*7* わたしの王子様。
今回は後半部分に不快と感じる描写が入ります。
ちょっと苦手な方は次の話まで飛んで下さいね~(´ω`;)<ゴメン!
イザベラのメリッサ様お宅滞在期間も、もう十三日目。
もっともわたしはそれより長くいるんだけど……このままこっちにいてくれたって構わないというのがわたしとメリッサ様の見解なんだけど、それだとイザベラがダリウス君の禁断症状が出ちゃうもんね。
実際に二日くらい前から『ダリウスは今頃畑かしら?』とか『ダリウスはそろそろお昼休みの時間ね』などと言っているから、そろそろ限界なんだろうな。
まだいつ帰っちゃうのかといった話がないから分からないし、したらしたで“じゃあもう帰る”と言われたくないから自分から話題にはしたくない。
……と、思っていたんだけど……。
「急で申し訳ないのですけれど、私、明後日には辺境領からの迎えが来るのでお暇しなければなりませんの。ですからアリス? あなたはそろそろ私がここに来た理由をお訊きになった方が良いわ」
直前まで物凄く真剣に乙女小説を熟読していた険しい顔付きそのままに、イザベラは唐突にそう言った。するとポカンとしているわたしの斜め向かいに座っていたメリッサ様が、これまた深く頷いて居住まいを正す。
そうしてイザベラとメリッサ様は、二人揃って補い合うようにこれまでの経緯を説明してくれたんだけど――……。
――――……。
――――――……。
――――――――……。
「と、いう訳ですので、貸出期間が終了すると同時に、ダリウスに叩き直されたハロルド様がもう一度あなたの所に結婚を申込みに来ると思いますの。ここまでは理解出来まして?」
いや、今ので理解しろって言うのが無理でしょう。だって何だか……色々と理解の追い付かない内容だった。分かったのは“わたしの為に何でそこまで?”という無茶をしたという一点だけ。
「アルバート様からの伝言では、明日の晩にはハロルド様もこちらに戻って来るのだそうですわよ。そうなると求婚はいつかしら。やっぱり戻ってその足で会いに来られるのかしら、それとも少し焦らして三日後? うふふふ、楽しみですわね、アリスさん?」
いやいや、メリッサ様。楽しみとかそういうのないから。むしろ“どうすれば良い?”の方が心情的に正しいと思う。
楽しげな二人に挟まれて、わたしは一気にせり上がってくる不安感と、それよりもさらに強い高揚感の板挟みになってしばらく口がきけなかった。
二人はにこやかにわたしの様子を見ていたけれど、わたしは取り敢えず動揺をしまくったまま「明日、家に来て!」と言い残して大慌てで義父さん達の待ってくれている“我が家”に戻ることに決める。
わたしの突然の帰宅発言に目を丸くした二人の見送りと護衛を断り、帰り道に孤児院に顔を出し、さらに急に長期の休みをもらってしまった下町の酒場に頭を下げて、明日からの仕事復帰を承諾してもらう。
折角紹介してもらった職場を放棄したことは取り消せないけど、全力で働いて信頼を取り戻すと伝えれば、店長は「アリスちゃんは今までの働きぶりで充分だよ」と笑ってくれた。
その言葉は義母さんと義父さんの人望で“わたし”のものではないけれど、今はそれで良い。今に義父さん達に相応しい“わたし”になる。
その後は市場をフラフラしてから家路を辿る。二人がわたしみたいな不良娘をもう一度家に入れてくれるか不安で仕方がなかったんだ。
だけど夕方にいきなり両手一杯の買い物袋を抱えて帰ってきたわたしを、義父さんと義母さんは叱るどころか抱きしめてくれて、わたしは自分の杞憂を笑ってしまった。
二人はわたしの身に何かあった訳でないなら、話したくないことは何も言わなくて良いと言ってくれ、わたしはそんな二人にしがみついて泣いた。最近何だか幸せなのに、前よりもずっと泣くことが多いのは何でだろう?
そしてそれが嫌ではない自分の変化にも内心驚いた。昔のわたしは今よりずっと強くて、どんな時でも相手の気を惹く演技以外では涙なんて出なかったのに。
その日の夕飯は久し振りに“家庭の味”を楽しんだ。メリッサ様のところで出された高級な料理はとっても美味しかったけど、やっぱりわたしにはこの味が良いな、なんて思ったり。
王様席と王妃様席にそれぞれ腰掛ける二人に伝えたら、義母さんが「当然よ。“アリス”はあたし達の家の子だもの」と言ってくれて、義父さんが「友人と食べる食事も良いが“家族”で囲む食事も良いものだろう?」と笑ってくれる。
その時、この家に来てから久し振りに名前を呼ばれたことに気付いてそれを指摘したら、二人共「「本当だ」わ」と声を揃えるんだもん。失礼しちゃうよね?
***
そんなこんなで――――泣き笑いの“家族団欒”を終えて迎えた朝。
招待していた二人が影にそれとなく護衛を付けてはいるものの、普通に玄関先に現れてくれてホッとした。王家の目立つ馬車で乗り付けられたりしたら……ううん、そもそもお忍びの地味な馬車だって、下町を訪ねる時に馬車を使う人なんていないから目立つもん。
きっとイザベラが“一般常識”を働かせて徒歩で訪れてくれたんだろうな。そんな機転の利くイザベラに目配せして笑い合う。メリッサ様は『二人だけで何ですの?』と不満顔だったけど、それを宥めて案内したキッチンで、
『我が親愛なる友人達よ! わたし、ことアリス・ロングは本日ここに第一回“クッキー・サバト”を開催することを宣言する!!』
というお馬鹿なノリで二時間前に幕を上げた“クッキー・サバト”。
名前の通りただただクッキーを焼きまくって食べまくるだけのシンプルな女子会。バターと砂糖が熱されて醸し出す心躍る甘い香りが、あまり広いとは言えないキッチンに充満する。
「はいはい二人とも、次のが焼き上がったよ~! 義父さんと義母さんの分は別口で焼いてあるから、遠慮しないでジャンジャン召し上がれ」
そう言いながら、わたしは焼き上がったばかりのクッキーをまだ熱々の柔らかい状態のまま、天板から冷まし乾かしてサクッとさせるためにケーキクーラーに載せていく。
サブレにビスキュイ、スノーボール。
アイシングをした型抜きクッキー、甘くて可愛いジャムサンド。
目先を変えてビスコッティ、クルミごろごろブラウニー。
それからついでに……忘れちゃいけないオマケのスコーン。
混ぜ込むフレーバーも取り揃えて、紅茶にココアにドライフルーツ。
“もうクッキーだけじゃないんじゃあ?”とはちょっと考えたけど、喜んで欲しいからその手の突っ込みは受け付けません。前日から様々な種類を取り揃えて、イザベラの魔法石で保管しておいたから後は焼くだけ。
もともとロング家はその日に買った食材をその日のうちに使い切っていたんだけど、イザベラの魔法石のお陰で買いだめが出来るようになって便利なんだよね。
さて、ケーキクーラーに載せたクッキーは冷めると同時に、用意された二枚の可愛らしい金縁のお皿の上へとご招待され、イザベラ達の胃袋の中に納められていく。
一体その身体のどこに入って行くんだろうかと思うけど、美味しそうに次々食べてくれる姿を見ていたら、おかしいな……嬉しいよりも先に負けん気の方を発揮してどんどん焼いていかなきゃって気になるかも?
「久し振りのアリスのクッキー……! どれも甲乙付けがたいくらい美味しいですけれど、生地が美味しいからかしら。プレーンも好きだわ」
「えぇ、本当に。この齧ればサクッと、なのに口に入れた瞬間ホロホロと解ける感じが素晴らしいですわね。流石はアリスさんだわ。イザベラさんはなかなか食べられないのですから、わたくしの分も召し上がって?」
目の前で繰り広げられるどこかで見た日々の残像のようなやり取りにつられて「えへへ、やっぱりそうかなぁ~?」なんて、良い気になって答えるわたしの頬も自然と緩んだ。
お行儀が良いとは言えないお茶会に、キッチンの戸口からこちらを覗いて微笑む義父さんと義母さんにペロリと舌を出す。“自分の家のキッチン”は、私にとって長年母さんの背中を思い出す哀しい記憶の場所だったけれど、今は違う。
途中からはキッチンで作ったクッキーを食堂まで運んで、覗いていた義父さん達も一緒になってお茶会を楽しむ。
新しい“自分の家のキッチン”は、義父さんがいて、義母さんがいて、気心の知れた友人達と過ごす“楽しい”場所へと上書き修正されていく。
わたしはイザベラ、メリッサ様、義父さん、義母さんを視界に捉えながらも次々にクッキーを焼いて……こっそりと一晩寝かしておいた“特別製”のマドレーヌ生地を型に流し込んで、一緒にオーブンに滑り込ませた。
ハロルド様が今晩の酒場に現れるかはまだ分からないけど、少しくらい期待しても良いかなぁ? なんて。
焼き上がったこんがりキツネ色のマドレーヌは、結局ケーキクーラーで冷ましているところを見つかってしまった。でも、四人からからかわれても今度は少しも恥ずかしくなんか――。
「はっはっは。ハロルド様に渡すのか? なら私が一つ味見をしよう」
「お止めなさいなリック。うちのショコラちゃんが作った物に味見なんて必要ないわ。嫉妬する男親はみっともないわよぉ?」
「これは了承する時に渡す物なのかしらアリス?」
「勿論そうですわよねアリスさん? そうでもないのにお渡ししたりすれば、相手に期待させかねませんもの」
四人が四人とも好き好きに口を挟むものだから食堂は一時騒然。わたしはといえばやっぱりね……?
「もー! 恥ずかしいから皆ちょっと黙っててよぉ!?」
そんなにすぐ慣れる訳なんかないんだってば。
でも泣いても笑っても、決戦は今夜……だったら良いなとか思っている自分がいる。だってさぁ、こんなに心臓に悪い仕事前の一幕なんて、数日続いたら死んじゃうよ?
***
あの後、楽しいお茶会を解散してイザベラ達を見送ったのが五時頃。義父さん達と片付けて久し振りに店に出勤したのが六時。
現在は深夜の十二時を少し回ったくらいかな?
首が痛くなりそうなくらい空を見上げて“あぁ――……月明かりが結構降り注いで明るいとはいえ、深夜の道を一人で歩くのは久し振りかも”なんて考えてる時点でもうね……お察せ。
「死んでしまうやないかーい……」
久し振りの酒場での仕事の帰り道、わたしは思わず“一人で”そう呟いた。
いや、まぁ、分かってるよ。相手にも都合があるし、約束してた訳じゃないから。期待して早とちりしたわたしが悪い。
でも“もしかしたら来てくれるかも。それでその時に義父さんに迎えに来てもらったりしてたら鉢合わせで気まずいかな?”とか、余計なことを考えてお迎えを断ったのは自分だもんね。
途中の道を一瞬悩んだけれど、急いで帰ろうと思ったから少し薄暗いけど早く帰れる細い路地を選んだ。最近はいつもハロルド様と長く歩きたいから広い遠回りな通りを使っていたけど、今夜は一人だから。
「恥ずかしいやないかーい……」
もうね、うん、実を言うとわたしはかなり期待していたみたい。いっそ笑えばいいと思うよ。
腑抜けたわたしの右手には可愛らしく包装したマドレーヌが入った紙袋。気合いの空回りがカッコ悪いこれは帰ってから食べてしまおう。時間が時間だから太るけど……。
そう思いながら歩いていると、不意に背後から「今晩は、アリスさん」と声をかけられた。それひどく穏やかな声。だけど――わたしにとっては瞬時に臨戦態勢に入ってしまう声だった。
「あら、お久しぶりね……どうしてこんなところに、あなたがいるの?」
動作だけはゆっくりと声のした方を振り返ったわたしは、そう言葉を選ぶふりをしながらソッと周囲に視線を走らせる。
「貴女がお店から帰るのが見えたので、夜道の一人歩きは危ないからぼくが送ろうと思って。今日は……いつもの男性はご一緒じゃないんでしょう?」
魔法石で作られた街灯の柔らかい明かりに、ぼんやりと近付いてきた男の顔が浮かび上がる。現れたのはやっぱり思っていた通りの人物だった。
「アリスさんの家までお送りしますよ、ね?」
糸のように細い目をした、ひょろりとした男。男はまだハロルド様がわたしの仕事先に現れる前に、よく店に来ていたお客だ。
最初は物腰も穏やかで大人しい、他にも大勢お店にいるような“普通”のお客だったから、わたしも話しかけられたら笑顔で返していたのに……いつ頃からか、やたらとしつこく話しかけてくるようになった。
だけどせっかく義母さんが紹介してくれたお店だし、その男以外のお客は皆良い人達ばかりだったから、大事にして辞めたくなかったわたしはしばらく様子を見ることに。
でもそれからもハロルド様が良く座っているカウンター席からずっと、わたしの働く姿をまるで“監視”しているように見つめてきて……。ついにある夜店から帰ろうと外に出たら、この男が立っていて『こんなに遅くま働かなくても、ぼくが養ってあげますよ』と言われてゾッとして――。
わたしはついに店長に相談して男を出禁にしてもらい、その後はハロルド様が来てくれるようになって、一切姿を現さなくなっていたから安心していたんだけど……迂闊だった。
「いいえ、ご心配していただいたのに残念ですけれど、もうここを抜けたら家まで後少しですから。一人で帰れるわ」
「そんなに遠慮しないでも大丈夫ですよ。ぼくと貴女の仲じゃないですか」
一体この男の頭の中ではどんな物語が進んでいるの? 勝手に人を使って気持ちの悪い物語を展開させないでよ!
そう思いながらジリジリと後ずさる。だけどわたしが下がれば相手は近付く。細い路地はまだ道の中頃で、走り抜けるには一旦男に背中を向けなくちゃいけない。
両側の建物は魔法石の生産工房が連なっているけど、昼間は工房の関係者が大勢利用する路地でもこの時間に人気はなかった。迷ったものの結局他に思い付かなくて、わたしは男に背を向けて一目散に駆け出す!
でも男も予測通りの動きだったからか、わたしの逃走はすぐに背後からの男の体当たりで阻まれた。咄嗟に手をついて地面に顔面から突っ込むことは免れたけど、掌が猛烈に痛い。この感じだときっと明るいところで見たら擦り傷で血塗れだと思う。
痛みに歯を食いしばっていたら、突然うつ伏せの状態から乱暴に仰向けにされて、わたしのお腹の上を跨ぐようにしてのしかかった男が、下卑た笑いを顔に貼り付けてわたしを見下ろしていた。
その手が真っ直ぐに胸元に伸ばされることにとてつもない嫌悪感を感じたわたしは、触れさせまいと必死で身を捩る。
「ちょっ……やだ、離してっ、退いてっ、触らないでよっ!!!」
けど、相手はひょろいと言っても男だ。わたしの制止も虚しく男は服の隙間に手を差し込み、いやらしい動きで胸を揉む。その瞬間、わたしの身体中が恐怖と嫌悪感で粟立った。
「やだやだやだやだ!? 触るなこの馬鹿っ、変態っ、クズ野郎っ!!」
上半身に比べればまだ自由な足をばたつかせ、懸命にお腹の上に跨がった男を振り落とそうともがく。けど男はそんなわたしに構うことなく、むしろ抵抗することでさらに興奮するド変態だった。
「やだ、やだぁ……!! 誰か助けてぇ!! ハロルド様、ハロルド様、ハロルドさ、」
“誰か”という広域での叫びが直接的に“その人”を特定した直後、顔に強い衝撃を受けて頭がグラリと揺れる。次いで口の中に広がった生暖かい感触と鉄の味に、殴られたんだと気付くまで数秒の空白があった。
「そうそう……そのまま静かにしていて下さいねぇ? もし今度あの男の名前を呼んだりしたら、もっと痛いことをしてしまうかもしれませんから。ぼくも大切な貴女に痛い思いをさせたくないんですよ?」
こんなことをしておきながらどの口で、と思う。けれど一旦恐怖に支配された喉は、もう一度わたしが声を上げることを拒んだ。
その間に馬乗りになった男がわたしの胸ぐらに手を伸ばす。何かが裂けるような音が、何が裂けた音なのかを理解したくなくて思考を凍り付かせた。
これから何が起こるのか分かっているのに、もう声が出ない。
怖くても出さなきゃ、痛くても抵抗しなくちゃ、こういう類の男は小心者が多いんだからと、そう思うのに――……。
もしもここで抵抗して殺されたら、もうハロルド様に会えなくなる。その一点がわたしの行動を鈍らせた。すでに綺麗な身体でもないんだから、あと一回くらい我慢すれば良いのかな? そうしたら、この男は満足する?
その後はハロルド様にバレないように何も口にしないで、ハロルド様からの結婚の申込みを……今度こそ……今度こそ、ちゃんと“喜んで”って……何もなかった顔をして――。
そこまで考えた視界の端に、あのマドレーヌが入っていた紙袋が踏み潰されて転がっているのが見えた途端、一気に涙が溢れた。
――……出来ない。
――そんなこと、絶対に出来ない。
そんな汚くて浅ましいことを、素直で綺麗なあの人にするくらいなら。昔みたいに嘘吐きのわたしに戻るくらいなら。今ここで声を限りに叫んで、殺された方がうんと良い……!!
「ぃ……い、や……嫌だっ!! 助けてハロルド様!!!」
思いがけないわたしの抵抗に怯んだ表情を見せた男が、直後にわたしの上から姿を消した。急に呼吸が楽になったことに安堵すると同時に、今何が起こったのか全く理解出来ないわたしは、起き上がることも出来ずに呆然としてしまう。
けれどすぐ傍で砂袋でも殴っているみたいな鈍い音と、男の悲鳴が聞こえてきて誰かが助けに来てくれたのだと分かると――初めてしゃくりあげるような声が唇から漏れた。
その微かな声に気付いたのか、まだ誰だか分からない“恩人”がその動きを止める。そして呻き声を上げる男を思い切り蹴りつけて沈黙させると、わたしの方に近付いてきた。
今の今まで男に襲われていたわたしは、失礼だと思いつつ“恩人”から距離を取ろうと無理やり身体を起こし、肩で荒く息をする人物を見上げて――……堪らずその胸に飛び込んだ。
顔を押し付けた瞬間からボロボロと嘘みたいに涙と嗚咽を零すわたしの背に、躊躇いがちに大きな掌が添えられる。その掌が、破裂しそうに鼓動を響かせる身体が愛おしくて。
「――……アリス、アリス……あぁ、怖い思いをさせてすまん。駆けつけるのが遅れて、本当に――、」
そう荒い呼吸の混じる声に。
段々と強くなる抱擁に。
こんな時なのにどうしようもない幸福を感じて。
「馬鹿ぁ……王子様は、お姫様の危機に駆けつけてくれたから、こんな時はもう謝らないで、抱きしめてよぅ……!」
そう酷い鼻声のまま告げたわたしの身体を、ハロルド様は息が止まりそうなくらいに強く、強く、抱きしめてくれた。