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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
四.五章 神谷神奈と平和?な日常
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58.594 下手な絵も誰が描いたかによって価値が変わる。ただし下手すぎる絵の価値はない


 美術の授業。

 宝生小学校でも行われているそれは、主に絵を描いたり工作したりとごく普通。

 しかしそれらが将来役立つかと問われれば答えには困る。それらを活かす職業にでも就かないと滅多に役立たないだろう。……だが、せめて平均以上の画力は欲しいと神奈は思う。


「ねえ見てみて神奈ちゃん! 神奈ちゃんの絵!」


 美術室で向かい合っている笑里から見せられたのは神奈の似顔絵。

 現在は美術の授業中であり、好きな人の絵を描く課題を教師から出されていた。


「……うん。でも、何でアフロなの私」


「え? だって神奈ちゃんって……アフロだよね?」


「これはアフロじゃないの、天然パーマなの! 描き直せ!」


 紙に描かれているのはぐちゃぐちゃの顔にもじゃもじゃの頭。

 誰だよと言いたくなるその絵が、授業の最後に発表されるのを想像すると頭が痛くなる。授業で作品を全員の前で発表するのは作品が下手糞だったり、人見知りだったりする人間にとって最悪の時間。ついでに下手糞な似顔絵を描かれた神奈にとっても最悪な時間である。


「むう、文句を言う神奈ちゃんはさぞ上手なんだろうなあ」


「……それは偏見っていうか屁理屈っていうか、とにかく関係ない」


 ジト目で見てくる笑里が「見せて」と言ってくるが神奈は「やだ」と断った。

 諦めない彼女は席を立ち、神奈が描きかけの絵に手を伸ばしてくるが死守する。どう足掻こうと奪えないはずだと思っていると――後ろから来た夢咲に奪われた。


「あ、おい返せよ夢咲さん!」


「うっわ何この棒人間」


「……神奈ちゃん、これはないよ。まだ私の方がレベル高いと思うな」


「うるせー、昔から人間の絵を描いたら棒人間になる病なんだよ悪いか」


 前世でも小学生の時に人物画で棒人間を描いてしまった。人物画以外は平均レベルで描けるのだが、美術の成績が最低点だったのは今でも憶えている。

 今世でも癖は直らず今回も棒人間。何が原因なのかは全く分からない。


「そういう夢咲さんの絵はどうなんだよ」


 夢咲が「あー私はこれ」と告げながら画用紙を見せてきた。

 まるで写真のような上手さで笑顔の文芸部員達が描かれている。


「……くっ、な、中々やるじゃん」

「そうだね、中々やるね夜知留ちゃん」


「あなた達より遥かに上手いと思う。私、読みたい本がない時は絵を描いていたからね。向上心もあるし、上手くなるのは当然だよ」


 何も言い返せず神奈達は押し黙る。

 悔しいからともう一度新しく描いてみたが全然進歩しない。


 参考程度に他の生徒の絵を見せてもらったが、上手と言える生徒は多くなかった。同レベルの生徒は居なかったが全体的なレベルは低い。これなら目立たないだろうと神奈は顔のパーツを描いた棒人間を完成品とした。


「さーて、他の奴のでまだ見てないのは……お、泉さんがいたか。絵見せてくれ」


「別にいいけど笑わないで、ね?」


「なんだあ? 笑われると思うほど下手なのか?」


 もし自分より下手なら笑ってしまうかもしれないと思いつつ、泉が描いていた絵を視界に入れる。机の上にある画用紙に描かれたそれは、黒髪の少年少女が笑い合っているものだ。画力については並より上だと断言出来る。


「笑えねえよ。……で、これは泉さんと誰だ?」


「友達になりたい人だ、よ。いつか神奈さんにも紹介する、ね」


 絵だからか血縁のように見えなくもない少年。

 彼を紹介される時を楽しみにして、画力を褒めてから席へ戻る。


 それから美術の授業は各々が描いた絵を発表して終了した。神奈の棒人間は盛大に笑われ、担当教師からは「真面目にやりなさい」と言われたが至って真面目である。傷付いたが「本気です」と返したら、教師は「そうなの……」と哀れみの目を向けてきた。


 授業終わり、笑里が自分で描いた絵を才華に渡しているのを見かけた。


「才華ちゃん、これあげるね!」


「ありがとう。ずっと大事にさせてもらうわ」


 落書きのように下手な絵でも、才華にとっては価値ある一枚になったようである。

 試しに神奈も棒人間の絵をあげようとしたのだが、笑顔で拒否されてしまう。彼女がいらないのなら仕方ない。神奈は教室へと走り、自分の絵を破いてゴミ箱に捨てた。なぜなら神奈自身も落書き以下の絵などいらなかったからだ。


「ん?」


 ふと、ゴミ箱の中にもう一枚絵が捨てられていたことに気付く。


「これ……何で捨てられてんだ?」


 捨てられていたのは泉の描いていた少年少女の笑い合う絵。

 不思議に思った神奈はゴミ箱から拾い上げ、教室内の彼女の机に入れておいた。


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