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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
四章 神谷神奈と運動会
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52 発射――なんでそこまで――


 宝生雲固合同運動会にて騎馬戦が始まろうとしていた。

 選手の中には熱井もおり、他にも多くの参加選手が立っている。

 神奈はチームを組む予定の仲間へ夢咲と共に、先程の裏切り者の件を説明した。笑里と才華の二人は事情を聞いて愕然としている。


「心悟君、妹のために……」


「裏切り者って嘘じゃなかったのね」


「だからあいつの目を覚ます。協力してくれるか?」


 協力を仰ぐと二人は当たり前だと即答してくれた。

 クラスの全員から信頼されている熱井が裏切り者など、こんな話をしたところで信じる者は少ないだろう。二人の信頼が彼よりも神奈に寄せられていた証だ。突拍子もない話を信じてくれたことに神奈は感謝の念を抱く。


「さて、ついに始まろうとしています騎馬戦! 選手の子達は騎馬を作って待機してください!」


 騎馬戦。

 三人で馬を作りその上に一人が乗る。上に乗っている人物が頭に巻いている鉢巻きを、乗っている人物同士で奪い合う種目。


 笑里、才華、夢咲の三人で馬を作る。神奈が一番上であるのは身体能力が高いためだ。


 遠くに金城の姿があり、神奈の方を見てニヤリと笑う。熱井は三人がかりで作られた馬の上に乗り、真剣だが狂気すら感じさせる目に変化している。注意するべきはこの二人の騎馬くらいだろう。


 グラウンド内にいる出場者達が全員騎馬を作り終える。それを確認した司会実況の鈴木が「さあ、それでは騎馬戦スタートです!」と合図した。

 合図がされた瞬間。両チームが一斉に駆け出すが、金城の騎馬だけはゆっくりと動き始める。


「焦って走っても体力の無駄ですし、数が減るまで待たせてもらいましょう」


「あいつ、舐めやがって……」


「でも戦略としては間違ってはないわね」


「数が減るまで余計な消耗は避けたいのはこっちも同じだからねっ、右!」


 神奈は夢咲の声を聞いて左に頭を動かすと、誰かの手が通過する。

 鉢巻きを奪おうとした雲固側の生徒は「くそっ」と悔しそうに吐き捨てた。距離が近いため神奈は手を素早く伸ばして鉢巻きを奪っておく。


「いけるな、予知戦法」


 夢咲は自身に害が及ぶ二秒前にそれを予知出来る。騎馬戦において役に立たないと思われたが特訓の末、強く意識すれば自分以外すら害を予知出来るようになった。これは神奈が精霊界に滞在していた間に成長したと本人から聞かされた。


 対象は鉢巻き。奪おうと手が伸びれば、その二秒前に夢咲に予知される。

 予め相手の攻撃方向を伝えられれば神奈の身体能力でいくらでも躱せる。さらに相手が手を伸ばしてくる前に逆に奪うことも出来る。


「あ、心悟君が!」


 焦った笑里の声につられて遠くにいる熱井を見た神奈達の顔が強張る。

 宝生側の騎馬に熱井の騎馬がわざとぶつかっていた。あくまで自然に、事故と思わせる程度にだが衝突された側はバランスを崩す。直後に「すまない!」と謝罪していものの意識を向けさせるためであり、注意が熱井に向いた隙に雲固側の騎馬が鉢巻きを奪う。戦法は卑怯だが見事なコンビネーションだ。


「金で買われたのは一人じゃなかったか」


 考えてみれば当然ではあった。

 騎馬戦は四人一組。熱井だけが裏切っても他が動かないので無意味。五年一組の裏切り者は複数人いることになる。


「でも……酷いね」


「ええ、到底許されていい行為じゃないわね。お金で人を買収するなんて、無駄遣いもいいところだわ。あっちはあんなことまでして勝ちたいのね」


「だからこそ私達が協力して――左!」


 夢咲と神奈のコンビネーションで敵の攻撃を防ぎ、奪う。

 笑里の機動力で敵に囲まれても突破する。

 才華の判断力で戦況を見極めて有利な位置へ移る。

 四人の騎馬は弱点が見当たらないほど完成されていた。


 騎馬戦は進んでいき、残りの組が数少なくなっていく。

 金城の騎馬は未だにほとんど動いておらず、その手に持つ鉢巻きはゼロ。敵に協力し続けている熱井も同じくゼロ。神奈達が持つ鉢巻きは八個。他の騎馬の成果も計算すると宝生側と雲固側の得点は同程度である。


「そろそろ頃合いね」


 そう言ったのを合図に金城の騎馬は足を動かした。

 白熱する中、雲固側が奪っては宝生側が奪い返す。鉢巻き獲得数は互角のままで残りが神奈、熱井、金城の騎馬のみとなる。


 この勝負が騎馬戦での命運を分ける。しかし勝負は実質二対一、宝生側で熱井が裏切っているために雲固学園が有利な状態だ。

 三つの騎馬はじりじりと近づき中心に集まっていくが、その足は距離があと数メートルというところでピタッと止まる。止まったまま十数秒が経過して、金城がしびれを切らす。


「来ないならこちらから行くわよ?」


「来いよ卑怯者」


「ならお望み通りに。行きなさい(しもべ)達!」


「はっ! 金城様の命令通りに!」


 金城が手を横に振るうと、騎馬が神奈達までの数メートル程の距離を素早く詰める。騎馬の状態だと感じさせないほどに速い。


「来る、夢咲さんに頼らなくても分かる。真正面だし取れる!」


 一直線に来る金城の鉢巻きを取ろうと神奈は手を伸ばす。しかしここでの敵は金城だけではないことを完全に失念していた。


「きゃっ!?」

「なにいぃ!?」


「おっとここでアクシデント! 少しぶつかるのが多い宝生チーム熱井君の騎馬! また味方の騎馬にぶつかってしまった!」


 運動部で作られている熱井の騎馬が背後から体当たりしたことで、神奈の騎馬はバランスを崩す。バランスを崩して地面に落ちそうになる神奈だったが、先頭にいる笑里の肩に足を掛けてぶら下がったことで落ちずに済ます。


「いつの間にか後ろに回ってたのか……!」


 そして金城の手が神奈の頭上を通り過ぎる。バランスを崩すことを計算していたのか的確な狙いだったが、寸前で頭を動かして避けた。

 上手く取れなかった金城は舌打ちする。


「上手く避けたわね? でもそんな偶然もどこまで続くかしら?」


「いつまでもだよクソッたれが!」


 余裕の笑みを浮かべている金城に対し、神奈は気合を込めるため大声を出す。

 ぶら下がっていた状態から〈フライ〉を使って楽に起き上がり、肩車状態になる。そして金城の手が伸びてくるのを察知し、首を動かしてみたり、肩車の状態から笑里の肩の上に立ち上がったりして回避する。


「この、ちょこまかと! いい加減にしなさい! (しもべ)達、さっさと潰してしまいなさい!」


 僕と評される金城の騎馬よりも早く、熱井の騎馬がかなりの加速とともに神奈達へ体当たりしてきた。

 下で支えてくれている笑里達が小さな悲鳴を上げる。


「すまない、これが終わったら謝るから許してくれ!」


 熱井の騎馬の体当たりにより神奈達の騎馬は完全に崩壊――する前に神奈は笑里の肩から熱井の肩へ飛び乗った。


「なっ神谷さん!?」


「お前の事情は分かった、でも頼る相手を間違えるな! お前にはクラスのみんながいるだろ! もっと身近に頼れる存在がいただろうが!」


 肩に飛び乗ったのに驚いたのか上を向く熱井。

 彼の鉢巻きを神奈はいとも簡単に奪い取った。


「え?」

「何ですって?」

「こ、これはどういうことだあ!? 残った宝生チームのうち神奈ちゃんが熱井君の鉢巻きを奪ったあ! まさか味方の鉢巻きを奪うとは! ルールを理解しているのかあ!?」


「さあ、これでルール上何も出来ない筈だぞ。大人しくしてろよ」


 金城も、笑里も、騎馬戦を見ていた全員がその行為に驚愕する。

 状況が理解出来ないのか、熱井は既に奪われた鉢巻きの感触を確かめようと手を伸ばしている。鉢巻きがないことでようやく何が起こったのか理解したらしく、怒りから顔を真っ赤にして叫び出した。


「そんなっ、神谷さん、君は僕の事情を知って尚邪魔するのかああ! 友達なら、少しでも僕のことを思うのなら負けてくれればよかったのにどうして! どうして邪魔ばっかりするんだよおお!」


「ああするね! 間違いを正すのもまた友達だからな! お前のやってることは間違ってる、今から――」


「ふざけないでくれよ! これで僕の妹は……! 君の身勝手な正義感のせいで死んでしまうんだぞ!」


「ふざけてんのはお前だ、死なないよ! 兄貴が最初に諦めてどうすんだ! 必死に戦ってる妹に申し訳ないと思わないのか!? 妹が治ったとしても、そのための金を兄貴がどうやって集めたか知って、素直にありがとうって言えるわけがないだろ!」


 言葉が響いたのか熱井は勢いを失う。


「……で、でも」


「兄貴だってんなら、妹のことを思ってるっていうんなら、死ぬなんて考えずに生き残ったハーピーエンドでも考えとけ。それになあ、一人で抱え込んでんじゃねえよ……相談さえすれば違った結果になったかもしれないんだぞ? 妹のこと……大丈夫、私に考えがあるんだ」


「解決策ってどうする気だい? 結局お金がなければ妹は……」


 思いつきだがちゃんと策はある。時間がないため説明は出来ないが。


「心配すんな! 私を信じろ! 目の前にいるのは金って餌でお前を釣るクズじゃない、お前のことを真に心配してる一人だ!」


「一人……?」


「寝ぼけんなよ、お前には三十人くらいの友達が、クラスの仲間がいるだろうが……だから待ってろ」


 少しの沈黙の後、熱井が口を開く。


「分かった、そこまで言うなら僕は神谷さんを信じるよ。だから絶対――」


 熱井の騎馬の下の三人が、タイミングを合わせて騎馬を解除した。

 バラバラになったということは支えがなくなったということ。下の人間がいないため熱井と神奈は地面へと落ちていく。地面に落ちれば失格なので神奈は熱井を踏み台にし、態勢を立て直していた笑里達の方に戻る。


「悪い熱井君、ほんとゴメン!」


「……か、構わないさ。勝つため……なんだろ」


 踏み台にしたことで熱井は地面に勢いよく落ちてしまった。

 失格にならないためとはいえ、先程まで熱く説得した男子を踏み台にするのはどうなのだろうか。本当に申し訳なく思いつつ、いつまでも余所見は出来ないので金城の方へ視線を向ける。


「まさか味方の鉢巻きを奪って失格にさせるなんてね」


「ハッ、まさか相手の学校の生徒を買収してるとはな。卑怯すぎるだろ」


「卑怯? 笑わせないで。これは戦略よ?」


「どこがだ! 人の弱みを握って使い潰すような――何だそれ?」


 話している間に取り出したのか、金城の手には何かのスイッチが握られていた。

 騎馬戦に全く関係ない物体が出てきて神奈達は混乱する。


「ねえ何それ、押したら爆発でもするの?」


「ああ、これ? さすがに私は貴方みたいな化け物に敵わない。天寺様達と違って、私は化け物じゃないからね。……でも人質をとっていたら?」


 人質という言葉に神奈達は驚き目を見開く。


「人質!?」

「なっ、この人そこまで!?」

「まさか、そこまでやるのか? だとしたら正気じゃないぞお前……」


「このスイッチを押せば、なんとこの町にすぐミサイルが発射されるの! 素敵でしょ? およそ数百のミサイル、打ち込まれればこの町は壊滅ねえ?」


 金城は両手を真横に広げ、今まで抑えていた感情を爆発させたように宣言した。

 町を壊滅させるという正気とは思えない言動に、笑里、才華は顔面蒼白になる。逆に神奈と夢咲はミサイルの話でとある疑問が解けて納得する。


「嘘でしょ……」

「嘘だよね……?」


「お前、何でそこまで……ミサイルなんてもん用意してまで勝ちたいのか? これはたかが運動会なんだぞ?」


 理解出来ない相手の気持ちを確かめるべく神奈は問いかける。

 確かに学校名を賭けた特別な勝負ではあるが、ミサイルなんてものまで用意する気持ちは理解出来ない。


「何でですって……貴方に分かるの? 学園の名前が下品だと言われて見下されて罵倒されて……もうウンザリなのよこんな名前の学校!」


 金城の気持ちを確かめられたが、その答えに全体の時間が一時停止したかのように沈黙が数秒訪れる。そんな沈黙を破ったのは神奈の抑えきれないツッコミだ。


「ええ理由そんなこと!? ならどうしてそこに入っちゃったんだよ!?」


「お父さんが入学手続きをしたんですもの、私は知らなかった!」


「じゃあ転校すれば?」


「……転校をしても書類には残ってしまう。この金城グループの一人娘であるこの私が通っていた学園が! よりにもよって雲固学園だなんてデータに残るのが許せない! 末代までの恥なのよ!」


「だからってここまでするのかよ」


「ええ、もう私は正気じゃないの。大丈夫、ミサイルはこの学校以外を狙うわ。ここは無傷で済む、ここ以外は全て消え去る。さあもう分かったでしょ? 降参してくれる?」


 金城はどうしようもなく狂っていた。穏やかな表情になり降参を勧めるが内面から溢れた狂気を感じる。しかし神奈の中でもう返答は決まっている。


「やってみろ」


 その一言でまたも数秒の沈黙が訪れた。


「ちょっと神奈さん!?」

「神奈ちゃん!?」


「は……貴方聞いていたの? この町が消し飛ぶのよ? いいの?」


 慌てた表情で笑里と才華は止めるよう説得する。

 町が消滅するのは普通に困るが、神奈にはどうにかする算段がしっかりあった。自分が飛んで行って全て撃墜する手段は取れない。もしこの場を離れてしまえば騎馬戦失格扱いになってしまう。


「お前はさ、世の中思い通りに動かせるなんて思うか?」


「……当たり前でしょ? 私はこの国でトップクラスの会社の跡取りなの。世界の全ては私にひれ伏すのが決まっているのよ」


 唐突に関係なさそうな質問をしたからか金城は困惑しつつ答える。

 金という力が自信となり、金城の中では誰もがひれ伏す僕でしかないのだろう。天寺に様付けしていたのを聞くに思い通りにはいかないと思うが。


「ならやってみろよ。思い通りになるってんなら押してみろ」


「ちょっ、それシャレにならないよ神奈ちゃん!」

「そうよ! もし押してしまったらミサイルが!」


 慌てて神奈に叫ぶ笑里と才華。その間、夢咲は無言で神奈を見ていた。

 俯いて動かなくなっていた金城は、少ししてからニタッと口を歪め手を動かす。


 ――カチッ!


 今、悪夢のスイッチが押された。

 溜めていた狂気を外に出しながら金城は笑いだす。


「ハッハッハッハッハッ! もう終わり! 何もかも消えるがいいわ! あなたのせいよ!? 押せなんていうから、この町が消えるのはあなたのせいよ!?」


「そうかよ、それでお前、鉢巻きはいいのか?」


「……っ! いつの間に……でもそんなのもはやどうでもいいでしょ。この町が消える、あの学園も消えてしまえばもう私の汚名も恥部もなくなる!」


 はっはっはっはっは、と大声で金城が笑う。


「そうよ! 鉢巻きとってもミサイルが!」

「どうするの? 神奈ちゃんには考えがあるんだよね?」


 笑里達が不安そうな顔をして神奈に問いかける。


「ミサイルが町を破壊することはない」


「はっ? 負け惜しみ?」


「違うさ。これは――信頼かな」


 町を破壊するのは絶対にないと信じている。

 神奈は騎馬戦前にある人物へ電話をしており、動いてくれるよう頼んである。現在ルールに縛られた自分が何も出来なくても、自由に動ける第三者の力を借りれば危険を退けられるはずだ。



 * * * 



 青空が広がり太陽が地表を温かくする絶好の運動会日和。

 トランシーバーを持っている一人の少年が鉄塔の上に佇んでいる。

 彼の名はレイ。赤紫色の後ろ髪が逆立っている彼は遠くに何かを発見した。その何かは音速に近い速度で空を駆けて向かって来ている。


「さあ、そろそろ時間だ」


 トランシーバーから二種類の声が聞こえる。


「ああ、こちらも確認した」

「……なぜ僕がこんなことを、面倒な」


 レイはついさっき突然来た神奈からの電話を思い出す。

 いきなり頼みがあると告げられ、事情を聞いてみればまたとんでもない事態が起きると理解した。しかし頼られたのが嬉しかったので、例えどんな無理難題でもオーケーしていただろう。


 何せレイは神奈に大きすぎる借りがある。

 頼られるのが嬉しい云々以前に彼女へ協力したいという気持ちが強い。他の二人がどう思っているか不明だが、レイはやっと借りを返せることでホッとしている。彼女がレイを頼ることはあまりなかったからだ。


「これでやっと借りが返せるね……神奈」


 空の彼方から黒い点々が見え、猛スピードで宝生町に近付いていた。

 その正体は――ミサイル。それを待っていたと言わんばかりにレイは動き出す。


「流星剣!」


 自身のエネルギーで構成された薄赤紫に光る剣。

 一振りすればエネルギーの刃が飛んで行き、遥か遠くにある大量のミサイルを破壊していく。宝生町に届く前にミサイルは空中で爆発する。


 レイは爆発を見届けた後、担当場所以外の方向も見やる。

 重力が逆転したようにミサイルがさらに空高くに浮いて、一か所に集まったミサイル同士が衝突して爆発していた。他の二人が上手くやっていると証拠だ。


 それからも次々来るミサイルを破壊すること数十秒。

 もう来なくなったのを確信したレイは二人の仲間と合流する。


「しかしミサイルとは、また何かに巻き込まれているのか」


「奴の場合は自分から飛び込んでいるのではないのか?」


「はは、そうかもね」


 レイは空を見上げて呟く。


「何に巻き込まれたとしても、どんな敵がいたとしても、君なら大丈夫だろう?」


 それは自分が敵わなかった男を倒してみせた少女への強い信頼だ。

 借りは返したとばかりにレイ達は自宅へ帰っていった。



 * * * 



 いつまで経ってもミサイルがやって来ない。

 遠くで爆発音がした気もするが宝生町は無事そのもの、損害一つありはしない。金城が「どうして、どうして何も起きないの!?」と慌てている中、神奈はレイ達が上手くやってくれたことを悟る。


 裏切り者が熱井だと判明した後、神奈は夢咲からミサイルが大量に落ちて町が破壊されるという信じ難い話を聞かされた。

 どうしてそうなるのか、誰がそんなことをするのか分からなかったが、確かなのは何もしなければ町が吹き飛ぶという事実。それをどうにかするために、神奈は運動会に参加していない中で確かな実力を持つレイに連絡を取ったのだ。


 もっと他の者にも連絡を取って安全性を高めたかったが仕方ない。

 ミサイルを迎撃出来そうな者などそう多くいない。フラワーショップで働くプラティナリアや精霊界の精霊達も思い浮かべたが、残念ながら連絡手段がないため断念した。


「これで分かったか? 世界は思い通りになるほど甘くないってことが」


「う、ウソだ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! こんなはずじゃなかった! あああアあアア!」


 現実を認めたくないのか金城が癇癪を起こす。

 騎馬から落ちるほどに暴れて、落下してからも陸に上げられた魚のように暴れ回る。あまりにも惨めで憐れな幕引きだ。そうなるだけこの運動会に対して強い想いを秘めていたのかもしれない。


「おっと、どうしたんでしょうかうん……学園の金城遥ちゃん、突然狂ったかのように苦しみだした! 今、運営委員会が連れて行った模様です! 何があったかは分かりませんがこの騎馬戦は宝生チームの勝利でえす!」


 名前のせいで金城は狂ってしまったと神奈は理解する。

 全てはそれが原因だ。何もかも、それが悪い。


「名前、か。その人物や建物の一生ものだから大事に決まってるな。さて、これで残すは最終種目だけか」


 司会実況の鈴木の真上に映し出されている空中ディスプレイにて、得点表示が変化していく。得点が動き点差が埋まったことを知らせてくれる。



 宝生 2400点     雲固 2400点









神奈「この運動会めちゃくちゃにされすぎだろ」

才華「ところでお金の当てってもしかしなくても……」

神奈「……」

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