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第三章⑤ シリアスブレイカー・エロス


 ――と、カッコいい決め台詞をイケメンの俺が言い残し、今はセレスティアの部屋の前にいる。使用人たちの話によるとほとんど外へ出ていないらしい。


 ノックしようと持ち上げた手をピタリと静止させる。待てよ……本当にここでマナー通りノックをしていいものか。

 だってそうだろう? もしかしたらこの扉の先で、着替え中の彼女がいるかもしれないのに。その機会をみすみす潰すことになってしまうではないか!


 うんうん。ここはあえてドッキリを兼ねてノックなしで飛び込もう。今の俺には聖母子像もかくやというほど神々しい裸体が待っている未来しか想像できないッ!

 うおおお! と勢いよく扉を開こうとするも、案の定鍵がかかっていたため開きませんでした。ですよねー。

 突然の物音に扉越しでもセレスティアの動揺が伝わってくる。


「え、と……。いったいどちら様かしらー……?」

「あ、俺俺。エロス王だよ」


 そう伝えただけで彼女は大層慌てた雰囲気になり、指先が定まらないらしく何度かしくじりながらも開錠する。

 扉が開き、俺と彼女の目が合う。


「え、エロス王!? あ、貴方がどうしてここに……!?」

「……俺は性病持ちの穴にまで見境なしに突っ込む男じゃない。つまりはそういうことさ」

「いや何言ってるのかよく分からないですけど」


 そっかー分かんないかー。つまり俺がこの部屋を訪れたのは危険じゃないと判断したからこそ、って意味なんだけどなあ。

 遠回しにカッコつけたセリフを理解してもらえなかったとなると恥ずかしいので、俺は咳払い一つで流れを分断する。


「ともかく入ってもいいか? 男女の語らいは立ち話で済むほど淡泊ではいかんだろう」

「あの……えっと…………」


 敷居を跨ごうとしたところ、セレスティアが阻むようにして突っ立っている。さすがに押し退けて入ることはできないため、俺も立ち往生してしまう。

 何ぞ? と思ったのも一瞬、すぐにその理由に察しが付いた。


「ああ、セレスティアって部屋を汚くするタイプだったんだな。大丈夫。そういうのはペレネのやつで見慣れてるから受け入れられるし、それにおパンツが落ちてるかもしんないから早く入らせろ脱ぎたては鮮度が命ぃいいいいいいいいっ!!」

「あーもう興奮しないで! 何はあはあ言ってるんです気持ち悪いっ! だから、その……今私と二人になるのは拙いでしょって」


 鼻息を荒げる俺とは対照的に落ち込む様子を見せるセレスティア。わざとおちゃらけたつもりだったんだが、彼女の方は今の現状をかなり重く受け止めているようだ。

 自分の命を狙っているかもしれない相手と二人きり……。エッチ! というのは半分冗談で、まあ危険極まりないのが通説である。主導権はこちらにあるのだからあえて危険を冒す必要性はない。

 しかしそれに対する答えはとうに示しているはずだ。


「甘く見るなよ。それを理解してなお、ここを訪ねた意味をよく考えてみろ」

「……あっ。ひょっとしてさっきの性病云々のセリフってそういうことだったの……? いつものアレかと思ってた」

「甘く見るなよ!」


 俺いっつもそんなに変態発言してるかなぁ。以前ツバキに「俺って変態?」と尋ねたら、「主殿は誠実で素晴らしい殿方でありまする!」と断言してくれたのに。おっかしいなー。

 何はともあれセレスティアに割り当てられた部屋に入ることに成功した。うむ、やはり女子(おなご)の部屋は良い。もう匂いだけで勃起してくるぞい。


 必要以上に深呼吸しているのに気付かないセレスティアは、


「それで……今日はいったいどのようなご用件で?」


 とても重苦しい空気を漂わせながら問いかけてきた。

 軽口を言えるムードじゃないから、俺も必然真面目に相手せざるを得なくなる。ひとまず彼女のベッドへと腰かける。


「話というのはだな……」

「その前にしれっとベッドに座るのやめてくれない?」


 ちっバレたか。このフェーズ①をクリアしたら、次はフェーズ②で枕に顔を埋める予定だったんだが。

 仕方ないので来客用の椅子に腰を下ろす。その対面にセレスティアも座る。俺たちは向き合い、一呼吸置いてから本題に移る。


「単刀直入に言うぞ。今日は暗殺未遂事件についての結論を伝えに来た」

「……っ」


 彼女はゴクリと息を呑んだ。祈るようにギュッと両手を合わせる。自分にとって都合の悪い答えが出ないよう。そんな素振り見せられると都合の良い男になっちゃいそうだぜ……。

 揺れる己自身を奮い立たせ、元より用意してあった回答を口にする。


「――俺たちを狙った不届き者たちの親玉はずばり帝国に間違いあるまい」


 瞬間、セレスティアの表情が絶望に彩られる。眼を見開き、口元を押さえ、気を抜けばたちまち失神してしまうような危うさがあった。

 理由を述べるべく俺は言葉を重ねていく。


「……まず第一に動機と実現可能性だが、我が国が一度退けたとはいえ、帝国内では未だに開戦ムードが漂っていると聞く。『もう一度やれば負けはしない』とな。あながち否定できんのが辛いところだけど、そういう意味では友好関係に無理矢理亀裂を入れたい連中がいても不思議じゃない」

「…………、」

「それを実現できるか否かは……説明するまでもないか。帝国があらゆる手を尽くせば刺客の一人や二人、簡単に潜り込ませることができるだろう。うちにも征凄論を唱え続けてる奴らは少しいるけど俺まで殺す理由がないし、他国には動機があっても帝国みたいに上手く暗殺者を送り込むことは難しい。消去法でも帝国が最も怪しいと言えるな」

「…………、」


 俺が説明している間彼女は黙ってただ項れていた。俺の話を聞いていたかどうかも疑わしい。

 もしや寝ているのでは? と思い、胸元にそーっと人差し指を近づける。そうこれはあくまで起きてるかどうかチェックするためだから! 合法合法!

 あともうちょいでパイタッチ達成というところで、セレスティアが不意に立ち会がった。行き場をなくした右手でしょうがないから頭を掻くフリをする。ぐすん。


「……ほらね。やっぱり彼を信じたって仕方なかったじゃない」


 彼女は照明を見上げながら聞き取れない声量で何やら呟いた。

 そして態度をガラリと変え、もはや吹っ切れた感のある投げやりな笑顔を俺へと向けてきた。


「それで? 今後私をどうするつもりかしら?」

「……言ってもいいのか?」

「ええ。……最初から覚悟していたことだし、ね」


 最初からか……。どうやら俺が思っていた以上に、彼女は肝が据わっていたらしい。ならば遠慮するわけにもいくまい。

 ギラリ。と俺はこの上ないくらい真剣な表情を作り、重苦しい声音で告げた。




「脱童貞式を国民的イベントにする予定だから、王都の広場で公開エッチがやりたいですっ! デュフフッ!」




 赤裸々な野望を口に出した途端、セレスティアの態度が豹変し正拳突きされた。その威力によって俺は椅子ごと引っ繰り返る。頭打った……!

 彼女は顔を真っ赤にして、


「な、ななな何をいきなり口走ってるの!? 馬鹿なの死にたいの?」

「いやいやお前が今後どうされたいか聞いてくるから正直に答えたまでなんだが」

「そーゆーんじゃない! 私の身柄はどうなるかってこと!」

「……身柄? ああなるほど、きつく縛られたいとかそっち系か。ちょっとハード過ぎるかと遠慮してたけど、合意があるんならそれはそれで」

「ちっがーう!!」


 あっれー? 「私をどうするつもり?」とか「覚悟してた」とか言ってたから、てっきりみだらな気持ちになったのかと予想してたんだが……。

 ちなみに俺の脱童貞日は祝日扱いにしようと思ってました。マル!


 セレスティアは憤慨した様子で、


「だ・か・らっ! 貴方たちは帝国が今回の件を起こしたと考えているわけでしょ? そうなると私が関与していると見るのが自然です」

「あ、そっちか」


 舞い上がっちゃってて変に暴走しちゃってたぜ。これじゃあまるで俺がモテない童貞みたいじゃないか。童貞なのは合ってるけど!


 だとしてもおかしなことを言う王女様だ。それもこれも、俺がこの場を訪ねた時点で応えは出ているだろうに。察しろ察しろと言う俺も悪いから、改まって言うしかないか。

 んんっ! と喉を鳴らしてから彼女に向き直る。


「好きな男を殺そうとする女性がどこにいる? ふっ、つまりはそういうことだ」

「は? って、は?」

「そんなに『は?』って言うなよ……。真面目に話すとだな、お前が手引きしてたんなら別にあのタイミングでなくても、もっと相応しい瞬間があったと思うんだよな。それこそお前一人でも俺を毒殺できる機会はいくらでもあったわけだし」


 というかハニートラップされてたら普通に引っ掛かってたかもしれない。そうなると腹上死という夢が図らずも叶ってしまうわけだが、今はまだ死ぬわけにはいかないのだ。


「でもそれが私の潔白を示す理由にはなりませんよ……。臆病な私には誰かを殺す度胸がなかっただけかもしれませんし……」

「お前なぁ……」


 俺が擁護している本人が自ら犯人になりたがるという、なんとも不思議な状況である。ひょってしてマゾか?

 俺の論証が不十分だというのもあるが、彼女にも思うところがあるらしい。まるで俺を試すかのような空気を感じる。


 納得させられるだけの証拠がなく、推理で語るしかないこの現状。セレスティアの無実を完全に証明するのは難しい。

 ――言葉で無理だというのなら、もう行動で示すほかあるまい。


 がし、と俺は彼女の手を握り締める、


「は? え?」


 唐突なことで戸惑うセレスティアに向けて、俺はさらに混乱するようなことを告げた。


「これから一緒にグレイト帝国まで遠足に行こうぜ!」

「ええぇええええええええっ!?」


 そうして事情を告げぬまま、セレスティアの生まれ故郷・グレイト帝国まで向かったのであった。



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