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第二章③ エロス王の恋愛相談

 ある日のこと。

 俺は庭園で偶然出くわした【火】の軍団長、ジークブレードからとある相談を受けていた。見ろ! 部下からも頼りにされる、これこそが人望だ! 相手が野郎じゃなくて女の子だったらなお良し!


 ジークブレードは若くして精鋭のみで構成される【火】の軍の長を務めている。全軍のトップであるペレネと双璧を為す護国の剣である。

そんな男から持ちかけられたのはぽかぽか陽気の下で交わすには軽く、腰を据えて聞くには重いという、なんとも面倒臭い質問だった。


「――――ふむ、なるほど。つまり卿は今、自身の中に渦巻く感情が恋心ではないかと悩んでいる、というわけだな?」


 二十歳を過ぎて浮いた話の一つもなかったジークブレードからの相談。それは俗に言う恋愛相談であった。

 ジークブレードは高身長でイケメン(俺には劣るが)で、身分も性格も良い。所謂好物件というやつだ。他の女子がほっとくはずないのだが、こいつはあまりに奥手なため恋をしたことがないのだという。嫌味がないのが嫌味になっている、なんとも困った男だ。


 平生の引き締まった顔を僅かに赤らめ、いつになく言葉にキレがない。女子がやったのならともかく、男がもじもじすると途端に気持ち悪くなるな。


「は、はい……。しかし私にはその手の経験がまるでなく、この気持ちにどう決着をつけるべきかずっと思い悩んでいるのです……。このままでは団の者に示しがつきません」

「なに。卿の活躍は常に耳新しいものばかりで、国の安寧のため働いていることは誰もが知るところだ。たまには肩の力を抜いても天罰は下るまい」

「はっ。勿体なきお言葉であります……!」


 実際こいつやべーからな。以前の親征の際にジークブレードの戦いぶりを間近で見たが、鬼神と呼ぶに相応しい無双っぷりだった。一振りで数十の敵兵を薙ぎ払うんだぞ? ペレネを騎士団長に据えられたのもこいつが前線にいるから、というのが大きい。

 それはともかくとして、どうにも男からの相談は気持ちが乗らん。これが女子からのものなら懇切丁寧手取り足取りねっとり教えてやるところだけど、生憎男にそれをやる趣味はない。


 だからまあさっさと終わらせるか。悩んだところでどうせフラれるだろうし。女性は魅力的な男性に惹かれる。即ちこの国において俺より魅力的な奴などいない以上、全女性たちは俺に惚れているといってもいい。Q.E.D!

 俺は思慮深く悩むポーズを取って、


「そうだな……、余は無論卿ではないし、何より相手のことをよく知らん。故にどうこうせよなどと命じることはできない。――だが、余は卿のことならよく理解しているつもりだ(つか今まで恋したことないとか陰キャかよ(笑)ちょいとおだててやれば勘違いしそうだな(笑))」

「我が王……」

「故に断言しよう。今の卿であれば、どのような淑女であれ幸福へと導けるはずだと(キリッ! うはっwww俺様かっけぇえええwwwwwww)」


 内心で笑いを爆発させながら、表面は何とか取り繕ってもっともらしい言葉を並べる。

 するとジークブレードは感慨深そうな表情を浮かべて、


「この身に過ぎたお言葉、痛み入ります……! 確かに為そうとする前から怖じ気付いていたのでは、何より私を信じてくれた主の期待を損なうことになります。まずはこの気持ちをそのまま彼女へ伝えてみようと思います!」

「ふ。余のことなぞどうでもよい。恋愛はあくまで当事者二人が重要視されるべきで、第三者を挟み込むべきではないのだ。己の気持ちに正直になる――卿は誰よりもそれを実践してきた、此度もそれを貫くのみぞ。……吉報を期待している(フwwラwwwれwwwwwwろwww)」


 イッツパーフェクトコミュニケーション!

 俺の言葉に感銘を受けたジークブレードは頭を下げ、意気揚々と想い人のところまで駆けて行った。


* * *

 

 ――――ということがあったのがつい三日前のこと。

 玉座の間で一休みしていたところ、付き添っていたマケオン法務大臣が世間話感覚で話しかけてきた。


「そう言えば王よ、お聞きになられましたか? どうやらジークブレード団長が食堂で働くアイリーン殿と交際することになったそうですぞ」

「はぁあああぁああああああああああああああっ!?」


 背もたれに全体重を預けリラックスモードだった俺はそれを聞いて飛び起きた。


「ア、アイ、アイリーンちゃんってあの看板娘の子だよな!? あ、あのキュートで笑顔の良い美少女が俺以外の男と!? 男を知らなさそうなあの子が俺以外の奴に靡いたというのか……! 頼む嘘だと言ってくれぇええええええうおおおおおおおおおおお!!」


 ぐわんぐわん頭を振り回す。ひょっとしたら夢かもしれないなんて一縷の望みを賭けて。

 うぅ……。こっそり食堂でご飯食べてたとき、アイリーンちゃんはスマイルをよく提供してくれた。俺のことを「他のお客様とは違う」「特別」と言ってくれた……! それなのに何故……。


「マケオーン! 至急ジークブレードの野郎を国境沿いの危険地帯に左遷しろ! アイリーンちゃんと強引にでも引き離すんだっ!」

「それだと有事の際に戦力が手薄になりますぞ。彼一人いるだけで騎士百人分の戦力を浮かせることができるのですから」

「バカーッ! 正論言えばいいってもんじゃねえぞ!」


 主君の求める言葉をかけてこその忠臣だろうに。だのにこの老いぼれは「聞こえの良い言葉ばかり聞かせても仕方ありません」と首を振りやがる。

 感情の爆発により一気に疲れが噴き出してきた。俺は肘置きに身体を預けぐったりしながらぼやく。


「普通さあ、何事もさあ、王に先んじてやっちゃ駄目だと思うんだよねー。王より先に彼女作るかねふつー」

「お言葉ですが王よ、それでは国中生娘か童貞しかいなくなります」

「良い指摘だ、廊下に立ってなさい」


 俺が童貞=国民全員童貞&処女守れって意味だもんな。けど処女厨の俺からすれば全ての処女は俺に捧げてほしいところだ。男連中は知らん。互いの穴でも掘ってろ。

 マケオンをつれなくあしらっていると、見張りの兵士が一人玉座の間に駆け込んできた。


「え、エロス王! 一大事です!」

「どうした!? ついに俺の目当てのガールズが押し寄せてきたのか!?」

「いえ! そんなことよりも、王に対し謁見を申し出ている輩が現れまして……!」


 そんなことよりもって……。テキトーすぎん? 我王ぞ?

 俺は多少背筋を伸ばし、持ち込まれた問題に対し的確な対応を見せつける。


「その者の性別は?」

「男性です! 上背は一七〇ほどの冒険者のような出で立ちで――――」

「それこそどうでもよかろう。して、アポイントは取ってあるのか? 俺は今日そのような話を聞いておらんが……」

「いえ予定のない来訪で……!」

「なら相手にする必要性は皆無だ。丁重……いや、手荒でもかまわんからお引き取り願え。そのような不躾な輩を我が王城に立ち入らせるな」


 それがその……、と兵士はひどく言いづらそうに口を歪めて、


「実はその者、既に門番を蹴散らし王城内に侵入しておりますっ!」


 身分の分からぬ者が城に入り込んだ。ともすれば一大事になりかねんケースだが、俺にはある程度予想できたことなので大して驚くことはなかった。

 どこぞの高貴な人物であればそのような振る舞いをするはずがなく、見るからに下賤な輩であれば兵が簡単に追い払っていただろう。しかしこうして兵士が報告に上がったということは、例外が現れたことを何より示していた。


 俺の下に向かって来ている……。門番を蹴散らすとなるとそれなり以上の手練れに違いない。俺も武勇に自信がないわけじゃないが、本職相手なら話は別だ。


「マケオン」

「はっ」


 目配せすると彼は全てを汲み取った風に部屋を後にした。頼もしいんだけど爺と以心伝心とかちょっと気持ち悪いな……。

 身の安全のために逃げ出してもいいが、侵略者相手にそう簡単に尻を見せるのは為政者としての沽券に響く。どのみちひっ捕らえて場合によっては相応の罰を与えてやらなきゃ

ならんし、もののついでだ。


 俺は玉座に深く座り直し脚を組む。なるべく王の偉大さが端的に伝わる形を作る。

 そして一つ深呼吸。俺は正体不明の侵入者に対し警戒心を高めていった。



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