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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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99 遊園地――抹殺計画――


 神奈、笑里、才華の三人は休日に遊園地に来ていた。

 以前服装についてうるさく言われた笑里と神奈は、きちんと中高生向けの雑誌を見て準備して来た。三人は揃ってからすぐに入園料を支払い、遊園地内に入っていく。


「楽しみだね神奈ちゃん! 才華ちゃん!」

「そうだな」


「そうね、私ジェットコースターに乗ってみたいわ」

「そうだな」


「……あの、神奈さん? テンション低くない?」

「いや、そんなことないぞ」


 神奈が乗り気ではないのには理由がある。

 魔法が使えるためアトラクションがあまり楽しめないのだ。空を自由に飛べるのでジェットコースターなどの絶叫系は楽しめず、観覧車から見える景色などいつでも見れる。お化け屋敷も幽霊が見える神奈にとってはただの屋敷。以上のことから、あまり来たことはないが遊園地という場所はあまり好きではない。


「ほら早く行こうよ」


「え、ええ行きましょう」


 どう見てもテンションが低い神奈にたじろぎながら才華も後に続く。

 ――そして、神奈達が入っていくのを見届ける人物がいた。


「お嬢様、行きましょう」


「ええ、フフ……今日が貴女達の最期ね」


 サングラスをかけて変装した気になっている麗華だった。運転手であるはずの男も駆り出されてお供している。

 麗華は今日、とある作戦を実行しようとしていた。


「しかし本当にいいんですか? 遊園地で殺人なんて他の客のいい迷惑ですが」


 事前に遊園地のチケットを三枚、高三野女学院の才華の席に置いたのである。当然自分が用意したとバレないよう注意した。

 それにより決行されるのは――神谷神奈、秋野笑里の抹殺計画。


「構わないわよ、それより大丈夫なの? 用意したプロのスナイパー達は」


「ええ、全員持ち場に着きました。対象がどのアトラクションに乗っても射殺できます」


「結構。さあ、才華さんに近寄る羽虫が死ぬ瞬間を見届けるわよ」


 麗華が意気揚々と遊園地内に入り、運転手の男もそれに続く。

 彼の「果たして上手くいくかな」という独り言は誰にも拾われない。



 ――遊園地内。神奈サイド。


 どうして今日遊園地に来たのかを神奈が尋ねると才華は素直に答える。

 なぜか知らないうちに机上に遊園地のチケットが三枚置いてあったこと。

 クラスの生徒に知らないか訊ねてみたが誰一人知らなかったこと。

 つまり自分への贈り物だということ。

 高三野女学院の生徒達にとっては、人気の生徒に物をプレゼントするのはよくあることである。


「さあ、やっぱりまずはミラーハウスね」


「なぜやっぱりそこいった?」


「えっと、楽しみじゃないものから先に行こうかと」


「じゃあ行かなければよくない!?」


 神奈達はミラーハウスに入る。

 ミラーハウス。壁が鏡という状態での迷路のようなものである。全方位から自分の姿も含め、道が鏡の奥にまで反射して映し出されているので、どちらに行けばいいのか分からないのがこのアトラクションの醍醐味だ。


「わああ、私がいっぱいいるよ神奈ちゃん!」


「そりゃ鏡だからな」


「どれが本物なんだろうね!」


「本物はお前しかいないだろうが!」


「……期待を裏切らないボケとツッコミね、二人とも」


 笑里は鏡に映り込んだ無数の自分に驚いて混乱している。

 脱出は出来たが、脱出するまでにハプニングが発生。笑里が道だと思って突進したせいで鏡にヒビが入ってしまったのだ。弁償代は才華が払った。



 ――ミラーハウス外。麗華サイド


 対象がのこのこと何も知らずにアトラクションに向かったので、麗華は邪悪な笑みを浮かべて指パッチンする。


「さあ、ついに邪魔な女を排除出来るわ……やりなさい」


「無理ですね」


 ちょっと混乱して「え?」と返す。


「いやだから無理です」


「どうしてよ、さっきどのアトラクションでも射殺出来るって」


「さすがにミラーハウスは無理ですよ。乗り物系統なら間違いなく出来るらしいですが」


 ミラーハウスは迷路のようなものだ。それに建物である以上、外からの狙撃はプロであっても難しい。最初から出鼻を挫かれたので「ああ、そう……」と麗華のテンションは落ちこんだ。



 ――コーヒーカップアトラクション順番待ち。神奈サイド。


 三人は次なるアトラクションに進む。

 三人が向かったのはコーヒーカップ。

 コーヒーカップを模した乗り物で、ハンドルを回すとその方向に回転するものだ。


「コーヒーカップがあるね、珈琲はどこ?」


 そして一番最初に出た笑里の言葉がこれである。


「あるわけないだろ」


「え、じゃあ珈琲飲めないの!?」


「飲めないよ!?」


「あの笑里さん、いくらなんでも知らなすぎじゃないかしら」


 さすがに何かのボケであると感じた才華は一応確認してみる。

 遊園地というのは有名で誰もが知っている場所だ。そのアトラクションも同じくらい有名なので全く知らないことなどありえないだろう。


「ええそうかなあ。やっぱりこういうところって家族か友達としか行く機会ないからね」


「そうだったわね……笑里さんのお父さんは」


 すでに死亡している。思い出して悲しそうな顔になる才華だが、実際は笑里の後ろに幽霊としてしっかりと存在している。なんの力も持たない才華の目には見えないだけだ。


「いやそれにしても知らなさすぎだろ。もうこれ一般常識として知っておかなきゃヤバいレベルだぞ」


「うん、珈琲が飲めるんだよね」


「だから飲めないって言ったよね!? 話聞いてた!?」



 ――コーヒーカップ順番待ち。麗華サイド。


 笑里の想像を超えていた頭の悪さに麗華は頬を引きつらせる。

 庶民の遊技場など興味ないとして、来たことがない麗華でさえどのようなものかくらい知っている。


「あ、あんなのが友達……」


「想像以上のアホですね」


「そうね、それより今度は大丈夫なんでしょうね?」


「ええ、コーヒーカップなら一人ずつ狙えます」


 神奈達は三人で一緒のコーヒーカップに乗り、ハンドルを回し始めた。

 三人はわくわくしているが、列に並びながら今か今かと射殺を待つ麗華は違う意味でわくわくしている。しかしいつまで経ってもその時は訪れない。


「あ、いやこれ無理っぽいです。才華さんに当たる可能性があるということで」


「それくらい当てなさいよ! 本当にプロなのよね!?」


「ええ、百メートル先の蟻にさえ銃弾を当てられる者達です」


「それは凄いけど! それを活かしなさいよ!」


 どんなにすごい技術も生かさなければ宝の持ち腐れ。腕利きなのだから早くしろと内心で愚痴を零す麗華。

 だが運転手の男からの返答は無慈悲なものであった。


「無理なようです、あれ見てくださいよ」


「あれ? ええ!?」


 麗華が再び神奈達に目を向けると、猛スピードで回るコーヒーカップがあった。

 もはや麗華の動体視力では追えないくらいの速さであり、プロのスナイパーでさえあまり追えていない程だった。その原因は紛れもなく笑里である。


「笑里いいい! 回しすぎだああ!」

「笑里さあん! 抑えて抑えてもっとスピードを落として!」


 笑里は腕のみ残像を作り出す程とんでもない速さで回している。

 さすがにこれには神奈も文句を言っており、才華に至っては目が回って上下左右さえ分からない状態になっていた。そこまで行くと楽しさは吹き飛び、感じるものは恐怖だけになる。


 コーヒーカップも終わり、三人は次のアトラクションに向かっていた。

 神奈と才華の足取りは重い。二人の目は未だにグルグルと回っている。


「つ、次はどうする?」


「そうね、次はお化け屋敷よ」


 定番とも呼べるアトラクションに対して神奈は「……お化け屋敷ねえ」と呟く。


「あれ結構不満そう? 笑里さんも?」


「うんまあ私達幽霊見えるからね。今もこの辺りに十八人くらいはいるかな?」


「昼の遊園地に十八人も!?」


「まあそういうわけでそれはパスだな」


 本物が見える人間がわざわざ偽物を見に行く必要はないだろう。

 予想外の理由と現実に動揺する才華だが、すぐさま次の行先を決める。


「じゃあジェットコースターよ」


「やっとだね!」


 神奈は不満そうだが、反応からするに他二人が最も楽しみにするアトラクション。

 ジェットコースター。説明不要の乗り物。

 麗華は神奈達が乗り込むのを見てチャンスだと興奮する。


「さあ、ついにこの時が」


「無理ですね」


「なんで!? いや、だって入るとき乗り物ならいいって言ってなかった!?」


「さすがにジェットコースターは無理です。あれを見てください」


 麗華はジェットコースターが走っている方を見やる。

 才華達が楽しそうに乗っているだけで特に異常は見つからなかった。コーヒーカップの様に自分で操作するものではないため、笑里の身体能力は関係なくなるので異常などあるはずもない。


「何もないけれど」


「いえ、あの才華さん達の後ろの客が問題なのです」


「後ろの客? ああ、あの人達に当たってしまうから……」


「いえ、あの後ろの人達は全員スナイパーなのです」


「全員スナイパー!? え、あれ全員そうなの!?」


 神奈達が乗っているのは一番前だが、それより後ろの席は全員スナイパーだったのだ。そして肝心なこの時、彼等は銃を所持していなかった。


「ちょっと待って! なんでスナイパー達が遊んでるの!?」


「彼等も息抜きは必要ですからね」


「それって今必要だったかしら!?」


「安心してください、ちゃんと降りてから元の位置に戻りますので」


「それじゃ遅いわよ!」


 結局スナイパー達が何も出来ず、神奈達はジェットコースターを降りてしまう。



 ――遊園地内観覧車付近。神奈サイド。


 笑里と才華が一番楽しみにしていたジェットコースターを降りたので、三人は感想を言い合う。……神奈も結局楽しく乗れた。自分で飛ぶわけじゃないからか、景色は変わらずとも新鮮な気持ちになれた。


「楽しかったわね」


「ビューンっていってビョオオっていってよかったね!」


「語彙力死んでんのか?」


 神奈達は夢中で遊んでおり現在が夕方なのに遅れて気付く。

 オレンジ色の光が三人を照らす。三人は時間的に最後のアトラクションになるだろう観覧車に乗り、高い場所からの綺麗な景色を見ようと決めた。

 順番待ちは意外とすぐになくなり、三人で観覧車へと乗り込む。


「今日は楽しかったな……でもこうして三人で会える日も少なくなっていくのかな」


 ふと夕焼けで綺麗な景色を眺めながら神奈が呟く。


「ええ!? 私そんなの嫌だなあ……」


 会えなくなると神奈が思った一番の原因は才華だ。

 中学生になってから副社長代理として働いていて、貴族が通うような学院に行き、多忙な日々を送っていることを知っている。一般家庭の神奈や笑里とは生活が違いすぎる。


「大丈夫、休み中は会おうと思えば会えるから」


「でも忙しいんだろ?」


「二人に会うためなら仕事くらいちゃちゃっと終わらせるわ、大丈夫よ」


 副社長代理といっても本当に仕事を全てやっているわけではない。本物の副社長はいるので、もしやりきれないと判断したなら本物にやってもらって全然構わないのだ。もちろん手抜きなど才華はしないが。


「……ん?」


 笑顔を才華が見せたとき――ゴンドラのガラスが割れた。

 割れる理由は一つ。外部か内部から強い衝撃が与えられたこと、そしてこれは確実に前者である。

 予想外な事態で窓ガラスが割れ、中に散乱することによって才華から悲鳴が上がる。笑里と神奈も少し驚きはしたが――見えていた。


「なんだこれ」


 凶弾が神奈の額に吸い込まれようとしていた。

 驚異的な身体能力、動体視力により、銃弾が自身の頭に飛んでくることを察知した神奈は素手で掴み取る。そして握ると銃弾は丸まった紙くずのようになった。


「才華ちゃん、大丈夫?」


 一方、笑里は自分達に向かってきたガラス片を全て叩き落した。


「う、うん……大丈夫」


「そっかよかったあ。それにしても観覧車ってすごいんだね、いきなりガラスが割れるんだもん」


「おい全ての観覧車がこうなるわけないだろ。ていうかこうなっちゃいけないだろ」


 冷静にツッコミを入れる神奈の視線は二人に向いていない。

 鋭い瞳が射抜く先にはサングラスを掛けたスナイパーらしき男がいた。




 ――遊園地出口。麗華サイド。


 動きの遅い観覧車となれば絶好の機会。

 射殺の指示をスナイパー達に出し、見事ゴンドラに命中した。

 周囲がざわつくなか、観覧車から降りてきた神奈達を目にして麗華は困惑する。


「ちょっと? どういうこと?」


「さあ、俺にもさっぱり分かりませんが」


 確かに神奈達が乗っていたゴンドラに銃弾は命中した。それでも傷一つ負っていないということは明らかにスナイパーの実力不足。麗華はそう判断し、雇っていたスナイパー全員にクビを言い渡す。

 神奈達は無傷で帰ってしまったので、麗華も運転手の男を連れて帰ることにする。


「咄嗟に銃弾を掴んだあの身体能力……やはり奴がエクエスを倒したというのは……」


 一瞬歴戦の戦士のような雰囲気を出した運転手の男は神奈を睨んでいた。


「何してるの! 早く帰るわよ!」


「はい、ただいま行きます」


 彼の雰囲気はすぐ元に戻って一応の主人である麗華に付いてきた。

 今日はスナイパーのせいで成功しなかったが麗華は諦めない。

 いつか才華に近寄る蛆虫を始末するまで決して諦めたりしない。


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