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第二章⑤ 礼儀知らずの転生者(中)


「食らえエロス六世! 【終極――――ッ!」


 詠唱しかけた古代魔法は、しかし放たれることはなかった。

 何故なら放つ直前に、一本のクナイが俺の右肩に突き刺さり集中が途切れてしまったからだ。


「いってぇええっ!?」


 せっかく集めた魔力が霧散し、辺り一面に風となって広がった。

 そして今度はクナイを抜く暇もなく、左脇腹に強烈な一撃が炸裂し吹き飛ばされた。


「が、ぁ……っ!」


 あ、あばら骨がガチで折れた……! これを舌打ち程度で済ませる漫画の登場人物凄すぎだろ……。

 俺は治癒(ヒール)をかけてなんとかその痛みから逃れることができた。しかしその間に現実はより残酷なものへと変化していたのだ。


「我が王への暴言に留まらず、苦し紛れに城内で働く者たちにまで手を掛けようとするとはな……! いかに強者であれど、貴様のような魂はよもやヴァルハラへは逝けまい」


 いや、そんな大量殺人しようなんて考えてなくて……。今はとにかくエロス六世を倒す一心だったのだが、結果的にはそう受け取られても仕方ない。

 俺に剣を突き付ける金髪女騎士は、転生してから出会った中で最も強いと分かるオーラを漂わせていた。タイマンなら勝てるだろうけど、その女騎士の背後には何人か常人離れした実力者が控えている。あ、こりゃ死んだわ。


 呆気なく捕らえられた俺の下へ、エロス六世がゆっくりと近寄ってきた。


「拍子抜けだ。他の転生者はもう少し粘っていたが、貴様はそれすらできんのか。こちらは転生者を殺し切る手管をまだ五つは隠し持っていたが、披露できず残念だ」

「た、たとえば……?」

「初めて転生者と交戦したときは三日三晩攻め続けてやった。いかに怪物といえど人間、常に戦闘状態を保っていては精神をすり減らし、当然睡魔も襲ってくる。故に我が軍は敵に寝る暇を与えず、食糧も与えず、安寧を奪った。二日目には根を上げたときも今のように拍子抜けしたものだ」


 そりゃあ転生者だってメンタルは普通の人間だもの。追い込まれたらすぐにギブアップするだろうさ。

 まだ戦うこともできるがその場合俺は必ず殺される。何十人か兵士をやっつけたところで、エロス六世に俺の刃が届かせるヘマはしないだろうし、その前に敵主力に討ち取られるのが関の山だ。


 しかし俺だってまだ死にたくない。やり残したことは山ほどあるしハーレムだって作りたい! 幸運にも話の通じない蛮族というわけじゃなさそうだし、ここは俺の元営業トークで打開するほかあるまい!

 というわけで、営業時代よく使った方法である土下座作戦を敢行する。額を床につけ、ともかく平身低頭を心掛ける、情に訴えかける作戦だ。こんなことなら最初から頭下げてればよかった。


「ど、どうか命だけはっ! 命だけはお助けください!」


 突然の豹変ぶりに相手側の動揺が伝わってくる。地面を凝視しているから気配でしか分からないけど。

 エロス六世が冷たい声音のまま言う。


「して、それがエロイッサム王国にいったいどのような益をもたらすというのか」

「はっ! 私には強大な魔力と魔法があり、これまでも冒険者として多くの魔物たちを倒してきた実績があります。今後はこの力を貴方様のためにこそ使っていく所存でありますっ!」


 今のセリフ、就活の志望動機を思い出すな……。

 命乞いだけで見逃されるとは思っていない。当然相手にもメリットを用意する必要がある。その点俺には他の追随を許さないチート能力がある。これは唯一無二の手札だ。


 結局魔法を放つことはできなかったが、その片鱗だけでも驚異的だと感じたはず。ならば充分通じる可能性がある。


 ――――と、思ったが。


「話にならんな」


 にべもなく一蹴されてしまった。


 思わず顔を上げてしまう。決定打にならなくても少しは悩んでくれると考えていたのにそれすらなかった。というより多分予想していたんだ、俺がそう言うに違いないと。

 おそらくこれまでの転生者からも同じようなことを言われてきたのだろう。だから悩みすらしない。


「確かに貴様の力は強大だ。しかしそれが再び余に向かわないといかにして保証できる? 獅子身中の虫を飼うつもりは毛頭ない」

「で、では私はどうすれば……」

「――――そこで、だ。王国の狗になる証として、首輪を付けるというのなら考えてやらんでもないぞ?」


 困り果てたところにエロス六世は的確に妥協案を示してきた。さすが一国を統べる主、交渉というのを弁えている。

 エロス六世が指を鳴らすと、一人の男が俺の眼前に立った。その首には石造りの首輪が装着されている。


「この者は先に話したこの国にとって最初の転生者。疲労困憊し貴様のように命乞いをした。そして隷属の証としてこの首輪――魔封石を自ら身に付けたのだ」


 魔封石――聞いたことがある。その名の通り装備した者の魔力を封じる鉱石だと。大抵は魔法を使える奴隷に付けるらしい。


「……つまり、その首輪を付ければ脅威なしと見なされるわけですか?」

「そうだ。非常時のみ首輪を外してやる。その間は別の縛りを設けるがな。なにより国に貢献し続ければいずれ解放することを、王家の紋に今ここで誓おう」


 いかにチート能力者と言えど肝心の魔力そのものを封じられてはどうしようもない。良い対策と言えよう。

 俺は考えるまでもなく首肯する。半ば奴隷化するとはいえ死ぬよりは断然マシだ。言葉に嘘でなければ解放されるとも言ってるし。



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