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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
七章 神谷神奈と企業決闘
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95 着陸――惑星ザンカー――


 隕石は砕かれた。砕かれたのはいいのだが、その破片の一部が宇宙船に向かっていってしまう。神奈がマズいと思ったとき、既に宇宙船の船体に破片がいくつも衝突してしまった。

 何か異常が出ていないか確かめるために神奈は急いで宇宙船内に戻る。


「大丈夫か!?」


「……ああ、恐らくな」


 宇宙船内に入った神奈は操縦室から警報音が鳴り響いているのが聞こえた。

 グラヴィーと急いで操縦室に向かうと、そこにはモニターに現在の異常が映し出されている。トルバの言語だったので神奈には読めなかったが、そこに表示されている絵で今何が起きているのかを大体察する。


 モニターに表示されていたのは宇宙船の一部が赤く点滅している絵だ。

 これはつまり、警報が鳴るレベルで損傷を受けているという事実。


「大丈夫じゃないじゃないか! 何が『ああ、恐らくな』だよ!」


「こ、これはまずいぞ……飛行機能がある部分が破損している! このままでは飛行出来んし、いつ制御不能になるか分からん! 今すぐ近くの星に緊急着陸するぞ!」


 グラヴィーも事態の重さを瞬時に理解し、慌てて着陸しようと操作を開始する。

 幸いにもすぐ近くに惑星があったので、動力が停止しないよう祈りながら向かう。

 近くにあった灰色の惑星は神奈が見たこともないものであり、危険な場所でないかとヒヤヒヤしていた。


 宇宙は未知。未だ謎が多い空間。

 他惑星にどんな生命体がいるのか、そもそもいないのか。

 人間が生きられるような環境なのか。

 分からないことだらけだが緊急着陸しなければ墜落してしまう。


 宇宙からその灰色の惑星へ、そして上空から地上へゆっくりと着陸する。

 神奈が窓から下を見ると地面はほとんどが灰色の粒で埋め尽くされていた。微かに見える大地は亀裂が入っている。遠くには巨大な火山のようなものもあり、生命体が住んでいるとは思えない場所であった。


 神奈達は宇宙船からから出て灰色の大地に立つ。

 誰もいないうえ火山以外何もない光景を見て、グラヴィーは顎に手を当てながら「……ここは確か」と呟く。


「おい、この星のこと知ってんのか?」


「――惑星ザンカー、火山が噴火し、火山灰で地表が覆われた惑星だ。昔トルバの図書館にあった資料で見たことがある」


 グラヴィーは空気が悪いのか口を押さえながら、今自分達が立っている惑星の情報を話し出す。

 改めて神奈が火山を見てみると、上から見たときから分かっていたことだがとにかく大きい。日本の富士山や、ヒマラヤ山脈にあるエベレストの標高よりも大きい。


「あんなものが噴火したらそりゃあ星全体に火山灰が行き渡っちゃうか」


「しかもあの山は三十年ごとに噴火しているらしい。その度避難するというのも面倒なのでザンカー人は地下に暮らしているそうだ。そうすれば火山灰の被害もないだろうからな」


 一面に火山灰が降り積もる想像をして背筋が凍る神奈だが、現状を確認するために宇宙船の話題を振る。


「それで宇宙船はどうだ? 治るのか?」


「……ああ、治る」


「嘘だな?」


「……ああ、治らん」


 神奈はグラヴィーの暗い表情から嘘だと気付く。

 彼は宇宙船の操作すら覚束なかったのだ。そんな彼に修理が出来るとも思えない。この星の環境にしても船を修理できそうな施設の存在など期待出来ないだろう。


 もう笑里や才華とも、メイジ学院の同級生含めた友達にも会うことが出来ない。それどころか見知らぬ星で生涯を終えなければならない。そんな非情な現実に押し潰されそうになり神奈は八つ当たりのように叫ぶ。


「じゃあ私達はずっとこの星で生きなきゃいけないのか!?」


「……そうとも限らない。この星の住人、地下シェルターを毎日掘り進めては出てきた化石を商売にしている。宇宙には化石収集家も多くいるからな。この星には毎月商業に使う貨物船が来るらしい」


「貨物船に乗せてってもらうってことか。……上手くいくかな、だいたい一か月もしたらレイが死んじゃうし」


 インフレという症状は一週間も経たず生命を死に至らしめる。とてもではないが一月など待っていられない。

 化石を運搬する貨物船が前回いつ来たのかは分からない。もしかすれば丁度今日で一月経つのかもしれないし、昨日来たばかりで来月になるのかもしれない。それが分からなければ悠長に待つことは危険だ。


「他に方法があるか?」


「はぁ、それしかないか……」


 あまりにも運要素が強い賭けだったが、その方法しか取れない以上神奈達はそれに賭ける。


 今から数日以内、できれば今日中にその船が来ることを祈りながら灰色の大地を歩く。

 しばらく歩き続けると神奈達はマンホールのような金属の蓋を見つけた。


「これが地下への入り口だ。確かこれは数百個はあったはず、その内の一つだが見つけられたのは運が良かったな」


 数百と聞けば多いようにも思えるが、広大な一つの星の大地にそれだけなら一つでも見つけるのは至難の業だろう。地球全体で数百あるマンホールをノーヒントで探せと言われているようなものだ。


 たった数十分、無言で歩き続けて見つけられたのなら幸運である。もっとも宇宙船が故障した時点で不運であるが。


 金属の蓋をグラヴィーが開けると、中は暗闇なうえ、ひたすらに長い梯子が設置されていた。


「うわっ、下が真っ暗だぞ。どこまで深いんだろ」


「深くなければ噴火の影響を受けてしまうからな。数十、もしかしたら数百キロはあるかもしれない」


「深いなあ、私先に行くぞ」


 暗闇を覗き込んでいた神奈が振り向いて告げる。


「別に構わないがなぜだ?」


「……考えても分からないか?」


 神奈は女子だ。性格は男のようだが一応性別は女である。

 好みでないためスカートはあまり履かないが真下に人がいたら気分が良くない。


「分かれよ。じゃ行くから」


「……? ああっておい!?」


 神奈はあろうことか軽い調子で飛び降りた。

 いったいどれだけ深いのか分からない暗闇の穴に、梯子を使わずとも問題ないというように飛び込んだのだ。これにはグラヴィーも驚いて狭い穴隙を覗き込む。


 神奈は狭い真下への通路を落下していき、明かりに照らされる地面が見えたら〈フライ〉で勢いを弱めてふわっと着地する。別にそのまま着地しても神奈は大丈夫だろうが、衝撃で地下シェルターが致命的なダメージを受けるかもしれないので止めた。


「さて、着いたはいいがどうするか」


 その場所は地下に出来ているとは思えない程普通の町だった。

 材料は土のようだが家も建てられていて、そこに住む者達は賑わい、しっかりとした灯りもある。正直地下の居住地区なんてどんなものかと思っていたが、想像をいい方向に裏切られた形で神奈は驚いている。


 何時間もするとグラヴィーも下りてきた。

 やはりあの梯子は相当長かったようだ。律義に梯子を使ってきただろう彼には尊敬の意を表す。


「おっそかったなあ、お前も飛び降りてくればよかったのに」


「それは僕が死ぬ。だいたい僕だってなるべく急いで、一歩一歩ではなく飛ばし飛ばしで下りてきたんだぞ」


「そうなのか……で、どうする。貨物船待つにしても仮宿がいるだろ」


「まずは貨物船の情報収集だ。ついでに泊まれる場所も探すぞ」


 神奈は「了解」と言おうとしたが、ある重大な事実に気が付いてしまった。

 情報を集めるのに必須ともいえるスキルが神奈にはない。コミュニケーション能力ではない、笑里と関わってからは微妙に向上している。本当に足りないものは――。


「私ここの言葉喋れないじゃん!」


 必須なのは意思疎通のための言葉である。


「そういえばそうだったな、僕は今から習得するにしろお前は邪魔だな」


「本当にお前らのその言語習得はおかしいだろ……」


 他惑星の言語が喋れない。普段宇宙人のレイ達とは日本語で会話出来ているので忘れていた事実。もはやこの宇宙の共通言語が日本語ではないかとまで錯覚していた。

 トルバ人は特有の能力で他惑星の言語体制を早めに習得できる。グラヴィーはその能力に長けていて、かつて瞬時に習得したエクエスには及ばないにしろ数十分あれば一つの言語くらい覚えられると告げる。

 その便利さに対抗してか腕輪が叫ぶ。


「なら私が教えましょう神奈さん! どんな言語も理解でき、どんな生物とも会話できる超魔法を!」


 神奈の右手首にある白黒の腕輪。その正体は万能腕輪という知能搭載魔道具で、あらゆる知識を持っているとされるものである。なおそれが疑わしいと思われるのは、これまでに教えたろくでもない魔法やうざい言動が原因だ。


「翻訳の魔法、名付けて――〈ホンヤック〉!」


「またオリジナルかよ! そんで名前が何の捻りもないし!」


「効果を説明します。神奈さんが聴いた言語が全て日本語として訳され、出した言葉は相手が一番理解できる言語に訳されます。これによりたとえ言語体制が不明の未確認生物とも会話ができるのですよ。ただし効果時間は三分なのでこまめに掛け直してください。そして気をつけてほしいのが魔力消費です。……この魔法は全ての言語、つまり宇宙人だけでなく動物の言語すら翻訳してしまう。更に効果範囲は神奈さんから三十キロメートルと広いのでその分魔力を消費します」


「毎度のこと余計な性能だな! 三十キロメートル先とか声聞こえないし!」


 会話ができるという性能は評価できても、余計な効果が付属していて結果使いづらい魔法になっている。魔力消費に関しては神奈の魔力量が多いため問題ないが、さすがに対象の声が聞き取れない距離にまで効果が及ぶのは完全な無駄だ。

 身体能力に定評のある神奈でも、耳に魔力を集めて強化したとして十キロメートル程度までしか音を拾えない。


「まあいい、これで私も会話できるし」


 少し問題もあるがこれで神奈も情報収集に参加できることになった。

 グラヴィーにその魔法の説明をすると呆れたような目線を送ってくるが、これで呆れられるのは理不尽だ。


 ――情報収集開始。

 町の中に入り、歩いているこれまた奇妙な生命体に話しかけまくる。

 ザンカーに住む者達は人型ですらなく、ファンタジー世界にいるスライムのような外見をしていた。青くて半開きの口が可愛い方ではなく、不気味な色でドロドロの液体の方だ。


 泊まる場所や貨物船の来る日程を聞き回る。

 宿泊場所はかなり数があるようだが貨物船の情報はまるでない。グラヴィーが言っていたのはあくまでトルバにいた頃の話なので、今はもう来ていないのかもしれない可能性もある。


 しかし諦めずに聞き込みをしていると情報を掴めた。

 神は神奈を見捨てていなかったのだ。


「貨物船? ああ、それなら一昨日来たばかりだよ」


「え? じゃあ次来るのは?」


「来月だね」


 ――神奈を助ける神はとうに存在していなかった。









神奈「宿屋の情報知りませんか?」


婆さん「それならいいとこ知ってるよ、タダでいいから泊っていきな。まあただ……hgmpbyvw」


神奈「うわっ効果時間切れた……ホンヤック! これ使いづらいな!?」


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