表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.六章 神谷神奈と精霊界
126/608

44.90 女子人気ランキング


 斎藤凪斗は教室内でゆっくりと本を読みたかった。


「んじゃ斎藤、後はお前だけだから頼むぜ。投票が終わったら俺に返してくれよ」


 読みたかったというのも泡沫の夢。本をバッグから取り出そうとしている最中、男子限定で人気の男子生徒が斎藤の元へやって来たのだ。


「どうしよう……気乗りしないなあ……」


 彼の用事というのは手渡された十枚の用紙。それは女子人気ランキング。

 女子人気ランキングとはその名の通り女子の人気度ランキングである。学年全体の男子が各々好きと思う女子生徒に投票し、票数が一番多い女子生徒は男子達から総合的に判断して大人気、すなわち恋人になりたいと思われていることになる。


 もちろんこんな投票が公になれば男子全員の株が下がるので秘密裏に行われている。斎藤の耳にも入ってはいたが、用紙が回って来ないものだからてっきり忘れられていると思っていた。本当はそうであってほしかった。バレると面倒そうだから関わりたくなかったのだ。


「とりあえずみんなの意見を参考にしてみようかなあ」


 十枚中、九枚の用紙には全員の投票と女子に対する本音が書かれている。プライバシー保護のためか男子生徒の名前までは書かれていない。これで書かれていたら学年男子全員に好きな女子がバレるただの公開処刑だ。

 ちなみに十枚目は斎藤用の投票用紙である。


(まずはやっぱり投票数の多い人だよね。一番付き合いたい人かあ、みんな今の時期から考えてるんだな。僕はさっぱりなのに)


 現状一位に視線をやれば藤原才華の名前。知っている女子の名前が一番にあったことで斎藤は「あ、藤原さんだ」と思わず声を漏らす。

 成績優秀。運動神経抜群。顔は美形、小学四年生だから大した大きさではないが胸囲も学年一。豊富な知識と大金を持つお嬢様。完璧すぎて怖いくらいのパーフェクトガールなので一位になるのも斎藤は納得出来る。

 問題は付き合いたい理由だが――。


 金持ちだから。

 すっごいお金持ちだから。

 お金持ってそうだから。

 付き合えば大金持ちになれるから。

 生涯金銭に困ることはないから。

 お金の匂いが強いから。

 社長になれそう。

 ……などなど、ほぼ全てが才華の外面でも内面でもなく家柄に惹かれていた。


(うわぁ……でも気持ちは分かるのが嫌だな)


 斎藤だって金に無頓着なわけではない。あって困ることはないし、自分も大金持ちだったらなんて妄想をしたこともある。


(……ていうか後は僕だけって言ってたよね。まさか霧雨君とか隼君も投票してるってこと? 嘘でしょ? あの二人が真面目に答えてくれるようには思えないんだけど)


 疑問に思いつつ読み進めていくうち、次に見たい人物が思い浮かぶ。


(女子で関りがあるのなんて残りは部活関係か秋野さんくらいだし、みんながどう思われているのか少し気になるかも。まあ泉さんは結構ランキング下だろうけど)


 文芸部で一緒の(いずみ)沙羅(さら)の見た目に問題はない、むしろ可愛い部類に入る。問題なのは彼女のネタバレ癖と揶揄い癖だ。事あるごとに読書中はネタバレをし、何かしらの方法で斎藤を揶揄うことが多い。そんな彼女のことをよく知っているので下位に名前があると思い、順位が下の方から見ていくことにする。

 そして名前を見つけた。……泉のものではなかったが。


(あれ……秋野さんの名前? なんでだろう)


 見つけたのは秋野笑里という文字。見事に最下位である。

 投票した女子以外でも本音を書いている者は多い。挙げられた理由としては――。


 何の悪気もなく殺人パンチを放ってくるから。

 可愛いけどバカだし、いきなり殴ってきそうだから。

 バカ。信じられないくらい、今世紀最大のバカ。あと殴られそうで怖い。

 付き合ったら死にそう。喧嘩も出来そうにない。

 単純に頭が悪いし殴られた時が怖い。でも顔だけはいい。


(……否定出来ないのが何ともまあ)


 確かに笑里は仲良くなりたいという理由で殴って来る。意味不明である。

 実は斎藤も殴られそうになったことがあるのだが、その時は偶々傍に居た才華が説得して止めてくれた。当時のことを思い出す度に才華の株が上がっていく。


(あ、夢咲さんの名前もある。でもこれは理由想像つくしいいや。……あれ? 泉さんの名前が見当たらないな)


 夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)という少女は文芸部の部長。だからというわけではないが部活で関りのある斎藤は特に知っている。

 彼女は滅茶苦茶貧乏なのだ。家に行ったことはないが神奈曰く、人が住めるレベルじゃないし廃墟の方がマシとのこと。山菜やキノコなど食べられる物について詳しいのも理由はそれだ。どうやって詳しくなったのかは聞きたくもない。


 貧乏部長のことは置いておき、斎藤は未だに泉の名前が見当たらないことに疑問を抱く。しかも眺めているうちに神奈の名前を先に発見してしまった。


 順位はおよそ中間辺りなので悪い評価ではない。ただ、斎藤にとって神奈は魔導書の件の恩人でもあるため無意識に評価は高くなっていた。部活でよく本の話をするようにもなったし、最近はゲームの話で盛り上がることもある。まるで男子のように接しやすい彼女が中間辺りの順位というのは不思議なものである。

 中間辺りの順位の理由は――。


 ゲームとかアニメの話も出来るから趣味は合いそう。だけど魔法少女ゴリキュアについてはオタクとかいうレベルを超えているから精神的にキツくなる。

 妙に男子っぽくて接しやすい。つまり女子っぽさが欠如している。

 よくつっこみしてるけどそれがうるさい。

 良くて友達止まり。つっこみがうるさい、耳がキーンとなる。

 喧嘩したら殺されそう。常識はあるから秋野さんの上位互換。

 叫ぶことが多いからうるさい。

 つっこみがウザい。

 いつか奴の強さは超えるが無駄に強いのがムカつく。


(……うん、まあ気持ちは分かる。良い人ではあるんだけど……うるさいんだよね。迷惑ってわけじゃないけど確かにうるさい。つっこみの声量をもう少し落としてくれないかなとは思う。なるほどそこが欠点になっているのか)


 確かに神奈が叫ぶ比率は他の女子と比べてやけに高い。つっこみキャラにしたって、最近は叫ばないつっこみキャラだって多くいるのだから叫ぶ必要もない。それはそれで、いつものを聞いている斎藤としては物足りなさがあるのだが。


(ていうか泉さんの名前どこにあるんだろう。まさか順位が高いのか? もう下の方は見終わったし……えっと泉沙羅泉沙羅っと。どこだー?)


 一人の名前を見つけるためだけに眺め続けて、用紙を捲るのを繰り返す。

 段々と一位の才華に近付くにつれて斎藤に焦りが生まれる。

 まさか自分が低く見積もっていただけで本当は人気があるのか、と。自分に見る目がないだけで世間ではああいったタイプの女子が好かれるのか、と。焦って焦って他の女子の欄を流し読みしていく。


(泉沙羅泉沙羅泉沙羅……あったって三位!? 嘘でしょ!?)


 なんと泉の名前は一番上から三番目にあったのだ。理由としては――。


 いつも何を考えているのか分からないけどミステリアスでいい。

 読書している姿勢が綺麗。顔も綺麗だから一時間は見ていられる。

 人の嫌がることはしなさそう。他人の気持ちが分かっていそう。

 本好きだから話が合いそう。読み終わってから感想とか言い合いたい。

 声が美しい。あと達観してる感じと謎めいた感じがいい。


(これが……泉さんへの評価? みんなの率直な意見がこれか)


 何ともまあ本人のことを知らない人間が多いものか。

 時折、達観しているように見えたり、ミステリアスな空気を出していることもある。しかし彼女と実際に関わってみれば順位は遥か下にランクダウンするだろう。


 彼女のことを何も分かっていない男子達を斎藤は鼻で笑った。

 ――そして気配なく背後に立っている泉も鼻で笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ