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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
四章 神谷神奈と運動会
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47.2 参加表――青春ですよ――


 最低最悪の罠を仕掛けた女生徒、走莉矢(はしりや)素紺(すこん)の話を聞いた神奈は帰宅していた。自宅のリビングにてソファーに座り、帰りに才華から手渡された紙を眺めている。


 紙に書かれているのは運動会で行われる種目名と参加者だ。

 今日決めていたらしく、卑劣な罠によって気絶していた神奈とその他生徒は適当に振り分けられたらしい。後で文句は出るだろうが、早めに決めて練習しておいた方がいいとの判断だという。


 第一種目、百メートル走。

 男子参加者……隼速人、熱井心悟、夢野宇宙(そら)、真崎信二。

 女子参加者……神谷神奈、藤原才華、比曽真伊、(いずみ)沙羅(さら)


 第二種目、二人三脚。

 男子参加者……熱井心悟、隼速人、夢野宇宙。

 女子参加者……神谷神奈、秋野笑里、灰島シャルロッテ。


 第三種目、大玉転がし。

 男子参加者……熱井心悟、大沢基弘、|坂東ロドリゲス、須藤剣。

 女子参加者……秋野笑里、幸田楔、葛城奈々、宝塔花火。


 第四種目、玉入れ。

 男子参加者……熱井心悟、九鬼誠、坂東ゴライアス、鬼木梨砂袈。

 女子参加者……神谷神奈、藤原才華、保戸穂波、銀武美琶子。


 第五種目、綱引き。

 男子参加者……熱井心悟、荼毘刀利、角宮壱火、鈴木渡。

 女子参加者……秋野笑里、工藤香里、塩浜三傘、佐藤詩織。


 第六種目、借り物競争。

 男子参加者……熱井心悟、斎藤凪斗、霧雨和樹。

 女子参加者……牧野愛依、暗典山トノ子、柳翼。


 第七種目、大縄跳び。

 男子参加者……熱井心悟、山内豪鬼、宗閃ゼレン、雪村浩。

 女子参加者……神谷神奈、秋野笑里、夢咲夜知留、藤原才華。


 第八種目、学年混合リレー。

 男子参加者……熱井心悟、音無葉隠、隼速人。

 女子参加者……神谷神奈、秋野笑里、新島秋。


「参加してない奴もいるな……」


 今回は二校の合同運動会。生徒全員が参加するのは人数的に厳しい、わけではない。ちゃんとした配分をすれば全生徒が出られる枠がある。……にもかかわらず神奈のクラスでは数名余っていた。それもその筈、元凶はおそらくあの男にある。


「何で熱井君だけ全部の競技参加してんだよ。どんだけ好きなんだよ運動会」


 そう、熱井心悟が全種目参加しているのが理由だ。

 全ての男子参加者名簿に名前が載っているのには正気を疑う。やはりあれだけの熱血だと運動会も楽しみであって然るべきなのかもしれない。元々クラス内、いや学校内で一番熱を入れていたのが彼なのだから。


「神奈さんは百メートル走、二人三脚、玉入れ、大縄跳び、リレーですね」


「多いなあくっそお、絶対押しつけられたろ」


「でも神奈さんがやれば一位間違いなしですし、いいんじゃないですかね。毎年言っていますけど運動会は青春ですよ! もっと楽しみましょうよ!」


「名前の件がある以上楽しさゼロだわ。なくてもゼロだけど」


 敗者の学校の名前が雲固学園になる勝負。相手が卑怯な手を使ってくる以上警戒は終始しておかなければいけない。これで楽しめる要素が一ミリでもあるだろうか。あるのは仕方なく引き出されたやる気くらいなものだ。


 青春と言われればそうなのかもしれない。……だとすれば、神奈は前世で青春の記憶が一切ない。学校行事など小学校高学年になってからは一切参加していなかったし、そもそも登校頻度も減少していった。前世と比べれば今世は行事も楽しめている方だと思う……運動会は別として。


「あ、後は鉢巻きですね。才華さんに言われたでしょう?」

「あー言われたっけ」


 才華に語られた今日の内容は参加者決めだけでじゃない。

 面倒だと思いつつ神奈は参加者表を横に置き、傍に置いてあった真っ白な鉢巻きを手に取る。


 これは全クラスがクラスごとにデザインした鉢巻きを作るという、団結力を深めるためという理由でやることになったもの。とりあえずどんなデザインがいいか案を出し合うため、実際にデザインして明日持って来てほしいと言われたのだ。正直言って面倒極まりないがみんなの青春のためだ。数少ない本気の出しどころである。


 マジックペンを持って来ると、鉢巻きの下半分を黒く塗る。

 終わりだ。


「なーんと吃驚、ああっという間に腕輪デザインになりましたー。なーんて斬新なデザイン、みーんな気に入ること間違いなーし。私はよーく頑張りました」


「ま、まさか神奈さん、頭にも私を付けたいという意思表示!? 私をサークレット的なものにすることをご所望ですか!?」


「いや簡単デザインだからって理由ですけどね」


「残念ですが私は私の意思で形を変えられないんですよねえ。神奈さんのお気持ちは大変嬉しいんですが! 非常に、ひっじょうに残念ですが!」


「いやだからね! お前が超簡単デザインだから真似しただけなんですよ!」


「あああああああ! 誰も言ってはならない事実をおおおお!」


 やたら認めないと思ったら気にしていたらしい。白と黒の二色なうえ、上と下半分ずつで塗り分けられた簡潔デザインなのは、自分が一番分かっているだろうに腕輪としては認めたくない事実だったのだ。


「もっとかっこいいデザインにしてくださいよおおお! ほら、その鉢巻きを私だと思ってリベンジしてくださいよ! そんな白黒の手抜きデザインじゃなくて――って誰が手抜きデザインですか!」


「お、おお、ノリつっこみ……珍しい」


 正直そんなことは製作者に言えと神奈は言いたい。

 思えば腕輪は誰が作ったのか知らない。興味もないので知ろうとすらしていなかった。転生の間にいた適当な老人が作ったのかもしれないが……と、そこまで考えてやはりどうでもいいと思ってしまい、数秒頭を悩ませた疑問を記憶から消し去る。


「つーかやり直すにしても貰ったのこれ一枚だし。明日学校行ったら貰う必要があるから今日は無理だっての。まあさすがに手抜きすぎたとは思うし明日もう一枚貰うか」


「手抜きって言わないでください!」


「悪かったようるせえな! お前は製作者に文句言ってこいや!」


 鉢巻きの話題のままだと言い合いが止まらなそうなので、神奈は強制的に話をぶった切って風呂場へ向かう。ゴキブリの件があるので体はよく洗わないといけない。

 話を終わらせたものの腕輪は鉢巻きのデザインについて語り続けていた。シャワーを浴びている時も、風呂に浸かっている時も、寝間着に着替えた後もトークが止まらない。


 自室に向かい、ベッドに転がって寝る準備は万端。

一人暮らしなので実質全て自室のようなものだが、父親である上谷周が居た頃は自室と呼んでいた場所だ。寝室とも言う。


 常人なら髪が湿ったまま寝ると寝癖が酷くなるだろう。しかし神奈のような天然パーマ染みた人間は問題ない。ドライヤーを使おうが使わなかろうが同じなのだ、どうせ髪は四方八方に跳ねてしまう。


「そうだ、ドラゴンの柄なんてどうですかね。鱗の柄ですよ鱗の柄。ちょっとかっこいいと思うんですよねえ、神奈さんはどう思いますか?」


 神奈は秘技、寝たフリを発動させる。

 やがて本当に寝られたが、それまで腕輪の話が止まることはなかった。今後デザイン関係の話は極力しないと神奈は誓う。



 翌日の朝。

 鉢巻きのデザインについて考えながら家を出ると、扉の傍に所々赤いシミがある黒い服が落ちていた。雲固学園の指定制服だ。


「何だこれ、嫌がらせか? 仲間に勧誘してるとして、寝返ったら血塗れの制服着ろって言いたいのか? どんな思考回路してたらそういう発想になるんだよ」


 また爆弾だとか人形だとかがあっても困るので念入りに触れて調べる。するとポケットに何か入っているのが分かり、不審物なら処分してやると思いつつ取り出す。

 中に入っていたのは名札であった。制服同様に血が付着している。


「……なあ腕輪。人間って、どこ殴られたら一番痛いかな」


「え? それは、まあ、顔ですかね。歯とか鼻もありますし」


 神奈はデニムの後ろポケットからスマホを取って電話を掛ける。

 相手は才華だ。怒りで震える声で今日学校へ行けなくなったことを伝える。彼女から動揺の声が上がっていたが無視して通話を終わらせた。


「天寺静香、潰すぞ」


 怒りの原因となったのは名札に書かれていた名前である。

 名札に書かれていたのは――走莉矢(はしりや)素紺(すこん)

 意図なんてどうでもいい。これは挑発だ、最低なやり方で喧嘩を売られたのだ。神奈は怒りを燃やしながら歩き出す。向かう先は雲固学園だ。


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