表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
五章 神谷神奈と大賢者
197/608

エピソードオブ大賢者4


 馬車が一台やっと通れるくらいの崖に挟まれた道。

 どこかの壁から崩れて落ちてきたように歪な、大きな岩が道を塞いでいる現場に神音は到着した。着いたものの、さすがに神音ほど早く来れる人間などない。お目当ての時の支配人はしばらく来ないだろう。


 しばらくその場に留まることに決めた神音は崖の上に移動。

 座り込んでから、懐にあった青空のような色の小さな丸い球体を取り出す。


「時間もあることだしテストでもするかな」


 神音が取り出したビー玉のような球体は〈願い玉〉と呼ばれるものだ。

 願い玉は神音が保持する禁断の魔導書に生成方法が書かれており、その効果が魅力的であったために神音は作り出していた。


 願い玉の生成方法は生物の命。それも一万の生贄を禁断の魔導書に捧げることで作り出すことが出来る。神音は戦争で跡形も残らずに消し飛ばした命を魔導書に捧げ、既に五個も作っている。


「さて、まずは……人類を消滅させろ」


 聞いた者がいれば冗談かと思われるような願いを口にする。

 しかし願い玉には何の変化もおきず時間だけが過ぎていく。


 本来ならば願い玉は願望を叶える時、青や紫などの光を強く発するはずなのだが何の反応も示さない。一応空高くに飛び上がってから国の方を眺めると、まだ動く点が見えたので人類が滅んだ形跡はない。


「なるほど、大きすぎる願いは叶えられないか。役に立つかと思ったけどこんなものなら要らないな」


 神音はいたって真剣だった願いを無視されたことに眉を顰め、願い玉を握っている腕を軽く曲げる。そして軽く曲げた腕を振り、手のひらから解放された五個の願い玉が遥か彼方へと飛んで行く。どこへ落ちたのか投げた本人にも分からない。


 ――次の瞬間、神音は投げた態勢のまま強烈な痛みに襲われた。


「ぐっ!? くっ……!」


 心臓が突然破裂するかのような痛みを訴え始め、神音はたまらずに胸をぐっと押さえる。

 神音は相模に訊かれたことを思い出すと頭を横に数回振る。

 本当は分かっているのにそんなわけがないと自分を騙す。

 まだ野望を叶えてすらいないのに死ぬなど許されない。


「ぐうっ!? は、は……はぁ……はぁっ……! 治まったか……ん?」


 痛みから解放された神音は下を見て首を傾げる。


「あの男、いや女? いつからいたんだ?」


 神音の目に映るのは二人の人間。

 一人は食事中に道を塞いだ大岩のことを知らせた武士。

 もう一人は白い着物を身に纏っている性別不明の人間。

 性別不明なのは輝く艶のある銀髪が腰まで伸びており、ゴムで先端部分を縛ってふわっとさせていることが主な原因だ。顔も中性的で判別しづらい。


「これが件の大岩か、私の力なら確かにこれをどかすことが出来る」


 銀髪の人間はやや高めのの声で断言する。

 武士が「お願いします!」と頭を下げて一歩後ろに下がると、それを確認した後で銀髪の人間が大岩に手をそっと触れさせる。


「さあ、元の場所にお帰り」


 銀髪の人間が目を閉じてそう呟くと、大岩が小刻みに震え始める。


「なんだ……? 何かが、起こる……!」


 神音は目を見開いて、これから起こる何かを脳に刻み付けようとする。

 大岩は震えながら宙にふわりと浮き、大きく欠けた崖の先端へ届くと接着された。パラパラと落ちてくる細かい破片も、突如重力に逆らって戻っていき亀裂のない壁になる。歪な大岩が綺麗に付いたのを見て、大岩は崖の欠けた部分が落ちたものだったのだと神音は悟った。


 相模が治める国で初めて目にした他の魔法使い、時の支配人。

 戦争で何度か魔法使いと激突することはあったが、いつも退屈な魔法ばかりであった。しかし時間操作は違う。究極魔法に匹敵するほどの強大な力を秘めている。


「素晴らしいものだね。時の支配人というだけはある」


「――それは誉め言葉として受け取っておこうかな」


 神音は遥か上空、復元された崖よりも高い場所にいるにもかかわらず、独り言に真横から反応が返ってきた。突然で動揺した神音は目を見開いて隣を見る。

 隣には長い銀髪を腰の部分でまとめた中性的な人間が宙に浮いていた。神音の漆黒の着物とは対をなす純白の着物を着こなし、冷たい風に吹かれて銀髪と共に靡いている。


「すまない、強い魔力を感じたものだから傍で見たくてね。君は大賢者だね? 私と同じく将軍と契約している人間、秘密兵器と言われている魔法使いだろう?」


「驚いたね、私のことを知っていたのか」


「君を知らない者なんてあの国にはいないだろうし、噂は少し離れた場所に住んでいる私の元にも届くよ。ねえ、向かうところ敵なし、百戦百勝の大賢者」


 時の支配人は会話を続けて宙に佇む。


「いいのかな? あの武士が戸惑っているけど」


「構わないのさ、仕事は終えたからね。彼はしばらくしたら国へ報告のために帰るだろう」


 時の支配人の言った通り、武士の男は諦めて国の方へと歩き始める。その背中を見送った後で二人は口を同時に開く。


「「話をしようか」」


 強大な力を持つ者同士。相模と契約している者同士。

 似た境遇の二人が告げた言葉は全く同じものであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ