章間① 握手会(後)
その馬鹿力の持ち主――ペレネが呆れ返ったと言わんばかりの大溜息を吐き出して、
「我が王よ……民たちの手前、体裁というのを気になされた方がよろしいかと」
「うぅ……! なんだよなんだよ! ちょっと総選挙一位取れそうな勢いだからって調子乗っちゃってさあっ! キングの俺様を差し置いて王様気分を味わうとは何事か!」
「駄々をこねないでくださいよ……」
俺は今、とてつもなく惨めな思いをしている……。ウケないギャグを笑いを取るまでトライした、若かりし頃を思い出すなぁ。メイドたちの気を引こうと無茶をした九つの頃。
周囲から注目が集まる。というより引かれている感じか。そうして俺が床を指でなぞってイジイジしていると、不意にマケオンが人混みを掻き分けて現れた。
「エロス王。実は貴方にどうしても会いたいという国民たちを連れてきましたぞ」
「ホントか!?」
半ば諦めかけていた頃に届いた朗報に、つい股間がいきり立つ。いったいどんな美女なのか、期待感に胸が高まってくる。
マケオンが手招きをして、俺に会いたがっているという民たちを呼び寄せる。どきどき……。
周囲の関心を引き付けながら現れたのは――――
「せーのっ……、エロスおう! いつも、ぼくたちをまもってくれて、ありがとぉっ!」
――――年端もいかぬ子どもたちであった。
総勢三〇人近い児童たちがわらわらと俺の目の前に横列を作る。
「ぼくたちっ!」
「わたしたちはっ!」
「「きょう、おうさまにかんしゃの気持ちを歌いにきましたっ! 聞いてください!」」
リレーして言葉を繋いでいく児童たち。朗らかに歌い始めたのはエロイッサム王国の国歌であった。
「『ああ我が王よ、どうか我らを護りたまえ』」
建国当初からある国歌。古臭くて無駄に荘厳で、どうにも気に食わない俺は何度か変更しようと試みたことがあるけど、いずれも家臣たちに止められて為すことができなかった。
「『王の御慈悲は陸を渡り、海を越え、天へと轟く』」
……歌のセンスは最悪だが、歌い手によっては光るもんなんだな。
大声で歌うことだけを重視し、拙く、とても金の取れる合唱じゃない。けれど俺は無性に喝采を送りたい衝動に駆られている。
「『――ああ、我が王よ。どうか世界を護りたまえ』」
数分で合唱が終わり、周囲から温かな拍手が注がれる。俺も内なる感動を押さえ込みながら控えめな拍手をする。
「……ありがとう、この国の宝たち。素晴らしい合唱だった。王国が誇る音楽隊にもひけを取らん」
褒められて嬉しそうに顔を見合わせる児童たちに歩み寄り、腰を曲げて視線を合わせる。
目を閉じ、そっと耳を澄ませる。
「……ああ、今も聞こえるよ。この国を支えるであろう、始まりのメロディーが」
俺は讃える意味を込めて、児童一人一人と固く握手を重ねていく。行く行くはこの子たちが王国を支えていくのだと思うと、少し肩の力が抜けたような気がした。
* * *
開城祭が終わり間近となり、ピーク時と比べるとやはり人が疎らになってきた。城で働く者達は忙しなさそうに撤収作業を進めている。俺? 俺は王様だから、共に汗を流すのもおかしな話じゃん。そんな奴がいたら王様失格だよ。
というわけで、結局件の子どもたち以外ほとんど人が訪れることのなかったブースに座って、一人慌ただしく動く家臣たちを眺めていた。
すると、その流れから外れてペレネが俺の元にやってきた。
「…………、」
眼前に立った彼女は、何故か一言も発さずに俺を睨み付けていた。顔を顰め、何か言いづらそうにしている。マケオンに次いで説教の多いペレネのことだ、大方開城祭での振る舞いについて言及することがあるんだろう。どう見たって愛を囁く顔付きじゃねえもん。
やがてペレネは意を決してように口を開いた。
「――――まだ、『握手会』は続いています、よね?」
何の脈絡もなしに、意味不明なことを言い出したペレネ。さすがの俺もこればかりは理解不能だ。
彼女はそっぽを向いて、煌びやかな金髪を軽く掻いた。
「……ならどうか、私と握手をしてくれませんか? 貴方の日頃の奮闘に感謝して」
「……。ん」
俺も釣られて頭を掻く。いや、改めて言われるのが照れ臭いとかじゃないからな? こうやって讃えられて然るべき、と自負しているから。
握る、というより添えるくらいの力加減で、そっとペレネの手に触れる。白く柔らかな指先を包み込む。
ついでに俺も、感謝の意を込めて言葉を投げかける。
「――これからもよろしくな、ペレネ」




