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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
序章 神谷神奈と親子の願い
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1 輪廻転生――魔法を求めて――

2023/10/21 誤字修正

2025/09/20 文章一部修正








 眩しい太陽光が青年へ容赦なく降り注ぐ。

 長い赤信号を待つ間、じわじわと熱に蝕まれていく。

 朝の七時三十分。大学に通学する途中でのこと。

 ふと青年は今までの人生を振り返る。


 山の中で自然エネルギーを感じ取ろうとしたり、ひたすら滝に打たれながら瞑想してみたり、多くの厳しい修行をしてきた。そんなことをしていた理由は魔法習得のためだ。小学生の頃に見たアニメで魔法に憧れを持ち、自分も使いたいと思ったのである。


 今年で二十一歳になる青年は未だに魔法が使えない。

 知ったのは内に眠る力ではなく、魔法がないという常識だった。


「見て見て魔法少女ミラクルンのステッキ! 可愛いでしょ!」


「すごーい! これで魔法が使えるんだ!」


(あれは確か、魔法少女ミラクルンのステッキシリーズ第二十一弾か。だが残念。それは個人的な趣味で買ったけど、魔法は使えなかったぞ)


 青年の目前にいる女子小学生が安そうな玩具の杖を持ち、嬉しそうに話していた。近い内に彼女達も魔法がこの世に存在しないという常識を思い知るだろう。


 しかし、常識は世界の真理ではない。

 青年は未だに魔法の習得を諦めず、体の中に謎のエネルギーがあるのではと思い修行している。そのせいで学校で友達など出来ず孤独になり、少々寂しかったりもするのだが。

 そんなことを考えていると信号は青になり、少女達は歩き出す。


 その時、不思議な光が青年には見えた。

 右から勢いよく突き進むトラックに青年は気付き、少女達は気付かない。


 緊急事態だったからか青年は明らかな異常を見逃す。

 トラックが突っ込んでくるのは正しいが、そのトラック自体が不思議であった。

 絶対に必要な運転手の姿が中になく、無人にもかかわらず法定速度を超えた速度で走っているのだ。


(あんな小さな子供が、まだ魔法に夢を見ている少女が、理不尽に死んでいいはずがない!)


 青年は道路に飛び出し、トラックが走るコースから少女達を突き飛ばす。


(俺の人生はこんなところで終わりなのか? まだ魔法を見つけていないってのに? 魔法、魔法か。何で魔法が見つからないんだよ。俺はただ、魔法を使って……)


 無人ゆえにブレーキは踏まれない。

 全く速度を落とさずにトラックが通り、凄まじい衝撃が青年を襲う。


(なあ神様……俺の願いは、叶わない願いだったのか?)


 不思議なトラックは異常な速度で走り過ぎていき、これまた不思議なことに白光に包まれて綺麗さっぱり消えてしまった。そんな超常現象になぜか誰一人として気付かない。


 轢かれた青年が最期に視界に捉えたのは、泣きながら近付いて来る少女の姿だった。




 * * * 




 青年は突如目が覚める。

 いや、覚めるというのは正確ではない。

 あるべきものが見当たらないのだ。人間としてあるべきはずのものがどこにもない。青年の肉体が存在していなかった。あるのは白いモヤだけだ。


 白。その一言で青年が今いる場所の説明は終わる。

 そんなことを言えるくらいにこの場所は白く、どこまで広がっているのか分からない。上には現在の青年と同じような白いモヤが無数に飛んでいる。


 異常な状況に対して青年は信じられないほど冷静でいられた。いや、異常すぎるからこそ冷静になれているのかもしれない。


 普段の青年なら「目がないのになんで普通に見えてるんだよ!」とか「何この状況、何も分からないんだけど早く誰か説明してくれない!?」とか叫んでいるだろう。

 つっこみ気質なのはいつからだったか。友達がいないから無意味なスキルだった。


 悲しい過去よりも今気にすべきことは二つ。

 いったいここはどこなのか。

 どうしてこんなところにいるのか。


「ここは転生の間。死んだ者の魂が生まれ変わる場所じゃよ」


 声にハッとして振り向くと、顎髭の長い老人が胡坐をかき座っていた。青年はその姿と現在の場所、そしてトラックに轢かれた状況で一つ思い当たる節があった。


(なんだ? 老人……? いや、この状況は何か覚えがあるような……)


 現状が漫画か小説で見たような展開である。

 修行に明け暮れていたとはいえ、娯楽を断ち切ったわけではない。漫画も小説も読む。娯楽としてだけでなく、修行の参考にもなるので積極的に読んでいた。


(そうだ、何か、誰かの願いを叶えるような……)


「ふむ、察しがいいな。お主が思っている通りじゃ」


 青年は困惑する。口がないから喋れないのに意思疎通が出来ている。


(なぜ分かったんだ? 今俺は喋れないはずだ。まさか心が読めるってのか? やはりこの人は神様なのか?)


「まあ、お主ら人間に説明するならだいたいその通りじゃと言っておこう。それとお主は死に魂のみの状態じゃから喋れない。なので心を読まなければ話も進められんのじゃよ。それでお主に訊きたいのじゃが……お主の未練はなんじゃ?」


(やはりそうなのか。しかし未練って何でそんなことを? 重要なことなんですか?)


「まあ色々説明した方がよいか。まずは輪廻転生という言葉は知っておろう? 生命はその命が尽きれば、体から宿っていた魂が抜けてこの場所へと引き寄せられる。そしてこの空間の入り口で魂に刻み込まれた想いを消去し、出口から現世に戻り、新たな体へと宿る。世界中の生命はこのようにして循環しているのだ」


 しかし青年は出口に向かわず残っている。

 川を流れるかのように移動する白いモヤが魂であることは、青年にも簡単に予測出来る。だが多くの魂が上を進む中、どうして自分だけ下にいるのかが分からない。


「そう、あれが魂じゃよ。それでお主の状況は恐ろしく強い未練のせいじゃな。この空間で処理しきれない程の想いがあると、入口の時点で引っ掛かり放り出される。まあ割とよくあることじゃから気にせんでいい。因みに幽霊というのはもっと強い未練があって、この空間にすら引き寄せられん連中なんじゃ」


(……で、俺の場合はどうなるんです? 無事に転生出来るんですか?)


「当然転生出来るとも。じゃが一度放り出された時点で元の世界に還ることは出来ん。なぜなら元の世界に還しても、また未練を引っさげてくる可能性があるからのう。だからそいつの希望に沿った違う世界に、サービスもつけて送るというルールが作られているんじゃよ。さあ、理解したならお主の未練を話してくれんか」


(そういうことだったのか、随分とサービス精神旺盛なんですね。俺の未練は、十中八九魔法が使えなかったことだと思います)


 未練と言えるものは魔法関連のことしかない。

 これまで修行しても身に付かなかったが存在は信じている。でもそれを発見することなく若くして死んでしまったのだ。未練になって当然だと青年は考える。


「なるほどのう、そりゃあお主がいた世界では出来ん願いじゃな。分かった、魔法が存在している世界に送ってやろう。魔法を使うための道具もそのうち送るぞ」


 魔法があると確定したことに青年は興奮する。


(それなら俺もすぐに魔法が使えるようになるんですね。でも、スケールが大きすぎて信じられないな。なんだか現実感が足りなくて。本当、なんですよね?)


「当然じゃ、世界というのは今も増え続けている。こうして話している瞬間も世界は生まれ、滅びているものもある。魔法が存在している世界だっていくつも存在しておる」


 もしも魔法が使えるなら青年の夢は叶う。

 生前は必死に修行していたのに死後あっさり叶えられそうなのは、青年にとって少し複雑な心情を生む。


「細かいことを考えるでない。夢が叶えられるならいいじゃろう?」


 結果よりも過程の方が大事なのではと青年は思ったが、誰とでも価値観の違いくらいある。それに考えたところで今さらどうしようもないことだと割り切った。

 心を読まれている以上、うだうだ悩むと迷惑になるので早々に結論を出す。


「ああ、一応加護を与えよう。どんな効果かまでは想像に任せよう。儂もそれが何かは知らんが、なんか凄いものだと思うぞ。最近は異世界転生する者が多くて加護の数も少なくなってきたのう。あとで貰いに行くか」


(異世界転生そんなに多いんですか。死人の数がそれだけ多いということですよね、なんだか悲しいです)


「多いのじゃよなあ……トラックに轢かれて死ぬのが。まあそんなことより、お主をこれから魔法が存在する世界へと送り出すが、もう知りたいことはないか?」


 事前情報もほんの僅かだが貰い、青年は早く魔法を使いたい気持ちでいっぱいになっている。もはやそれしか頭の中にない青年に老人は引き気味になる。


「そうか……では、いくはっくしょい! あ、やば」


(え? ちょっ、今何かやらかしました? 絶対何かやらかした声出しましたよね。大丈夫なんですか?)


「だ、大丈夫じゃ! たぶんだいじょーぶ! わ、儂はゲームの途中じゃったから急ぐ。このまま一気に転生させるぞ!」


(て、適当だ! この神様、実はめちゃくちゃ考えが雑だ!)


 青年は空を落ちる感覚があり、すぐに意識を失った。


「……うむ、な、なんとか転生は終わったぞ。ヒヤッとしたの、もう嫌だこの仕事。さあ、さっき途中で止めたゲームの続きをするか」



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