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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
252/608

97 弱者――ざまあみろ――


 微笑んだグラヴィーに神奈が声を掛ける前に――その顔へと拳が叩き込まれた。

 グラヴィーは何度も白い床を跳ねて吹き飛んでいく。


「ふざけるな、俺様の誘いを断るなどありえん! 俺は王だ、偉いんだ!」


 もう操縦室から見えなくなった相手に対してバルトがキレる。

 グラヴィーの優しい笑顔なんて神奈は初めて見た。目上の人間、いわば上司のような者の誘いを断るほど地球を好きになっていたなど初めて知った。


 つい先程までは怪しかったが、今なら友達であると神奈は断言できる。

 ――友達を殴った目前のバルトを許しはしない。

 神奈は「おい」と周囲を底冷えさせるような低い声を出す。


「なんだ女、そういえばさっきからいたな。グラヴィーの恋人か? それなら俺様の物だな……そらどうした? 膝まづいて足を舐めろ……いやそれは汚いから止めるか」


「……恋人じゃない」


「ん? ならなんだ?」


「友達だ」


「ほう、俺様もだよ」


 違うと神奈は断言できる。

 バルトはグラヴィーを下に見ている。力で強制している。

 友達は対等であるべきだ。力で脅してなるようなものではない。


「お前は正直吐き気がするほどのクズだ。殴る前に一つだけ聞かせてくれ。お前がグラヴィーの友達とやらになって一番の思い出はなんだ」


「は? さあ、なんだったか……あいつの家にいた動物を切り刻んだこと……ああ、あいつと一緒に弱者を甚振った時かな。いや……あいつ自身を殴ったときも俺様は」


「このクズがああああ!」


「へっ? ぶしゅあ!?」


 接近した神奈はバルトを押さえ――額同士を激突させた。

 本当なら拳で殴りたかったのだがその場合は宇宙船を壊しかねない。これからこの宇宙船を乗っ取るにあたって、自分で破壊したのでは意味がなくなる。人命がかかっているので、怒りはあれど冷静さは保っているのだ。

 バルトは白目を剥き、口から泡を吹き、膝から崩れ落ちる。


「友達という言葉を奴隷か何かと勘違いし、弱者を見下すしか出来ないお前は本物のクズだ! 友達なんて言葉を使う資格すらお前にはない!」


 グッタリと動かないバルトに神奈は叫ぶ。

 それから殴られたグラヴィーを見つけにいき、気絶しなかったものの相当なダメージであることが本人の様子から察した。一人では立ち上がれないようなので肩を貸し、眉間を赤く腫らした彼と一緒に操縦室まで戻る。


「……ああ、やはりこうなったか。ふん……ざまあみろ」


「お前も厄介なのと昔いたんだな」


「……忘れられない程憎い人間だ、本当なら今すぐ殺してやりたい……でも今はこの星から脱出するのが先だ」


 レイのためにも急がなければならない。神奈は「そうだな」と返すとバルトの傍まで行き、無防備な頬へ高速で往復ビンタをかます。

 残像が見えるレベルの往復ビンタを喰らったバルトはあまりの痛みに起きて叫ぶ。


「い? いってえええ!?」


「起きたな、あとうるさい」


「ぐべっ!? て、テメエ何すんだ。グラヴィーこの女を止めろ! 俺様は友達だろ!?」


 痛みにより両頬を腫らし涙目で睨むバルトだが、睨まれたグラヴィーの反応は素っ気ないものである。


「友達? 笑わせるな、お前を友と思ったことなど一度もない」


「なんだとっ、くそがっ、お前とは絶交だ! そこの女も含めて俺様の玩具にしてやる!」


「ふん……そこの女、か。おい、お前の出身を含めて教えてやれ」


 悪い笑みを浮かべたグラヴィーを見て神奈はそういうことかと納得する。

 紛いなりにもトルバの王だというのなら当然、あの男のことも知っているはずだ。そしてあの男が最後に向かった星も知らなければおかしい。


「私は神谷神奈。地球から来た」


「ついでにその女はエクエスを倒した張本人だぞ」


「地球!? エクエス!?」


 想像通り、かの最強の戦士の名前は強力だ。

 知っている者からは恐怖の象徴になっている。


「……地球、まさかあの最高危険度の星の住民とは……強いわけだ、俺様を一撃で倒したことに納得がいったぜ」


「分かったなら僕達を惑星コロンまで送っていけ。いやこの船を明け渡せ」


「な、何を!?」


 グラヴィーが神奈に目線を送る。

 力で脅せという意思が込められていることはすぐに理解した。


「もう一発喰らうか? 今度は手加減しないぞ。その体が木端微塵に弾け飛ぶことになる」


「ひゅいっ!? わ、分かったこの船はお前達にやる! だからその拳を引け!」


「賢明な判断だな。ザンカーの人達に迷惑掛けるなよ」


 バルトは部下と一緒に宇宙船を降りザンカー人に降伏していた。これは神奈が迷惑云々と言ったからだろう。

 白旗を上げたバルトは、トラウマを植えつけられているせいで抵抗せずザンカー人達に甚振られる。部下達が抵抗しようにもバルトが止めるせいで一緒に甚振られる。


 散々見下していた弱者にバルトが叩きのめされるその光景を、グラヴィーは冷めた目で見届けていた。


「さてと、船も手に入ったしコロンに急がないとな」


「どうやらこの船は最新のようだ。これなら僕等が乗っていたものより二倍は速度が出るだろう。遅れは取り戻せる」


「一時はどうなることかと思ったなあ」


 空腹なことを忘れていたが、そこで「グ~」という音が二人分鳴る。

 二人は顔を見合わせて微かに笑うと冷蔵庫を探して徘徊し始めた。




 * * * 




 一時期宇宙船を失ったが、結果的に性能が高い機体を手に入れた神奈達。

 バルトの侵略行為から惑星ザンカーを守り、トラウマを植えつけたうえザンカー人の奴隷にしたと聞けば第三者は酷く感じるだろう。だが、それ相応の罪をバルトがしてきたので罪悪感など二人にはない。


 再び星々煌めく宇宙空間へと旅立った神奈達は、新鋭の宇宙船の機能を確認した。

 部屋の位置などは少し前に乗っていた宇宙船と変わらず、変わっているのは機能面のみ。この宇宙船にはなんとスペースデブリを粉砕する波動砲が備わっている。その他諸々パワーアップしている設備も魅力的である。


 洗濯機。もはや水で洗わず、菌や汚れだけを特殊なレーザーで消滅させる。

 テレビ。宇宙放送局のあらゆるチャンネルを視聴可能。

 キッチン。料理を入力すると、用意された材料から全自動で調理してくれる。

 操縦室モニター。三百六十度全方位を見れる広範囲モニター。


 未来的な設備機能に神奈達は驚きを隠せない。霧雨の実家など比べ物にならないくらい未来感が溢れている。……もっとも霧雨なら将来作ってしまいそうな気もするが。


 機能確認も終了し、神奈達はしばらく宇宙旅行を楽しむ。

 レイが死にかけているのは忘れていないので、出来る限りの範囲でだ。

 何事も楽しまなければストレスが溜まる一方。特にグラヴィーはバルトの一件で精神的疲労があるため、何も考えずに神奈とカードゲームをしたりしている。……何も考えていないので当然敗北を喫する。


 ――惑星コロンには三時間程で辿り着いた。

 宇宙から見たコロンは地球の青と緑が反対になったかのような、一面緑の星。


 適当な草原に降り立ってから星を探索するとコロン人を発見する。

 見つけたコロン人は長方形のようなロボットそのものであった。

 当然言語は通じないので話すなら〈ホンヤック〉を使用する必要がある。


 予想通りというべきかコロナ草はコロン人が予備で持っていた。しかしコロン人は機械生命体なので病気にかからないらしい。神奈はそれをどうにか譲ってもらえるよう頼むが、なかなか「ハイ」と言ってもらえない。


「どうしてもダメですか!?」

「ダメ、ゼッタイ」


「どうしても!?」

「ダメ」


「ど――」

「ダメ、サッキカライッテル」


 コロン人は温厚な種族だとグラヴィーが告げていたが、目前にいるコロン人は神奈が頼みすぎて今にも爆発しそうだった。

 そこでため息を吐いたグラヴィーは「仕方ないか」と呟く。


「マテ、アキラメルナ。マダダイジョウブダ!」


「言葉が移ってるぞ。それに諦めるわけじゃない」


「……どうするんだ?」


「僕が地球を好きになった理由の一つだ」


 そう言うとグラヴィーは懐からどら焼きを取り出した。

 予想だにしていない物が出たことで神奈は驚愕する。


「いやまさかの食べ物!?」


「美味いものを食べれば怒りも収まり、穏やかになれるだろう」


 本当にそうなるか半信半疑の神奈を置いて、グラヴィーはどら焼きを差し出す。


「すまないコロンの民よ。これは僕からのお詫び、地球の旨味溢れる食べ物だ」


「タベモノ……」


 差し出されたどら焼きを手に取り、恐る恐る口にしたコロン人は――いきなり跳びはねた。


(いやなに急にどうした!? 十メートルは垂直に跳んだぞ!?)


 理解不能な行動に神奈は心の中で叫ぶ。

 どら焼きを食べて跳びはねるなど誰も想像しない。

 ガシャンと音を立てて着地したコロン人は興奮しているようだ。


「ウマイ、コレ、モットアル!?」


「二つ目をやる代わりにブツを――」


 グラヴィーが最後まで言う前に、コロン人が二個目のどら焼きを奪って口に含む。

 そして幻覚だろうか……コロン人はどら焼きを食べた瞬間に魂が抜けだした。機械でもなぜか着ていた服が消えて全裸が空中に浮かぶ。そして喘ぎ声のようなものを上げて満足そうに昇天していく。


「コレ三個目食べたら死ぬんじゃ……ていうかもうヤバい! 戻ってこい!」


「なっ……! コロナ草と取引だと言っただろうが!」


 言っていない。正確には言い終わっていない。


「ワカッタ、ソンナニイウナラシカタナイ。ドラヤキトヤラモタベテシマッタシ、タノミキイテクレタラ、コロナソウヲヤル」


「頼み? 何か困ってるのか?」


「……アレヲミロ」


 不気味でごつい宇宙船が一隻飛び立っていく光景。

 遠くに数十隻はあって、白いパンツの絵が全ての船に描かれている。


「あれは?」


「ブリーフ、ソウナノルモノガスコシマエニヤッテキタ」


 人型ロボットの見た目なので表情の変化は微々たるものだが、静かに発された声は忌々しそうなものである。


「ブリーフだと……まさかあの帝王がこの地にやって来ているとは」


「誰だよ、知ってんのか」


 グラヴィーは知っているようで表情を強張らせながら語る。


「宇宙の帝王ブリーフ。この宇宙空間で広範囲の経済を支配している者の名だ。地上げ屋が主な仕事のはずだが……なるほど、コロンにある数多の薬草についに目をつけたのか」


「そんなやつがいるのか。もしかして困っていることって、そのパンツみたいな名前のやつのことか?」


 トルバの実例があるので侵略という線がある。

 逆らえない力で屈服させ、その星の生産品を横暴にも取り上げるやり方なら神奈も許せない。


「ソウ、コノママランカクサレタラ、ヤクソウガトレナクナル。ソウナルトコレカラノシュウニュウガナクナッテ、スゴクコマル」


 薬草が採取不可能になるまで取り尽くされるのなら困って当然だ。

 他所から来た神奈達だって困る。コロナ草がなくなったらインフレを治療することが出来なくなってしまうのだから、宇宙中の者が困るだろう。


「アノオトコ、オイダシテクレタナラ、コノコロナソウハヤル」


「ああ、傍迷惑な奴みたいだしぶっ飛ばしてやるよ」


 コロン人が手に持つ青白い草を一瞥して神奈は宣言する。


「――おやおやいけませんねえ」


 そんなとき、知らない声が神奈達に掛けられた。

 全員が振り向くと人型の生物がいた。筋肉のついた白い肉体で、太い尻尾が生えていて、なぜかパンツ一丁の男。宇宙でも露出狂は存在しているらしい。


「ブ、ブリーフ!」


 ギュピッ、キュピッという音を立てて歩く男こそ、今話題に出ていたブリーフ本人であった。


「どうも初めましておバカさん達。私は宇宙の帝王ブリーフというものです。以後お見知りおきを」


 丁寧にお辞儀までするブリーフは社会人といった雰囲気。


「ふふふ、それにしてもコロン人の君。私の許可なく貴重なコロナ草を、どこの誰とも知らない馬の骨に渡そうとするなんて、ちょおーっと意識が低いんじゃないかな。この緑の星にある薬草全てはこのブリーフが管理すると、そう君達と決めたじゃあないか」


「ジョウダンジャナイ……コノママデハヤクソウガトレナクナルンダゾ!」


「知らないねそんなことは、それならそれで残りを高値で売るだけだよ。まあ私が管理する星で育て、量産を研究する企画が出ていてね。そうなったらこの星だけの特産物がなくなるわけだけど……どうでもいいよね」


 賢いと同時に愚かな思考でもある。

 貴重な薬草をコロン人の手を借りずに育てられれば確かに莫大な利益となる。それでも失敗し続ければ薬草自体が絶えてしまうし、多くの者達が困る。この星の薬草を一時の商売道具としか思っていないゆえの発言だろう。


「勝手なことを言うなよパンツ男。今すぐこの星から出ていけ」


「誰だい君。異星人がいるのは珍しいな」


「神谷神奈、地球人だ。コロナ草を求めてきた」


 地球という言葉に反応することなくブリーフは舐めた態度を止めない。

 バルトと同じようにビビッてくれないかと思ったのだが、辺境の惑星である地球を知っている者は限られる。


「地球、聞いたことがないね。そっちの彼は?」


「グラヴィー」


 興味をなくしたブリーフが神奈の隣に視線を移す。

 そして意外なことにグラヴィーの名前を聞くと反応があった。


「なに、グラヴィー? その名前はもしや……トルバ人か?」


「どこらへんにトルバの要素があんの?」


 戦闘民族であるトルバ人の悪名はかなり広がっている。宇宙の帝王とまで言われるような者が知らないはずがない。


「くふっ、なるほどねえトルバ人か。君達が私相手に強気になる理由も分からなくはない。トルバ人は戦闘民族……強いことしか取り柄のないサルだからね」


 あんまりな言いように「なんだと」とグラヴィーは眉を顰める。


「でも中途半端な力を身につけた者はかえって早死にするよ。そいつを教えてあげようか? あのエクエスならともかく彼は死んだんだろう? トルバでこの私と対等に戦える者なんてもう存在しないのさ」


 言動からエクエスと同等だと暗に言っているが、神奈から見てそんな強さを持つように感じられなかった。見た目が原因かとも思ったがそれは違う。本当の強者というものは、戦い慣れた強者というものは神奈でさえ直感的に悟れるものだ。ブリーフからは全く強者の気配がしない。


「いいや、お前を倒せる者はここにいるさ」


「ほぅ、それは誰だい? まさか、君だなんて言わないだろう?」


「それこそまさかだ、僕が勝てると思うほど自惚れてはいない。お前に勝つのは隣の地球人だよ」


 告げられた内容を聞いてブリーフはきょとんとする。そして少しして嗤い出す。


「ぷっ、はははは! これは傑作だ! 私はくだらないジョークが嫌いなんだけれどそれは気に入ったよ。ふふ、聞いたことのない惑星である地球の民が私より強いと?」


「強いよ、断言できる」


 そう自信満々に言い放ったのは神奈である。

 なんとなくといったレベルでしかないが負ける気がしない。


「……ジョークもしつこいと笑えないね」


 笑みを消してブリーフは神奈達を睨む。


「私じゃ勝てないって?」


「当たり前だ、たった一匹の蟻が恐竜に勝てるとでも思ったのか。それともこの私がそれほど弱いとでも? 初めてですよ、ここまで私をコケにしてくれたお馬鹿さんは」


 怒気が当てられても神奈は動じない。

 宇宙の帝王と言われるくらいにブリーフは強い。当然グラヴィーやコロン人などよりも強い。決して弱いわけではなく、神奈レベルの者が規格外すぎるのだ。


「悪いけど一撃で勝てるね」


 さすがに調子に乗りすぎた。発言直後に少し言いすぎたかもと思う。


「よくそんな大ボラが吹けますね……くっくっく、いちいち癇に障るヤローだ! 虫けら共が、じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」


 挑発としては超優秀であったようでブリーフは突進してくる。

 高速で近付いてきたので神奈は拳を振るい、全く対応されなかったため顔面に拳がめり込む。

 単純な話、拳の速度が速すぎて見えなかっただけだ。

 鼻の骨がへし折れて動きが止まり、ブリーフはゆっくりと後退りしていく。


「ぐあああっ! なんだこの力は、この私の戦闘能力値は53000だぞ……それなのに……」


「うわ、本家の十分の一以下じゃん。フリ○ザに謝れよ」


「黙れ! 何と比べているのか知らんがこの俺を舐めるなよおお! いいか、このブリーフ様はなあ――」


「変身する度に戦闘力が上がるんだろ。予想してたわ」


「なっ、なぜ知っている!? まあいい、分かっているのなら恐れおののくがいい。変身をあと三回残しているが関係ない。大サービスでご覧入れましょう! この俺の最後の変身を……この俺の真の姿をなぶらっ!?」


 ――台詞が長すぎて我慢できず神奈が殴り飛ばした。

 大事なことを言っていたようだが神奈には関係ない。一応戦闘中であるにもかかわらず余裕をこいてペラペラ喋っているのが悪いのだ。


「き、貴様ああああ! こういった変身は待つのが常識だろうがああ! 親にどんな教育を受けやがったんだ!」


「知るかよ。ゴリキュアは相手の変身を待たないで殴るぞ」


「誰だそれは! く、くそ……せめて傭兵が、あのスピルドさえ雇えていればこんなことには……!」


 グラヴィーが「スピルド」という名前に反応する。


「宇宙最強の傭兵か……」


「その通り、エクエスと並ぶとまで言われた奴相手なら貴様らなど塵も残らんぞ! どこに雲隠れしたのか全く依頼を受けないが、奴さえいればなあ――」


「うるせええええ! さっさとくたばれやああ!」


 またもいきなり神奈の拳がブリーフの顔面にめり込む。

 今度は鼻どころか頭蓋まで砕ける音がして、穴という穴から紫色の血液を噴出しながら倒れた。死亡するのも時間の問題だろう。


 ブリーフはかつての悪人達のように神奈が殺せる相手なので、殺しても問題ない敵だ。それどころか殺したあとでも嫌悪感があり神奈は魔力弾をぶつける。大爆発が起こって、爆発の跡にはもうクレーターしか残らなかった。


「ふぅ、パクリ野郎は片付けた。綺麗な花火だったぜ」


「神奈さんもパクってますよね」


「これはオマージュだ、オマージュ」


 敵がいなくなったことで神奈はコロン人へと向き直る。

 依頼されたコロナ草を貰う条件は達成した。

 これでようやく手に入るのかと感慨深い気持ちになる。


「ほれ、ブリーフは片付けたぞ。コロナ草をくれ」


 一方、グラヴィーとコロン人は表情が引きつっていた。

 あまりに呆気なく宇宙の帝王が死んだことで現実味が全く帯びないのだ。

 文句などあるはずもなく、かといって急すぎて感謝しきれず、コロン人は微妙な表情で青白い草を神奈に手渡した。



  * 



 そんなこんなで見事コロナ草を手に入れた神奈達。

 地球へ戻るまでに宇宙船内でコロナ草をすり潰して粉状にする。


 地球に到着したら、喫茶店マインドピースに駆け込む。

 宇宙船に関しては大きすぎるので以前の山付近にとめるのではなく、ひと気のない広大な土地を探し出して着陸していた。着陸したのは無人島なので他者に見つかる可能性は低い。


 喫茶店内に用意された布団で横になっていたレイへ、粉末を水で溶かした物を飲んでもらう。

 どうやらかなりギリギリだったようで、あともう一日遅れていたら死んでもおかしくない状況だったとディストが告げる。

 数日後。熱も段々下がってきたというレイのお見舞いへ神奈は向かった。


「――というわけで私の活躍で見事コロナ草を手に入れたわけだよ」


 一通りの出来事を話すと、レイは「へえ、そうか。ありがとう神奈」と礼を言う。

 それに納得できないのかグラヴィーが怒り出した。


「ちょっと待て! 宇宙船を操縦したのも、コロナ草を貰うために交渉したのも僕だろう!」


「はあ? 私がいなかったらバルトとかいうのにやられてたし、隕石が衝突してお陀仏だっただろ?」


「まあまあ、二人がいなかったら僕も今頃ここにいなかったわけだし。二人が力を合わせてくれたからこうして元気になれたんだ。だから喧嘩はしないでくれ」


 レイの言葉で大人しくなる神奈とグラヴィー。

 二人でやった結果ということにして渋々納得する。


「神奈にはまた借りを作っちゃったね」


「いや、いいって。お前何かある度にそれだよな」


「僕は借りは返すよ」


「分かったよ、何かあったら頼らせてもらうって!」


 本当はそんな危機的な何かが起こらないことが一番である。

 今回にしても、メイジ学院での件にしても神奈の周囲はなぜか事件が起こりやすい。誰かの陰謀が神奈に引き寄せられているようだ。気のせいならいいが、事件を解決するというより起こしてる方のように感じてしまうときがある。


「神奈さん。それ、考えすぎです」

「……そうだよな」


 腕輪の言う通り考えすぎだろう。

 それでも不安は消えない。神奈が原因で誰かに危害が加わらないかという心配は……なくならない。







腕輪「神奈さん、それって主人公のほとんどが抱える悩みですよ。主人公の周りに事件起きなかったらただの日常系じゃないですか」


神奈「別にそれでよくない?」


腕輪「大丈夫です、この作品が終わればもう何も起こらないので!」


神奈「終わるとか一番の事件だろ……」


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