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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.六章 神谷神奈と精霊界
125/608

44.89 名前を決めるのは悩むもの

 非常に申し訳ないんですが、今回の章はまだ全部書ききれていません。ちょっと「新・風の勇者伝説」の方に集中しちゃったことも原因の一つ。

 ただ、読者様を長く待たせるのも何かなと思い投稿することにしました。かといって中途半端に投稿するわけではなく、キリの良い所までなので読んでくださって構いません。短編みたいなものだと思ってもらえれば幸いです。








 小学校からの下校時間。

 四方八方に跳ねた癖毛が特徴的な黒髪の少女、神谷(かみや)神奈(かんな)は友人二人と通学路を歩いていた。いつもなら同じ部活の文芸部メンバーか、今も右にいるオレンジ髪の活発な少女と共に帰っている。右の秋野(あきの)笑里(えみり)はともかく左にいる黄色髪でゆるふわパーマの少女、藤原(ふじわら)才華(さいか)がいるのは非常に珍しい。


「そういえば珍しいよね、才華ちゃんが歩いて帰ってるなんて」


 笑里も疑問に思っていたようで口に出した。

 金持ちお嬢様である才華は普段、黒塗り高級車で登下校をしている。こうして一緒に歩いて帰れる機会というのはあまりない。


「実はいつも乗ってる車が調子悪いみたいでね。使用人は別の車で送るって言っていたのだけれど、たまには歩いて友達と帰りたいって我が儘言っちゃったの」


「それくらい我が儘じゃないだろ。何ならこれから毎日一緒に帰ってもいいのに」


「習い事に間に合わせるためだから……今日が特別なのよ」


 ありえない程に多い才華の習い事を思い出した神奈は「ああ……」と零す。

 才華は一日に複数の習い事をしており、しかも時間が足りないという理由で密度ある内容でギュッと短時間に詰め込んでいる。その甲斐あってか彼女は格闘技、勉学、スポーツなどなど様々なもので優秀な成績を収めている。


「あら? ねえ二人共、あれって猫よね?」


 歩いていると才華が道端にいる猫を発見した。

 開かれた段ボールの中にいるのは綺麗な青い瞳をした黒猫。段ボールには【誰か拾ってください】という張り紙が貼られていることから、黒猫が誰かに捨てられたのだということは容易に想像出来る。


「おっ、捨て猫か。初めて見たかも」


「可哀想……神奈ちゃん、お家に連れていってあげてよ」


「そうしたいのは山々だけど、猫の世話とか出来る気がしないなあ。私ってあんまり動物に好かれないみたいだしさ。笑里が自分の家に連れて帰ればいいじゃん」


 なぜか昔から神奈は動物に懐かれたことがなかった。むしろ畏怖(いふ)されているのか近寄ってすらこない。今も黒猫は狭い段ボールの奥に震えながら身を寄せている。


「うちお母さんが猫アレルギーってやつなんだ、猫が近くにいると体調悪くなっちゃうんだって。もし平気だったら私が連れ帰ったのになあ」


「ふーん、じゃあ才華ん()は?」


「別に大丈夫だと思うわ。何せ厄狐(やっこ)もいるし、たまにポイップも遊びに来るもの。猫が一匹増えるくらい問題ないはずよ」


 神奈は藤原家が凄いことになってきたなと密かに思う。

 ただでさえ使用人は敵認定したらマシンガンをぶっ放すようなヤバい人間ばかりだというのに、家に住み着いている妖怪に加え、精霊まで遊びに来るとなれば所有戦力はとんでもないことになっている。ここまで来ると目前の黒猫も何か特殊な存在なのではと疑いたくなる。


「じゃあ名前考えなきゃね!」


「おっ、いいね。どうやら段ボールには書いてないみたいだし、私達でぱぱっと決めちゃおう。名前ないのは不便だし」


 意気揚々と提案した笑里に神奈達は同意して頷く。

 猫の名前で多いのはみかんやきなこなどの食べ物だったり、ルナなどの可愛い系、琥珀などのカッコいい系といったところだろう。だが神奈はミケという何の捻りもない安直な名前が一番に浮かんだ。


「ねえねえ、トリュフってどうかな。高級で美味しそうな感じするよねー」


「猫にいらない要素だけどな」


「食べ物の名前を付ける人もいるらしいけど、私はちょっと遠慮したいわね。どうせ付けるなら世界に通用するようなグローバルな名前がいいかも」


「英語とかってこと?」


 才華が「そうね」と言って軽く頷く。

 英語風の名前というならルーシーだったりベラだったりと色々ある。一度も案を出していない神奈はルナという名前が浮かんだが、まだ笑里が頑張っているので口には出さない。きっと口に出せばそれで決定すると思えるような自信が神奈にはあった。


「うーん……英語かあ。あ! キャット!」


「そのまま! 猫に猫って名前付けてる奴は聞いたことないよ!」


「じゃあドッグ!」


「猫に犬って付けてる奴も聞いたことないな」


「ならバットでどう!?」


「突然の鈍器!?」


「え、ほら洞窟とかにいて翼が生えてる」


「コウモリ!? そっちのバットかよ!」


「ちょっと安直すぎないかしら……」


 さすがに才華も不満らしくそう零した。

 名前がそのまますぎるので採用されないのは仕方ないだろう。


「むーう! じゃあ神奈ちゃんなら何て付けるのー?」


 笑里のネーミングセンスについて考えていた神奈にそんな問いが飛ぶ。

 もう少し頑張ってもらいたかったがそう問われたのなら神奈も答えなければならない。少し前から考えていたあの名前を口に出さなければならない。


「まあ、ミケとかどうよ」


「「なんて普通……」」


「普通じゃダメなの!? じゃあルナとかは!」


「「なんて普通……」」


「これ普通なの!? ちょっと良いと思ったのに!」


 絶大な自信があった名前はなぜか不評であった。自信があっただけに割とショックを受けた神奈は驚きを隠せない。


「あーもうあれだ、他の奴の意見も聞いてみよう。参考になるかもしれないし」


 自分の意見がダメだったので神奈は友達を頼ろうとスマホを取り出す。

 正直未だにあの名前でガッカリされる理由が分からないが、されたなら次の行動に移るしかない。決まらない以上誰かの意見を貰うのは悪くないはずだ。そんなこんなで神奈が電話した一番手は発明家の小学生、霧雨(きりさめ)和樹(かずき)である。


「もしもし霧雨? お前さ、猫の名前付けるとしたらなんて付ける?」


『何だ、いきなり何の話だ。猫? そうだな、エジソンとかアインシュタインとかか』


「おお歴史に残る名前か、どうだ才華」


「いいとは思うけど……ちょっとしっくり来ないわね」


『藤原? そこに藤原もいるのか? おい、いい加減状況を教え――』


 何か言っていたが神奈はダメと分かるや否やすぐに通話を終了させた。あまりに雑な対応であるため笑里は「和樹君、今頃怒ってそうだね……」と小さく呟いた。

 一番手がダメだったので次は二番手。魔法が使えること以外普通の少年、斎藤(さいとう)凪斗(なぎと)に電話を掛ける。


「斎藤君、あのさ、もし猫に名前を付けるなら何て付ける?」


『えっ、猫? えっと……ミケとか』


「ごめんそれもう私が言ったわ。他にない?」


『……いきなり訊かれてもちょっと答えられないかなあ。考えてもいいかな』


「いいよ。考え終わったら電話してくれれば」


 いきなり問題を出されてそれに対応出来る人間は少ない。難易度にもよるが誰しもが悩むものだ。特に名前決めともなれば、生命の今後に左右するものなのだから真剣に考えなければいけない。

 ミケ以外すぐには思いつかなかった斎藤は置いておき、神奈は間髪入れずに三番手へと電話を掛ける。


「ああレイ? あのさ、突然だけど猫に名付けるとしたら何て付ける?」


『猫……ああ、あの四足歩行の動物か。そうだなあ、グリュウネルとかどうだろう』


「かっこいいなおい。どうだ才華」


「うーん、かっこいいのは認めるけど……猫は癒し系とか可愛い系みたいな名前を個人的に希望するわ。見た目も可愛いし」


 レイは地球に移住した宇宙人であるため不安だったのだが名付けは中々良かった。グリュウネルというのがどういった意味かは不明だし、訊く気もないが語感が良かったのは確かだ。却下されたとはいえ神奈は個人的に良いと思う。

 宇宙人といえば、レイと共に暮らす者が二人いる。ついでなので一応そっちにも訊いておこうと思いレイにも伝える。


「そうだ、グラヴィーとディストって今いる? 二人にも訊いてくれない?」


『うん分かったよ。おーいグラヴィー、ディスト、実は神奈から電話でさ、君達は猫に何て名付けるか聞きたいんだって。……うん、うん、なるほど。神奈、二人の意見は同じだったよ。――ミケだってさ』


「……何か、良い意味で地球に染まってきたなあいつら。まあいいや、話はそれだけ。ありがとうなレイ」


 本日三回目なのでわざわざ確認するまでもない。却下だ。……というかまだ地球に移住して一年半程度の二人と同じ意見だったことに神奈はショックを受けた。

 さて色々な人間に訊いたが未だに猫の名前は決まらない。まだ電話出来る友達はいるがこの流れだといい案は出ないだろう。そこで神奈は流れを変えようと思ってスマホをポケットにしまい、さっき歩いて来た方向へと叫ぶ。


「一応あいつにも訊いておくか。隼ああ! いるなら出てこーい!」


 黒い影が高速で家の屋根を移動して神奈達の前に飛び下りて来た。

 切れ長な目をした黒髪の男子小学生。彼の名は(はやぶさ)速人(はやと)。一家全員が殺し屋である特殊な家系であり、裏社会ではエリートと名乗っている危ない男である。


「ふん、くだらんことで俺を呼びやがって」


「……マジでいたのかよ、引くな。で? 聞いてたんなら話は早いんだけど、何て付ける?」


「メリーはどうだ」


「おおいいね! 速人君センスあるう!」


「お前にそんなセンスがあるとは思わなかったぞ。何でそんな名前を思い付いたんだ?」


 メリーという名前なら才華の要望通り英語風だし可愛い系で条件を満たしていた。まさか速人が的確な名前を提案してくるとは夢にも思わなかったので神奈達は素直に褒める。


「簡単だ。ほら、私メリーさん今あなたの後ろにいるのっていうやつがあるだろ。その猫には奴と同じようにどんな相手でも逃げきれない暗殺者になってほしい。そういう理由でメリーと名付けた」


「理由聞きたくなかった……」


「ごめんなさい、由来を聞く前まではいいと思ったのだけど……却下で」


「ふん、所詮お前には分からんさ。まだ表に生きている、裏を知らないお前には」


 裏を知っていても却下されそうという本音を三人は包み隠しておく。

 せっかく良い感じの名前が出たというのにこれでふりだしに戻ってしまった。考えても決まらないなら今日はもう諦めた方がいいと思った神奈はそう提案する。


「とりあえず、今日じゃ決まらなそうだし保留しとこうよ」


「私また考えたよ。ドラゴンっていうのはどうかな」


「……保留しましょうか」


 何も名前決めを急ぐ理由はない。こういったものはふとした日にいきなり思いついたりするものである。今日のところは黒猫を才華が連れ帰るだけということで話がついた。


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