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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.五章 神谷神奈とお菓子の町
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44.86 お菓子クイズ


 少し息を切らしている神奈はとある建物の前にいる。

 ひょんなことからほとんどの魔力を消費してしまった後で、つい昨日までなかったと思われる城を発見した。十中八九、宝生町お菓子化事件の犯人がいるだろうと思った神奈は、急ぎこの外観が苺ショートケーキである城へやって来たのだ。


「そういや、みんなは大丈夫かな」


 家だけではなく人間すらお菓子化している現状、神奈は心配そうな声を漏らす。


「隼さんがクッキーになっていますし無事ではないかと。神奈さんが何ともないのは加護のおかげでしょうし」


「一応、電話でもしてみるか」


 無事を確かめるには連絡するのが手っ取り早い。早速ズボンのポケットからスマホを取り出そうと手を動かす。


「何を取り出してるんですか?」


「何って携帯だよ携帯電話……ってクッキーじゃねえか!?」


「そりゃそうですよ。もう何でもお菓子になってると考えていいと思います」


「お菓子の家とか町って夢があると思ってたけど、そう考えると不便な気がしてきたな」


 全てがお菓子では電子機器なども全て使えない。

 誰かと電話をすることも、インターネットを見ることも、読書することすらも出来ない。現代に生きる人間にとってこれほど地獄のような場所もないだろう。現代人は文明の利器に頼りきりであり、自分の身一つで生きていくことなど大抵の者が匙を投げる。


「――あっ! 神奈ちゃん!」


 色々と考えていると神奈の耳に友人の少女の声が聞こえた。

 声のする方向へ顔を向けてみれば走って来る少女が二人。秋野笑里と、彼女の隣で一緒に走って「無事だったのね!」と嬉しそうに駆け寄ってくる藤原才華だ。


「笑里に才華! お菓子になってなかったのか!?」


「どうやらお菓子になっていない人間も多少いるみたい。私が会ったのは笑里さん一人だけど、これで二人目。私達以外にも無事な人がいるはずよ。……自分で言ってて頭おかしくなりそうねこの会話」


「電話したかったんだけど、携帯も電波塔ってやつもお菓子になってて出来ないって才華ちゃんが言ってた。お母さんもクッキーになってて……元に戻るよね?」


 才華は冷静に状況を分析しているようだが二人はまだ小学生。目を潤ませて問いかけてくる笑里の姿はヒーローに助けを求めるヒロインのようである。

 元に戻るかと聞かれれば元凶を倒せば戻るだろう、そうでなければ神奈も困る。もしこのまま一生ほとんどの人間がお菓子になった状態が続けば人類の危機だ。


「とりあえずそう信じるしかない。誰かの仕業なのは間違いないし、犯人をぶっ飛ばすしかないだろ。二人もそう思ってここに来たんだろ?」


「うん、才華ちゃんが犯人はこの城の中だって言うから」


「こんな城は昨日まで存在していなかったわ。周辺全てがお菓子になっているから分かりづらいけど、犯人が建てた拠点と見ていいでしょうね。町をこんなにした相手に私達が何か出来るとも思えないけど……何もしないわけにはいかないもの」


「だな、とりあえず入ってみよう。戦闘なら任せてよ」


 三人の中で一番戦えるのは神奈だ。自分でそのことを分かっているし、二人を危険な目に遭わせたくないと思って告げた。本当なら自分一人で入ると言いたかったが二人は引かないだろう。

 外観が苺ショートのホールケーキで美味しそうな城へと、町を戻すという覚悟を持った神奈達は足を踏み入れる。


 内装は白い壁や床、たまに苺が埋まっているというショートケーキ城。

 ホイップクリームの置物……というかまんまホイップクリームだが廊下の隅に等間隔で並んでいる。内部は窓がないのに異様に明るいのが逆に不気味である。迷路のような作りになっておりやたら行き止まりがあって足止めされるのも鬱陶しい。


「……今回の事件、犯人は何が目的なのかしら」


 また行き止まりに辿り着いたので引き返す道中、才華がポツリと呟いた。


「みんなをお菓子にして食べちゃうつもりなんだよ。美味しそうだし」


「お前食ってないよな?」


「食べてないよ! もーう、食べたのはそこら辺に落ちてた物だけだもん」


「そこら辺に落ちてた物は食べたのかよ。後で腹壊すぞ」


 町や人をお菓子にしていったい何がしたいのか。

 腕輪が言っていたヘンゼルとグレーテルの通り、残った誰かがお菓子を食べて太ってからその者を食べるという魔女の仕業か。それとも別の目的があるのか。確かに考えてみても理解出来そうな動機が出てこない。


「お菓子の町なんて子供の発想。まるで子供の悪戯みたいな……」


「あっ、また行き止まり!」


 笑里の言葉に二人は「え?」と声を上げる。

 行き止まりなはずがないのだ。今は行き止まりから引き返している途中なのだから、本当にそうなら閉じ込められていることになる。そして現実としてそうなっているのを知って困り果てるのはすぐだった。


「どういうこと……? 一本道で前後が行き止まりなんて……」


「ん? ねえねえ、これ何だろう?」


 笑里がとあるものを発見したので神奈と才華も視線を送る。

 白いクリームでも塗られているような壁に文字が書かれていた。問題文のようで、ご丁寧なことに解答欄まで作られている。


「シュークリームのシューとは何のことか? ……いや、知らん」


「もしかして問題を解けば道が開けるんじゃないかな。ほら、映画とかで見たことあるやつだよ! 正解したら隠し扉が出て来るあれ!」


 現実的ではないがクイズを解けば道が現れるという可能性はある。

 ゲームや映画などでしか見たことない展開だがありえなくはないだろう。現実でやるには出題者が監視していなければまず不可能だろうが。


「……問題、分かる?」


 ケーキの城らしくクイズもお菓子関係らしい。

 シュークリームとはクリームを皮で包んだ人気の食べ物。考えてみてもシューという部分が何を意味するのか分からず、笑里も分からなかったようで「分かんない」と首を横に振る。


「シューっていうのはフランス語でキャベツを意味する言葉よ。シュークリームはクリーム入りのキャベツっていう風に捉えてもいいわ。焼き上がりがキャベツにそっくりだったことからそう名付けられたみたい」


「さす才! これで勝てる!」


 なぜフランス語を当然のように知っているのかは不明だが、神奈としては正解出来るなら何でもいい。才華の知識はウィキペディア並に凄いのでつっこむ方が億劫になる。


 答えを壁にある解答欄に記入……しようと思ったところで気付く。

 ペンがない現状で答えを書くことなど不可能に近い。唯一の方法は血文字くらいだが出来ればそれは神奈達もやりたくない。


 しばらく悩んでいると笑里が動いた。

 記入する道具がない今どうすればいいのか考えた結果、笑里が行ったのは解答欄に指で文字を書くこと。指だけでは書けないはずだが、なぜか笑里の指が離れると黒い文字が浮き上がる。指を擦った部分が黒くなる仕掛けだったらしい。

 書いてから少し経つと、唐突にピンポーンという音が鳴って正解だと察する。


「正解ってことだな、これで道が開けるのか?」


『ふっふっふー、そっのとっおりーだよーん!』


 突然甘ったるい女の声が神奈達に届く。

 神奈は「誰だ!」と叫びつつ周囲を見渡したが誰もいない。この場所を遠距離で監視していることは数秒後に推測出来た。


『今みたいにー、行き止まりにはクイズを用意してる場所があるからー、頑張ってそれを解いてー、私のところまで辿り着いてね?』


「くっそあざとい声出しやがって……だいたい道なんてどこに」


 いつまで経っても道が現れないので神奈達が訝しんでいた時、城が揺れた。

 唐突だが軽い揺れ。警戒する必要はあるがそう慌てる必要はない……と思っていたのは二人だけで、笑里だけはかなり慌てている。


「うわああああ地震だあああああ! 神奈ちゃん、机の下に隠れなきゃ! 机どこ!? 机ないよ!? 机作る!?」


「落ち着け、別に隠れなくていいから。たぶん地震じゃないから」


「混乱しすぎよ。自分で何を言っているかも分かっていないでしょう」


 避難訓練の時の教えを守ろうとするのはいいが今はいらない。

 そもそも机の下に隠れるというのは学校などでの話。こういった何もない場所では隠れる場所などないので意味がない。時にはそういう非常事態も起こりうるものである。

 そう、非常事態はいつでも起こりうる。例えば――。


「へっ!? うわああああああああああ!?」

「えっ? きゃあああああああああああ!?」


 ――笑里と才華の立っていた場所だけが盛り上がり、天井をぶち抜いて別の階層へ強制移動させられることもある。


「なっ、笑里才華! くそっ、罠か!?」


 天井は柔らかい素材だったのか、それとも床の上昇に伴って穴が空いたのかは不明。こんなところで殺す意味はないので二人は無事だろうが無事の証明は出来ない。

 上に気を取られていると、神奈がいる行き止まりの壁がスライドして横壁と融合した。あっさりと道が現れたのはいいが分断されたのが痛い。


「分断されたか……」


 クイズがお菓子関連だとしたら神奈は答えられる気がしない。

 もし魔法少女ゴリキュアのクイズだったら全問正解間違いなしだがお菓子は分からない。事実一問目だって、シューの意味を空気が入る音か何かだと予想していたくらいだ。正解に掠りもしていない。


「神奈さん、とりあえず先へ進みましょう」


「ああ、早いとこ二人と合流して、黒幕をぶっ飛ばす」


 たとえどんな目的があろうとやって良いことと悪いことがある。

 町や人間をお菓子にするなど決してやってはいけない。理由に納得しようがしまいが一発は殴りたいと思いながら神奈は駆け出した。


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