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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.三章 神谷神奈と呪う少女
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44.7 慕情――生まれ変わっているのなら――


 霧雨の意識は瞬時に消え去り、その肉体は幸が所有権を手にした。

 腕を、足を、首を、隅々まで動かして幸は準備運動している。


「憑依か、ヤバいな……」


「何故、そう聞く必要もないな。霧雨の身体を傷つけることになるからだろう? 殺そうとしたら霧雨も死ぬな」


「それもあるけど、あいつが自分から出ない限りは憑依が解けないぞ」


「さて、良い感じに体も解れた……友達の体だし、傷つけるのは出来ないよね?」


 普段と違う喋り方の霧雨が突如動いた。夢咲は後回しにし、先に邪魔になる神奈を潰す気でいるらしい。

 神奈を右拳で殴るがそれは片手で止められる程度の威力。


「ぐあああ!? いたたたたた!? なんじゃこりゃあああ!?」


 ――しかし突然、神奈の右脚……太ももの一部に小さい懐中電灯のような機械が当てられていた。


 神奈が苦しんでいる原因は小さい懐中電灯のような機械。攻撃方法を察した速人は回転して威力を増した裏拳を幸に叩き込む。顔面に喰らった幸は仰け反って、機械も神奈から離れる。


「あああ!? あの天才発明家なんてもん作ってんだ!?」


 その懐中電灯のような機械は防御力など関係なしに、物質を強制的に光子へと変えてしまう。そんな物を作る霧雨に怒鳴りつつ、機械の形に多少抉れた太ももを押さえて片足で跳ねる。

 ちなみに血が出ていたが、神奈は咄嗟に棒作成(クリエイトボーウ)の魔法を唱えて作り出したちょうどいい棒を傷口に埋め込む。痛みは感じるものの出血量は強制的に抑えられる。


「幸ちゃんやめて!」


 神奈が傷つけられたことで夢咲が叫ぶが幸は意に介さない。それどころか今度はその機械を速人に向けて接近しようとしていた。

 それを見た夢咲は機械が作動する前に幸に体当たりして防ぐ。パワードスーツにより強化された夢咲が体当たりしたら相手の骨が粉々になる、しかし幸が憑依していることにより怨念の力が身体能力となって戦闘力が増加している。無傷なのは良いのか悪いのか。


 機械が体当たりされた衝撃で手から離れて飛んでいく。それを取ろうとした幸の顔面に神奈の蹴りが叩き込まれた。幸の体は空中に浮いて何回転もしてから背中を床に打ちつけて止まる。

 幸の鼻から赤い液体が垂れてきて、それを理解した幸が思わず呟く。


「貴女……容赦ないのね」


「え、めっちゃ手加減したぞ? お前そんなもん?」


「殺す……!」


 神奈としては相当手加減していた、あの藤堂と戦った時よりも手加減していた。それで血を流すのならば正直弱すぎるという感想しか出てこない。それ故、意図せず挑発になってしまった言葉。幸が額に青筋を浮かべるのは仕方ないのかもしれない。


「もう止めて!」


 神奈に襲い掛かろうとした幸の前に夢咲が割り込む。叫びながら止めようとする彼女のことなどどうでもいいのか、幸はその頬を平手打ちして吹き飛ばす。


「……おい」


 容赦ない平手打ちが神奈の逆鱗に触れた。女児のものとは思えないドスが効いた低い声が出たのに自分でも驚きつつ、言葉を続ける。


「夢咲さんのことはもうどうでもいいのかよ」


「ええ、もうどうでもいい。幸福も、友達も、何もかも、どうでもいいのよ」


「お前のことを可哀想だとは思う、でもそれを上回る程に今! 私は怒ってんだああ!」


 声は元に戻っているが迫力は増した。

 幸の頬を平手打ちし、壁に激突させる。壁はその衝撃で崩壊して幸は施設の外まで飛ばされた。


「お前は道を間違えた、これから私がお前をあの世に送ってやる。そこで、いや生まれ変わって反省してろ!」


「待って! まさか霧雨君の体ごと!?」


「違うよ!? さすがにそんなことしないって!」


「ならどうするというんだ? 憑依とやらを剥がす方法はないのだろう?」


 不思議そうに速人が問いかけるので、神奈は外にいる幸のことを見ながら話す。


「本当は前に失敗してるから自信ないんだけどさ、私の魔力をぶつけて追い出すように操作する。だから隼、夢咲さん、どっちでもいいから霧雨から出ていった瞬間にあのバカを魔力を込めた刀でぶった斬ってくれ。魔力を込めれば霊体でも斬れるはずだ」


 その作戦に速人は面白そうな顔をし、夢咲は俯く。

 いくら敵として立ちはだかろうとも、夢咲は幸を殺すというのが受け入れがたかった。幽霊になっている時点で死んでいるのだが、それを踏まえても心で否定的な言葉を並べる。しかしやらねばならないという気持ちもある。


「俺が――」


「私がやる」


「――や、何?」


 好戦的な笑みで口を開いた速人の台詞を夢咲が遮る。

 まさかやると思わなかった神奈と速人は呆気にとられた。友人ゆえにやりたくないだろうと、そう思っていた。


「隼君、譲って。私じゃ不安なのは分かるけど信用して、お願い」


 軽く舌打ちした速人は無言で刀を差しだした。それを見て今度は神奈と夢咲が驚く。

 だが当の速人も武器を貸すなど考えていなかった。自分が何をしているのか分からなかったが混乱しつつも理性はある。この場面はそうするべきだ、そうやって周りに合わせるのは人生で初めてだったかもしれない。


 そんな速人の気持ちを無駄にしないように夢咲は「ありがとう」と受け取る。その重さは普段ならば持てもしないだろう、だがパワードスーツで強化された今なら振り回すことが出来る。夢咲はそう確信した。

 そんな夢咲を見て、神奈は不安そうに問いかける。


「本当に……いいのか?」


 その確認に夢咲は黙って頷く。


「相手は悪霊、でも夢咲さんの友達だったんだろ? 自分の手でトドメを刺すなんて大丈夫なのか?」


「……友達だからこそ、私がやるの。やらなくちゃ、ダメなの」


 そう必死に絞り出したような声で答える夢咲に神奈は無言で頷く。

 そして幸が戻ろうと向かってきた瞬間、神奈は全身の魔力の制御に集中して放つ。魔力は内側に沁み込むように霧雨の体に入っていき、異物である幸を追い出そうと神奈は力を込めつつ繊細に操作する。


「ぐうっ!? ああああ! まさか、この肉体から追い出すつもり!?」


「悪いが、大人しく! 出てけ!」


「くうううあああああ!?」


 神奈は以前同じことをした時に失敗している。その時の失敗の原因はエネルギーの制御の甘さと、当時の敵自身の強大さだった。しかし今ならばいけるかもしれないと思っている。数々の戦い、その中で魔力を多く使い精密性なども多少は上昇した。

 中でも一番の成果といえば超魔激烈拳だろう。全身の魔力を一点に集中させるあの技は魔力のコントロールの向上に役に立っている。


 そして夢咲は神奈が成功するのを信じて走り出す。魔力を込めるというのがどういうことか、直感的にやり方を悟り刀に流す。これはただ自身の魔力を持っている物に流すだけなのでコツさえ掴めば誰でも出来るものだ。


「そらあああ!」

「あ、あああああ!?」


 霧雨の体から幸の頭が徐々に出されていく。必死に霧雨にしがみつこうとするが幸の体は完全に出ていく。

 全身が出た瞬間、幸が見たものは――自分に吸い込まれるように迫る淡い紫色の光を発する刀だった。


 幸は頭から足の付け根までを真っ二つにされ、驚愕の表情で一秒もかからずに頭から灰になったように散っていく。体からどす黒いオーラが出て空に昇っていくのが神奈達には見えていた。


 刀を振って、幸を一刀両断した夢咲はそれを手放して、その場でペタンッと座り込む。

 その瞳からは涙が溢れ、重力に従い落ちていく。

 悲しみ、後悔、その他の感情が心で渦巻いている。

 戦いが終わり静かになった場には夢咲の泣き叫ぶ声だけが響いていた。



 * * *



 高山幸の打倒から数日後。神奈、夢咲、霧雨の三人はまた施設を訪れていた。

 斎藤は今回の件を一切知らない。泉は怠いらしく来ていない。速人に関しては神奈達にも所在が掴めなくなっていた、事件の終了から神奈を倒す為にどこかの山で修行をしていると思われる。


 施設の庭では夢咲と霧雨がせっせと何かを作っていた。


「さて、これで全部か」

「うん、そうだね」


 神奈達の目の前にあるのは素人が適当に作ったような墓だ。大きめの石に接着剤で付けた木の板、それに名前を彫って地面に突き刺す。


「大人、子供全員で二十人弱。小さい施設だったけど、生きていた命は皆尊いもの。安らかに眠ることを祈ろう」


 夢咲が両手を合わせて黙祷して、霧雨も続く。

 しかし神奈はそれに気まずそうに頭を掻いているだけだった。そして耐えきれなくなったのか口を開く。


「……そのさ、あの高山幸も、ここで殺された人達の魂ももうここにはないと思う」


 その言葉を聞いた夢咲と霧雨は、神奈の方に振り向きどういうことだと目で訴える。


「死んだ生物の魂っていうのは転生の間ってところに行っちゃってさ、生まれ変わるんだとさ」


「じゃあ……皆は」


「今頃どこかでまた産まれてるんじゃないかなあ。人間以外かもしれないけど」


「あの高山幸もか?」


「それは……どうだったっけ腕輪」


「そうですねえ、悪霊も幽霊、幽霊も魂です。激しく損傷していなければ消滅することなどありえないのでおそらくは……」


 その説明を聞いて夢咲は目を見開く。


「じゃあ、幸ちゃんは」


「生まれ変わってるのかもな、それを知るってのは無理だろうけど」


「不思議なものだな、生命の循環というやつか」


 夢咲は快晴の空を見上げて呟く。


「もし生まれ変わっているのなら……幸福になれるといいな……今度は一緒に……」


腕輪「44.7話って何か中途半端すぎません!?」

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