66 決着――大賢者神音VS神谷神奈&エクエス――
2023.6/4 内容更新
全身に切り傷を作り傷だらけのエクエスが復帰して戦況はがらりと変化する。
弱くなっているとはいえ神音相手に一人では勝ち目がない。弱っているのはエクエスも同じだが誰よりも貴重な助けとなると信じられる。
「……お前、私に力を貸してくれるのか?」
「勘違いするな。俺は俺のやり方で戦うだけだ」
神奈はエクエスからポイッと投げられたため〈フライ〉で浮かぶ。
雑に扱われたことで少し顔を歪めるが、すぐ真剣な表情に戻して神音を見据える。
「まさか消滅していなかったとはね。でも、総合戦闘力300000と少しの雑魚共がいきがるなよ。面倒だが纏めて始末してやろう」
神音は魔力を高めて周囲に五千個もの濃い紫の魔力弾を作り上げた。
魔力弾はゆっくりと動き出しており、それはまるで夏にどこかの湖で飛び回る蛍の大群のように幻想的な光景だ。
「……多すぎだろ」
「全て躱せばいいだけだ」
「いや……え、あの量を?」
「来るぞ。戦闘に集中しろ」
数千の魔力弾が一斉に神奈達に向かってくる。
何とか身を捻って躱しつつ魔力弾で反撃するが途中で相殺されてしまう。躱したせいで氷の大地に落ちた魔力弾は、衝突と同時に花火のように爆散。上空からでも分かる大きさのクレーターを作り出す。
魔力弾の群れを躱しきって神音の元に辿り着いたエクエスは、小さな竜巻を肘から噴射することによって速度を増した拳を叩き込む。それは神音に届く前に紫の魔力障壁に阻まれてしまう。神奈もそれに続いて攻撃するが障壁は割れなかった。
「無駄だよ。君達の魔力量以上の魔力で作り上げたからね」
「無駄かどうか」
「試してみろ!」
何度も二人で攻撃し続けたが障壁に弾かれてしまう。
しかし一人では破壊できなくても、二人同時ならば破壊できるかもしれない。そう思った二人は同時に思いっきり引き絞った拳を放つと、魔力障壁は粉々に砕け散り消滅する。
障壁に自信を持っていた神音はその顔に驚きの表情を浮かべる。
今のうちだと攻撃に移る二人だったが、猛攻撃を仕掛けても彼には届かない。
神奈の拳は躱されたり、手を添えられて逸らされる。エクエスも〈灰色の竜巻〉を背中から二本伸ばして彼を引き裂くために向かわせるが、彼も背中から紫電を帯びた竜巻を生やして相殺する。
「くそっ! 届かない!」
「竜巻も相殺されてしまうか」
「いやいや凄いよ君達は。正直ここまでとは思わなかったよ」
神奈達は疲れ始めているが、神音には疲労の色は見えない。
絶対的な実力差を見せられたのに褒められても嫌味にしか聞こえない。
「余裕のくせに……なあ!」
「なんだい?」
「なんでお前は人類を絶滅させるなんて言うんだよ!」
神奈がこれを聞いたのはその理由を知らないから、そして激しい戦闘なのもあって休憩したいという魂胆があってだ。エクエスも空気を読んで聞く態勢になっている。
質問に対して、神音は少し笑みを浮かべてから答えた。
「単純だよ。ヒトが愚かだからってだけさ」
「愚か……?」
「そうさ、私の行動はこの星の為なんだ。君達の町を思い出せばよく見えてくる。美しい自然とそれを破壊するヒトの愚かさがね。この星には至る所に美しい緑と海があるのに、ヒトは自分たちの都合のいいように破壊していく。酷いと思わないか? 自然を無くすなんて愚かな行為だ。笑えることに地球温暖化やらオゾン破壊やらで自滅しかけているしね」
「……まあ、それはうん。正論かも」
神奈は何度も頷き同意するとエクエスが鋭い目線を向けてくる。
「おい、奴の言葉に同調してどうする」
「いやでもそんなに間違ったことは言ってないし」
間違っていない。言い過ぎな気もするが根本的なところは間違っていない。
住宅やら会社やら温泉宿やらを建てるために木々を切り倒し、緑を減らす。人の手でまた植えられているとはいえ自然破壊には違いない。動物の住処を奪ったりもしているので恨む生き物もいるだろう。
ただ、御高説を垂れているわりには南極を魔力弾で破壊しているのだが。
「ヒトは我が儘、傲慢な生き物だ。自分達のことしか考えず己の利益を優先する身勝手な生き物だ。このままではこの星の未来はそう長くない! 今のままでは確実に星が滅びてしまうのだ! 地球温暖化や工場からの排気ガスなどによる環境汚染! これらの身勝手な都合により起きる星の核のエネルギーの減少。言わば自業自得なのだ。遅かれ早かれヒトは滅びる運命だった。だから私が滅ぼそう! 愚かな生き物を私が根絶やしにしてこの星を守る!」
「……まあ言い方はキツイけど、人間のせいで環境が悪化するってのは考えさせられるな。でもそれとこれとでは話が別だ。全ての人間を滅ぼす必要なんてあるのか? 今この瞬間に誕生している新しい生命だってある。何の罪もない生まれて間もない子供を殺すのか。そんな理由のために隼は死ななきゃいけなかったのか。……ふざけんなよ。お前に、お前にそんな資格ないんだよ! そんな資格が誰かにあっちゃいけないんだ!」
「聞いていれば下らんな。人類を滅ぼすだと? それなら自分はどうなんだ?」
「私はもちろん生き残る! もはや私は下らない下等生物とは次元が違う存在なんだ! 人類を排除した後の素晴らしい新世界でのんびり余生を過ごす、そう決めていたのさ」
生前の想いなのだろうが神音は今や制限付きの命。
三子の魔力が尽き次第彼は消える運命なのだから、のんびり余生を過ごすなんてもう不可能。それでも人類絶滅だけは果たしておきたかったのだ。現代を生きる者達にとっては傍迷惑な思想である。
「聞いてみればさ、お前だって結局ヒトってわけだ。自分の目的果たすために全ての人類排除しますって身勝手もいいところだろ。お前こそヒトの傲慢さってやつの塊なんじゃないの?」
その言葉に神音は手で顔を覆い、指の隙間から神奈達をギロッと睨みつけてくる。
今までより遥かに強い殺気もついでに向かってきた。
「その挑発、後悔するぞ。私に本気を出させたのは君達が初めてだよ」
神音は自身の持つ魔力を全開放した。
星全体が揺れ、海では津波が起き始め、紫色の魔力が空を覆う。
「さあ、始めようか。一方的な蹂躙を」
「……うっ、る、〈ルカハ〉」
神野神音
総 合 1183060
身体能力 380000
魔 力 803060
「……やばい。本気出されたら死ぬじゃん私達」
順調に魔力が減ってきているとはいえ未だ神奈達より圧倒的に格上。
パンチや魔力弾一発でお陀仏すらありえる。魔力を全解放したら星に影響を及ぼすような人間のパンチなど絶対に喰らいたくない。魔力弾の爆発で体が爆散するのもごめんだ。
神音は特大の魔力弾を生成し始めた。
本気という言葉に恥じない、まさに全力のエネルギー弾。
宇宙にまではみ出す直径数万メートル規模のそれが発射されたら、確実に地球そのものが消し飛ぶ。自然破壊を愚かと言っていたので撃たないと思いたいが、撃たないなら作る必要がない。自分が生きられないなら自然も星もどうでもいいと、とんでもない思考回路をしているとしか思えない。
「――待て」
静まった場所に澄んだ声が響く。
全員が氷の大陸へと視線を向けると、一人の中性的な青年が立っていた。
腰まで伸びた銀髪。白い大陸と同色の着物。優しげな顔をしているが恐ろしいほどの魔力量。明らかに只者ではない男性の登場に神奈達は息を呑む。
「時の支配人、か」
神音がボソッと口から零した名前を聞いた神奈は「あれが……」と呟く。
以前に夢咲達が出会った現世に留まり続けている魂。それこそが時の支配人。
生前は神音と友人だったらしい彼は、神音の野望を阻止するよう頼んだ。夢咲達からの話を聞いているので神奈は彼を味方だと認識しておく。
「いいのか神音? そんな大きなエネルギー弾を放てば地球は粉々だぞ。自然を守りたいという君にしては珍しい愚行じゃないか」
「……そうだね、そうだった。もとよりこんな雑魚二人を消すのに魔力弾など必要なかったよ。私としたことがつい怒りに呑まれてしまった。反省反省」
彼の言葉に納得した神音は特大魔力弾を真上へ発射する。
直径数万メートルの魔力弾は宇宙のどこかへ飛んでいき、やがて見えなくなった。
「ねえ、哀れな二人。君達に更なる絶望を与えてあげよう。時の支配人、こいつの時間を巻き戻して魔力を全快させてくれ」
神音はそう言うと黒い空間を出して三子を取り出す。
現状命の源とも呼べる大切な存在を投げ落とすと、白い大陸の上にいた時の支配人が一歩も動くことなく受け止める。神音とは違い彼は三子を優しく抱きかかえた。
神音は一つミスを犯した。
生前と死後、時の支配人の考えは変化している。
長い時間があれば人の考えは変わってしまうことがある。彼が一番の味方から一番の敵に変わっていることを神音は知らない。
「断る」
時の支配人は短く、はっきりと拒絶の意思を示す。
「な、何だと? 何て言った?」
「断ると言ったんだよ。もう君に従う義理はない。死体を保管していただけでも義理は果たした」
「ふざけるな。早くやれ。さもなければ――」
「殺すか?」
言葉を遮られたことに動揺した神音を見て彼は「やはり」と呟く。
「君は私に対して二つの感情があった。あの時のように紅茶を飲んで語り合っていた楽しさ。同時に向けられていたのは、君が恨む人間という種だからこその憎しみ」
「そんなっことはっ!」
「ないとでも言ってくれるのか? だがもう遅い。長い時間考えてきた、考えることしか出来なかったから考えて考えて考え抜いた。私はあの時は迷っていたんだ。たった一人の友人を失いたくなかったから君に協力したんだ。でももう迷わないよ、友が道を間違えているならば止めるべきだった……!」
時の支配人は悲しそうな表情で言葉を紡ぐ。そして覚悟を感じ取れる瞳を神音に向けながら三子に魔力を通す。
「だから、遅くなったけれど君を止めよう。……友としてね」
減少していた三子の魔力がみるみると――減っていく。
時の支配人は彼女の時間を進めて神音の弱体化を早めたのだ。実際にあの膨大な魔力が弱まっていくのを神奈は感じている。同じ〈死者蘇生〉の影響下にあるエクエスも弱体化しているが、この調子なら一人でも戦える程度に弱体化するはずだ。
「正気か? 時の支配人」
「私は最初から正気さ、大賢者」
「……バカが、私の信頼を裏切ったな。禁術〈完全治癒〉!」
急に神音の弱体化が、というより三子の魔力減少が停止した。
時の支配人は今も時間操作を続けているのに停止した原因は神音である。
「禁術〈完全治癒〉は時間の巻き戻し。これでもう黄泉川三子に影響されて魔力が減ることはなくなった。減った分は、まあハンデとして丁度いいだろう」
時間加速と巻き戻し。二つの力が拮抗して三子の魔力は安定してしまう。
ハンデ宣言に苛ついた神奈は〈ルカハ〉を唱えて確認する。
神野神音
総 合 745869
身体能力 380000
魔 力 365869
魔力が三子に影響されないとは言ったがもう十分に減っていた。
身体能力は変動していないため高いままだが一応戦えるレベルだと思われる。
「今の内だ! 頼む!」
時の支配人が神奈達に大声で叫ぶ。
詳細を知らない他人ではあるが、彼の覚悟と覇気を感じて神奈達は拳を固く握る。
「何だか知らんがチャンスのようだな」
「全力をぶつけよう。じゃなきゃ倒せない」
まず動いたのはエクエスだった。
両足からの竜巻放出で自分より高い位置にいる神音のもとまで上昇。
背中から灰色の濁った竜巻を放出して神音へと向かわせる。
「〈灰色の竜巻〉オォ!」
灰色に染まっている竜巻が神音を呑み込む。
魔力で強化している黒い着物が破れて、裾や袖などが消し飛ぶ。切り裂く風により肩から赤い血が少量飛び出る。手傷を負わせられた彼は「はああああああああ!」と〈灰色の竜巻〉を魔力の放出のみで吹き飛ばして風から脱出。エクエスに接近して首を掴もうと腕を伸ばす。
エクエスに指が触れそうになった時、神奈が一直線に上昇して神音の顎へと頭突きを喰らわせる。ゴンッという鈍い音が響き、彼は空中でふらつく。
今までなら当たらなかっただろうが、弱っている状態だからこそ当たった。
嬉しさを感じるが押し殺して神奈は連続で魔力弾を撃つ。
「グッ!? 今のは効いたぞ、だがここまでがっ!?」
魔力弾の爆発で上半身裸となった神音。
黒い着物が散り散りになって露わになった白い肌は、所々火傷や切り傷があった。
エクエスが追撃として彼の頬を殴ると、怒気が込められている眼差しを向けて拳を振るう。
「調子に乗るな!」
エクエスは神奈の方に殴り飛ばされてきたので受け止めて、横に軽く投げる。彼はすぐに風を足から真下に放出して飛ぶバランスを安定させる。
「……感謝はしないぞ」
「ああ、別にいいよ」
「お喋りしている暇があるのか!」
神音の拳と蹴りを合わせたラッシュに神奈達は二人がかりで、躱したり逸らしたりなどして何とか対応しきる。弱っている神音の拳は受けとめても遠くに殴り飛ばされることはない。一応殴り合いが成立している。
神奈達がしぶとく食らいつくおかげで彼は疲れ始め、魔力感知などの応用技術を使うのもあって魔力消費が激しいのだ。予想以上に彼の弱体化は早い。
「〈暴風槍〉!」
風を圧縮して作り上げた見えない槍をエクエスが構える。
神奈も魔力弾をいくつか生成しておき、いつでも発射できるようにしておく。
エクエスが槍を神音に突き出すが、何重にもなっている紫の魔力障壁に遮られる。
魔力障壁は全て割れるが時間稼ぎにはなった。全て割られる直前で神音は槍の軌道から外れた。そこを狙い、神奈が念じることで魔力弾を彼に向かわせる。
「煩わしいっ!」
高速連打で魔力弾を全て吹き飛ばす神音だが、エクエスが槍を投げたことで彼の肩は抉られる。首元を狙った一撃だったがさすがに避けてきた。命取りになる急所への攻撃は何が何でも避けるのだ。
「私は究極の力を手に入れたんだ! 究極魔法〈獄炎の抱擁・弾〉!」
「自分が最強だと自惚れるのは勝手だが忠告してやろう。この世界には、思わぬところにまだ見ぬ実力者が存在する。どんな奴でも敗北の可能性を消すことは出来ない。〈灰色の竜巻〉!」
エクエスの背から生えた〈灰色の竜巻〉が漆黒の炎と衝突。
ぶつかった瞬間に風は炎に押し負け、黒炎が風を伝って彼へと接近。危険を察知した彼は竜巻の発生を止めて自分の背から切り離す。黒炎は風だけを燃やし尽くして、燃やす対象を失ったことで消失する。
「私は神に選ばれた存在。敗北はありえない。〈獄炎の抱擁・弾〉」
神音は魔力を扱い慣れているだけあって魔法発動のインターバルが短い。
通常高度な魔法ほど、魔力を多く込めれば込めるほど再使用には時間がかかる。長くても数秒程度のものだが戦闘中は命取りだ。しかし、神音の究極魔法はいずれも神奈達を一撃で葬れるような魔力が込められているはずなのに、再使用にかかる時間は一瞬。エクエスが再び〈灰色の竜巻〉を発動させようとしても間に合わない。
このままではエクエスが焼殺されるので神奈が前に出て庇う。
込められている魔力から考えると、普通は細胞一つ残らず燃えて死ぬ。
ただし神奈には防護の加護があるため無事でいられる確証があった。黒炎の球体を手で受け止めるのは若干怖かったが全くの無傷。黒炎は燃やせる対象がないため消えていく。
「……何? ふっ、どう防いだか知らないが次はない。〈獄炎の抱擁・弾〉!」
また神奈が手で受け止めることで炎を無効化する。
気分はまるでウニ頭の不幸体質主人公だ。
「まさか、いや、ありえない。二人纏めて感電死するがいい。〈雷神の戦槌〉!」
上空に電気で作られた大槌が出現したのでこれも手で対処する。
重みはあったが受け止め続けていると〈雷神の戦槌〉は弾けて消えた。
「……そうか。君には属性魔法が効かないようだ。もっともそれが分かればいくらでも攻撃方法はあるけどね。〈消滅の光〉」
神音が神奈達に向けた指に純白の光が集まり始める。
「あれはさっきの……! エクエス、あれは絶対避けろ。受けたら即死確定!」
「厄介な技ばかり使う奴だな」
直径百メートルほどの純白の光線が神音の指から発射された。
全てを消滅させる光を躱すために神奈達は左右に分かれる。予想より広範囲だったためギリギリだが二人共無事である。
「彼女の能力は厄介だし、狙うなら君からだ。〈隔てる暴風〉!」
そうエクエスに告げた神音が手刀を振り下ろす。
物理攻撃のためではない。距離が離れているし、大幅に弱体化している現状では風圧で実力者を斬ることなど不可能。不思議に思った神奈だが狙いはすぐに分かる。何もされていないエクエスが突然吹き飛ばされたのだ。
魔法を唱えたように聞こえたので魔法の効果だろう。
不可視の刃に対抗して、エクエスは〈灰色の竜巻〉を背から放出することでスピードを落とす。しかし段々と彼の体が直線状に傷付き、多くの血液が流れていく。
後退させられるスピードが落ちて彼は空中で停止する。
「……どういうことだ。こんなに早く〈隔てる暴風〉が消えるわけがない。実験の時には一時間以上持続したはずだぞ」
「簡単な話だ。感覚で風の刃だと分かったので、俺の〈灰色の竜巻〉と融合させて自分のものとした。操作されていない風の支配権を得るくらいなら俺にも出来るようだな。今背にある竜巻は遥かに風力を増したはずだ」
「小癪な真似を……。同じ力で真正面から叩き潰してやる」
神音が背中から〈灰色の竜巻〉を前方に放出して、エクエスのパワーアップした〈灰色の竜巻〉とぶつかり合う。両方ともとんでもないエネルギー量であり周囲に風が吹き荒れる。
拮抗して数秒。二つの〈灰色の竜巻〉が相殺し合って霧散した。
「はあっ、はあっ……くそっ! 力が万全なら容易く押し返せたものを!」
「おい大賢者。随分とお疲れみたいじゃねえか」
息を荒くしていた神音は神奈の指摘に「何だと?」と返す。
「黄泉川の魔力減少に続き、究極魔法の乱発。おまけに魔法一発一発に私達を一撃で仕留められるレベルの魔力を込めていた。疲れて当たり前だよなあ」
彼の疲労の原因となるのは主に魔力の使用量。
三子の魔力をこれ以上減らされないように、時の支配人へ〈完全治癒〉での対抗。
一発ごとに神奈達を容易く葬れるよう魔力を込めた究極魔法の発動。
今の戦闘に必須となる飛行魔法〈フライ〉の維持。
魔力による感知や障壁などの応用技術。
これら全てをやっていれば当然消耗は激しい。
現在の彼の魔力量は既に神奈より低くなっている。
「疲れていたら何だ。対等に戦えるとでも?」
「敗北の可能性を無視してんじゃねえよ。お前は、死ぬぜ」
「……ああそう。幻想を抱いたまま海に沈むがいいさ」
三人がそれぞれの敵に向かって一直線に突き進み、激突。
究極魔法の発動を控えたらしい神音は殴打や蹴りを放ち、神奈達も負けじと格闘戦を繰り広げる。二対一というのもあってか、弱った神音相手と互角の勝負だ。
互角の格闘戦が続くと彼の顔に焦りが出始める。
焦っているのは神奈も同じ。ただの格闘戦では決め手に欠けてしまう。
三人の拳が敵と思う相手にめり込み、三人の距離が離れる。
「この、私が負けるはずない。あの裏切り者さえいなければ勝っていた。……いや、たとえこのままでも勝つ! 残された全魔力を放って全てを消し飛ばしてやる!」
次の一撃に神音は全てを賭けるつもりだと分かった神奈達も切り札を出す。
神奈は〈フライ〉を維持する最低限の魔力以外を拳に集中させて、エクエスも同じように灰色の風を圧縮させて拳に纏わせる。
「〈超魔激烈拳〉……!」
「〈暴風集纏拳〉……!」
神音の全魔力で作られたエネルギー弾が放たれたのと同時、神奈達が急加速。
二人の拳は膨大なエネルギーの塊を貫通して、神音の腹に吸い込まれていく。
人間二人分の穴が空いたエネルギー弾が大規模な爆発を起こす。
爆発の煙が消えた時、神音はもう光の粒となって消えていく寸前であった。
「これで終わりと思うな、よ……必ず次の私が現れ、る。それまでせいぜい平和に暮らすとい、い。この星を破壊しながら暮らすといい、さ」
最期まで神音は憎しみを込めた瞳を向けたまま消えていった。




