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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
五章 神谷神奈と大賢者
214/608

69 盗――五つの塔――


 宝生小学校卒業式当日。今日卒業するのは神奈達六年生総勢百一名。

 冬なので冷える体育館内に卒業生と在校生、来賓、教師、そして保護者がパイプ椅子に座って揃っている。


 卒業式など前世でもやった神奈にとって感動はなく、面倒な行事としか思えない。

 近くに笑里や夢咲などはおらず、雑談も出来ずに暇な時間を過ごしていた。

 校歌などを含め言葉を発するときはだいたい棒読みになってしまっている。

 それもこれも卒業式が神奈にとってつまらないものだからだ。


「卒業証書、授与」

「六年一組、相川(たける)君」

「はい!」


 卒業証書授与式は卒業式の中でも神奈が一番嫌いなものだ。

 全員の前で名前を呼ばれて大声で返事をする。まるで罰ゲーム。

 下級生は意外と冷めているのか、王堂晴嵐以外に泣いている生徒がいない。


 神奈にとっては地獄のような時間なので、卒業証書なんて教室に戻ってからポイッと渡せばいいのにと前世からずっと思っている。個人の考えではあるが、実際面倒に思う者も多い。この場にいる卒業生の三分の一ほどは同じことを考えているだろう。


「相川(たける)君」

「はい!」

「相川竹流(たける)君」

「はい!」

(相川たける三人連続かよ! せめて別のクラスに分けとけよ!)


 同じ名前が三人連続で呼ばれる異例の事態に神奈は心の中でつっこむ。


「赤井翔君」

「赤井宗也君」

「赤井誠君」

「赤井渡君」


(赤井多すぎだろ。ていうか何なの? 今まで気付かなかったんだけど教師はクラス振り分けちゃんと考えてんの?)


 赤井という名字が四人固まっている。明らかに偶然ではない。


「井川亮君」

「伊藤拳君」

「浮田レオン君」

「海野船男君」

「遠藤豪鬼君」

「大野浩紀君」


(ア行からなかなか抜けない、どんだけア行いるんだよ! これ狙ってやってる!? 先生達分かっててクラス振り分けてんの!?)


 ア行だけで男子の数が十三人。明らかに偶然では片付けられない。


「海東三世(ルパン)君」

「桐野棘出丸(とげでまる)君」

「空条時間(ワールド)君」

「高野勇気(ブレイブ)君」

「虚金大金(マネマネ)君」


(処刑か? ア行から抜けてカ行入ったと思ったら突然のキラキラネームだよ! 卒業式で呼ばれるとき恥ずかしそう!)


 名前を呼ばれた者の中には泣いている者もいた。名前というのが重要なことは神奈もよく分かっている。


「佐藤トム君」

「新藤ハイド君」

「須郷バイトル君」

「関谷フェローズ君」


(うん、どうせ次も何かあると思ってたから。外国人のハーフが何でサ行に固まってるんだよ、こっちのクラスに斉藤凪斗っていう日本人いるからね? はあ、どうせ次も――)


「女子、相川美玖さん」


(男子終わったあ! え、あれで終わり!? 人数的には確かに終わり近かっただろうけど、タ行から先の奴いないの!? こっちのクラスにはいるのに!?)


 女子の名前が呼ばれていくがどこにもつっこむべきところはない。一組全員が証書を渡されて二組の番になる。二組には神奈がいるので、仮にどこかおかしくてもすでにつっこみは終了している。

 宝生小学校の校長含めた教師はおかしな人間ばかりなのかもしれない。


 それから二組含め全てのクラスへの授与が終わり、順調にするべきことが進み卒業式は終了した。しかし卒業式が終了してもまだ終わりではない。卒業式が前編だとするならば後編の行事がこれから行われる。


 来賓などの人間は先に退場し、残されたのは卒業生と五年生のみ。

 宝生小学校のみで行われている行事〈卒業生を送る会〉というものがある。

 お世話になった卒業生に、五年生が恩返しとして何かを行うという行事だ。全てのクラスでやると時間が掛かるので何かをするのは五年生のみ。去年神奈達も白雪姫の演劇をやったのを憶えている。


「今年の五年生がすることは演劇です! 是非楽しんでいってください!」


 毎年何をするのか決まっていないが、今年は賛成が多く演劇になったらしい。というよりも昨年も一昨年も演劇なので、これから演劇しかしないのかもしれない。

 卒業式の堅苦しさはなくなり、神奈の両隣には笑里と才華が座っている。神奈達はこれから始まる演劇に目を向けた。


「まずは五年一組、桃太郎です!」

「ド定番だなあ……」

「でもおもしろいよ」

「まあ、こういうシンプルなのもいいと思うわ」


 桃太郎というのは有名な昔話。

 演劇としては定番すぎて飽きられてしまう桃太郎だが、同時にやりやすいものでもある。桃太郎の話は有名なので誰でも分かりやすいのだ。


 川から流れてくる巨大な桃を老婆が引きあげ、老夫婦が協力して割ると中から赤ん坊が出てくる。その赤ん坊は桃太郎と名付けられ、成長した桃太郎は村人達を困らせる鬼を退治しに出かける。旅の途中で出会ったお供達と協力して鬼を倒し、鬼の奪った財宝を村に返す。そこまでが絵本などで書かれている内容である。


 体育館壇上の幕が開けられて、まず一組の桃太郎がスタートした。


「昔々あるところに、お爺さんとお婆さんがおりました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。そしてあら不思議、川から大きな大きな桃が流れてきたのです。その桃はお婆さんの五倍はありました」


「桃でかすぎない……?」


 微妙すぎる改変を疑問に思う神奈をよそに劇は続いていく。


「そして山から戻ったお爺さんが斧で桃を割ると、元気な赤ん坊が三人出てきました。お爺さんとお婆さんはそれぞれを桃太郎、浦島太郎、金太郎と名付けました」


(桃太郎増えてると思ったらそれ三太郎じゃん! 昔話の英雄集めすぎだろ!)


 浦島太郎と金太郎。本来出ることのない別の物語の主人公がまさかの登場。

 桃太郎のお供は猿、雉、犬の三匹であるが、この二人だけで鬼を倒せる可能性すらある。


「三人はすくすくと育ち、村を困らせている鬼を退治することにし、村を出ていきます」


 本来ならば村を出る前にお婆さんからきびだんごを貰うのだが、その流れはスキップされた。疑問は出るが、すでに内容が破壊されつつあるので誰も声をあげない。


「村を出てすぐ、金太郎は趣味の相撲を熊と取り勝利。鬼退治の仲間に加わりました」


(熊が仲間になったらオーバーキルじゃない!?)


「そしてそれから三太郎プラス熊は海に出ました。鬼がいる鬼ヶ島(おにがしま)には海を渡らなければいけないからです。砂浜を歩く三太郎はあるものを目にしてしまいます」


 舞台上で三太郎プラス熊の前方には、緑の甲羅を背負って(うずくま)っている少年と、赤いボディーペイントをして黄色いパンツを穿いている少年がいた。


「それは亀が鬼に虐められている場面でした。浦島太郎は見捨てられず、先を急ぐ身にありながら助けようと拳を握ります」


(え、いや鬼? 見た目とか名前とか鬼? ここで?)


 浦島太郎は鬼を裏拳で殴り飛ばすと、亀の傍に座り込んで「大丈夫か?」と口を開く。


「待ってください是非お礼を! 竜宮城に案内しますので付いてきてください!」


「だが、俺達は急がなければならない。こうしている間にも、この世界に一人しかいないとされる鬼が悪さをしているんだ」


(おいその世界に一人しかいない鬼いま殴り飛ばしただろ! 桃太郎完結だよ!)


 物語は終わりのようなものだが劇はまだ続いていく。


「しかし三十分の説得の末、竜宮城に亀の案内で行くことになった三太郎達。そこには美しい人魚のお姫様がおりました」


 舞台道具を場面が変わる度に入れ替える役割の人間は、慌ただしく動かなければ間に合わない。

 海をイメージした青いカーテンに描かれた城。サンゴのような置物。ワカメをイメージして揺れる人間。どれも気合が入ったものだ。


「ようこそおいでくださいました。亀を助けてくれてありがとうございます」


「おお、なんと美しい! 是非俺をあなたの婿にしていただきたい! すまん、そういうわけで俺は鬼退治から抜ける」


(おい浦島! さっき鬼退治しようとしてたのに、なんでもう熱が冷めてんだよ!)


 浦島太郎は乙姫の婿となることで旅から離脱。

 全員から祝福されると、照れて頬を赤く染め頭を掻く。

 そしてまた舞台は変わり、カーテンも竜宮城のものから物々しい岩山の絵が描かれたものに変わる。


「竜宮城から出た桃太郎、金太郎、熊は船で鬼ヶ島に向かいます。ようやく着いた鬼ヶ島を探索しますが、なんと幸運なことに鬼がいませんでした」


(幸運もなにもさっき浦島が裏拳喰らわせてただろうが! 鬼がとっくに退治されてるんだよ!)


 桃太郎達が舞台から消えると、すぐに出てきて財宝を手に抱えていた。舞台裏にある財宝を持って来たのだ。


「こうして財宝を取り戻した桃太郎達は、村に戻り平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし。これで五年一組の劇を終わりにします」


(最後何一つスッキリしないんですけど!)


 演劇が終われば幕が閉まり、卒業生達が雑談を始める。大半はついさっき終わった桃太郎のことである。

 神奈達も次の劇が始まるまで話しており、三分ほどで次のクラスの準備が終了した。


「はい、それでは五年二組の劇を始めたいと思います。題目は……桃太郎です」


「二連続で桃太郎かよ! ちゃんと話し合う必要あるんじゃないのこれ!」


 幕が開けられると先程と同じようなセットが用意されており、お爺さんとお婆さん役の二人が待機していた。

 序盤の流れは先ほどと変わらずお婆さんが桃を拾い、お爺さんが桃を割る。


「そして桃の中から一人の赤ん坊が出てきました。お爺さん達は桃太郎と名付け、すくすくと育った桃太郎は鬼退治することを誓います」


 今度は先ほどと違って普通に物語が進行するので、神奈達は胸を撫で下ろして安心するが――


「じゃあ爺ちゃん婆ちゃん、鬼退治に行こう!」


(爺ちゃん婆ちゃん連れてくの!?)


 安心するのは早すぎた。

 普通に桃太郎を演じるより、アレンジを加えた方が観客を楽しませられると誰もが考える。やりすぎれば物語が歪みすぎて収集がつかなくなるが、適度なものなら面白さを増幅させるのでアレンジがダメなわけではない。さすがに鬼退治へ年寄りを連れて行くのはどうかと思うが。

 

「お爺さんお婆さんをお供にし、桃太郎は鬼退治に出発します。過酷な旅になるであろう道中で最初に出会ったのは……」


 神奈達は猿を思い浮かべる。先程も今回も最初から仲間がいるとはいえ、今回は老人二人と心許ない。ならばお供が原作通り増えるのではと考えたのだ。


「ふふふ、我こそは鬼族四天王が一人。鬼丸!」


(四天王って……鬼一体じゃないのかよ! 難易度上がりすぎじゃない!?)


 舞台裏から出て来たのはまさかの鬼である。黒い金棒を手に持つ私服姿の鬼だ。

 桃太郎一人で戦うには荷が重いし、お供に選んだのは老夫婦という戦力外。これは詰んだのではと神奈達は思わずにはいられない。


「鬼か、ちょうどよい。ワシの手で始末してやろう」


「やめておけジジイ。俺は鬼族として絶対人間殺し隊……略して鬼殺隊(きさつたい)の隊長だぞ?」


(その名前はどっちかというとお前らが殺される側だろ!)


 鬼はさらに語る。


「俺は四天王の中で一番強い。老い先短い老いぼれなど小指だけで殺せるわ。俺に出会ってしまったことを後悔しながらあの世へ行け」


「話が長いわ! あと年寄りにも分かりやすく喋れ、活舌悪いんじゃよクソが!」


 話の長さが気に入らないお爺さんは拳を振り、見事に油断していた鬼に直撃する。


「がああああああ!? ばか、な……」


 地面に倒れて動かなくなった鬼を見て神奈達が思うことは一つ。


(お爺さん強すぎだろおおお! 鬼退治お爺さん一人で充分だよね!)


 一撃で鬼をのしたお爺さん。桃太郎よりも強いことは明らかであり、何か強さの秘密でもあるのかと神奈達の期待が高まる。


「四天王最強を倒したお爺さん。その後ろに桃太郎とお婆さんもついていき、鬼ヶ島に到着。全ての四天王とラスボスである鬼を倒し、財宝を取り戻したとさ。めでたしめでたし」


「最後雑すぎだろ! めっちゃ強引に終わらせたじゃん!」


 何も話が展開されることなく、劇の大半は序盤の話で占められるという完成度の低さ。これには神奈達もガッカリしてブーイングの嵐が巻き起こる。


 二組の演劇も終わったので次は三組の番だ。

 三組のナレーション役の男子がマイクを持ち、自分達の劇の題目を発表する。


「五年三組も桃太郎をやります」


「なんで三連続桃太郎なんだよ! もういいよいい加減にしろおおお!」


 神奈だけが叫んだが、その場にいる卒業生全員が同じ気持ちである。

 結果三組の劇は誰一人として真剣に見ることなく卒業生は退場した。



 * * *



 卒業生を送る会も終わり、神奈達は自分の教室に戻る。

 今日が見慣れた教室に行くのも最後ということで、涙を流す者も、気にしない者も、生徒それぞれが違うことを思っている。


 宝生小学校からは通常なら宝生中学校に進学する。大半の生徒はその決められたレールの上を進むが、中には別の中学校に進学する生徒もいた。そういった生徒達、そして今まで授業をしてくれた教師にお別れを言い、彼ら彼女らは小学校生活に終わりを告げた。


 授業もないので下校は早く、午後には帰れるので神奈にとって嬉しい日である。

 才華はいつも通り車で下校していき、神奈は笑里と二人で下校することになった。


「神谷さーん!」


 突然、焦った様子の斎藤が神奈達の方に走ってくる。

 只事ではないと感じた神奈は目を細める。


「どうしたんだ?」


「そ、それが、僕の本が消えたんだ!」


「本ってまさかあの魔導書か?」


 斎藤が持ち、失くして慌てる本といえば究極の魔導書以外にない。


「そうだよ。さすがに卒業式にまで持っていくわけにはいかないから、机の中に置いておいたんだ。でも帰ろうとした時に見たら無くなっていたんだ! 誰かに盗まれたんだよ!」


「それで私を疑ってる?」


「ち、違うよ! でも探すのを手伝ってほしいんだ! あれの危険性は神谷さんだって知ってるだろ!?」


 究極の魔導書の危険性は神奈もよく知っている。

 召喚の魔導書は自分と戦えるほどの生物を召喚できる。

 禁断の魔導書は利用すれば力が弱い人間でも自分に傷を負わせることができる。

 自信過剰であると思われても仕方がない思考だが、神奈は自分の実力が世界でも上位のものだと自覚している。


「……はあ、帰れると思ったけど、すんなり帰らせてはくれないらしいな。分かった、学校は探したのか?」


「ああうん。あの本は分厚い。持っていれば必ず目立つはずだし」


「でも見つからなかったか」


「だからもしかしたら、あの時の男みたいに外から狙って来たのかもしれない」


 可能性はゼロではない。狩屋という男が狙った前例があるのだから。

 考えても分かるわけがないので、とりあえずは誰かに盗まれたという方向で考えを纏める。


「ならまだ遠くには行っていないだろ。手分けして探そう」

「私も手伝うよ!」

「ありがとう二人とも!」


 神奈達は手分けして究極の魔導書探しを始めた。

 宝生町は広いので、夢咲にも協力を仰ぐために電話を繋ぐ。事態も事態なので話せば快く承諾してくれた。夢咲は「他の人にも連絡しておくよ」と言い通話を切る。


 その後……二時間が経過。

 長い時間探し回っても魔導書は見つからない。犯人の手がかり一つなく、状況は何一つ変わらない。


「神奈ちゃん!」


 分かれて行動していた笑里と偶然にも合流し、神奈はもしかしたらと思い問いかける。


「見つかったか?」


「ううん、ダメだった」


「そうか……ん? そいつって確か黄泉川?」


 収穫はゼロであったが、さらに事態をややこしくする者を笑里は背負っていた。

 黄泉川三子。禁断の魔導書を所持している少女で、以前は死者を蘇らせるという事件を起こした。事件をきっかけに笑里と仲良くなり、たまに二人が遊んでいるのを見かけたことがある。

 背負われている三子は気を失っており、ピクリとも動かない。


「うん。三子ちゃんなんだけど、意識がある時に本を盗られたって言ってて」


 同じ究極の魔導書持ちの斎藤と比べると三子の実力は高い。もっとも彼女が戦闘慣れしていないこともあり、不意打ちなどでなくても倒される可能性は十分にある。

 究極の魔導書を盗まれたのはこれで二件目。つまり同一犯の可能性が高い。


「同一犯か。待てよ……究極の魔導書を狙っているってことはまさか」


 三冊ある内の二冊を手に入れた犯人が次に狙うのは、神奈も場所を知らない召喚の魔導書だろう。召喚の魔導書はサマー達が誰も手出しできない場所に隠した……はずなのだが、夢咲の話によれば死者蘇生の事件でサマーやフォウが召喚されている。

 既に召喚の魔導書は誰かの手に渡っているのだ。


「まさかもう三冊揃ってるとかないよな。とにかく今は黄泉川を病院に――」


 気絶しているということは攻撃を喰らった可能性が高い。体に異常がないとも限らず、先に三子を病院に連れていこうとしたその時――大地が大きく揺れる。

 立っていられないほどに大きく、地球が誰かに揺さぶられているのではと思うほどの揺れが発生した。


「くそっ、なんだよこれ!」

「うわわわっ!」


 普通なら地震だと誰もが思う。だが神奈は視界に映る光景を見て、地震ではないと瞬時に理解する。


「おいおい冗談きついぞ……」


 宝生町では死者蘇生事件が起きた時、紫の塔が地面から出てきたことがある。

 そして現在、宝生町を囲むように紫以外に四つの色の塔が出現していた。


 雲よりも高くそびえ立つ青、赤、緑、黄の四色の塔。

 紫の塔も含めると塔同士を結んで五角形を作ることができる。


「神奈さん、この五つの塔はもしかして五芒星かもしれません」


「……五芒星?」


 腕輪が気付いたが、五つの塔を繋げば五芒星にもなる。

 五芒星とは魔術の象徴とされることもあれば、悪魔に関する紋章だとされることもある。


「五つの点を繋げれば星ができ、その中心には正五角形が作られます。それが五芒星です。そしてそれはこの世界だと……魔法の威力を大幅に上げられるのです」


「じゃあ何? 誰かがこれから魔法を使おうとしてるってのか?」


「考えてみてください。あの塔は死者蘇生のときにも出現しました。なら塔全てに何かしらの魔法が、あの〈死者蘇生〉と同等以上の魔法があると思えませんか。……なのに何かしらの力で何者かが無効にしている。犯人は単純な印ではなく、強大な魔力が込められた塔を用いることによって超強力な五芒星を作り上げたのです」


 様々な思考が脳を流れていくなか一瞬ではあるが――世界が暗闇と化した。

 加護が何かを弾く感覚はあったので特殊な魔法が発動されたに違いない。異常事態の連続で神奈は混乱してしまう。


「はあっ!? なんだ今のは! 何かを加護が弾いたような気もするけど……。笑里、とにかく今は黄泉川を優先しよう。病院に連れて」


 神奈が後ろを振り向くと、笑里は三子の下敷きとなって地面に倒れていた。

 見ただけで分かるが意識は既に失われている。


「……笑里? ああもうどうなってんだよ!」


「おそらく先程の暗闇に覆われたときでしょう。管理者権限で検索しましたが、あの暗闇は魔力が少ない者が触れると意識を失うもののようです。それが宇宙の彼方まで届いています」


「魔法か。今は犯人の目的も誰なのかも分からない。でもこれだけのことをしたんだ、絶対これ以上好きにはさせないぞ! 犯人ぶん殴ってやるからなあ!」


 近くの家の影に笑里と三子を運ぶと、神奈は赤い塔に向けて走り出す。





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