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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
八章 神谷神奈とU社の野望
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119 制裁――過去の過ちは消えず――


 三時間。それがあの地獄のような激辛ラーメンを食べ切った時間だ。

 量は普通のラーメン店と同じくらいだった。しかし量以前に辛すぎて一口ごとに水を飲まなければ食べていられない。頼んだのは味噌ラーメンだったが味噌要素などどこにも存在していない。あったのは圧倒的辛さだけである。


「へもひゃんひょひゃひゅいひょひゃっひゃひょ」

「ひょうひぇ」

「ひほふへひはへ」


 口の中が辛さにやられすぎて神奈、天寺、日戸の三人は、口が真っ赤に腫れていてまともに喋ることすらできない。

 何言ってんだってツッコミを自分でしたいがしょうがない。まさか辛すぎる料理を食べるとこんなになるなんて誰も思わなかったのだ。

 心から三人はもう食べる機会など作らないと誓う。


 外はまるで天国だ。店内が地獄だったので余計そう感じてしまう。

 ただ夕方ゆえにオレンジの空を見上げている。今はこの平穏を噛みしめていたいと静かに空だけを眺めていた。


「ひゃあ、ひゃひゃひはひはほへへ」

「ひょっほはへ」

「は?」


 もはや会話にすらなっていない。

 互いの告げる言葉の意味がまるで理解できない。


「ひゃあへ」


 天寺は手を軽く振って『じゃあね』と告げる。

 日戸も頭を下げて神奈に別れを告げた。

 神奈も何を言いたいのかは理解したので「ひゃあは」と言い放つ。何かの魔法名ではなく『じゃあな』と話しているだけだ。


 天寺と日戸は背を向けて歩き出す。

 目的地などが特にあるわけではない。ただ歩きたくなった。

 元々今日の予定はこれだけである。全て仕返しするために店をリサーチし、神奈のことを捜し続けていた。用事が終われば暇になるのは必然だ。


「静香さん、この後はどうされますか?」


 少しして辛さの影響はマシになったので普通に日戸が話し出す。


「特に予定はないわ。ただもう夕方だしスーパーかコンビニにでも寄る必要があるわね。獅子神が空腹状態だと冷蔵庫が空になるし弁当買っていかないと」


 思い出すのは獅子神闘也という獣のような少年。

 肉食獣の如き獰猛さと食欲は人間離れしすぎている。実は三人は一緒に暮らしており、一緒に暮らす以上世話をしなければならないので食事などは提供していた。勝手にどこかで何かを食べて帰ることはあるが基本的に天寺達の料理をよく食べている。


「弁当ですか。まあ今から作るのでは獅子神が暴走する方が早いでしょう。さすが静香さん、料理にかかる時間も獅子神の空腹加減も全てを把握している素晴らしき頭脳」


「冷蔵庫の食糧を空にされる前に帰るわよ。あいつはハンバーグ弁当だとして、操真は何を食べる?」


「静香さんと同じ物を」


「あなた自主性とかまるでないわよね。訊いた私がバカだったわ」


 何をどうしたいか聞いても日戸は天寺と同じにする。服まで同じにされそうになったときはさすがに天寺も止めた。


「はぁ、私はパスタの気分ね――」


「待て」


 短い制止の声が耳に届いて天寺は口角を上げる。


「……ようやく来たのね、待ちくたびれたわ。朝からずうっと私達のことをつけ回しているストーカーさん」


 なんのことか分からず日戸は「ストーカー!?」と叫んでいた。

 天寺は気付いていた。家を出たときから、今このときまで監視の目があったことに。

 振り向く天寺と日戸。背後にいる者の正体を見て軽く驚いた。


「あなた……雲固学園にいたわね。名前はそう――」


 身長の低さが特徴的な可愛らしい少女。

 天寺は自身が通っていた小学校にその少女がいたことを思い出す。


霧崎(きりさき)(すずめ)。覚えていたのは意外だよ」


「今さらあなた程度の存在がなんの用? あなた達にはもう飽きたって言ったわよね?」


 雀は険しい表情で二人を睨む。

 なんの用か、などと聞いておいて天寺はだいたい分かっている。

 雲固学園の生徒が会いに来る目的など一つ――復讐しかない。


「ああ言ったよな、飽きたとか言ってアタシ達で遊ぶのをアンタは確かに止めた。宝生小学校の連中に負けてからだし何か思ったことはあるんだろうさ。……でもな、アンタ等がしてきたことは消えてなくならない! もう覚えてないとかは言わせないぞ!」


「……少し、場所を変えましょうか」


 人通りも少なくない歩道でする話ではない。

 こういった後ろ暗い話をするのなら裏路地、それも誰かの耳に拾われないよう小声で話すのがベスト。


「そう言うと思って用意してある。もっとも、話し合いの場じゃなくて断罪の場だけどね」


 別に天寺にとってはどちらでもいいことだ。

 断罪など強い者にしかできない。目前の雀は名前と見た目通りに小さな存在だ。天寺にとっては警戒するに値しない弱者でしかない。


 雀の案内で裏路地に移動する。

 建物に両側を挟まれた細い路地は影しかなく、夕日の明るさがあまり意味をなさない場所だ。


「法月君、お待たせ」


 薄暗い裏路地でも存在感のある少年――法月正義が立っていた。白いスーツ、赤いマント、額にゴーグルというコスプレ染みた恰好に天寺と日戸の二人は失笑する。

 この場にいて雀と親し気にしているということは助っ人だろう。それがこんなおかしな恰好をしていれば笑いたくもなる。


「なるほど、君達が天寺静香と日戸操真――悪か。残りの獅子神闘也は一緒じゃないんだね」


「アレとセットみたいに扱われるのは腹が立つわね。それで、ヒーローみたいなあなたはどちら様?」


「僕はジャスティス! 法月正義だ!」


 愉快すぎる法月に天寺は「ぷっ」と嘲笑する。

 そして隣にいる雀に笑いを堪えてから顔を向けた。


「あ、あなたの助っ人は随分面白いのね……! 笑っちゃいそうだわ……!」


「甘く見ないでよね、法月君にかかればアンタ等瞬殺だから。あと彼はあくまで保険みたいなものだよ。アンタ等が素直に断罪されてくれるんなら動かない」


 法月の方へ歩いて行く雀に天寺は蔑んだような目を向ける。


「他人任せってわけ……典型的な負け犬の思考だわ。それってつまり、あなただけじゃ何もできないって宣言しているようなものじゃない」


「アンタ等に勝てるならアタシ一人でもよかったんだよ。でもアンタ等は悔しいけど強いから、頼らざるをえなかった。これ以上アンタ等の凶行を見過ごしてたら被害者がもっと出るんだからな」


 どうでもいいと思い日戸が「はぁ」とため息を吐く。


「君達、静香さんはお忙しいんだ。前置きはいいから早く用件を伝えなよ」


「日戸、アンタはいつまでも天寺の犬だね。さすがとしか言いようがない……負け犬なのってアンタもじゃん。まあいいや。そうだね、時間も惜しいし断罪を始めるとするよ」


 ようやく本題が始まる。

 しかし天寺にとってはこんなもの茶番でしかない。

 興味が惹かれない、そそられない。くだらない問答だ。


 天寺が律義に付いてきたのはかつてのクラスメイトに謝罪するためではない。謝らせることが自分では不可能と理解した瞬間、軽度だろうが絶望する表情を楽しみにしていた。

 もっとも神奈に敗北して以降、天寺が自分から積極的に相手を絶望させようと動いたことなどない。今回は相手からのこのこやって来たのだ。それもこちらを害するために来たのだから、多少やり返されても文句など言えないだろう。


「さあ天寺、日戸、ここにいない獅子神は後回しにするとして……まず謝れ」


「ごめんなさい……私あなたに何かしたかしら」


「ふざけんな! 忘れたとは言わせない……アンタのせいでアタシも、他のやつらも、どんだけ苦しんだと思ってんだよ!」


 一瞬謝ったかのように見せたことで雀の怒りが増大している。


「いいよ言ってやるよ。アンタが覚えてないって言うんなら全部、アタシが知っている限り全部を言ってやるよ」


 (いか)れる雀は語る。同時に天寺も小学校生活を思い返していく。

 雲固学園入学時、そこに天寺静香は存在していなかった。日戸操真も、獅子神闘也も、この先で恐怖の支配者となる人間がいない平穏な時間。それはたった一年で終わりを告げる。


 転校生として二人の生徒が雲固学園に登場。

 生徒教師問わず過激な悪戯が行われた。阿鼻叫喚の地獄絵図が瞬く間に構成されたのだ。

 あるときは、玩具ではないゴキブリなどの虫が机の中に入れられる。

 あるときは、力自慢の生徒や大人である教師を一方的に(なぶ)る。

 あるときは、友情を誓い合った生徒達の仲をあらゆる手段を用いて引き裂く。

 あるときは、注意しようとした教師陣を一網打尽にして奴隷にした。


 小学二年生となった雀は正義感の強い少女である。たとえ強者である天寺と、付き従う日戸相手でも、雲固学園全員が屈服させられていたとしても注意という名の制裁を加えようとしていた。

 合気道を習っている雀には腕に自信があったのだ。誰であろうと、同年代の少年少女相手に負けることはないと確信しており――呆気なく敗れた。

 魔力を扱える二人に雀の勝ち目など端からない。


 そこからは地獄の日々。天寺にとっては至福の日々。

 毎日誰かが絶望の表情で生きる屍のようになっていたのだ。機嫌を損ねれば、いや損ねなくても誰かしらが毎日ターゲットにされて、ありとあらゆる手段を用いて絶望させられる。ただ一人、金城遥かという少女だけはターゲットにされなかったが、羨ましいだとか気に入らないなどの感情を抱く余裕すら生徒達にはない。


 三年生に進級してからはもう一つの地獄が追加された。

 もっともそちらはすぐに終わることになるが、獅子神闘也の転入である。

 最初から天寺の命令だけは聞いていたこともあり、獅子神は日戸同様に手下か何かだと全員が悟る。救世主が偶然やって来るなど幻想でしかなかったのだ。

 獅子神がやったことといえば、校舎にいる生徒教師全員を殴り飛ばしたことのみ。もちろんそれだけでも十分脅威で、雀など全治五か月の傷を負わされている。


 不登校児が出るのは当然。しかし天寺の瞬間移動により強制連行。

 逃げることも死ぬことも許されない。自由のない牢獄と変わりない学園。

 誰かが周りに助けを求めても、その助けに来たヒーロー気取りの人間諸共ぶちのめされる。そんなことが続けばいつしか逆らおうという気概を持つ者はいなくなる。反抗的であった雀でさえも一時期は奴隷に成り下がった。


 天寺達は決して学園の人間を殺さない。対して外部の人間には容赦なく制裁を与える。一番酷かったのは何かのプロ集団が侵入した際、捕縛され、雀からすれば見るのも恐ろしい拷問が行われたときだ。泣き喚くような相手ではなかったが、耐え難い苦痛を与えられたことは断末魔で証明されている。


 そうした天寺達の支配は小学四年生時、秋に終了した。

 いきなり「あなた達の絶望は見飽きた」などと言い残し――姿を消したのだ。あまりにも自分勝手な行動に全員が呆気にとられた。


 望んでいた平穏が戻ってきて誰もが喜んだ――雀以外は。

 雀からすれば許容できなかったのだ。ぶっちぎりな悪人である天寺達が消え、溜め込んで目を逸らし続けてきた怒りが爆発した。


「アンタだけは絶対に……アタシが後悔させてやる」


 ――語り終わった雀の眼光は憎悪と怒りに支配されている。


「でも他人任せなのよね、あなたは」


「うっさい。利用できるものは全て利用して、完膚なきまでに、この世に生を受けたことすら後悔させてやるんだよ。……てかさ、色々改めて聞いて反省とかないわけ?」


「反省ねぇ、まあちょこっとだけは後悔していると表現していいかしら。雲固学園で活動さえしなければあの女と会うこともなかったわけだし」


「はっ、だと思った。アンタはそういうやつだよ。被害者の気持ちなんてこれっぽっちも考えないクズだ。もう話すことなんてない、アンタはここで終わらせてやる。ごめん法月君、待たせたけどやっちゃっていいよ」


 憎悪の色など見えていないように味方する法月が一歩前へ出る。


「そうかい? じゃあ悪に制裁を加えるとしようか」


 天寺を庇うように日戸が立ち、衣服のポケットから小さな人形を取り出すと放り投げる。

 人形はたちまち巨大化して人間サイズになり、法月へと一直線に向かっていく。


「ジャスティスパンチ!」


 全てを超越する拳が法月から放たれた。



 * * * 



 神奈は自宅に帰っている途中、電気屋のテレビでやっているニュースに目を奪われる。

 ほんの少し前に大事件を起こしたU社の人間が全員、外部の人間に殴られて重傷という内容。あまりに予想外すぎてつい立ち止まってしまう。


「……物騒な世の中だな」


「まあ物騒すぎですよね。もう人類って十回は滅びかけてるんじゃないんですか」


「怖いなおい……ん? あれは……?」


 電気屋の前にいた神奈が目にしたのは向かってくる人間――ではなく人形。

 顔には目も鼻も口もなく、髪も生えていない。だというのにオシャレな服を着たマネキンである。

 日戸の人形、そう確信したが様子がおかしい。そもそも用事は終わったのにやって来ること事態おかしいし、魔法を堂々と町中で使用するのもおかしいが、慌てた様子でこちらに走ってきているのが一番おかしい。


 人形は神奈の元まで来ると、次に北東の方角へと指をさす。


「ついてこいってことか?」


「そのようですね、何か緊急事態のようです」


 慌てて走る人形に神奈は付いていくが……遅い。急いでいるのに速度が遅すぎる。これなら神奈が担いで走った方が速いのでそうすることにした。

 人形が指し示す方向に走って向かうと、どんどん人気がなくなって裏路地に入る。

 神奈は狭い裏路地を進んでいき道を曲がった瞬間――見た。


「何してるんだ、お前――法月」


「……うん? やあ、奇遇だね神谷さん」


 天寺と日戸が倒れている。どちらも意識が朦朧としている様子だ。

 法月は天寺の頭を踏んでいた。この構図、天寺が悪役としてなら納得してしまう光景だ。何も知らない人間から見たらそういう風に見えるのだろう。

 他に見知らぬ少女――雀が日戸を蹴っていた。その動きは神奈の登場により一時的に止まっている。

 案内してくれた人形は役目を終えたからかボロボロと崩れ去った。


「誰、法月君の友達?」


「ああ彼女は良い人でね。交友を深めてはいないけど仲良くしたい人ではあるかな。君は気にせず続けていい」


 雀は「あ、そう?」と言うと、当たり前のように日戸を蹴り飛ばす。

 壁に当たった日戸の衣服は所々に血が付着しており、見れば腕や脇腹を斬りつけられていることが分かる。凶器は雀の持つカッターナイフであることもすぐに分かる。


「おい誰か知らないけど止めろ!」


「はっ、なんでさ。せっかく制裁を与えられるチャンスなのに……今さら引き下がれるかっての!」


 怒りに呑まれている雀は日戸を再び蹴り飛ばす。


「法月、お前正義の味方ならどうして止めないんだ! あと天寺から足を下ろせ!」


「あれ神谷さん、もしかしてこの悪とは知り合いかい?」


「悪とかどうでもいいから足を下ろせ」


「なんでかな、踏みつけるのを止めたら暴れるかも」


 射殺さんばかりに鋭くなる目になり、神奈は「いいから下ろせ」と普段より低めの声で命令する。


「……分かったよ」


 固い意思を感じ取ったのか法月が足を上げて天寺から離す。

 ――その瞬間、天寺はその場から消え去り、少し離れた場所に転がっていた日戸の近くに瞬間移動する。それから雀を睨みつけ、神奈の方を一瞥すると、日戸に触れて瞬間移動することで今度こそ二人はこの場所から消えた。


「ちょっ、逃げられた! 法月君、その女のせいで逃げられたんだけど!」


「そうだね……でも神谷さん、君に悪気がないのは分かっている。事情を知らないのなら説明するよ。あの悪二人はそこにいる霧崎さんを――」


「うるさい。どんな理由だろうとあれはやりすぎだろ」


 天寺と日戸はかなりのダメージを負っていた。

 あの二人の経歴からして復讐か何かだろうがいくらなんでもやりすぎている。過去に何かされたからといって、その相手を殺していい許可など誰からも出ない。


「法月君! そいつもきっと仲間だ、ぶっ飛ばして!」


「きゃんきゃんうるさいんだよお前は」


 カッターナイフで他人を斬りつけるような人間などろくでもない。

 神奈は雀に急接近して、軽く小指で腹を突いて気絶させる。

 倒れた雀を目にして法月の表情が変わる。


「何をしているんだい神谷さん。敵を間違えているよ」


「間違えてねえよ。今現在、私の敵はこの女と――お前だ。過去に何をしたかは変えられない事実……でも今のあいつは悪人ってわけじゃない」


「甘いよ。過去に何かしたというなら罪は償うべきだ」


 少し厳しい法月と神奈とでは価値観が違う。

 天寺は確かに数年前はクズの代表みたいな性格だった。今も根本的なところは変わっていない……それでもマシになってきたのは確かだ。過去のことを謝らせるのは神奈も賛成するがやりすぎはよくない。


「彼女は昔多くの人を悲しませ、多くの人に暴力を振るい、その人達を嘲笑った。悪だよ、あれは悪、変わりようのない悪なんだ」


「何も知らないだろ、今のあいつのことを」


「知る必要がないさ。だって悪は変わらないんだから」


「いい加減にしろ。それならお前は正義だっていうのか。なあ正義の味方、お前が本当に正義だって言うんならしっかり見極めろよ。止めるべき相手を見誤るな」


 あのままでは雀は殺しそうな勢いであった。

 殺人を犯す前に気絶させたのは当然のことだと神奈は思う。


「……俺は彼女、霧崎さんの頼みを聞いたんだ。霧崎さんは正義感溢れる良い人だよ。そんな彼女の頼みだ、手伝わない選択肢はない。さっきの天寺という少女が悪でないわけがない。実際聞いた話では悪だしね。……早急に悪を追いかけなければいけない。君はそれを邪魔するのかな」


「するね。友達とはまだ言えないけど、それでも知り合いを襲おうとしてる輩を見過ごすなんてできない。何よりお前、間違っているからな」


「……なら君は悪に加担する者。悪には制裁を与える。君も粛清対象だ!」


 法月は神奈へ一直線に突っ込んでいく。

 しかし遅い。神奈にとっては遅すぎる。


「ジャスティスパンチ!」


 神奈は迫る拳を軽々と避けた――はずだった。

 なぜか、完全に避けたはずの拳が気がつけば顔面にめり込んでいた。


「ジャスティスパンチ!」

「ぶはっ!?」


 再び迫る拳を避けても、気付けば腹部に直撃している。


「神奈さん! 法月さんの攻撃を避けるのは不可能です!」


 腕輪の唐突な敗北宣言に法月は「なんだいその声」と少し驚いている。

 一応神奈は腕輪のことをこういった場面では信頼している。その腕輪が避けられないというのなら信じる。……信じるのはいいが、勝利の道筋が全く見えなくなる。


「どうやら法月さんの力は魔法ではありません。――加護です」


「固有魔法じゃなくて……加護!?」


「だからなんなのさその声……腹話術?」


 目前に立つ少年――法月正義。

 その男は神奈と同様に加護を持つ存在であった。


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