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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
九章 白部洋一と夢現世界
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番外編4 ――グラヴィーと才華の場合――


 それは唐突だった。喫茶店にて珈琲を入れていたその瞬間、少女の声が聞こえた。


「僕は……何をしている?」


 喫茶店マインドピース。僕はそこで確かにアルバイトをしているしそこ自体に不思議はない。現在起きているこの現象が何なのか分からないが、その喫茶店で働いているということは変わっていない。働いている者達と自分がオーナーとなっていることを除けばであるが。


「いつから……いやおかしい、僕がここを作っただと? 何故……記憶が二つある?」


 惑星トルバ、その戦闘が全ての星で生まれ地球を侵略、そして返り討ちに遭い情けなくも地球に住み始める。しかしそこも居心地がいい、気に入り始めて守るために少女に力を貸したことだってある。それが本来の記憶……のはずだ。

 しかし僕はこの世界では図書館がある村に生まれ質素な暮らしをするが、親が残した金で喫茶店を設立。その後、村で金に困っていた少女達に声を掛け従業員として働かせる。喫茶店は大繁盛し珈琲で金を稼いでいる日々。

 どちらが本物の記憶なのか……そう思うがしっくりこない。そう、どっちも本物、そう思った方がしっくりくる。だが正しいという表現をするならば前者だろう、知り合いの少女の声が聞こえたのだ、戻ってこいという声が恐らく世界中に届いたのだと思う。それしか根拠がないので困っているが。


「オーナー、どちらへ?」

「図書館だ」


 図書館、幸いにもここには知識が蓄えられる場所がある。この世界は偽物だと仮定しても現実に戻す方法はなんだ? 単純に創った者を倒せばいいのかも分からない。もしそうならば倒すべきはムゲンと呼ばれるこの世界の英雄だろう。

 ムゲンは世界中で起きていた戦争を一人で止め人々を平和に導いたと本には書いてある。それが真実だと僕も常識として教えられているし、店で働いているリンナという少女達も知っている。

 それから僕は図書館に篭り知識を蓄え始めた。この世界の事をよく知るために、この世界を破壊するために、現実を取り戻すために。その第一歩である。


 魔物。元は動物だったが魔力で凶暴にさせられている。

 ムゲン。この世界の創造者であり英雄の女。

 三夢。ムゲン直属の三人の騎士、実力は折り紙付き。

 帝都。ムゲンが住む城が存在する、その地下には犯罪者が収監されている。

 二重記憶障害者。地球での記憶を持つ者達。


 纏めればこんなところだろう。僕は二重記憶障害者にあたり、それは三夢が捕縛するらしい。よって絶対に正体はばらせない、同じ仲間以外には。


 それから地球のことを書いた本を本棚に置き様子を見ることにした。もしも地球を知っているならばその者は仲間、ムゲンを倒すという目的を共に達成に導いてくれるだろう。

 しかしムゲンは恐らく強大な力を秘めている。それに対抗するにはこちらも戦力が必要だ。いつも面倒事を解決している少女がいないと分かっているので、戦力になるといえばやはりレイとディスト、そしてあの忍者などの少女の仲間達といったところか。


「ん?」


 それから少し経ち不審な少年を見つけた。少年はどうやら高い場所にある本を取りたいようなので僕が取ってやった。地球か、この男……果たして戦力として使えるかどうか。



* * * * * * * * * *



 突然友達の声が聞こえた。神谷神奈、私の友達。いつも何かに巻き込まれているけどどうやら今度は私自身が巻き込まれたようだ。


「記憶が二つある……」


 一つは地球での本物の記憶。藤原才華という大企業を持つ親の一人娘だ。

 もう一つはこの世界で過ごしてきた記憶。貴族と呼ばれる平民よりも偉い地位を生まれ持って持つ私は、幼い頃から部屋に閉じこもっていた。

 貴族は魔法が使える血統であり私は幼少期から魔力量が多く才能があると言われ続け、周囲からの期待に押し潰された。その結果が引き篭もって過ごす現在。私はそれからも部屋で密かに魔法の勉強をしたり、この世界の歴史を勉強したりしていた。


「あと二週間も経たずに祈りの儀式……私は貴族、出なきゃいけないわね」


 こうして記憶を取り戻したのならまずは情報が大事なはず。よって部屋に閉じこもるのは終わり。

 部屋から出た瞬間、家で働いていたメイド達が固まり、元に戻ったと思ったら慌てて大声で父親のところへ向かっていった。父親含めた家族はこの世界でも変わらないようだった。


「才華あああ!」

「……お父さん」


 父が号泣しながら廊下を走って来て私に抱き着く。この人は地球でもあまり娘離れ出来ていなかったなと思いつつ、今まで部屋から出なったことを謝る。


「いいんだ、もういいんだよ……才華、あれだけ部屋から出たくないと言っていたのにどうしたんだ?」

「もういいの、細かいことはいいでしょ? 終わったんだから」

「そうだな! 終わったんだな! よし、これで祈りの儀式であれ? 今年も娘さん来ないんですね? とかあれ? また娘さん病欠ですか? とか言われないで済むううう!」

「ご、ごめんなさい」


 なんというか迷惑を掛けたらしい。しかしこの世界の父はよく喋ると思う、地球の方だったら「うむそうだな」しか言わないのに。

 それから祈りの儀式当日に向けてマナーの覚え直し、当日に婚約者と初めて会ったりと色々あった。この婚約者さんは何処かで見たような気がするけど気のせいだろう。

 ディストという彼はなんでも泊るところがない者達に部屋を与えているらしい。それで終わりなら良かったのだけれどそれが自慢になっているから残念に感じる。


 神殿、グロースという町から少し離れた場所にあるそこでは私含めて貴族が全員ムゲンに祈りを捧げていた。といっても本人がここにいるわけではなく、石像に向かってだけれど。石像は幼い女の子の姿であり、実際本人も幼女と言っていい外見だ。

 ここにいる人達、いえ、あの町の人も他の場所にいる人達も皆この世界が現実だと思っている。でもそれは間違いで、記憶を消されてるに過ぎない。もし地球での記憶が戻れば後悔する人もいるだろうけど、私は必ず戻してみせる。

 お父さんもお母さんも、ディストという彼も皆それを知らずに日常を過ごしている。ムゲンがしていることは決して許されはしないこと。


 祈りの儀式も終わり無事グロースに戻ってくるとなにやら騒がしかった。どうやら二重記憶障害者が現れたとか。二重記憶障害者というのは私のような者だと記憶している、そしてそれが今日あちこちで現れているらしい。


「なあ、絵里? 俺の娘……だよな?」

「絵里? いえ、私は才華ですけど」

「嘘だ、お前は俺の娘だろう!?」


 どうやら全ての障害者が私と同じというわけではないらしい。記憶が混濁しているのか私を娘と勘違いしている、恐らく視覚にも異常が出ているであろう中年の男性は私を娘と思い込んでいるようだった。

 私は怖くなって逃げた。しかしドレスが長く走りづらい、息を切らせながら一生懸命走っていると前方にいた二人の男の子、その内の一人が私を追っていた中年の男を地面に転がした。かなりの手際のよさに思わず感心してしまう。

 お礼を言いたかったけれど二人は急いで他の場所に行ってしまった。それでもお礼を言いそびれるのは私の信条が許さない。助けられればお礼を言うのは当たり前でしょう?


 そうして追いかけてやっと見つけた二人は今回の事について話しているようだった。

 僕等と同じ二重記憶障害者? そうか、この二人も! そうと分かれば話は単純、この二人に付いていけばいい!

 でもお父さんがそう簡単に外出を許可してくれるとも思えない、ただでさえ今日襲われかけたと知って過保護になるだろうに。そこで私は外に出るためにメイドの一人を呼び出す。


「黄泉川さん」

「はい? どうしたんです?」


 黄泉川三子。彼女は地球でも私の家に住んでいる、それはここでも変わらなかった。信頼できる人物の一人だ。この世界の記憶では黄泉川さんは唯一私に向き合ってくれた女の子であり、相談によく乗ってくれていた。

 私は黄泉川さんに頼んだ。また引き篭もったと嘘を吐いてくれと。


「な、何故ですか? 折角こうやって出てきたのに……今日で嫌になっちゃったんですか?」

「色々事情があるの、話せないんだけどそれでも何も聞かずに納得してくれるかしら? やっぱり……ダメ?」

「……いえ、才華お嬢様のことを私は信じています。分かりました、何も聞きません……ですので必ず帰ってきてください」

「うん、分かったわ約束する」


 嘘であると自覚している。この世界は消えるべきで、その時ここでのことを覚えていられる確信などないのだから。帰るといっても恐らくは地球での暮らしに帰ることになるだろう。私はムゲンを倒すまで帰らない、帰れないのだ。


 そしてこっそりと家を出て町の外、少し行った場所で二人の男を待ち伏せた。

 普通そうな少年と青い髪の何処かで見たような少年、二人が見えたので走っていく。

 私は家を出る時、ドレスを引き千切った。これから行く場所は戦場だ、この服では邪魔になるだけでしょうし。膝くらいまで千切れば動きやすい、更に私は髪も少し切った。覚悟として後ろ髪を肩程度まで、元々は腰辺りまであった髪も戦闘などでは邪魔になるだけだろう。


 そうして私は白部君、グラヴィー君とムゲンを倒す旅に出発した。

 神奈さんにはいつも頼りっぱなしだから今回は自分の力で解決してみせる……だから待っててね!


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