第二章④ 礼儀知らずの転生者(前)
「ここにエロス六世はいるかーっ!」
重厚な造りの大扉を蹴っ飛ばして強引にこじ開ける。その先の部屋はこれまでのそれとは雲泥の差で、豪華絢爛な装飾で溢れ最奥には巨大な誰かの自画像が掲げられていた。
そしてその悪趣味な自画像と同じ顔の人物が、玉座にふんぞり返りこちらを高い位置から見下ろしていた。
「――何者か。我が王城に踏み入った愚か者は」
ぴり、と緊迫感により空気が震える。只者ではない気配がぷんぷん匂い立っている。
間違いない、この男こそ「大陸一のうつけ者」と名高きエロス六世だ。
俺――城之内丈は異世界転生者だ。死因は働き過ぎによる過労死。転生させてくれた神様には感謝したいとこだが、できることならブラック企業に天罰を与えてやってほしい。マジで何とかしろよあの地獄。
ともかくこの世界に転生した俺は、魔物や奴隷スタートなんてせずにいち村人として生まれ変わった。
何の努力もなしに筋力は地を割るほどで、弱攻撃が他の必殺技レベルで「俺またなんかやっちゃいました?」って本当に言ってやったぜ。シーン、と周囲が静まり返ったときの「やっちまった感」は半端なかった。
まあそんなこんなで苦労せずに齢十四になった俺は、狭い農村を飛び出し近くの都市で冒険者として名を馳せることを目的とした。だって強いってだけでモテるし、有名になったら質も数も増すに違いないし!
さらに名を挙げるため俺はここ王都へとやってきたのだ。そこでさっそく美少女に話しかけたところ、どうやらこの国の王様が大層破天荒であることを知ったのである。
たとえば自分の生誕祭を催す際に国中の女子を徴集したり、新年早々領土で床オナして「母なる大地なぞレイプしてくれるわーっ!」と叫び注目を浴びたり、とかく変態行為に浸っているらしい。日本基準じゃなくてもアウトだな……。
そこで俺は閃いた。「あれ? もしかしてエロス六世倒せば一躍ヒーロー?」と。そして行く行くは王様になれるかも! と。
そういうわけで俺は早速王城へと突入し、今に至るというわけだ。幸いにも現時点でエロス六世の警備は手薄。兵が数人いるだけで転生者としてチート能力を授かった俺の敵じゃあない。またなんかやっちゃおうかな。
俺は余裕綽々、不敵な笑みを浮かべて言う。
「お前がエロス六世だな? お前の評判は聞いている。王の身分を悪用して変態行為に耽っている愚王だとな!」
しかし改めて対面してみると、王にしては若く至って真面目な青年に見える。外見では変態とは露も思わないほどだ。
エロス六世はやれやれ、と首を振り、
「王である余に対しその物言い……。おい近衛兵、即刻その者の首を刎ねよ」
いとも簡単に傍にいる兵士へと命じた。唐突な展開にさしもの俺も動揺を隠せない。
「ぅええええええっ!? いやこういうのって普通『なかなか見どころのある男だ……』的な感じで懐の広さアピールするんじゃないの!? そんで俺らは『かっけえ』とかコメント打つわけじゃん? 初手死刑宣告ってどういうわけよ!」
「ほとほと呆れさせる若造よな。道化にしてもとても使えぬ。貴様は今君主たる余に対し侮辱をしたのだぞ? それだけで死罪は免れまい」
や、そんなリアルな対応されても困るんですけどー……。
実際王様とはつまり専制君主性の長――有り体に言えば大統領とマフィアを兼ね備えたような存在だ。そんな恐ろしい相手に対しタメ口で接したら普通切れるだろうな。
気付けば周囲を兵士たちが取り囲み、ジリジリと距離を詰めてきていた。だけど俺からすればただの人間など全て雑兵に過ぎない。
なんと俺は古代魔法を使うことができるのだ! モノホンの悪魔を召喚したり大規模無属性攻撃したり、周りからは一人戦術兵器とさえ言われている。どういう原理の魔法なのかは俺にも分からん。
ジ、とエロス六世は人格そのものを覗き込むような、無機質な瞳を俺に向けてくる。
「……ふん。敵地でありながらその余裕。おおよその想像は付く。貴様、異世界転生者だな?」
「なっ……!?」
見事言い当てられた。ま、まさかこの男、全てを視通す『千里眼』の持ち主なのか……! 冠位の資格を持っているんじゃあるまいな……!
そんな風に混乱していると、再び見下げ果てたと言わんばかりの視線を寄越してくる。
「これまで余の下に現れた転生者は貴様一人ではないということだ。その中にも貴様のように不遜な言葉使いをした者はいたが皆、等しく首を刎ねてやったわ」
なるほど。要するにあれだな、数々のタイムスリップもので織田信長がよく登場する的なやつだな。「まーた俺の下に未来人がやってきてしまったのか」みたいな。織田信長は無双してるし女体化もしてるからな。
それにしても転生者たちを死刑に処してきた、とエロス六世は告げた。これが嘘でないとすれば、チート能力者を殺せるだけの戦力を有しているということになる。
嫌な汗が背中を伝う。これまで俺が優位性を持っていると思っていたのは、『俺が負けるはずない』という認識があってこそ。しかしそれを失いつつあるのが現状である。
……いや、まだいくつか手がある。それは全力で逃げ出すか今すぐエロス六世を殺すことだ。前者ならこの場を凌ぎ切ることは可能だろうが、その後エロイッサム王国にはいられなくなる。しかし後者は起死回生にも繋がるかもしれない。トップを討ち取れば全員が降伏して、俺が王様になる可能性だってある!
よーし、こうなったら俺の最大魔法【終極爆炎】をブッパして、この城もろとも破壊してやる! 俺は自身の中にある大量の魔力を炎属性へと変換していく。
前兆として周囲の空気が蜃気楼のように歪み始め、絶大な魔力反応が広がっていく。敵兵たちはその熱気だけで近寄れない。
両手を上げ、そこへ魔力を収束させていく。それは一個の球体となり、着弾すれば城一つ余裕で崩壊させられる。
圧倒的な魔力の塊を前にしてなお、エロス六世は悠然とした態度を崩しはしなかった。




