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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
四.五章 神谷神奈と平和?な日常
180/608

58.54 本番白雪姫――もうタイトル詐欺じゃん――


 卒業生を送る会にて白雪姫を演じることになった五年一組。

 クラスの一員である神奈は誰にも言えない秘密を抱えている。自分が転生者だとか、腕力で地球を破壊出来るくらい力持ちですだとかではない。トラブルで何人かの演者が秘密裏に交代してしまったのだ。


 変更した配役はといえば非常に混沌としている。配役は以下の通り。


 白雪姫……ポイップ。

 お后様……グラヴィー。

 魔法の鏡……プラティナリア。

 狩人……隼速人。

 王子様……ディスト。

 七人の小人……神奈ツッコミ再現ロボット、斎藤凪斗、夢野宇宙(そら)、真崎信二、クロエ・スペンサード、灰島シャルロッテ、鈴木渡。

 毒リンゴ……神谷神奈。

 総監督、ナレーション……腕輪。

 裏方……その他生徒達。


「えー、それではこれより五年一組の発表。演劇、白雪姫を始めます。本日卒業される六年生の方々、どうぞ楽しんでいってください。これはきっとかつてないほどに面白い演劇になるでしょう」

「おい無駄にハードル上げてんじゃねえよ!」


 ナレーションを腕輪に任せたのには理由がちゃんとある。

 不測の事態にすかさず対応出来るようなナレーションが生徒の中にはいない。対して腕輪ならば、今まで数々の事件に神奈と巻き込まれて耐性が付いている。万能腕輪というだけあって演劇のナレーションも余裕でこなせるだろう。……若干後悔しているが。


 なおステージ上にはマイクが置いてあるため、腕輪はそこに引っ掛けておいた。

 この場の空気なら、喋ったのはマジックですなどと言って誤魔化せるはずだ。


「昔々あるところに王様と、とても容姿の美しいお后様がおりました。夫婦の間には美しい女の子が産まれ、その子は白雪姫と名付けられて大層大事に育てられました。しかし、美しいお后様は病気で亡くなり、王様は代わりに新しい女をお后様にしました。新しいお后様は自分の美貌に絶対の自信を持っており、自分が一番美しいことを毎朝確認しなければ気がすみませんでした」


 序盤の設定羅列が終了したところで演者の登場。

 笑里に変装したグラヴィーが白いドレスを身に纏っており、泉に変装したプラティナリアは段ボールを被ってステージに現れる。


「……確認の相手は魔法のダンボールです」


 目がおかしくなったのを疑って目を手で擦るが状況は変わらない。

 プラティナリアはマジックミラーのセットではなく、なぜかダンボールを被っている。初っ端から異常が発生した現実に神奈は思わず叫ぶ。


「おい何で魔法の鏡じゃなくてダンボール!? つか魔法のダンボールって何!?」


「……え、これじゃないのか。傍にあったからこれかと」


 そういえばと神奈は思い出す。

 泉はマジックミラーのセットを自作したとのことで、気に入っていたのか毎日持ち帰っていたのだ。今日は母親の看病で慌てていたのかプラティナリアに渡しそびれたのだろう。因みにダンボールならステージ裏にいくつも常備されている。


 いきなり台本と違くなりグラヴィーも焦っている。

 代役のメンバーは一応、開始までの数秒で台本に目を通した。全てではないが覚えているはずだ。……このままでは覚えたのが無意味になりそうだが。


「だ、ダンボールよダンボール、この国で一番美しいのはだあれ?」


「それはお(きさき)様。あなたが一番美しい」


 とりあえずこのレベルの違いなら進行に影響が少ない。

 魔法の鏡がダンボールになっただけだ。場の絵面は混沌としてるが、台詞は鏡の名称をダンボールに変えるだけで支障なく進められる。


「お后様はそれからも毎日同じことを繰り返しダンボールに訊き、答えに納得する日々。しかし、ある日突然魔法のダンボールによる返答が変化したのです」


「ダンボールよダンボール、この国で一番美しいのはだあれ?」


「それは白雪姫、あの御方が一番美しい」


「……何ですって!? 白雪姫、あのクソガキが!? 許せない、一番美しいのは私でなければいけないのに! ムキイイイ悔しいいいいい! 狩人、狩人をここに! 早く来させなさい!」


 グラヴィーの演技が高レベルなのが唯一の救いだ。

 なんせ彼の得意とすることが他者への変装。成り代わった人物の演技経験において右に出る者は居ない。完璧に笑里を再現する演技力は称賛に値する。


 狩人役の速人がグラヴィーのもとへ歩いて行く。

 緑の羽帽子を被り、緑のベストに身を包む姿はまさにファンタジーの住人。背中にある弓と矢筒が狩人っぽさを増す。腰にある刀は異質だがそういう狩人が居るのかもしれない。


「よく来たわね狩人。あなたに命じます、白雪姫をぶっ殺しなさい。私はあの子が成長するのが怖い、恐ろしい。次に会ったら私が殺してしまいそうだわ」


「殺しの依頼か、いいだろう。あなたがそう望むのならやってやろう」


 ダンボールの件はあったが順調に進む。

 次は狩人が白雪姫を襲う場面だ。後ろにいるポイップに神奈は「もうすぐ出番だぞ」と注意しておく。そんなこと分かっていると言わんばかりに頷く彼女だが、速人達の方を指さして「あれ、変じゃない?」と呟く。


 改めてステージを見てみると速人がグラヴィーを見つめたまま動かない。

 なぜか戻って来ないので「おい、早く戻れ! おい!」と小声で忠告するが彼の耳に届かない。ステージ裏、つまり待機する場所に居る神奈に背を向けているのでジェスチャーも意味がない。


「……貴様、本当に秋野笑里か?」


 一瞬、背筋が凍る感覚を神奈は味わう。

 まさか誰かに疑われるとは微塵も思っていなかった。グラヴィーの変装は魔力によるものであり、肉体は肌の質などまで再現出来るのだ。本人の行動次第でバレる可能性はあるが今のところ大きなミスはしていない。


「何言ってるの速人君。今は演劇中だよ、集中しなくちゃ」


「動き、表情、視線、気配。どれもこれも嘘臭い。貴様は別人だな? あの阿呆に変装していったい何を企んでいるのか知らんが、どう考えても碌なことじゃないだろう。白雪姫の前に貴様を殺してやる!」


 もはや疑惑は確信に変わっていた。

 速人は腰にある刀を鞘から抜き、思いっきりグラヴィー目掛けて振るう。


「危なっ! ちょっ、本気で斬りかかってこないでよ!」


「なんと狩人は、お后様にこき使われるのが嫌で反乱を起こしました。もはや場は戦場と同じ。二人は本気で殺し合います、ド派手な戦闘をお楽しみください」


「演技の中に含めてんじゃねえよ! 下手したら死者が出るぞ!?」


 初撃は辛うじて回避出来たがグラヴィーではいつまでも避けられない。

 初めて会った時からずっと彼より速人は強かった。努力を惜しまず強くなり続けている速人との実力差は年々離れている。攻撃を回避出来たのは紛れもない幸運だ。


 懐から取り出した手裏剣五枚を速人が投擲。

 グラヴィーは咄嗟に〈重力(グラヴィティー)操作(コントロール)〉で手裏剣の軌道を上に逸らし、そのままの勢いで微細な重力変化を用いて速人へと返した。しかし五枚の手裏剣を速人は軽々と躱す。


「手裏剣なんて通じないよ速人君」

「なら狩人らしくいこうか」


 こんな時まで笑里の真似をし続けるグラヴィーへ弓矢が放たれる。

 速人が背負っていた弓と矢だ。刀同様本物らしく金属の矢が真っ直ぐに飛び、グラヴィーの〈重力操作〉に落とされて床に刺さる。


「もう見てられないよ……!」


 二人の戦いを見ていたポイップが走り出す。

 神奈が「あっおい!」と止めようとしたが無視された。


「二人共、喧嘩は止めてえ!」

「おっとここで現れたのは白雪姫。標的の登場に二人はどうするのでしょうか」


 才華に化けているポイップを見た瞬間、速人の目が鋭くなる。


「……貴様もか。偽者共め、あいつらをどこへやったか吐かせてやる」


 外見こそ真似ているが仕草を真似ていない。一瞬で才華ではないと見抜かれたポイップはグラヴィーの横へと並ぶ。


「無駄だ、もはや僕達に説得は不可能」

「仕方ないね。なら、私も戦うよ!」


「これは熱い展開です! 白雪姫とお后様の共闘だあ!」


 主人公とライバルの共闘。少年漫画染みた展開になってしまったのを見て神奈は「……いや、もうね……何これ」と茫然自失。もはや白雪姫のストーリーは欠片も残らず、崩壊したも同然。題名が白雪姫なのに詐欺と言われても言い返せない。


 滅茶苦茶になった演劇だが卒業生達にはウケたようだ。

 興奮して叫ぶ者までいるので成功といえば成功。白雪姫としては大失敗。


「二人だけでは厳しいだろう。私も手伝おう」

「さらに魔法のダンボールも参戦! まさに大乱闘!」


 白雪姫、お后様、ダンボールVS狩人という意味不明な状態になった。

 ポイップが真上に生クリームの入った巨大搾り袋を出現させて、刀を構えている速人へと搾り袋の先を向ける。


「生クリームガトリング砲!」


 真っ白なクリームの塊が連続で速人に発射される。

 まともな威力があるのか不明なそれに対し、彼は「効かん!」と刀で斬り捨てる。生クリームは刀にこそ付着したが彼には付着していない。完全に防御しきってみせたのだ。


「植物銃」


 続いての攻撃を準備したのはプラティナリア。

 泉に変装しているというのもお構いなしに、左腕を蔦に変化させて銃口を作り出す。発射したのは緑色の銃弾。体育館に植物がないので自分の体の一部だろう。プラトン人は体の一部が千切れても大丈夫な宇宙人なのかもしれない。


「無駄だ」


 発射された緑の弾丸は速人の刀に斬られる――かと思いきや斬れずに彼を後退させる。斬れないと分かった彼は弾丸を叩き落とす。


「ちっ、生クリームが付いて切れ味が落ちたか。だが貴様等を倒すのに武器などいらん。初めから素手で十分だったのだ、貴様等如きはな」


 このままでは戦いが長引きかねない。五年一組が使える時間は限られているため、最悪白雪姫ではなく四人の戦闘で終わる。今日まで準備してきた身として神奈は絶対にこのまま終わらせるわけにはいかない。

 少し早いが毒リンゴの着ぐるみを着用した神奈はステージに飛び出す。


「いい加減にしろおおおおおおおおおお!」


「ここで新たな乱入者、毒リンゴだあ! 彼女はお后様の魔法で作られた禁断の果実。自我を持ち、毒を宿し、ボケに対してつっこみまで入れる最強のリンゴです。さすがの狩人も毒リンゴには勝てず意識が飛んだようです」


 後ろから速人に体当たりし、ポイップが待機している左側のステージ裏まで吹き飛ばす。毒リンゴがこの段階で居るのもおかしいので早々に右側のステージ裏に戻る。

 戦闘が強制終了したので白雪姫の演劇が再開された。


「魔法のダンボールよ、白雪姫を拘束しなさい。改めて見ましたが美しい顔です。手助けは礼を言いますがそれとこれは別問題。白雪姫、悪いけどこの場で始末させてもらうわ」


 指示を出すグラヴィーだがプラティナリアは動かない。


「どうしたの? ダンボール」

「僅かながら共闘した仲だ、初めて出来た仲間だ。反逆させてもらうぞ。行け白雪姫! この場所から遠くへと逃げるんだ!」

「ダンボールが守るの!?」


 まさかの魔法のダンボールが白雪姫を守る展開。

 狩人がノックアウトされているので他の誰かがやらなければいけなかった。だがそれがダンボールになるとは予測不可能。卒業生達は驚きの展開で面白がっている。


「ダンボール……。絶対、君のこと忘れないから」

「ふっ、また会えたら会おう。無事に生きていれば、な」


 ポイップは左へ、グラヴィーとプラティナリアが睨み合いながら右へと向かう。

 戦闘になるかと思いきや神奈達のいる側へと駆けて来たので演技だと悟る。一時中断するために多少強引だが展開を軌道修正してくれたのだ。ここで初めてグラヴィー達の心遣いを神奈は感じた。


「どうだ、何とか白雪姫が逃げる展開に持っていったぞ」

「助かったよ。これで普通の劇に戻れる」


 先程までのハチャメチャな展開からようやく本来の白雪姫に戻れるのだ。ここから台本通りに進めていくのは共通認識になり始めている。次が出番となる小人役達は気合を入れてステージ裏から出て行く。


 劇を続けるために腕輪もまともなナレーションに戻る。


「お后様に命を狙われた白雪姫は魔法のダンボールに逃がされ、国内の森を走っていました。そこに七人の小人が現れます」


 才華に変装しているポイップが息切れの演技をしながら走り、七人の小人役と相対して立ち止まる。


「はあっ、はあっ、あなた達は……?」

「俺達は森に住む小人だよ。こんな場所に急いでやって来た君は誰だい」

「私の名前は白雪姫。お后様に命を狙われたため、こうして逃げて来たのです」


 小人役達はつっこみロボ以外が一斉に心配そうな表情を作った。


「おおそれは大変だ」

「それなら俺達の家に来るといい」

「そうだそうだ、人間には手狭だろうが宿なしよりはマシだろう」

「おいでよおいでよ」


 つっこみロボだけ「なんでやねーん」と告げたがこればかりは仕方ない。正直それしか言えないのが分かっていれば事前に配役を交代させたのだが。……霧雨も霧雨だ、なぜこんなロボットを代役として送ったのか。おそらく怪我で正常な判断が出来なかったのだろう。


「白雪姫は出会った小人達と森で暮らし始め、平穏で楽しい生活を送りました。しかし、そんな順風満帆な日常はいつまでも続くことはなかったのです」


 この後はお后様と鏡……ではなくダンボールの出番だ。ポイップと七人の小人役は左右にあるステージ裏へと歩いたのだが異変が起きた。

 ――異変の正体はつっこみ再現ロボである。

 唐突に謎の駆動音を出し、両腕をぐるぐると振り回し始めた。


「なんと小人の一人は、古代の兵器を取り込んでおり暴走しやすかったのです。ある日、破壊衝動に目覚めた彼女は周囲を破壊し尽くそうと行動を開始します」

「な、なな、ななななななんでやねえええええん!」


 つっこみロボはポイップへと向き直り、口から水色のレーザーを放射。

 レーザーはその場から動かなかったポイップの胸を貫き、それだけに止まらず体育館の壁すら貫く。なぜつっこみを再現するロボットにレーザー兵器が積まれているのかは、作った張本人である霧雨にしか分からない。


「お、おい、あいつ死んだんじゃないか……?」

「演劇とは死者も出るのか。恐ろしいな」


 心配そうにグラヴィーとプラティナリアが呟く。


「あー大丈夫大丈夫。……あいつ、あんなこと出来たのか」


 神奈には見えた。

 レーザーが放射された瞬間、ポイップは直撃する部分に自ら穴を空けて躱したのだ。胴体もクリームで出来ていると見て間違いない。異質な体を持つ精霊だからこそ出来る芸当である。

 無事な理由を説明するとグラヴィー達は安堵したように「そうか」と呟く。


「しかしこっからどうするか……」


 もう白雪姫を台本通りに演じることは諦めていいと神奈は思う。

 台本通りに進めようとするよりも、綺麗に終わることを考えた方がいい。グダグダで物語を終わらせるのが一番悪いパターンである。

 神奈が悩んでいると誰かが真横を通り過ぎてステージへ飛び出す。


「おっと暴走した小人のレーザーが止まらない! 他の小人にもレーザーが飛んで行き……おおおお! なんと王子です、颯爽と駆けつけたのは王子様だあ!」


 ――ステージ上にディストが登場してレーザーの軌道を捻じ曲げた。

 彼の魔技(マジックアーツ)、〈空間操作(ディストーション)〉で空間を移動したのだろう。目に見えないものを操っているため神奈も具体的に理解は出来ていない。


「……よくも、やってくれたな」

「なーなーなーなんでやねーん」

「俺の将来の妻となる者をよくも殺してくれたなあ!」

「白雪姫に会ったの初めてだよなお前!?」


 怒りで身を震えているディストが血走った眼をつっこみロボへ向ける。

 ここで神奈は思い出したが、彼は才華にバレンタインチョコを受け取って一目惚れしていた。現在ポイップが変装しているのも、死んでいないのも彼は知らない。


 つっこみロボが水色のレーザーを放つが彼は空間を捻じ曲げて対処する。

 暫く同じ展開が続いた後、彼はつっこみロボへ手のひらを向けてから一気に握る。それと連動するように機械の体は圧縮されて野球ボールほどの大きさになった。

 敵を排除した彼は涙を目に浮かべてポイップを見つめる。


「……すまない。俺がもっと早く台本を読み終わっていれば、お前は死なずに済んだのに」


「あの、それならキスしてみればいいんじゃないですか?」


 しんみりした空気をぶち壊して告げたのは小人役の一人。


「キス……? そんなことをして何になる」

「実は御伽噺でキスされた女性が生き返る話がありまして」

「試す価値があると言いたいのか。まあいいさ、彼女への手向(たむ)けとしてやってやろう。どうせそんな話、くだらない迷信だろうがな」


 小人役のナイスフォローで物語が軌道修正された。

 夢咲が構成したシナリオでは仮死状態の白雪姫が落とされた衝撃で目が覚め、有名なキスシーンは結婚式に持っていっている。だが仮死状態からキスで目覚めるのも王道展開だし面白い。


 倒れているポイップの傍にディストが跪き、顔を近付ける。

 見るからに慣れていない唇を尖らせすぎのキスだ。神奈が「うわぁ」と思いながら見守っているとキスの前にポイップが起き上がった。


「あ、ごめん。キス顔が気持ち悪いから起きちゃった」


「……な、なんと白雪姫は最初から死んでいなかったのです。その後は暴走した小人が居ないので、白雪姫は小人達と共にいつまでも幸せに暮らしましたとさ。後で聞きましたが王子様は国に帰った後ショックから立ち直り、お后様は魔法のダンボールと相打ちになったそうです。めでたしめでたし。これにて五年一組の白雪姫を終わりにします」


 釈然としない終わり方だ。裏で見ていた神奈も、ステージの演者達も、卒業生ですら「ええ……」と居た堪れない空気になっている。

 終わり良ければ総て良しと言うが、それは最終的に良い終わり方をした場合のみ適用されるもの。良い終わり方に持っていくのは想像以上に難しい。

 今回の大きな失敗で神奈達は人生が順調に進まないことを改めて学んだ。




 * * *




 宝生小学校にて演劇に参加していたプラティナリアは帰り道を歩く。

 泉沙羅に頼まれて代役を頑張ったはいいが成果はイマイチ。劇の途中で多くの卒業生が笑っていたり、楽しんでいたので総合的に見れば良かったのだろう。……終わり方は散々であったが。


「たまにはこういうのも悪くない。友人も作れたことだし、いいものだな。学校生活というものは」


「――うんうん良かったよ君達の演劇。ポク感動しちゃったよ」


 泉に変装したままのプラティナリアの前に見知らぬ男が立ち塞がる。

 顔を白塗りにしており、鼻に赤く丸い飾りを付けている。服装はパーカーにジーンズとありふれたものだが男本人からは不気味な雰囲気が漂っていた。


「見てくれていたのか。どうもありがとう」


「いやいや良いもの見せてもらったよ。人生の理不尽を表すような物語だった。この世界が理不尽だと知っていると終わり方も納得出来るよ。そう、世界は理不尽だ。誰にでも不幸が降ってかかる。君にもそうだ、理不尽は唐突に君を襲う」


「何を言って――」


「さよならバイバイ!」


 男はパーカーのポケットからナイフを取り出して距離を詰めて来る。

 無駄な動きのない実戦経験豊富な動きだ。吸い込まれたようにナイフがプラティナリアの胸に刺さり、青紫の血液が勢いよく傷口から漏れ出た。

 怪しげな男は攻撃の後ですぐ走り去っていく。


「……今の男……いったい、何者……なん、だ」


 立つ力も抜けてきたプラティナリアは道路に倒れる。

 近くに人は居ないし車も通っていない。救援は期待出来ない。

 プラティナリアは己の死を本気で覚悟して目を瞑った。


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