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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
八章 神谷神奈とU社の野望
276/608

110 偽人――広がる偽者達――

2023/10/07 文章一部修正







 U社、そしていなくなった霧雨を気にかけつつ、神奈は現在メイジ学院にいる。

 校舎などの修復が終わりようやく再開したはいいものの、夏休みが近いのであまり登校日数がないというタイミングの悪さ。だが長期休暇中まで通わせるほど学院側も鬼ではない。


 教室には日野、影野、坂下、葵の神奈を含めた五人が揃っていた。

 もう一人は現在なぜか山籠もりして修行中である。


「久しぶりだね神谷さん」


「この前水族館で会ったぶりじゃない?」


「そうだな、坂下君も南野さんも何週間か会ってないよな。日野とはこの前会ったばっかりだっけか」


「ああ、そういやあの金持ちのお嬢様、わざわざ俺のところにも話に来たぜ。何があったか大体は知ったよ。大変だったらしいな」


「まあな、結構危なかったよ」


 スピルドとの戦いを思い出しながら神奈は頷く。

 そして意外なことに、休んでいる間で影野と会わなかったことに気付いた。


「お前は久しぶりだな」


「久しぶり? 何を言っているんですか、俺はいつもあなたを見ていましたよ」


 気色悪い発言に神奈は身を震わせる。


「堂々とストーカー宣言するな……っていつも?」


「はい。水族館のときも、遊園地のときも、喫茶店にいるときも、いつもあなたの傍に這いよる混沌影野です」


「ちょっと予想以上のストーカーぶりなんだけど!?」


 さらっととんでもないことを言ってくる影野。

 どうやら彼に対する認識が甘かったらしいと神奈は反省する。

 さすがに才華の会社や自宅では大丈夫だろうが……もう四六時中魔力感知でもやっていた方が安全だ。そうでなければプライバシーも何もあったものではない。


 今日からめでたくも授業再開なわけだが、朝のホームルーム後から授業が始まるまでの少ない時間を神奈は活用する。U社のことについて全員に話すことにした。


「なあ、みんなU社のことどう思う?」


 今話題の会社なので各々反応を見せる。


「あー、僕の親も急に家にあった家電製品捨てて買い替えてたよ。なんかすごい影響力だよね」


 影響をもろに受けた坂下家。


「面倒だから俺は替えてねえな」


「ちょっと暴走のこととか怖かったですけど、まだ電気屋は混雑しててなかなか……」


 まだ買い替えていない日野と影野。


「町の電気屋もほぼ全てがU社の製品に変わってた。あの会社は色々おかしいよ、だからもし何かあったら教えてほしい。今は少しでも情報が欲しいから」


「分かりました神谷さん! 俺何かあったらすぐにでも駆けつけて知らせます!」


「別に駆けつけなくていい。電話しろ」


 U社について神奈は才華にも調べてもらっている。

 このまま放置していては何かよくないことが起きると直感したからこそ、少ない人脈を使って少しでも情報を集めようとしている。


「あ、そういえば」


 影野が思い出したかのように懐から一枚の紙を取り出し、神奈に見せた。

 怪しげな紙には怪しげな文章。


【働かなくても大丈夫! これからは無職の時代! あなたも夢の楽園に行きませんか?】という詐欺染みた文が大きく書かれている。その下にも文があり、人類全てが助け合い、全ての作業の機械化を目指すということも書いてある。働かなくても大丈夫というのはそういった意味らしい。


「これもU社が主催してるんですよね。本当なら確かに夢みたいですよ、胡散臭いですけど」


「……働かなくても日々を過ごせるってなんだこれ。まあなんにせよこんなのに引っ掛かるなよ?」


「分かっています。こんなもの今すぐビリビリに破いて捨てましょう! いえ、炎でも出して燃やしましょう!」


「そこまでしろとは言ってない」


 本当に燃やしてしまった影野に神奈は呆れた。

 そうこうしているうちに担任教師である斑が来たことで全員が席に着く。


「授業を始めるぞ」


 授業に関しては大したものではない。

 魔力応用技術の復習をしたり、初級魔法の実践訓練などだ。

 属性魔法の初級は本当に威力が低かった。ライターレベルの小さな炎を出したり、静電気より少し強めの電気が発生したりなど、実戦ではまるで使えない代物である。どちらかといえば日常生活で便利そうなものであった。


 以前神奈が腕輪から教わった魔法の知識。無属性については触れていない。

 授業後に神奈が斑に問いかけてみれば、実践に難しい魔法は後回しにしているという答えが返ってくる。無属性魔法は特にイメージが難しいので斑は使用できないとも告げた。

 どの魔法も強力なものは中級以上で、まずは慣らし目的の初級の授業に専念するとのこと。神奈が満足する授業になるのはまだまだ先になりそうであった。


 魔法といえば最近の腕輪は、どう作るのか不明だがオリジナル魔法をいくつか作っている。神奈としては役立つ魔法を開発してほしかったので要望を言ってみると、要望通りの魔法――飛んできた蚊を自動で感知し圧殺する魔法が開発された。夏場は便利である。


「ふぅーようやく授業終わった。久しぶりにみんな揃ったし何かしないか?」


 一日の授業が終了したので、神奈は腕を伸ばしながら口を開く。


「いいですねやりましょう!」


「相変わらずイエスマンだな影野……。あーわりぃけど俺パス」


「ふざけるなよ、君如きに女神の誘いの拒否権があるとでも?」


「相変わらず面倒だなお前は」


 影野がどうしようもない性格なのはもう分かっているので、日野は怒ることなく呆れるだけだ。


「何か用事あるんならいいって、行ってこいよ」


「ああ、ちょっと隣町まで。前の一件から会ってなかった奴等に会いに行く」


「そっか、そういうわけだから今日はなしで。影野は露骨に日野を睨むなよ」


 ぐるるると影野は猛犬のように唸りながら日野を睨んでいる。

 坂下と葵は苦笑いをしながら帰っていく。神奈も帰ろうと席を立つ。


「じゃあ神谷さん、一緒に帰りましょうか」

「一人で帰れ」


 平和に終わる学院。

 平和に見える町中。

 しかし神奈は何か嫌な予感がしてならなかった。

 そしてそれは翌日になって明らかになる。



 * 



 メイジ学院一年Dクラス教室。

 今日も今日とて神奈にとって昨日と同じ退屈な授業。

 居眠りはしないがまともに授業を聞かず終了する。

 そして今日も神奈は全員を誘い、思い出作りしようと画策していた。


「よし、昨日は日野が行けなかったから何もしなかったけど今日ならいけるだろ。おーい日野、今日なら大丈夫だよな」


「あーわりぃけど俺パス」


 昨日と同じように拒否されて神奈は「えーまたぁ?」と呟いて唇を尖らせる。


「ああ、ちょっと隣町まで。前の一件から会ってなかった奴等に会いに行く」


「おいそれ昨日も言ってただろ。どんだけ難航してんだよ」


 さすがに同じ理由では神奈は納得しない。

 会っていなかったと日野が告げる者達には神奈も心当たりがある。魔力の実の一件で散り散りになってしまったグループのことだろう。


 三木というリーダーが原因で関係性が壊れ、日野が犠牲覚悟で殺してしまいそうになった事件。確かにあの事件がもたらしただろうグループの面々への苦痛は計り知れないが、一日で会うことすらできなかったというのは疑問になる。


「……あれ? お前、なんか首についてない?」


 疑問が変わる。

 日野の首に黒くて細い何かがついていた。


「はあ? マジかどこだよ」


「しょうがないな……取ってやるよ」


 首元についている細い何か。

 糸というには太いそれを神奈は掴んで真横に引っ張る。


「あばがばがばばば!?」


 ――血管のような細い管が、日野の首元から引き抜かれて液体を飛び散らせた。

 何かの管は付いていたのではない。はみ出していたのだ。そうとは知らずに引っ張った神奈の力によってグロテスクな光景が生み出される。


 血管というより黒いコードのようなそれがはみ出していた場所から、血液ではないガソリンのような液体が噴出していた。予想外すぎる光景に神奈は放心してしまう。

 やがて噴出し終えると日野だった何かは膝から崩れ落ちる。


「……日野?」


 倒れた日野は異常な動きをする。

 首元から電気を散らし、急にジタバタして痙攣したかのように震え……少しして沈黙した。その首からは見覚えのある黒煙が出ていた。


「おい、日野……?」


「神奈さんしっかりしてください。これは日野さんではありません、機械です。偽者ですよ」


「偽者……? じゃあ……本物は……」


 理解が追いつかない状況に神奈は動揺して、直後ここが教室だということを思い出す。一人では分からないことも全員で考えればいい。神奈が助けを求めようと振り向いて――硬直した。


「U社ロボットの破壊を確認。標的は一人。敵、排除します」


 目を赤く光らせて、三人の少年少女が無表情で神奈を見つめている。

 助けを求めたはずが逆効果。心臓の鼓動が激しくなり、焦燥感が高まる。


「……まさか」


「これは予想外ですね。神奈さん、もう分かっていると思いますが全員偽者ですよ。もう襲ってくるでしょうが機械なので壊して大丈夫です。サクッと破壊してしまいましょう」


 クラスメイトであったはずの三人が拳を振りかぶりながら走ってくる。


「……い、嫌だ」


 唇を震わせてその場から動かない姿に、腕輪は「神奈さん?」と心配そうに話しかける。


「……出来ない、出来ないよ」


 動かない神奈の顔面に容赦なく影野の拳がめり込む。

 もちろんダメージはない。しかし神奈は尻餅をついて、すでに壊れている機械を一瞥して頭を抱える。


 機械なのは神奈も理解している。

 それでも容姿は完全に人間、しかも友達。

 壊れた機械が、神奈には死亡した日野に見えていた。オイルだろう液体が神奈の目には赤く映り、首からまだ零れているのが鮮血にしか見えなくなる。


「冷静になってください神奈さん! 今は状況に混乱して正常な判断が出来なくなっているだけです! 今も殴っている偽者達は影野さんでもないし、南野さんでもないし、坂下さんでもありません……全員偽者なんですよ!」


「分かってる……分かってるけど……」


 この間、神奈は容赦なく暴行を受けていた。

 外見が友達なのだ。たとえ機械だと分かっていても破壊するのは心が痛む。

 自分が日野を殺してしまった光景を幻視した神奈は動けない。ただ両手で頭を抱えて座り込み、揺れている目を伏せるだけだ。


「――だから甘いんだよ、君」


 突如、偽者の影野達三人が黒炎に包まれる。

 圧倒的火力はその包んだ三人を跡形もなく焼失させた。


「……あ、神音?」


 涙目になっていた神奈が振り向くと廊下に神音が立っていた。

 外見は泉沙羅でも、中身は大賢者とすら呼ばれた男だ。この異常事態でも無事なのは当然といえば当然である。


「あれは敵だよ。いくら容姿が君の友人だからといっても、君がノーダメージだったとしても、あれらは全て破壊しなければいけない敵なんだよ。割り切れないものなのかな……甘々な君は」


 そう言いながら後ろに隠していた何かを神音は放り投げる。

 足元まで転がってきたそれを見て神奈は悲鳴を上げた。


「うわああああっ! さ、さい、斎藤君が……死んで」


 ボールのように転がるそれは斎藤の頭部だった。

 親しい友達の生首を見せられれば誰だって動揺する。


「死んでいないさ。君が襲われていた奴等と同じロボットだよ。本物はどこにいるのか知らないけどね。それより首筋を見てみなよ、面白いものがあるから」


 おそるおそる神奈は斎藤の頭部を持ち、首の後ろを見る。

 首筋には最近よく目にするアルファベットのUの文字。

 これが意味することは一つ。全てU社が作成した機械だということ。


「小さいですがUですね。神音さん、つまり全てU社が仕組んだことと言いたいのですね?」


「そういうこと。さて神谷神奈、君は確か周りの人間を傷付けられると最も怒りを感じる人種だったはずだ。これを見て、真実を知った君はどうする?」


 手足を小刻みに震わせながらも神奈は立ち上がる。

 恐怖からではない。体を震わせるのは純粋な――怒り。


「決まってる。もう許さない、U社なんか消し飛ばしてやる……!」


 世間を騒がせている会社に怒りを燃やし、拳を力強く握る。

 叩き潰すためにまずは本拠地を見つけなければいけない。

 ノーヒントであるが神奈はU社の捜索を始めることにした。


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