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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
八章 神谷神奈とU社の野望
277/608

111 同類――それは果たして仲間かどうか――

 2023/10/07 文章一部修正

 時系列が少し前です。

 U社編の一話よりも前です。








 ――霧雨和樹。

 かつて神奈と同じ部活動に所属し、今は宝生中学校に進学して毎日を友人と楽しく過ごしている。しかしその楽しさは、小学生時代感じていた楽しさとは少し違った。劣っていると言ってもいいくらいに霧雨は寂しさを感じていた。


「なぜ理解してくれない」


 霧雨はただ純粋に機械を、発明品を愛している。

 小学生時代からそれは変わらず今でも斬新な機械を作り続けていた。

 その度に部屋はそれらで埋まっていくが家が広いのでスペースは確保できている。


 つい先日。変人ゆえに仲のいい人間が少ない霧雨は、中学校で新たにできた男友達に新しく発明した製品を見せた。

 超瞬間接着銃。水鉄砲のような外見から細い糸状の接着剤が発射される発明品。

 何に使えるかといえば細かい作業に便利なものだ。


 見せた相手が神奈達であるなら驚いて、実際に使用して楽しんでくれていただろう。しかし新たにできた友達は良くも悪くも普通の人間で、反応というには薄すぎるものしか示さない。


『あー、またかあ。確かにすげえけどなあ』

『そろそろ中間だぜ? 勉強やんなきゃヤバいって』


 霧雨和樹という人間のことは好きな友達だが、発明という趣味に対してはあまり興味を示していない。そのせいでいつも反応が冷めていて、毎回のように心に傷を負う。


 いったい何を作れば満足してくれるのか。

 それを探るために毎日時間を発明に注いでいた。

 ――何を作っても喜んでくれないというのを薄々勘付きながら。


 今となって気付く。発明品を見せたいというのはただの承認欲求で、認めてくれた神奈達だけが心の救いだったのだ。

 現在、まだ夢咲や笑里が同じ宝生中学校なのでよかったがそれだけだ。

 今の心の支えは、心を満たしてくれるのは、たったそれだけの少人数になってしまっている。


 少し暗い表情で帰路を歩く霧雨は、目前に白衣を着た男がいるのに気がつく。

 眼鏡をかけているから多少マシになっているものの、濁りきっている死んだ魚のような目で見られているのは気分が悪くなる。


「霧雨和樹君だね?」


 初対面にもかかわらず自分のことを知っている白衣の男に不気味さを感じるが、冷静に距離をとって立ち止まる。

 そして相手を見極めようと目を凝らす。

 敵か、それとも敵ではないのか。

 敵といっても、霧雨には今のところ小学生時代のように明確な敵が現れたことなどないのだが。


「どうして知っているのか、気になるかい?」


 霧雨は無言を貫く。それを肯定ととった白衣の男は説明を始める。


「私はアルティメットユニ……バ……まあU社という組織を束ねている。佐木山という者だ」


 自分が所属する組織の名すら覚えていないことに呆れつつ、記憶の中に以前同じ言葉を聞いたことがないのかどうか霧雨は思索する。

 結果、そんな組織は思い当たらなかった。


「……U社? 知らないな」


「当然だろうね、まだ世間に知られるほど大きな活動はしていないものだから。でももう少ししたら嫌でも知ることになるさ」


「大した自信だが……その組織とやらの頭が俺になんの用だ」


「そうだね、単刀直入に告げよう。――君が欲しい」


「……悪いが、男は恋愛対象じゃないんだ」


 完全に勘違い、というか霧雨はわざとだったのだがこれは佐木山の言い方が悪かっただけだ。予想外の答えが返って来たことで慌てて「勘違いだ!」と告げる佐木山を見て、霧雨もそういう意味ではないと分かりきっていながら頷く。


「君の発明の力が欲しいんだ。その質のいい頭脳がね」


「……待て、お前が俺のことをなぜ知っているのか答えていない」


「ああそうだったね。理由としては私達U社が開発した蚊式情報網さ。最近は蚊が多くなっただろう? この町で出現している蚊の約二割は私達のスパイロボットだ。君のことはそこから知った。頭脳明晰。珍しい発明品を作る、価値がある君のことをね」


 霧雨は白衣の男の狙いを理解した。自身の頭脳と発明力を利益の為に利用するつもりだと。


「お断りだ。俺はお前のような日陰者で終わることはない」


「君の夢かい?」


「そこまで知って……そうだ、俺は全世界に俺が作成した機械を広め、全人類が使用してくれることこそが夢。これから誰もが驚いて称賛するような発明をする。俺にはお前達に構っている暇などないんだ」


 そう言って霧雨は通り過ぎる。


「無理だよ」


 しかし背後からかけられた言葉に「……何?」と振り返る。

 その一言は霧雨にとって許容できないものだった。


「仮に君が一億人に一人の天才だとしよう。でもね、時代は進化し続けている。世界は今も画期的なアイデアを求めているのさ。初めて電球を作ったジョゼフ・スワン。初めて実用的な冷蔵庫と言われる物を作ったとされるジェームス・ハリソン。開発者は軍事機密により伏せられているがドローンの概念を作った人物。その誰もが君より遥か高みに存在し、そして今この世界にそんな誰もが尊敬する人物はいない」


「並大抵の努力では届かないことは知っている……だが」


「努力だのなんだのと言っている時点で君は分かっていない。世界に周知させるには手段を選んでいてはいけないということを。努力など無意味だ、可能性がゼロのことに頑張ったって意味がない」


 佐木山は力強く、手段を選んではいけないという言葉を強調した。

 何か不穏な物を感じる霧雨だが、彼の言葉に興味を持って疑問をぶつける。


「手段を選んでいてはと言ったな? では選ばなければお前達――U社は世界規模の、お前が言った高みに届くのか?」


「届くさ。今から君に見せよう。付いてきたまえ」


 U社に、佐木山の選ばない手段とやらに興味が湧いた霧雨は大人しく付いていく。

 彼の案内で到着したのは、森林の中にある大きな白い正方形の建物。外見からはせいぜい二階建て程度にしか見えない。彼が規模の大きいことを宣うので、どれほどの設備があるのかと密かに想像していた霧雨は少しがっかりする。


「外見は敢えてシンプルに。問題は中身だろう?」


「確かにそうだな」


 建物内に入り霧雨が目にしたのは真っ白な空間。一枚一枚白いタイルが敷き詰められている広い部屋で、二階建てかと思われていたその建物の内部は中心に丸い筒があるだけだ。

 縦に長い部屋だった。上にも――下にも。


「エレベーターか。つまりお前の言うU社とやらは地下にあると」


「そう、私達の組織は地下に存在する。地下十階にも及ぶ空間は研究をするのに十分すぎる広さだ」


 丸い筒のエレベーターに乗り、霧雨達はゆっくりと下に降りる。

 上部に表示される数字がどんどん切り替わっていき、やがて目的地に辿り着く。


「地下五階。ここにあるよ、私達の用意した改造家電製品が」


「家電製品? 既にあるものを改造しただけなのか?」


「自分の目で見た方が早い。まあ見てみたまえ」


 そこで霧雨が目にしたのは驚愕する光景。

 五階も床は一階と同じもので統一されている。部屋は二分割されておりガラスで区切られている。恐らくは強化ガラス、もしくは科学力でさらに硬くなっているのか想像を重ねていたが……その思考も一瞬で吹き飛ぶ異常な家電製品の姿を目にした。


「な、なんだアレは……」


 ガラスの向こうでは電子レンジが空を飛ぶ。

 冷蔵庫から氷の礫が飛び出す。

 テレビが放電して凄まじい電撃を放つ。

 どう見ても家電製品ではない。見た目はそうなのだがこれは違う。


(家電製品というより……殺人兵器だ)


 霧雨の思考を予想していたようで佐木山は冷静に説明する。


「あれをこの町の電気屋の製品とすり替える。そうすれば町はパニックさ。そしてその原因を私達が開発した兵器搭載ロボットで助ける……U社の名は瞬く間に広がるだろう。なぜなら私達は命の恩人なのだから。そしてそれをこの町だけではなく他の町でも、国でもやれば簡単に高みに届く。――住民達に恩を着せることによって」


「ふ、ふざけるななんだそれは! そんなの自作自演じゃないか!」


「そうさ! そうでもしなきゃ追い付けないのだよ偉大な先人達には! 君も気付いているだろう。自分の限界に、努力では届かない壁に。……三時間、その間に決めてくれないか。私達の仲間になるかならないかを。まあ私達は同類だ、同じ夢を持ち、これからおそらく君は私と同じ挫折を味わうだろう。そうならないために賢明な判断を願うよ」


 挫折というものを霧雨はまだ経験していない。

 神奈達は言わずもがな、新たに中学校で作れた友達でも多少は反応を示してくれる。しかしそれが何もなくなったらどうなるのか。承認欲求があるのは自覚済み。もしも世界に向けて発明品を発表した時、誰からも認められなければどうなるのか。


「……少し……考える」


 霧雨は自分の将来を考えるためにその場を離れていった。



  * 



 霧雨を見送った佐木山はエレベーターで最下層へ降りていく。

 そこでは何十人何百人もの人間がカプセルホテルのような容器にて眠っている。メイジ学院の生徒を含む大勢の人間が入れられていた。


 最奥にはもう一つの容器があり、緑色の液体に浸かる少女が入っている。その少女のまだ十分に発達していない肉体を隅々まで見ている白衣の男に、佐木山は話しかける。


「やぁ、そっちの実験はどうだい花垣(はながき)


 声に反応して白衣の男が「佐木山か」と零し振り返る。


「順調順調。例の彼女、えっと名前は……まあいいや。すごい身体能力が算出されててさあ、後は洗脳して組織のために働く兵隊にしちゃえば終わりだよ」


 花垣を見据えて佐木山は狂気的な笑みを浮かべる。


「結構。さあ始めよう、小さなところからコツコツと。まずはこの町、広げて日本、そして世界に! 世界中に私達の研究成果を示してやるんだ! 理想の世界実現を目指して!」


 両手を広げて叫ぶ佐木山は我に返ると、目前のカプセル容器にて眠っている少女を指す。


「ああそれで彼女の名前だったか。彼女の名前は実験体四号――上谷(かみや)栞奈(かんな)だ。まったく……自分の使う道具の名前くらい憶えておきなよ花垣」


 眠る黒髪の少女の目は、誰にも気付かれることなく薄く開かれた。


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