をされて戸惑うのは分かる。でも理解してほしいの、あなたしか……あなたしか戦える人はいないの……!」


 縋るように頼み込む夢咲を見て、神奈には戸惑いがあったが、助けたいという気持ちが膨れ上がる。

 予知夢を見れるのは素晴らしい能力だ、それでも夢咲は戦う術を持たず、危機に対してどうすることもできない。破滅する未来が分かってしまっても、夢咲一人では震えることしかできなかったのだ。


 生まれ持った力のせいで苦しむ。夢咲の力については解決方法などない、ただ苦しむことしかできない。

 単純に夢咲が強くなればいいのだが、強くなるというのは簡単なことではない。転生特典のような身体能力を持っている神奈が言えることではないが、ほんとうに簡単なことではない。


 前世で努力していたからこそ、それが分かる。

 どんなに努力したとしても、並の人間が戦闘機を素手で破壊できるか……できるわけがない。

 宇宙人に関しても同じだ。この町を戦争跡地のようにしてしまえるほどの敵に、夢咲一人で対抗できるわけがない。

 だから助けられるだろう神奈が――助ける。


「……分かった、私がその宇宙人を倒してやるよ」


 遠かった夢咲との距離を神奈は縮めて、笑みを浮かべながら右手を差し出す。


「ありがとう、神谷さん……」


 差し出された右手を夢咲は両手で包み込む。

 その温かい手を握っているだけで安心すらしてしまう。強力な味方ができたことで余裕が生まれる。震えていた声や体が正常に戻り、唇にうっすらと笑みが浮かぶ。


「それで、この男はどこにいるんだ?」


「ごめんなさい、私は分からない。予知夢は断片的にしか見れないの。でももう彼はこの地球に侵入して、どこかに潜んでいるはずよ」


「……闇雲に探しても見つからなそうだな」


「現状打つ手がないってことですね」


 この町は広い。偶然見つかるなんてことはありえないだろう。

 夢咲は両手を神奈の右手から離し、一度頷く。


「そう、つまりいつか宇宙人が本格的に動き出すとき。見つけて叩くというシンプルな作戦よ」


「……とりあえず今日のところは解散しかなさそうだな。はいこれ一週間分のプリント」


 左手に持っていた封筒と写真を神奈は夢咲に渡す。


「じゃあまたな、明日は学校に来いよ」


 神奈は部屋から出ていくために歩き、後ろにいる夢咲に手を振って出ていった。



 * * * 



 宝生町のとある山。

 まだ小学三年生である夢野は、夜中だというのに宇宙船を探し回っていた。


「おかしいなあ。確かにここら辺だって雑誌に載ってたんだけどな……また今回もガセ情報かな」


 彼はもう既に一時間近くこの辺りを探し回っている。だが、さすがに偽情報だと思い帰ろうとしていたそのとき、彼の眼にはありえないものが映りこむ。

 近くの木々を薙ぎ倒して、無理やりそこに留まっている物体。直径三十メートルはある大きな銀色の円盤。それは(まさ)しく探し求めていた未確認飛行物体だ。


「あ、あれはもしかして――やっぱり雑誌に載ってたやつだ! やっぱ本当にあったんだよ宇宙船は!」


 やっと未知の乗り物を見つけて興奮し、夢野は大急ぎで走って近付く。

 不用心にもドアが開いていたので、夢野は恐れずに入っていく。どうしようもない好奇心と興奮が正常な判断を鈍らせる。

 ここでは近付くべきではなかったのだ。明らかに怪しい円盤に近付けばどうなるか分からない。


「思ってたより小さいな。中は広いし、なぜか生活感ある部屋も多いけど。機械も操縦室っぽい部屋以外にはないな。まあいいか、証拠写真撮らなきゃな。……驚くぞ大沢のやつ、明日を楽しみにしとけよ……!」


 そう呟き、夢野は首から下げていたカメラで自撮りをしようと試みる。

 一番宇宙船っぽい操縦室で撮影しようとし、シャッターを押そうとした瞬間――夢野はドサッと床に倒れた。

 夢野の意識を奪った原因。それはいつのまにか背後に立つ青髪の少年である。

 少年は夢野を冷めた瞳で見下ろしていると、しばらくして操縦室から出ていった。



夢野「あれ? 俺の出番……あれ?」

神奈「最初と最後であっさり終わったな」

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