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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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102 新製品――お菓子の提案――


 休日。神奈と笑里はとある高層ビルの前に立っていた。

 カシオカンパニー。有名なお菓子はだいたいこの会社が製作しているものだ。あの十円という安さで買えるオイCスティック。じゃがいもを薄くして揚げたポテイトチップス。さらにはあの鳥のマスコットキャラがいるカカオボールなど、本当に有名なお菓子を作っている会社である。


 なぜ二人がそんな有名会社の入口にいるかというと、昨日に才華から誘われたからだ。

 何を隠そうこのカシオカンパニーは藤原家が所有する会社の一つ。副社長代理として働いている才華の声は仕事モードであり、普段と別人かと思わせるくらいにキリッとしていた。


「ここがカシオカンパニーか」


「有名なお菓子がいっぱいだよね、何が食べれるんだろう! 私楽しみで夜も眠れなかったよ!」


「食べられないだろって言いたいけど今回は試作として食べられるらしいからなあ」


 誘われた理由としては、新たに売る菓子製品を決める会議があり、そこで一般人からも意見が聞きたいからというものである。当然試作の菓子を食せるので二人は楽しみにしている。


 二人が入口から入ると、まず一階の広いスペースが出迎える。

 社内は清潔を心掛けているのか大きく【清潔】と書かれた掛け軸が最奥にある。それを徹底するように掃除用ロボットが何台も動いており、社員などが大勢歩き回っているにもかかわらず床には埃一つ落ちていない。


「あ、すいません。上に行きたいんですけど」


 受付の女性に神奈が声を掛けると、女性はハッとして口を開く。


「才華様から聞いております。神谷神奈様、秋野笑里様ですね、どうぞ奥にあるエレベーターへお乗りください」


 最奥に設置されているエレベーターに二人は乗り込む。


「何階だったっけ?」


「確か十三階ですよ神奈さん」


 腕輪からの助言に神奈は「サンキュー」と一言お礼を告げ、十三と表示されているタッチパネルに触れる。

 外の景色が一望できるエレベーターに二人は「おぉ」と驚いた。


「腕輪さんも何か食べたいのある?」


「こいつ口ないだろ」


 エレベーターで予め聞いていた階に一気に行くと、才華がスーツ姿で待っていた。中学生とはいえその姿は姿勢、立ち振る舞い、全てが一流ゆえか良く似合っている。事前に中学生だと知らなければ恐らく子供だと疑われることもないだろう。


「ようこそ二人共」


「スーツ姿似合ってるな」


「ありがとう、早速で悪いのだけれど付いてきてくれるかしら」


 才華の案内で二人は廊下を歩いていく。

 広いうえ扉が二十以上あるので地図がなければ迷うかもしれない。社員でも一年くらいは経たないと覚えられないだろう。


「二人共今日はありがとう、それと無茶なお願いしてごめんね」


「いやいいって、暇だし」


「お菓子食べたいしね」


「予想通りの答えね……でも今回は会社の新製品を決める重大な一ページ。二人共遠慮しないで、正直に感想を言っていいんだからね」


 二人は頷いて才華に付いていき、そして会議室に辿り着く。

 部屋の中は静まり返っていた。人がいないわけではない、むしろ満席近いのに静かな空間なのだ。


(ここ本当に入っていいのか……怖いんだけど)


 長机が四つで長方形を形作っている場所には社員達。その前には一つの長机があり、一番左の窓際に堂一郎が座っている。その場の全員に向けて一礼してから神奈達が、堂一郎の右側にある空席三つへと座っていく。


「うむ、では集まったことだし新製品の会議を始めよう」


 会議室には副社長代理である才華、その父親であり社長でもある堂一郎。その他の社員が十名。正直場違いな神奈と笑里の計十四人。社員の人は社長秘書が一人、他は新製品を考えてきたチームリーダー。今回行うことはカシオカンパニーの新製品を、複数の意見の中から一件選び出すというものである。


 各々が製作した菓子を合計九種類。意見という名のアイデアを形とした菓子を神奈、笑里、才華、堂一郎が食べてどれか一つに決定する。これから神奈達は世界に羽ばたく菓子を選び出すわけだ。責任重大だが、いったいどんな菓子が出て来るのか楽しみにもしていた。


「自分が提案するお菓子はこれです……名付けて、栗と黒豆のミニおせちクッキー」


 眼鏡の男が試作品の名前を言い、秘書の女性が皿に乗った実物を持ってくる。

 小さいクッキーが黄色いものと黒いものの二種類。眼鏡の男がその説明を始めた。


「黄色は栗きんとんの味を、黒は黒豆の味を再現しています。正月しか食べないものをもっと食べたいと思う人もいるはず。それでおせちのなかでも子供の人気が高い二種類、栗きんとんと黒豆を選んで、小さくて食べやすいクッキーにしました」


(ほほう、確かに良い案ではあるな。おせちという限定的な食べ物から取るとは)


 今日限定で呼ばれたにもかかわらず上から目線で神奈は評価する。

 とりあえず審査員である四人は試作を食べ始める。提案者の顔が緊張からか死にそうなので早めに終わらせたかった。


(クッキー自体の味、不味くはない。当たり前だ、元々美味しいものをクッキーにしただけだからな。まあ甘い、黒豆と栗きんとんというダブルの甘さが口を蹂躙する……水が欲しい)


 四人が食べ終わったことで秘書の女性が司会のように取り仕切る。


「それでは審査に入ります。まずは特別参加枠である秋野笑里さん、このクッキーいかがでしたか?」


「美味しかったです!」


「なるほど、ありがとうございます」


(笑里さん、感想がそれだけってのもどうかと思うんだ。あ、でも提案者の眼鏡さん顔が嬉しそうだな……緊張から解放されたような感じだ)


 発表の場は緊張しやすいものだ。神奈もこうした発表は苦手としている。


「続いて神谷神奈さん、どうでしたか?」


「そうですね、美味しかったとは思います。でもまあちょっと甘すぎるかなーとは思いましたけど」


 眼鏡の男は顔を強張らせる。そのことに神奈は心の中で謝罪するが、一つもダメだしされたくないとかは甘い考えだとも思う。


「続いて副社長代理、どうでしたか?」


「神奈さんと同じですね、美味しいですが甘すぎます。クッキーもそれに練った材料も元々甘いから、それが合わさってすごく甘い物になってしまっていますね。欠点らしい欠点はそこだけで悪くはないと思います。もう少し甘味を抑えられれば商品化も考慮できますし、これなら他のおせちの食べ物も再現してシリーズ化できますし素晴らしいアイデアだと思いました」


(……君、本当に中学生? 私と同い年なんだよな? いや私自身転生してるから年上のはず……なのになんだこれは。才華さん、あなたもう立派な社会人ですよ本当に。シリーズ化ってなんだよ、眼鏡の人そこまで考えてなかったって顔してるよ)


 そして感想は社長の番となる。


「続いて社長、どうでしたか?」


「うむ、そうだな」


「ありがとうございました」


(……あなた本当に社長ですか? 才華の方がまともな意見、というか社長意見何も言ってないよね? なんだ『うむそうだな』って、いいのかそれで。みんな普通の顔してるんだけどこれ普通なの? この人いつもこれしか言ってないの?)


 ようやく一人目が終了。続いて穏やかそうな女性に移る。

 立ち上がってイラストが描かれた紙を見せてくる。イラストはホームセンターで売っている木炭のようなものだ。


「私が提案するのは究極(アルティメット)暗黒物質(ダークマター)です」


(急に凄いのぶっ混んできた……え、なに、アルティメット? ダークマター? どっちもお菓子のネーミングじゃないだろそれ)


 皿に乗って運ばれてきたのは黒い炭のようなもの。

 どこかの菓子作りが苦手な二次元のキャラクターが作るような、もはや食べ物とは思えない食欲を削ぐ見た目である。


「一見ただの木炭のようですが、これはカカオ濃度が八十パーセントと高いチョコレートです。漫画でしか見たことないような見た目ですがそれを意識してウケを狙いました」


「それでは秋野笑里さん、どうでしたか?」


「美味しかったです!」


(お前それしか言わないな……)


 感想を求められているのにそれはない。友達同士などでなら単純でいいのだが、こうした場においてはテレビの食レポのような詳しい説明が要求される。


「それでは神谷神奈さん、どうでしたか?」


「不味くはありません、ただカカオ濃度が高いから好みは分かれると思います」


 カカオ濃度が高ければ苦味や渋味が強くなる。食べて甘いようなものは濃度三十から四十パーセントといったところだが、出されたチョコレートは二倍以上。甘味はあまり感じないので、甘い物が好きな者には好かれないだろう。

 それに加えて脂質とカフェインの量も多くなる。食べすぎには注意の一品だ。


「続いて才華さん、どうでしたか?」


「そうですね、まず味については神奈さんと同じ意見です。しかしウケ狙いとはいえこの見た目は少しリスキーすぎる気もします。この見た目では食欲がなくなる人の方が多いでしょうから。個人的には面白いとは思いました」


「続いて社長、どうでしたか?」


「うむ、そう――」


「ありがとうございました」


 もう最後まで言わせない域に達してしまった。ある意味秘書からの信頼が厚い。

 それからも審査は続いていき最後の発表が終了。これから十分間の休憩、もとい審査タイムだ。


 神奈達は全員最初のおせちのクッキーを選ぶ。他のものもどれも美味しかったがインパクトが強すぎたり、ウケを狙いすぎていたからだ。

 結局、最初と最後の物は印象に残りやすい。最後に発表された有名漫画とのコラボ商品というのも面白そうではあったが、著作権や許可申請で手間が掛かるうえ、結局物珍しさは最初だけで段々売上も落ち込むのは目に見えている。


「では次に出す製品はおせちクッキーシリーズに決定します」


「うむ、そ――」


「大変です社長!」


「うむ、どうした?」


 結果発表も終わって会議は問題なく終了……とはいかなかった。

 慌てて会議室に入り込んで来た男が血相を変えて、手に持っているタブレット端末を指している。画面には神奈達が先程試食した〈おせちクッキー〉が映し出されていた。


「おせちクッキーですが、つい数分程前、既にライバル社のオイシイグループが発表していました!  他に審査されていた製品案も全て発表されています! どこかから情報が漏れていた可能性が!」


 会議室の温度はたった今、三度は下がった。







腕輪「情報が漏れてしまったカシオカンパニー、果たして何処から漏れたのか……それは意外な人物だった! そして何かを企む麗華は才華に宣戦布告する! 果たしてどうなる? 次回もお楽しみに!」


神奈「久しぶりに次回予告来たよ! 本当に久しぶりだな!?」

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