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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
六章 神谷神奈と魔力の実
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81 女子力――見た目は印象を八割くらい決める――


 神奈は休日、友達二人と一緒に隣町へと遊びに来ていた。

 隣町は都会のようで、人もそうだが高層ビルも多い。


 一緒にいるのは秋野笑里と藤原才華。

 三週間程会っていなかったので二人と会うのは久しぶりである。

 今日は才華が雑誌で見たという有名店の新作スイーツを食べる予定だ。

 楽しくなりそうだと神奈は思っていたが、何やら才華は深刻な表情をしている。


「どうしたんだ才華」


「せっかく遊びに来たのに元気ないよ?」


「そうねごめんなさい。でも私は今、重大な問題に気付いたの」


 あまりにも深刻な表情に神奈は重要な問題とは何なのか考え、ごくりと生唾を飲み込む。


「二人とも女子力がなさすぎることよ!」


「女子?」

「力?」


「そう女子力! 色々あるけどそのうちの一つ、オシャレよ。二人とも今の自分の服装を見てみなさい」


 一言に女子力と言われても色々とある。

 料理や掃除などの家事能力。オシャレな服装。

 前世が男の神奈には難題だ。


 神奈の服装は黒のパーカーに青のデニム、男っぽいのを除けば普通の恰好だろう。

 対して笑里は確かに酷い。宝生中学校で体育の授業時に着る赤いジャージである。


「ジャージのどこが悪いの?」


「全部! 女子として、ジャージを着て外で遊ぶなんて信じられないわ」


 町を見渡しても学校で着るジャージで外出している者はなかなかいない。これについては女子力以前にファッションセンスの欠如だと神奈は思う。


「ジャージは凄いよ? 通気性と着心地は良いし、丈夫だし」


「そうね。でも丈夫さとか出掛けるのに要らなくないかしら」


「まあまあ、そんなに責めてもしょうがないだろ?」


 怒る才華を宥めようと神奈が声をかける。その瞬間、才華は首をグイッと四十五度曲げて凝視してきた。


「まさか自分は大丈夫だとでも思っているの? 確かに神奈さんの服装は笑里さんよりもマシよ。でもね、その服装はまるで男の子なのよ!」


 女の子らしさなんて考えたことはほとんどないので、しょうがないじゃんと神奈は思う。第一今は多様性を重視する時代。精神が肉体の性別と違っても、女子力が欠如していても何ら問題ないはずだ。


「今日は服屋を見ましょう。二人とも女子力がなさすぎるわ、小学校までは見逃していたけど私達はもう中学生! オシャレは大事なのよ!」


「え、でも今日は新作スイーツ食べに行くって……」


「そんなもの中止よ。今一番大事なのは二人の女子力向上、つまりオシャレ度を磨くことだもの」


 神奈と笑里は「えぇ……」と嫌な顔をする。

 今日は食べに行く新作スイーツの話は才華から言い出して、それを楽しみにしていたのだから嫌な顔をするのは当然。自分で言い出したことを曲げないでほしい。


(おいおい、確か今日食べに行く新作スイーツって期間限定だろ? それを無視してまで服屋ですか才華さん)


 今世で神奈は妙に甘い物が好きになったりしてるのでわりと楽しみにしていた。

 才華の説得を試みるも、全く引き下がらずに失敗する。

 こんなに強引な彼女は初めてで二人は戸惑う。


「ここが周辺で品揃えがいい洋服屋よ」


 才華の案内で辿り着いたのは、女子高生がよく来そうな可愛らしい外装の店。ピンクの壁にオシャレな看板。店内には様々な春物の服が並んでいる。

 こういった店に笑里は来たことがないのかキョロキョロと落ち着きがない。


「いい? 中学生になった私達は、そろそろ恋愛に手を出してもいいと思うの。もし異性と良い関係になったとき、デートにジャージなんか着て行ったら幻滅されるわ」


「まあ、それはそうだろうな。基本的に大抵の男は女に可愛らしい服装をしてほしいだろうし。当然個人で考え方は違うだろうけど」


「分かっているじゃない。というわけで神奈さん、笑里さん、二人には自分でこの店にある服を選んでコーディネートしてもらいます。私がそのオシャレ度を審査するから全力で選んでね」


 面倒なことになったと思いつつ神奈は問う。


「ちなみに今の服装だと何点になるんだ?」


「そうね、笑里さんは0点。神奈さんは10点くらいかしら」


「思ったより低かった……」


「私も……」


「お前は0点で当たり前だろ」


 パーカーを着ることを神奈は悪いと思っていない。寒さも降雨もフードを被れば防げる強みがある。パーカーとは万能感を感じられる至高の服なのだ。


「それじゃあ開始!」


 才華の掛け声と共に二人のコーディネート対決が始まってしまった。

 全くやる気が出ないが怒られそうなので二人は真面目にやることにする。

 まず神奈は店にある服を見ていく。残念なことにパーカーはほとんどないようであった。……パーカーをダメ出しされたのだから選らんでも仕方ないのだが。


(まあ普通にTシャツとかでいいだろ。女子らしさを求められてるってことは、下は……スカートかああ? あれスースーするからあんまり好きじゃないんだけどなあ。風が吹くと下着見えそうだし、もし戦いになれば下着見えそうだし、何かしらの要因で下着見えそうだし)


 よく激しい戦いに巻き込まれる神奈としては、スカートだと履いている下着が見えないか気になってしまう。気を取られるというのは大きな隙になる。性別関係なく他人に下着を見られるのは良い気分がしない。


「才華ちゃん、こんなのどう?」


 早くも試着室にてコーディネートを終えた笑里。

 笑里の服装を見て才華は戦慄する。


「もう出来たの? どんな――」


「えへへ、どう?」


 可愛らしい蛙のフードがついたパーカー。緑色の生地で、蛙の黒く丸い目がポイントである。上下を同じシリーズで揃えているので緑色のズボンを履いている。これは神奈でもダメだと分かる。


「可愛いけど、違うの! 私が求めてるのはそうじゃないの! 笑里さん0点!」


 大袈裟に笑里が「ええ!?」と驚き、しょんぼりと落ちこむ。


「さて、じゃあ今度は私かな?」


 続いて神奈が試着室に入って着替える。

 水色の無地のTシャツ、その上には桜色のカーディガン。下は膝より少し上まで丈がある白黒のチェックスカート。

 特に悪いところは見当たらない、神奈の自信溢れるコーディネートだ。自信あり気に「ふふっ」と笑いつつ登場した神奈に与えられた点数は――。


「50点、普通って感じかしら」


「普通っすか、そうっすか……」


 結局笑里の服装がピンとこないと才華が言うので両者やり直しになった。神奈は「なんで私までやり直しなんだ」と抗議するも、まだまだオシャレ度が足りないとだけ返される。


 ちなみに気になる才華の服装は一言でいうと女子っぽい。白の花柄ワンピースの上には薄めの水色のカーディガン。持っている小さいバッグは薄いピンクで可愛らしい。

 仕方ないので神奈がまた服を選んでいると、近くを通りかかった女子高生の会話が聞こえてきた。


「あの雑誌見た?」


「見た見た、載ってたコーデ結構良かったよねえ。中でも白の花柄ワンピに水色のカーディガンの組み合わせが良くてさあ」


「ああ分かる分かる! それとあの持ってたピンクのバッグもね!」


(ほう、白の花柄ワンピースに水色のカーディガン、ピンクのバッグ……それって才華の今の服装じゃん!)


 自信あり気だったわりに服装は雑誌に載るモデルの真似。偶然であるが貴重な情報を手に入れた神奈は、意地悪そうな笑みを浮かべて才華のもとへ戻る。

 試着室の前で待っていた才華が気付き、何も服を持っておらず元通りの服装の神奈を訝しむ。


「あら? 神奈さんはさっきと同じ?」


「いや、聞きたいことがあるんだけどさ」


「何かしら? このオシャレマスターに聞きたいことがあるの?」


「オシャレマスターってなんだ。才華の服装ってさ、雑誌に載ってたやつだろ」


 その言葉が図星だったので才華は動揺し、顔を背けて汗を流している。


「うっ、雑誌の真似をするのも悪くは……」


「なら私達もそれでいいんじゃないか?」


「二人共お待たせ!」


 神奈達が話している間に、笑里が試着室で二回目のコーディネートを披露する。

 二人が目を向ければそこにいたのは……可愛らしいクマの着ぐるみだった。


「このセンスがどうにかなるとは私は思えないんだけど?」


 諦めたように才華が「そうみたいね」とため息を吐く。

 結局笑里の服装は、雑誌の他のページに載っていた恰好を真似ることになった。白いTシャツ、黒い上着、下は青いジーンズという着ぐるみなどに比べれば遥かにマシな服装。神奈もさっき着た服を購入してもう一度着替えた。

 その後新作スイーツもしっかり食べに行き、あっという間に夕方になる。


「もう夕方かあ」


「楽しい時間はあっという間っていうものね」


「スイーツ美味しかったね、また三人で行こう?」


「そうだな、期間限定だったから次は別の――」


「ねえそこの彼女たち!」


 急にチャラい雰囲気の男が声を掛けてきた。

 空気読めよと内心思い、神奈は舌打ちしつつ苛ついた目線を向ける。


「ちょっと今時間ある?」

「いや、ないですけど」


「ちょっと今時間ある?」

「……だからないって」


「ちょっと今時間ある?」

「だから……」


「ちょっと――」

「ないっつってんだろ!? しつこすぎだよあんた!」


 ナンパなどこれが初めてだが、さすがにこれが普通とは思わない。諦めが悪すぎるし引き際を弁えていない。しつこく話しかけたり付いてきたりしても、ストーカー疑惑をかけられるだけだというのに。


 人生初のナンパを、神奈達はこういうこともあると受け入れる。

 一度もされたことがなかったのでオシャレの効果を実感した。もしも笑里がクマの着ぐるみだったり、蛙のパーカーだったら男は声を掛けてこなかっただろう。

 神奈は聞いていなかったがチャラい男は未だ諦めずに話しかけている。


「おい須川、何してんだ」


「おお日野かあ、ちょっと可愛い子達見っけたからさ」


(仲間来たよ……ん? 日野?)


 日野という名前。最近で神奈はその名字を嫌というほど覚えている。


「可愛い子だあ……ゲッ」


 まさかと見てみればそこにいたのは紛れもなく一度学院に来た金髪の男、日野昌。

 目を見開いた神奈は「あ」と短く呟いて指をさす。


「見つけたたあああ!」











才華「ファッション誌を購入したわ! なになに? 中学生で恋愛は早すぎ……る……か……そっか」


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