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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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105 実力――私達は強すぎた――

2023/09/16 笑里の話を一部変更








 早くも一週間が過ぎ、企業決闘当日。

 神奈は才華達と共に決闘場所である野原に来ていた。

 野原には石畳で出来た正方形のスペースが存在している。ここら一帯は麗華の親が所有する土地であり、自由に開拓も建造も出来るので舞台を整えていた。


 選手は神奈、笑里、そして三人目としてレイを選出している。

 神奈が悩んだ結果レイしか頼れる強者がいなかったのだ。


 速人はそもそも協力してくれないし、頼むのは神奈が嫌だ。

 学院のクラスメイトなら葵だが彼女を誘うというのも遠慮しておく。もし彼女を最初に何かに誘うならこんな決闘ではなくて、何か普通の学生っぽいところに一緒に行きたいと神奈は思っている。

 斎藤は魔法の威力が極端であり相手を殺す恐れがある。

 神音はこういったことに進んでは協力してくれないだろう。


 これらを踏まえて考えれば残る強者がレイくらいになる。

 この前のインフレの件があったのもあり、頼めばすぐに承諾してくれた。


「来たようね才華さん」


「麗華さん……」


「あらそちらは中学生三人? それでいいのかしら?」


 厳密にはレイは学校に行っていないので学生ですらない。

 余裕そうな雰囲気の麗華は無視して、神奈はその後ろにいる四人を見やる。三人は選手だろう格闘家の男、もう一人が運転手の男だ。見ても何も感じないので本気の人選をする必要はなかったかもしれない。


「さて、それではこちらのメンバーを紹介しましょう」


 麗華のその言葉を待っていたとばかりに一人の男が前へ出る。


「正直、ガッカリだぜ。お前らみたいなガキが相手だとはな」


「お前偉そうになんなんだ?」


「私この人嫌いだなあ」


「俺は先原。プロのボクサーだぜ? 試合というから来てみれば、そこの男以外は体も出来上がっていない女のガキときた。こんな連中なんざ俺じゃなくていいだろうに」


 神奈としては想定内、相手が何かしらの格闘技のプロを連れてくるのは想像に容易い。この世界でも格闘技のプロは強いが神奈達からすれば遥か格下。戦闘力の数値は精々100から400程度の連中。神奈達なら小指一本で勝てる相手だ。

 先原に続いて残りの二人も自己紹介していく。


「私は柔道家の谷原と申します」


「俺は空手家の山原。ちなみに黒帯な」


 相手にだけ自己紹介させるのは悪いので神奈達もすることにした。


「私は神谷神奈、ただの女子中学生だ」


「秋野笑里です。空手やってます」


「僕はレイ、喫茶店の店員だ。今はアルバイトだけどゆくゆくは店長になるのが僕の夢さ」


 正直舐めているとしか思えない面子である。実力が高いのは関わった者達にしか分からず、それ以外からはただの女子中学生とアルバイターとしか見られない。笑里は空手の経験あるが六級で帯は緑であり、神奈は格闘技の経験なんて無いに等しいので、これは麗華からすればもう勝ったも同然と思われてもおかしくない。


「おいそっちの男格闘技すらやってないのかよ。マジか、これ試合にもなんねえだろ。さくっと終わらせようぜお嬢様」


 ――突如、神奈は強い殺気を感じ取る。

 なんの前触れもなく、誰かが不審な動きをしたわけでもない。異常に強い殺気がいきなり神奈を襲ったのだ。犯人までは分からないが、麗華が関係していると思い一瞥する。


「それでは始めましょう。一人目は前に出てください」


 運転手の男が審判役と決まっていた。

 一人目である笑里と、ボクサーの先原が舞台に上がる。


「ルールを説明します。場外に落ちればその時点で負け。本人の降参でも負け。十秒ダウンしても負けです。合図をしたら始めて構いません」


「へっ、一人目はお前かよガキ」


「むう、ガキじゃないもん」


 頬を膨らます笑里の拳が震えている。

 何も知らなければ恐怖が原因だと思うだろうが神奈には分かる。普段の暴行挨拶癖を必死に抑えているのだ。うっかり殴ってしまえば反則負けになってしまう。さすがにそれを理解出来ないほど彼女もバカじゃない。


「それでは三、二、一、始め……と言ったら開始してください」


 運転手の男が『始め』と言うと同時、笑里が拳を軽く顔面に叩き込む。それに反応出来なかった先原は避けもせず完全に気絶してしまった。


「えー秋野笑里さん、フライングで反則負けです」


 笑里はまだ「え?」と驚いて状況を呑み込めていない。

 神奈達も驚きはしたがすぐに思考を切り替えている。ルールは何も破られていないが随分と姑息な罠だ。麗華がクスクスと笑っているので間違いなく罠だ。卑怯なやり方に怒りを抱いた神奈達は麗華を睨む。


「どういうつもりなの、麗華さん」


「どういうつもりって何の話かしら。そちらが開始前に手を出したのでしょう?」


「ふざけんな。私は企業決闘なんて初めてだからよく知らないけどさ、小細工なしの正々堂々な勝負じゃないのかよ。こんなの決闘とは呼ばない。全国の決闘者(デュエリスト)に謝りやがれ」


「止しなよ君達。彼女は正攻法で勝つ自信がないのさ」


 レイの言葉に麗華はピクッと眉を動かす。


「聞き捨てならないわね。あなた達、真面目に戦って勝ち目があると思っているの? 私が集めたのは全国トップクラスの格闘家達。ただの女子中学生と、喫茶店のアルバイト如きじゃ絶対敵わないわ」


「なら見ているといいさ。僕達の勝利を」


 麗華は嗤って顔を逸らす。

 勝てないと確信しているのだろう。常識に囚われた一般人の思考だ。


「……これでもう負けられなくなったな。まあいいさ、レイ頼んだ」


「任せて。速攻で勝ってくるよ」


 笑里が敗北したのは予想外だが後の二人が勝てばいいだけの話。

 敵側の残り二人が先原と同程度の実力だとすれば全く問題はない。フライングの罠は事前に分かっているし、他の罠も警戒しながら行動すれば勝利は確実。ただのプロの格闘家が神奈達に勝てるわけがない。


 納得していない笑里が舞台から降り、気絶した先原は残りの選手二人に担架で運ばれる。

 それからレイと柔道家の谷原が舞台に上がる。


「それでは三、二、一、始め!」


 二人が動く……前に話し合いタイムが挿まれた。


「貴方からは妙なプレッシャーを感じます。恐らく死線を乗り越えてきたのでしょう」


「そんなことはないよ。まあ試合は始まっているんだしどこからでもどうぞ」


「そうはいきませんよ、私は受けた攻撃をいなす戦法が得意でして」


「そうですか、ではお言葉に甘えて僕から行かせてもらおうかな」


「ええ、どうっぶっ!?」


 先攻を譲ったのが運の尽き。

 手加減しているとはいえ、谷原の意識を刈り取るには十分すぎる一撃が放たれた。

 視認すらできない谷原は当然気絶する。


「十秒ダウン! レイさんの勝ちです!」


 谷原はピクリともせず舞台に倒れ伏したまま十秒経過。

 運転手の男と残りの選手一人に担架で運ばれていく。

 戻ったレイに神奈は「相変わらずの強さだな」と話しかける。


「相手の人が少し弱すぎたかな……でもあれでもプロなんだよね」


「私達は異常に強いからな。……恐らく今高野は焦ってる。圧勝とまではいかずとも相手によっては辛勝出来ると思ってたんだろうけど、蓋を開けて見ればどちらも瞬殺される側。こちらの方が圧倒的だともう分かってるはずだ」


 大本命、神奈が舞台に上がる。

 そして……一分が経過した。

 冷たい風が吹いて神奈は「あれ?」と呟く。


「ちょっと! あの空手家はどこへ行ったのかしら!?」


「どうやら逃げたようですね、相手が化け物すぎて」


 そこそこ鍛えていた空手家でも視認できない、思いっきり人外の動きをする相手と戦えと言われれば逃げたくもなるだろう。不戦敗という釈然としない勝ち方だが、これで才華側の二勝。企業決闘は才華の勝利となる――はずだった。


「では代わりの選手を出しましょう」


 運転手の男がそう宣言しなければ勝利だった。

 しかし代わりといっても誰もいないので才華達もどこにいるのか捜している。


「誰かいるのなら早く出しなさい! これ以上私の顔に泥を塗るのは許さないわ!」


 静かに運転手の男が「了解しました」と呟くと舞台に上がる。


「この私が相手ということになりました」


「お前が戦うの!?」


「ちょっと! 代わりなんてやっぱりいないんじゃない!」


「ですからいますよ、この私が代わりです」


「運転手が強いわけないでしょう!?」


「お前ただの運転手なの!? 執事じゃないの!?」


「そうですね、確かにたかが運転手ではありますが……私は強いですよ」


 ――殺気が再び神奈を襲う。

 これではっきりした。最近感じていた殺気の正体、この運転手の男だったのだ。

 強いという言葉は恐らく本当だと神奈は思う。少しとはいえ圧されたのだから、こんな男がただの運転手なわけがない。


「お前、何者だ?」


「……やはりおかしいか、だが事実だ。この俺は今運転手であることに変わりない」


 麗華は何か言いたそうにしていたが渋々といった感じで折れた。つまりこれから戦う相手はこの男に決定したのだ。

 口調が変わったことに誰もつっこまないのは置いておき、正体が気になる神奈は再び問いかける。


「なあ、最近殺気を送ってたのはお前だろ?」


「気付いていたのか、なんの反応もしないから気付いていないのかと思っていたが」


「なんでそんなことをしてたんだよ」


「知れたこと、試していたのだ。……神谷神奈、四年前に宇宙最強と名高いエクエスを倒した」


 予想外の名前が出てきたことに神奈とレイは目を丸くする。

 エクエスのことを知っているなど確実に地球人ですらない。


「俺は見ていたわけじゃないが後から知って驚いたぞ。ライバルのエクエスが突然死んだと分かってな」


「ライバル?」


「そう、俺の名はスピルド。エクエスのライバルだ!」


 レイが何かに気付いたように「まさか」と声を上げた。他のメンバーは何も分かっていなくて置いてけぼりだが。


「スピルド、その名前は確か……あのエクエスに善戦したという噂の宇宙最強の傭兵!」


 神奈の額から汗がだらだらと流れ始める。

 エクエスという強敵のことはまだ記憶に強く残っている。初めて戦闘で死にそうになるくらい強かったのも覚えている。そんな相手に善戦できるのなら強くないわけがない。

 

「いかにも、俺は宇宙全域で傭兵稼業をしているスピルドという者。何年か前、エクエスと戦い敗れ去り修行を積んで奴を追ってみればこの地球で死んだというではないか。だから俺は調べた、その結果倒したのは神谷神奈という少女らしいこと、この星にまだトルバ人がいることも分かった。俺はそれからお前を真の強者か試すため殺気を送り続けていた。だが試すまでもなかったようだな……お前からは強い魔力を感じる。さあ最後の試合開始だ!」


 あまりに予想外すぎた正体に「……マジかよ」と神奈は掠れた声で呟いた。


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