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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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103 漏洩――四月一日でなくても嘘は吐く――

2023/09/10 若干文章を変更







 いきなりの緊急事態に堂一郎、いや全員が混乱している。

 それだけもたらされた情報は大きい意味を持っていた。


「これは……どういうことかね?」


「決まっています、お父さん……いえ社長、この会社にそのオイシイグループのスパイがいるということでしょう」


 才華の推理は正しい。

 オイシイグループが新製品を発表したのは僅か数分前。たった今決定したものではあるが、新製品と選ばれなかった候補の情報が他企業に渡ってしまったとなれば、内通者は確実に存在しているだろう。


 偶然同じものを考えたというのも確率的な話ではありえるが、それはないと見ていい。同じ菓子のアイデアがそう易々と出るとは神奈も思えない。一つならともかく、全部同じなどありえないと思いたい。


 タブレット端末を受け取った才華が画面を下にスクロールさせると、確かにこの会議で発表された新製品案全てが映っている。必死に考えただろう製品が全て、オイシイグループの製品であると世間に発表されてしまったのだ。


 一般人達は情報社会において、先に発表された方を信じる傾向にある。それはそうだろう、後から発表されてもただのパクリとしか思われない。クイズで正解が発表された後に「実は分かっていました」と言うように、信憑性など欠片もない。


「……うむ、そうだな」


「全員この場を動かないでください!」


 叫んだ才華と同様、神奈はこの部屋に情報漏洩した人物がいると睨んでいる。

 この新製品案の情報を持っていたのは企画部の社員のみ。堂一郎、才華、そして今日来た神奈と笑里、この部屋以外にいる社員達は何も知らなかったのだから。


「さて、誰が情報を漏らしたのか正直に……言う筈がないわね」


「うむ、そうだな」


 例として、殺人事件が起きた現場で、誰が殺したのかと声を上げても誰かが名乗り上げるなどありえない。

 推理しようにも今のところ情報が不足しすぎている。何か情報を必要とせずに犯人を暴き出せないか、そう思索していると神奈は妙案を思いつく。


「なあ才華」


「何かしら。神奈さん達が無実であるとは思っているけれど、この部屋からは出せないわよ?」


「いや違う、言いたいことはそうじゃない。その犯人がいるとして企画部にいると睨んでいるんだよな?」


「ええ、だって情報を持っていたのは企画部のみ。他の社員は何も知らないから」


「じゃあもう一つ、この場所にもう一人追加で呼ぶのは大丈夫か?」


「……これ以上知る人を増やすのはよくない、部外者を入れるのもね。それでも神奈さんには何か考えがあるのよね? だったら私が許可するわ、人が来たら通すように電話で言っておく」


 神奈は「よし」と呟き、携帯電話をズボンのポケットから取り出す。

 これから呼ぶ相手、嘘に対しては確実な判断を下せる男だ。本人に神奈が聞いておいた番号に電話すればあっさりと承諾してくれた。急いでいたために、事情はかいつまんで話してしまったが気にしない。


 ――電話から二十分程して、会議室にある男がやって来た。


「おい、どういうわけだこりゃ」


 現れたのは金髪で、右耳にピアスをしている男。

 現在休校中であるメイジ学院一年Dクラスにて、共に学ぶ仲間である――日野(ひの)(あきら)。言葉が真実かどうか分かる固有魔法を持っている男だ。


「よっ、来てくれたか日野」


「なあおいマジでなんだこれ。呼ばれたと思えばこんなデカい会社で俺混乱してんだけど」


「誰かと思えばあの時の……」


「ああ! 神奈ちゃんを虐めた人だ!」


「あ、あの時の暴力女……」


 才華と笑里は日野に対して良いイメージを持っていない。初対面の時はナンパを止めてくれたが、次に二人が会ったのは神奈を散々殴った後なのもあり、金髪で不良のような見た目も合わさって印象が悪い。


「で……企画部ってのはあいつらだな?」


「ああ、ただ一言スパイかどうか聞くだけでいいんだ。嘘を吐いているやつが犯人だからな」


 粗方の事情を話し、呼ばれたことに納得を見せた日野は企画部の社員達を睨む。

 これから質問するわけだが、完全に不良で脅しに来たとしか思われていない。

 とにかく日野は企画部に質問を始めた。その質問はたった一言。


「お前がスパイか?」


 それだけだ。たったそれだけで全てが解決する。


「え、えっと違います」


 もちろん相手は否定するが関係ない。真実か嘘か判別できる日野ならば、たった一度の問答でスパイを丸裸にすることができる。まさにこの状況にぴったりな人材であった。


「お前がスパイか?」


 不良のような外見……というか実際に不良なわけで、その容姿は睨みを利かせれば相手を恐怖させることなど容易い。今も問いかけられた眼鏡の男は顔を強張らせて委縮している。


「そ、そんなわけないです、自分は違いますよ」


「――嘘だな」


 沈黙が広がる。

 一気に静かになった部屋で「……え?」という眼鏡の男の困惑した声だけが響く。

 神奈達は絶句していた。そのスパイ扱いされた眼鏡の男は、新製品として発売する予定だった〈おせちクッキー〉の発案者であったからだ。


 最初からスパイであったとしても、発表のときの熱意は本物であった。製品化が決まる前とはいえ、どうして発案者が情報を漏らすのか神奈には理解できない。裏切る理由も、裏切り者であることも信じられない。


「な、何を言ってるんです!?」


「俺は嘘が分かる。お前の言葉は嘘だ、つまりスパイとやらはお前なんだよ」


「ふざけたことを……社長、副社長代理! なんでこんな不良を招いたのです!」


 堂一郎に助けを求めようにも「うむ、そうだな」しか言わない。

 これまで口を閉ざしていた才華だったが、眼鏡の男を見据えて静かに口を開く。


「しかし、あなたがスパイである可能性が高いという結論が出ました」


「そんなっ!? 社員より部外者の言葉を信じるなんて……」


 才華は日野のことを、神奈の友達だから信じる。

 そして才華の結論は何を言っても変わることなく、ついに眼鏡の男は膝を折って床につける。


「……そうですよ……自分が情報を流しました」


 この場にいる社員達は衝撃を受けていた。

 やはり信じたくはないものだ。これまで一緒に働いてきた仲間が裏切ったなど、誰も信じたくないに決まっている。ましてや根拠が無関係の不良だったのだから、本人が自白さえしなければ信用しなかった。


「どうしてそんなことを……」


「……だって、言ってくれたんです……僕の発想は素晴らしいって。情報を流してくれれば僕を雇用して一気に部長まで昇進させてくれると。そんな条件飲むに決まってる、ただ少しの情報を流すだけで僕は一気に部長だ……」


「ただ少し? 流すだけ? そんな考えは止めてください! 今回もこれまでも、その少しの情報が利益に繋がるんです。会社にとって情報というのはとても重いものなんですよ!」


 才華は立ち上がって、長机をバンと叩いて本気で怒っている。

 会社にとって情報というのは大事なものだと神奈でさえ思う。社会経験がなくてもそれくらい分かる。


「なあ、アンタこの会社が好きだから入ったんじゃないのか? 欲しかったのは地位だけなのか?」


 だからこそ出た神奈の純粋な疑問。

 眼鏡の男は俯いて答える。


「……違う……僕はそう、悔しかったんです。自分の練った企画が紙くずにされてゴミ箱にいくのが。僕の企画は良いものばかりだ、そのアイデアを使わないというのならこの会社の人間は……考える頭がないに……決まっている……そうだと……思って、いたのに……」


 声はどんどん小さくなっていく。

 情報漏洩を今は後悔しているのだ。

 だって今日、自分の考えは認められたのだから。

 先程までスパイだったからって今もスパイだろうか。それは違う、自分の行動を後悔して反省しているのなら決してもうスパイではない。


「でも、今日認めてくれたじゃないか」


「……ええ、今日ほどの日はもう来ないでしょうね……こんなに後悔する一日は」


 裏切ってから認められるなんてタイミングが悪い……いやそもそも裏切らなければ今頃笑顔で仲間達とお祝いでもやっていた頃だろう。今回の事で眼鏡の男はもう会社にいられなくなり、仲間達はもう彼のことを仲間と認めてくれない。

 全てが手遅れ。これは甘言に乗ってしまった眼鏡の男のせいでもあるが、唆したオイシイグループが元凶。全ての元凶に神奈は憤怒が湧き上がる。


「ではとりあえずあなたは外に。念のために誰か一人付いてください」


「彼のことは私が! 大切な仲間だったんです!」


 声を上げたのは日焼けしている女性。

 眼鏡の男は見覚えがあったので「君は……」と零す。


「覚えていませんか? 私、あなたに二週間程前助けてもらいました。新人でまだ分からないことだらけ、人の前で発表するなんてことは苦手でまともに出来ない。そんなとき、あなたは私を励ましてくれた。自分もそうだったから素数を数えればいいとか、他人をジャガイモにすればいいとか色々教えてくれました。漫画かと思うアドバイスでしたが……私はそれのお陰で緊張が薄れ、今日発表出来たんです。……私はまだ仲間だと信じてます」


「……覚えているよ」


「だから私が連れ出します、行かせてください」


 その女性は才華の方を見て真剣な表情で訴えかける。

 日野は反応してないことから嘘ではない。本気で仲間だと信じている。その熱い想いに才華の心が動いた。


「……分かりました。今は未使用の隣の部屋に連れていってください」


 二人でその場を出ていくことに許可が下りた。また少しすれば、もしかしたら眼鏡の男は正社員として復活できる日が来るのかもしれない。しかし、裏切り者を炙り出しても情報が漏れたことに変わりない。新製品案は全て考え直しということになる。


「今日の事は仕方がありませんね……。企画部のみなさんには申し訳ないのですが製品案を練り直して――」


 突然日野が険しい表情で外を見ながら「おい」と才華の言葉を遮る。


「さっきの女……連れ出すとしか言ってなかったがどこに行った?」


「いえ、だから隣の部屋に……」


「そうか? ならありゃあなんだ?」


 窓の外を指す日野の言動が気になり、神奈達は全員で窓に近寄る。

 高い場所なので遠くまで見える絶景だが、重要なのは下なので見下ろす。

 真下の光景を見てある事実に気付いた才華は目を見開く。


「あれってまさか……」


 連れ出すと告げた女性社員が、眼鏡の男を担ぎ歩いている。気絶しているのか男は微動だにしていない。

 隣の部屋どころか社外に連れ出しているのは明らかに異常だ。

 女性はタクシーを止めて、男を放り込むと自分も乗り込む。


「俺は全員に問いかけたわけじゃねえ。途中であの男が引っ掛かったから問いを一旦止めた」


 その言葉で全員が察した。


 ――裏切り者は一人じゃない。


 仲間だと信じている。あの言葉が嘘でないなら、自分と同じ裏切り者のままだと信じているということになる。

 もしかすれば他にもまだ裏切り者がこの場にもいるかもしれない。日野がまだ問いかけていない社員に問いかけようとした時――またしてもドアは開かれる。


「ごきげんよう」


 会議室に入って来たのはいかにもなお嬢様であった。







腕輪「ヒマリ村を出発したエビル達は一向に森から出られなかった、そこで死神の末裔と名乗るセイムと出会う、セイムに死神の里と呼ばれる場所に案内されたエビル達は無事旅を続けられるのか」


神奈「ん? うん? いやこれこの作品の話じゃなくない!?」


腕輪「ハッ!? 間違えたようです。新・風の勇者伝説、好評投稿中! いえ好評じゃありませんね、盛っちゃいました。新・風の勇者伝説、投稿中!」


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