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大好きな婚約者◆ギフトボックス版◆  作者: ナユタ
◆メリッサとアルバート◆

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12/33

*1* 魅力が足りない?

 引き続きメリッサ視点です!


 \(´ω`*)<次回からアルバート視点と交互にお送りします♪



「いつもは用意される物を選ぶだけでしたけれど……こんなに種類があるだなんて迷いますわね。イザベラさんはどれにか気になる物はあって?」


「――そうですわね、私はこれにしようかしら。あぁ、でもお待ちになって、メリッサ様。こちらも美味しそうですわよ」


 一度はコレと決めたように指し示された指先がその隣に移る。イザベラさんとわたくしが二人で真剣に睨み付ける先には、可愛らしい色使いと魅力的な誘い文句で描かれたケーキのメニューが一冊。


 今わたくし達がいるのは、王都の街角にある最近出来たばかりで女性に人気のカフェで、かれこれ来店してから十分ほどこの悩ましいメニューとの睨めっこが続いているのだわ。


 その眉根に悩ましげな皺を刻んでいても、この時期にぴったりの若草色の素朴なワンピースに身を包んだイザベラさんと並んでいると、彼女の出す生命力に満ちた魅力に自然と周囲からの視線が集まる。


 わたくしの方はお忍びだというのに、注目を集めてしまう友人を持つのも大変ですわね。勿論、自慢に思う気持ちの方がずっと勝りますけれど。


 さっきから焼き菓子は持ち帰るとしても、後一人足りていない待ち人が来るまでにはケーキを決めてしまいたいですわ。


「そうだわ……もうこうなったら、メリッサ様の気になる物と、私の気になる物を半分こするというのはどうかしら? 先ほど他のテーブルに運ばれている商品を見て思ったのですけれど、ここのケーキはお値段の割に少し大きいですもの」


 ……持つべき物は目端と市井の物価計算が出来る友人ですわね。


「イザベラさん、それはとても良い案ですわ」


「えぇ、メリッサ様。それでは一、二の三で同時に気になったケーキを選びましょう。よろしいですわね?」


「勿論ですわ」


 思わずガシッと片手を握り合い「「一、二の……」」とわたくしとイザベラさんが数を数え始めたとき――。


「あー、二人とももう来てたの!? ゴメン、もしかして、わたし待ち合わせ時間を間違えちゃった?」


 パタパタという足音と共に聞き慣れた元気な声が飛び込んできたことで、わたくし達のケーキ選択は中断されてしまった。


「あら、そんなに慌てなくても大丈夫でしてよ、アリス。私もメリッサ様も今ついたところですわ」


 フッと仄かに笑ったイザベラさんがこちらに目配せを送ってくるものだから、わたくしもそれにならって微笑む。


 肩で息をしながらホッとしたように微笑み返すアリスさんの後ろから、水の入ったコップを載せたトレイを持った給仕係が慌ててやってくる姿に、その場で三人とも笑顔になってしまったわ。


 改めて席についたアリスさんが水を一口飲んだところを見計らい、待っている間に散々わたくし達を惑わせてくれたケーキのメニューを見せる。でも結局やっぱり当初のように「「「一、二の……」」」で決めてしまったわ。


「二人と同時に会うのってわたしの結婚式以来だから……三日ぶり?」


 ケーキを待つ間に先にテーブルに届けられた紅茶の香りを楽しみながら、アリスさんがそう口を開いた。その口許が抑えきれない嬉しさから綻ぶのを見れば、あの式を思い出していることが容易に想像出来るわ。


「ふふ、白々しいですわね。随分と締まりのない顔ですわよアリス?」


「本当ですわ。ヴェールを脱いだ時の清廉さが嘘のようねアリスさん?」


 今日のこの集まりの提案者であるアリスさんの白々しく日数を数える演技に、わたくしとイザベラさんが二人で苦笑すれば「いやぁ~、だって何だか言ってみたくなったんだもん」と舌を出した。


 あの事件にあったばかりの半年前とは違う本来の明るさに、この三日が彼女にとって如何に幸せな時間だったのだと分かる。そこに甘いケーキが並べられれば、もうここは学園と同じわたくし達の世界だわ。


 お行儀が悪いけれど、三人で注文したケーキをそれぞれ三等分にしてテーブルの真ん中に並べ、思い思いの順番にフォークで口へと運ぶ。


 わたくしとイザベラさんが「「美味しいですわね!」」と絶賛する前で、まるで巨匠のような厳しい表情を浮かべたアリスさんが「……なるほど」と言うものだから、一瞬固唾を飲んで見守ってしまったわ。


 でも結局「チッ、やっぱプロの味には敵わないかぁ~……」とテーブルに顎を載せてふてくされるアリスさんに「馬鹿ね。プロにはプロの、アリスにはアリスのお菓子の美味しさがあるわ」とイザベラさんが言ったことで、このお話は円満に解決した。


 その後、悔しがったアリスさんが追加で注文したケーキと紅茶を口に運んでいたのだけれど、唐突に「あ、今日は三人で新婚話しようと思ってたんだった!」と本題を思い出して叫ぶものだから、わたくし達は思わず目を丸くしたわ。

 

「「新婚、話……」」


 幸いむせるようなことはなかったけれど、突然のことに動揺してイザベラさんと二人して言葉を反芻(はんすう)する。


「そうだよ何かないの、先輩達」


「「その“何か”は具体的に言うと何ですの……?」」


「具体的にかぁ。具体的、具体的、具体……んー……女三人、自分で言うのもなんだけど、わたし達って全員溺愛系夫婦じゃない? だったらやっぱここは猥談(わいだん)とか?」


 アリスさんの口から飛び出した単語に、近くの席にいたお客の肩がビクリと跳ねる。わたくしは隣に座るイザベラさんに“お分かりになって?”と目配せするも、イザベラさんも首を傾げた。


「あぁ、そっか。二人共お嬢様だから猥談って言っても分からないよね。よし、ここは一つこのわたしが教えてあげよう。それじゃあお嬢様方、お耳を拝借」


 そう少し意地悪そうに微笑んだアリスさんが“チョイチョイ”とわたくし達を手招きする。素直にグッと身を前屈みに倒し、三人でテーブルの中心に顔を寄せ合わせると、アリスさんが声を低くした。



「良い? 猥談って言うのはねぇ~、」



 ☆×▲○◆▽


 ★↓↑○◆☆■


 ××↑→※※◇★□


 

「って、ことだよ。まぁ今のはまだほんの一例っていうか、全然大したことない部類だけどね。それで、あれよ、その……二人は結婚して初めての夜に、どれか試してみたりした?」


 そう訊かれたところで“猥談”の何たるかも理解していなかったわたくし達に、そんな高難度なことが出来るはずもないですわ。


 羞恥で涙目になったわたくしとイザベラさんは、その衝撃的な内容に脳が熱暴走を起こし、復旧の目処が立つまでにもう一つケーキを注文する羽目になった。



***



「いやいやいや……さすがに嘘でしょ、結婚してほぼ一年だよ二人とも。いくら何でもそれはあり得ないよ。あ、分かった。女同士なのに照れてるんでしょう? 水臭いな~」


 結構本気でそう訊ねてくるアリスさんに対し、イザベラさんと二人して沈黙してしまう。こんな時に仲間がいてくれるのはありがたいですわ……と、思ったのもほんの束の間。


「う、でも、それは……その、昔からダリウスはとても奥手ですもの。それに領地がまだ忙しくてそれどころではありませんの」


 あぁ、確かに奥手(それ)を言い出されてしまうと、もうこの場でわたくしがアリスさんの尋問から逃げる言葉を何も思いつきませんわね……。


 申し訳なさそうにチラリとわたくしの方を窺うイザベラさんに向かって「良いのよ」と弱々しく微笑んで見せる。本当に、良いのよ?


「それよりもアリスさんはそんなことを訊ねて来られるからには、さぞかし上級者のテクニックを――……?」


 答えられない質問に質問で返すのは無能の悪手。しかしこの場において、わたくしに出来るのはこの逃げの一手に限られているわ。それにここは初心に戻ってもう一段階上の恋愛指南を受ける好機。


 同じことを思ったのか、イザベラさんも若干前のめりになっている。けれど、学園でいつもわたくし達を教え導いてくれたはずのアリスさんは、その問いにうなだれて首を横に振った。


「うー……実は、わたしの方も全然駄目でさぁ。今回の集まりは特にイザベラの情報を期待してたっていうか」


「わ、私ですの? どちらかと言えばメリッサ様の方が――」


「イザベラさん? 何故そこでわたくしの名が……いえ、確かにアルバート様はそういうことにお詳しいでしょうけれど」


 もうお互いに顔を真っ赤にしたまま慌てて会話を回すから、何が何やら。淑女の淑やかさなどこの場から消え失せているに違いありませんわね。


「いや、うん。そっか。こうなったらかえって良かったというのか、二人に変なこと聞いたからにはわたしも白状するよ。わたしも結婚式のあった夜に頑張ろうと思って挑んだんだよ? でもさ、」


 そう言ったアリスさんはテーブルの上に肘を付き、指を組んで顎をその上に載せた。わたくしとイザベラさんも自然と同じ姿勢で聞いてしまう。そうして三人の視線が絡み合ったところで、アリスさんが切なそうな溜息と共にこう言った。

 

「……ハロルドが鼻血出して倒れたから、それどころじゃなかったんだよ」


 その瞬間、わたくしの隣でイザベラさんが「あぁ~……」と同意とも理解とも付かない合いの手を入れる。何かしら分かり合える部分を見つけたようで少し羨ましいですわ。


 それに今のお二人の反応だとまだしも救いというか、どうにかなりそうな余地を残しているのではないかしら? 結果はどうあれ、きちんと女性として意識をされての惨状ですもの。


 でもそうとなると、わたくしの場合に考えられることは、もう一つしか思い当たらない。


「わたくしにアルバート様が好まれるような、女性としての魅力がないと言うことなのかしら?」


 ポツリと漏らしたわたくしの呟きにお二人は「「そんなことがあるはずないわ!!」」と、力強くある一点に視線を寄越して仰ってくれた。

 


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