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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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104 企業決闘――頼っていいよ――

2023/09/10 若干文章を変更






 現れたお嬢様がコツコツと足音を立て入って来て、後ろにはそれに続く運転手の男がいた。

 才華にはそれが誰なのか分かるようで「麗華さん……」と呟き渋い顔になる。


「ごきげんよう才華さん。本日は遊びに来ましたの」


「申し訳ないですけどお引き取り下さい、今はそれどころじゃ……」


「あら酷いですわ、受付の人はご親切に通してくれましたのに」


 その言葉に才華は驚くが、すぐに自分のミスだと悟る。

 神奈の知り合いとだけしか情報がなかったので、日野を呼ぶとき見た目や人数を受付には伝えていなかった。つまり麗華は我が家のように社内を歩いて来たのだ。

 二人の会話から特に親しさは感じられず、どういう関係か分からないので神奈は問いかける。


「才華、あの女は?」


「……高野麗華さん。私が通う学院の学院長の親戚らしいわ。そして彼女の親はあのオイシイグループを経営している人でもある」


「え、じゃあ……」


 たった今騒動があったその会社名。

 このタイミングで来るというのは少々おかしい。まるでスパイ騒動が起きたのを知っているかのようなタイミングだ。しかし可能性があるとすれば、他でもない麗華がスパイを送り込んだ張本人という可能性。

 その可能性に辿り着いた神奈は咄嗟に質問する。


「スパイを送り込んだのはお前か」


「いえ、私ではありません」


 同じ予想をしていたためか日野が流れるように「嘘だな」と断言した。

 つまりスパイを送り込んだのは目前の麗華で間違いない。それをこの部屋にいる全員が理解した。


「どうして、そんなことをしたの」


 怒鳴りそうになるのを堪えて、才華はあくまで冷静に問いかける。その拳は強く握りしめられている。


「どうしてと言われても、私は様々な企業にスパイを送っていますの。全ては情報を牛耳るために」


「他の会社を蹴落そうということね」


「そう、でも今回はそれだけじゃないのだけど……私は、我が社は才華さん、あなたの会社に企業決闘を申し込みます」


 聞き覚えのない言葉に神奈と笑里は「企業決闘?」と呟く。


「企業同士が約束事をして賭けをすること。応じれば勝者はどんなことでも敗者に命じることが出来るの。でもさすがに法に抵触したり、人道に反するあまりに酷すぎる約束はできないわ。契約書にサインするから破るのもできないけどね」


 才華がさらに説明する。

 最近ではそんな賭け勝負も流行っている。取引、値引き、引き抜きなど、様々な約束をして行われている。勝てば確かにおいしい思いをできるが、負ければ元も子もない。よってこういった賭け事はローリスクなものが多い。


「なんで、麗華さんとそんなことをしなければならないの?」


「今そちらはスパイが多くて処理が大変でしょう。私が負ければそちらの会社にいるスパイは全て撤収させますわ」


「もしも、私が負けたら?」


 麗華は神奈と笑里をキッと睨みつける。

 溢れ出ている敵意で二人は息を呑む。


「そちらの神谷神奈さん、秋野笑里さん、お二人との接近禁止。さらにメールなどでの連絡も禁止。それから才華さんは私と――」


「なっ、なんで麗華さんにそんなことを言われなくちゃいけないの! 言ったでしょう、二人は大切な友達なのよ!」


 要するに一言で言うなら友達を辞めろということだ。

 出された約束では友達どころか知り合い未満の関係になってしまう。二人も大切な友達を失わせようなどという酷い思考に、才華は怒りを抑えきれずに怒鳴る。

 神奈と笑里も不満気に口を開く。


「その通りだよ、酷いよ!」


「ま、そういうことだな。お前の条件は受け入れられない」


「ふんっ、私も才華さんもあなた達とは格が違うのよ。身分が違う者と仲良くなってもいいけど、それはあくまで下でなくてはならない。でも才華さんとあなた達はまるで上下関係がないかのように接している……私達を、甘く見すぎている」


 自分勝手な意見に神奈は麗華を睨む。


「友達に上下関係だと……そんなものあってたまるかよ」


「なくてはいけないのよ。特にあなた達のような庶民とはね」


 いつまでも意見は平行線。

 我慢できずに神奈がいつもの調子で「このクズが」と叫ぼうとしたとき、同じく怒りを爆発させそうな才華が口を開く。


「受けないわ。そんなもの、受けるメリットがないもの」


 スパイは日野がいれば楽に炙り出せる。麗華が提示した約束で、負ければ神奈達が会えなくなるという条件は明らかに利がない。だからこそ才華は一蹴するが、それを嘲笑うかのように麗華はタブレット端末を運転手の男から受け取る。


「あらそう。でもいいのかしら、これは何かしらねえ」


 そしてこの場にいる全員にタブレット端末を見せつける。


「あ、あの資料は俺が作ったやつ……」

「私が申請してボツになったものもある」

「ワイが寝ぼけて書いたアイデア案まで……」


 画面に映る内容は社員に見覚えのあるものだった。他の社員と同じく、才華も見覚えがあるので顔が青ざめて身が震えている。


「何よこれ……今回の分だけじゃない、今までに挙げられた案も他の重要資料まで……」


「全てそちらの秘書さんから受け取ったのよ」


 神奈には分からないが、カシオカンパニーの重要な資料が数多く表示されているようだった。決算書、取引相手の連絡先、申請書類など様々なものがスクロールされて流れていく。


 こんなに沢山の情報の出所が秘書だというのも驚愕の事実。確かに社長秘書ならば色々知れる立場であるし、堂一郎の近くにいるからこそパソコンのパスワードなども分かる。重要な情報など次から次へと入ってくるはずだ。

 まさかの裏切り者に堂一郎が取り乱し、秘書に詰め寄る。


「どういうことだね! 君が秘書になれたのはこの私が推薦したからだぞ! それをなぜ、なぜこのような恩を仇で返すような仕打ちをするのかと訊いている!」


「そう、秘書になれたのは私の体を気に入った社長のお陰です。一緒にあんなことまでしましたものね」


 秘書の言葉でこの部屋にいる全員が社長を冷めた目で見る。

 発言をまともに捉えればセクハラというレベルではない。何か後ろめたいことがあるとしか思えない。才華も実の親がそんな人間で少しショックを受けているようだった。


「いや諸君勘違いしてるだろう! ちょっ、才華その目をやめなさい! おおい心当たりないんだけどこの私が何をしたっていうんだ!」


「惚けるおつもりですか。あの日、社長は言ったじゃないですか……『力が強いし、荷物多く運べそうだから君秘書ね』って言ったじゃないですか!」


「うむ、そうだなってええそんなこと!?」


 まともに捉えていた全員が白い目をやめる。

 あまりに酷い八つ当たりで同情する相手が堂一郎へと変わった。


「何がそんなことですか! 私はずっと屈辱でしたよ、力が強いというだけで秘書になるなんて恥ずかしいです! 陰で私がなんて呼ばれていたか知っていますか。社長を怪力で脅したパワフルモンスターだの、社長にうまく取り入ったスリムメスゴリラだの……私隠してたのに、社長が社員達に言いふらしてしまったからあ! 最近五つになった娘にまで『ママってゴリラなの?』とか素で訊かれた私の気持ちが分かるんですかあ! 旦那に『そうだよゴリラだよ』なんて肯定された私の気持ちがあああ!」


 マシンガントーク並に止まらない秘書の言葉に、堂一郎は「うむ、ごめんなさい」としか言えなかった。もはや素直に謝る以外道は残されていない。

 謝られても爆発した秘書が止まることはなく、未だ堂一郎への文句は終わらない。このままでは肝心の麗華がほったらかしなので、才華は冷えた頭で会社のことを考えて話を進める。


「……でもそうね、この勝負受けなければマズイことになるわ」


 真顔だった麗華の表情に笑みが浮かぶ。


「だからこちらからの約束を付け加えます。私が勝ったらどの会社にも今後一切スパイを送らないこと。今持っている他社の重要資料など、スパイを通じて知ったデータを全て消去すること、パックアップも禁じます。そして迷惑料としてそちらが持つ会社一つを私が貰います。ちょうど社会勉強もやっておきたかったし社長になってみるのもいい経験……ですよねお父さん」


 秘書にまだ文句を言われている堂一郎は「うむ、そうだな!」と慌てて叫ぶ。


「ふふ、いいでしょう。こちらの条件は変えませんのでご安心を」


 約束を追加するのは妥当な判断。

 問題は勝負方法だ、それによっては勝てる確率が少なくなる。


「勝負方法は?」


「単純なものよ。お互いが選出した選手を格闘で戦わせ、勝ち星が多い側が勝つ。三人の選手を用意して頂戴。戦いは一週間後、ルールは先に二勝したほうが勝ち」


「分かったわ、その企業決闘を受けます」


「賢明ね、よろしい! ではまた一週間後に会いましょう。楽しみにしているわ、あなたが私のグループに入るのをね」


 麗華がそんな台詞を吐いて出ていき、遅れて運転手の男も「それでは皆様失礼いたします」と礼儀正しく会釈してから帰っていく。

 話が終わったことで堂一郎は焦った声を出す。


「く、一週間か……それまでに腕利きの格闘家を」


「ちょっと聞いているんですか! 幼稚園の先生にまで『あっほらメスゴリラが迎えに……あっすいませんお母さんが迎えに来たわよ』とかああああ!」


「お父さん! それはいいわ!」


「あああああ思い出しただけであの先生十発くらい殴りたいいいい!」


「ちょっと黙ってください! 後で文句なら好きなだけ言っていいですから! ……プロの格闘家よりもっと強い頼りになる人がいるわ。頼ってばかりで本当に申し訳ないと思うけど、いいかしら――神奈さん」


 プロの格闘家よりも、才華の知っている人間全員の中で神奈が一番強い。

 今まで才華が知る限り実力ではどんな相手にも負けていない。同じく笑里の強さも信用している。親友の二人のことは誰よりも信頼できるのだ。

 そんな期待を寄せられた神奈は才華と向き合って笑う。


「友達は頼ってもいい存在だろ。私に任せてよ」


「私もね! 私も出るよ!」


「神奈さん笑里さんありがとう……残りの一人は」


 悩んでいる才華は閃いたように日野の方に目を向ける。

 才華が神奈から聞いているメイジ学院という場所は、魔法を学べるという摩訶不思議な施設。今までもそういった不思議な力を持つ者達は強いイメージがある。


「神奈さん、彼は強い?」


「いや全然」


「おい聞こえてんぞ!」


「そう、どうしましょう……」


「おい、俺が出るから! それ出るから!」


「いやダメだろお前弱いし」


「お前に比べたらだろ!?」


 一般人にもプロの格闘家にも恐らく日野は勝てるだろう。だがそれでも神奈が参加させなかったのは警戒しているからだ。あれだけ自信満々にこの勝負を持ち掛けてきた以上、絶対に負けないと信じて疑わない何かがあるとしか思えない。

 この世界には存在するのだ――常識では考えられない怪物が。







日野「俺強くないの!?」


腕輪「神奈さんの周りが異常なだけで一般人より遥かに強いですよ。ちなみに数値にしてみればこんな感じですかね」


一般人 総合1

坂 下 総合50

日 野 総合80


 葵  総合1300(なお黒虎時は90000以上)


影 野 総合12000以上(神奈さんのためなら17000は超える)


 隼  総合16000(超・神速閃の速度は150000程)


笑 里 総合156530(ギャグ描写により無敵になれる)


神 奈 総合337000(神の加護、神の系譜×2、主人公補正あり)


 泉  総合530000(これでも神の系譜消失に加え、究極の魔導書もないので下がっている)



腕輪「ね? 強いでしょ? 努力すればもっと強くなれますよ?」


日野「……もう、なんなんだよお前ら」


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