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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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101 催眠術――依頼――


 大将の男は神奈の首元を狙い、思いっきり包丁を振る。

 神奈は突然のことで驚愕しつつも、腕に付けている腕輪で包丁を防御した。


「いや神奈さん酷いじゃないですか!?」


「わ、悪い、いきなりでビックリしてな」


「その割にはピンポイントで私に当てましたよね? 下手したら腕に当たってたのにピンポイントで当てましたよね?」


「今はそれよりも大将だよ、この人正気じゃないぞ」


 客を三枚おろしにする寿司屋など聞いたことがない、というかあってはならない。すぐに犯罪者として世界中に知れ渡るだろう。

 男は黙々と斬ろうとしてくるので神奈達は躱し続ける。


「あの、マグロが欲しいんですけど!」


「いや笑里!? この状況でよく注文出来るね!?」


「だってお腹空いたもん、お腹空いたもん!」


「二度も言わなくても分かったよ! じゃあそのために大人しくさせるか!」


 神奈は悪いと思いつつ、大将男の首元に思いっきり手加減した手刀を落とす。

 常人なら確実に気絶するだろう一撃で大将の男は倒れた。


「それにしてもどういうことなんだ?」


「ねえ、神奈ちゃん……」


「ああそうか、いくらお前でも怖か――」


「マグロは?」


「少しは状況理解してくれる?」


 近くに大将の男をおかしくさせた怪しい人物がいないかを捜すため、それと正気ではない寿司屋にいたくもないので一旦神奈達は店を出ることにした。


「あの神奈さん……ちょっと変じゃありません?」


 外に出ると異様な静寂が町に訪れていた。

 水族館に行ったときはそういった施設もあるので騒がしいくらいだったが、今となってはそれが恋しくなるほど静かである。通行人の量は大して変わりないのに、ここまで静かなのは異常としかとれない。


「どうした、お前やけに喋るじゃないか」


「緊急事態ですしね。それでその、なんだか通行人のみなさんがこっちを見ている気がするんですけど」


 神奈が「なに?」と言いつつ周りをよく見てみると、道を歩いていたはずの通行人が自分達を見ているのに気付く。スーツを着たサラリーマンが、犬の散歩をしていた女性が、特にこれといった特徴もない男性が、アイドル命と書かれていた鉢巻きを巻いている太った青年が、神奈達の周囲にいる全員が無機質な目で二人を見ていた。

 あまりにも異常な光景で軽くホラーである。


「おいまさか……」


「ねえ、神奈ちゃんこの人達皆刃物持ってるよね?」


 笑里の言う通り、光を映していない通行人達は全員がカッターナイフや包丁を持っている。警察が通りかかれば、二度見してからの逮捕劇が始まることだろう。


 何か強烈に神奈は嫌な予感がしたので、笑里と一緒にこの場を離れようと動き出す。だがおかしな人間達も付いてくる。

 疲労からではない汗を垂らしている神奈達は走り出す。――当然の如く虚ろな瞳の人間達も、各々刃物を振り上げながら追いかけて来た。


「うおおおお! なんだこいつらは!」


「あの人達なんだかおかしいよ!?」


「そんなことは分かってるんだよー!」


 動揺していても身体能力の高い神奈達に、普通の人間が付いてこれるわけがなく全員引き離された。

 二人はこれで一安心かと思っていた――が現実はそう甘くない。二人は上空にいくつもの薄い紫色の球があるのに気が付く。


「なんだろうあれ……花火?」


「……おい、まさかまさかまさか危ない避けろ笑里いい!」


 神奈の叫びで笑里も避けようと後方に跳ぶ。

 上空に浮かんでいたのは魔力弾だ。それらが一斉に神奈達に向かって降ってくる。魔力弾の威力は高く、一つ一つが道路に小さくないクレーターを作っていた。


「こんなものを誰が……」


「神奈ちゃん、あそこにいるのって」


 すぐ近くにある民家の屋根に立っている人影を笑里が指す。


「……おい、何してるんだ坂下君、南野さん」


 立っていたのは坂下と葵だった。

 二人の瞳は先程の人間同様、光を失っている。


「このままじゃ……よし、笑里」


 状況を打破する策を思いついただろう親友に笑里は振り向く。


「作戦がある、この状況を打開するために賭けに出るぞ。策は――」


 秘策の内容を神奈が内緒話するように耳元で告げると、笑里は「えぇ、大丈夫かなあ?」と不安そうに呟く。

 しかしいくら不安だろうとこの不思議な状況をどうにかしたいのは笑里も同じ。他に策もないので協力することにした。


 坂下と葵はそんな二人に魔力弾を作り出して攻撃し続けた。

 道路を粉々にしながら何も言わずただ攻撃し続けた結果――神奈達は死んだように地面に倒れ込んだ。それを見て攻撃を止める坂下と葵は棒立ちの状態になる。


「ふう、ようやく仕留められたか」


 コツコツと足音を立てながら、シルクハットを被った男が倒れた神奈達に近づいて来る。

 神奈達が倒れているのを確認した男は、面倒そうに携帯に手をかけてどこかに連絡をしようとした――そのとき、起き上がった神奈が手加減した手刀を背後から繰り出し気絶させた。


「ふう、ようやく出てきたか」


「うまくいったんだねこの作戦」


 神奈達はわざと気絶したフリをしたのだ。

 この状況、自分を狙う者達は何かで正気を失っている。しかし目的は理解できている、神谷神奈と秋野笑里の抹殺……これが全員の共通している目的だ。それがなぜかは分からないが、確かなことはこの洗脳のようなことをした人物が神奈達を監視しているということである。自分で手を下さない人間ならば相手を仕留めたか確認するのは当たり前。神奈達はそれを利用して、わざとやられたフリをして犯人を誘い込んだのだ。


「色々危なかった賭けだったけどな……さて」


 シルクハットの男を縄で縛り、神奈は近くから持ってきたバケツに入っている冷水をぶっ掛けた。

 冷水により強制的に目が覚めた男はこうなった経緯が分かっておらず、捕縛されている状況に狼狽えている。


「なっ、なに? 僕は……負けたのか」


 すぐ冷静になって己の敗北を男は悟る。

 落ち着くのを待っていた神奈は問いかけた。


「なんでこんなことをした? いやそれよりも、お前が操っていた人達を元に戻してもらおうか」


「……心配しなくてもあれは数時間もすれば解けるって」


「で、なんでこんなことをしたんだ?」


「……君ら二人を生死問わずに捕まえれば一億出すって言われたんだよ。僕は殺し屋だから依頼が来たんだ」


「依頼? その依頼って誰からだ?」


 当然のような質問攻めに男は嫌な顔をする。


「言えるわけないだろ? 殺し屋だってプライバシーの保護くらいする……いや殺し屋だからするんだ」


 神奈と笑里は口が堅そうなこの男にため息を吐く。

 諦めたと男は思っているだろうがそれは違う。


「言え、ここで死にたくなければな」


「言わなきゃ痛いことしちゃうからね?」


「な、な、な、君らは外道か! そんなんだから殺しの依頼されるんだよ!」


 まさか脅迫されるとは思っていなかった男は慌てふためく。

 葛藤している男に神奈は「いいから言えよ」とダメ押しする。


「君達を殺そうとした依頼人はた――」


 情報を流そうとした瞬間、男のこめかみに銃弾がぶち込まれた。

 予想外だったので神奈は銃弾に気付くことができず、なんの情報も得られないまま男が即死してしまう。すぐに周囲を見渡しても怪しい人物は存在しない。


 ショックを受けた笑里は呆然としていて「うそ……」と呟く。


「殺し屋のルールか……悪いことしたな、まさかこいつも監視されてるとは思わなかった」


「……結局誰だったんだろうね、私達を殺そうとした人」


 誰だか分からなかったモヤモヤを抱えながら、神奈達は帰ることになった。



 * * * 



 今日の結末を麗華は自宅にて報告されていた。


「あらそう、結局失敗したのね……」


「はい、殺し屋の中でもかなり上位に存在する男だったのですが。催眠術を屈指して周囲の人間を操り殺させる、そんな殺し屋でさえ殺せなかった少女達。正直おかしな話です」


 才華の傍にいる二人を抹殺する計画。麗華は実行のため、大量の殺し屋を再び雇っていたのだ。


「というか水族館で誰も仕掛けなかったから今日は中止にでもなったのかと思ったわよ! 他の殺し屋は何してたの!?」


「ええっと……蜂使いのビートルは所持していた蜂の巣に水がかかって帰りました。鎖使いのチェーンは鎖が錆びそうとか言って帰りました。鳥使いのバードは入館出来ずに帰りました。ニンニク使いの……」


「ああもういいわよ! 要は全員来れなかったってことね! クビよクビ、そいつら一応プロなのよね? その無能ぶりにこっちがお金請求したいくらいよ!」


 頼りにならない殺し屋達に怒るのは無理もない。

 怒る麗華に運転手の男はさらに怒らせる情報を追加していく。


「あの〈血みどろ三羽〉と呼ばれた殺し屋界御三家の一角、隼家には依頼を断られてしまいました。それにかの伝説である鴉という殺し屋にも接触できず――」


「だからもういいわよ殺し屋は! だいたい『あの』とか『かの』とか言われても知らないし、どうせそいつらも大したことない連中なんでしょ!」


 運転手の男は今日の出来事の報告を終え、次の報告に移る。

 正直本人は運転手のすることではないと常々思っているのだが、それを口に出せるはずもない。


「藤原堂一郎の持つ企業の一つで準備が整ったそうです。今から情報をこちらに送ってくれるそうで」


「あらそう……ではそろそろ、宣戦布告の日を決めなくてはね」


 機嫌が少し良くなったことに運転手の男は安堵した。







腕輪「急にホラーに路線変更したのかと思いましたよ」


神奈「そうなったらこの作品の設定からして地獄になるだろうな」


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