*0* 実はまだ……。
メリッサ視点です\(´ω`*)
アリスの時と同様に次もメリッサ視点でお送りします。
四月の晴れの日に恵まれた今日、わたくしは自分の人生でもそうはない幸せな日に立ち合うことが出来たわ。
というのも、アルバート様とわたくしの共通の友人である二人の結婚式に招待されたからですけれど。
式場は二人の希望もあって、わたくしとイザベラさんが式を上げた場所とは違う、下町の小さな教会だったけれど……それでもアリスさんやハロルド様の人柄で集まった参列者は、皆その幸せな門出を口々に祝い願った。
隣では盛大に領地から持参した花弁を撒くダリウス様とイザベラさん。お二人の手から渡された両手の上から零れ落ちんばかりの色とりどりの花弁。
クリス様の影からソッとダリウス様とイザベラさんを窺っていたレイチェルさんの為に、クリス様が『これくらい、自分で言い出しなさい』と言いながらも、花弁を受け取って差し上げていた姿も微笑ましくて。
それを力一杯宙に放り投げた時の高揚感と、幸福感。まるで我がことのように喜べる友人達が出来たこと、その友人達が幸せになる姿をこの目で見られたこと。
それがとても、とても嬉しくて。その日わたくし達は花弁の舞う中を並んで歩く二人に、王家の一員としてではなく友人として、惜しみない祝福の言葉を贈ったわ。
その後のパーティーでは皆さん羽目を外されて大変でしたけれど、アリスさんを抱き上げて振り回すハロルド様は本当に幸せそうで、初めてお会いしたアリスさんの新しいご家族に拳で黙らされていたのは衝撃的でしたわね。
わたくしもその場の楽しげな雰囲気に当てられて、日頃あまり進んで口にしないお酒を楽しんだ。
お酒をまだ召し上がれないレイチェルさんに、ダリウス様がブラッドオレンジのジュースを差し上げている横で、面白くなさそうなイザベラさんとクリス様を見たり、アリスさんのいた孤児院の子供達の合唱を聴かせてもらったり。
急に始まったダンスには驚いたけれど、わたくしもイザベラさんも、アリスさんもレイチェルさんも、互いのパートナーと一緒になって、街のお祭りで踊るダンスを見様見真似で踊ったわ。
そんな心地良い疲れを感じながら楽しい一日を終えて戻った自宅の一室。
わたくしはすでに侍女達の手で整えられた寝間着姿で寝室のベッドに腰掛け、普段は緩く巻いているけれど、実のところは真っ直ぐな赤髪を手櫛で梳きながらアルバート様に向き直る。
今夜はふんわりと身体の線を覆う、やや大人しくて品の良いアイボリーの夜着で、わたくしと侍女達で検討した中でも特にお気に入りのものだわ。
「今日のアリスさんとハロルド様のお式は素晴らしかったですわね。特にハロルド様の誓いの場面は本当に微笑ましくて……ふふ」
とても幸せそうだったアリスさんとハロルド様の結婚式を思い出しながら、わたくしは八ヶ月前の自分達を思い出してそう微笑んだ。
けれど――……。
「あ、あぁ……ハロルドはずっと今日を待ち望んでいたしな。やりすぎだったとは思うが、それぐらい嬉しかったんだろう」
何かハッとしたような――少し慌てた表情を浮かべたアルバート様は、わたくしの視線から逃れるように床に視線を落とされた。拒絶ではないにせよ、こうしたことは結婚後から度々あるのだけれど……。
「そうだ、メリッサも今日は珍しくはしゃいで疲れただろう? 俺はまだ兄上に任された仕事が残っているから、メリッサは先に休むと良い」
取り繕うようにそう優しく微笑んだアルバート様が、わたくしに近付いてきていつもそうされるように、額に子供にするような“おやすみ”の口付けを一つ下さるわ。
その背中が寝室のドアから出て行ってしまうのを見届けて、わたくしは今夜も一人冷たいシルクのシーツに顔を埋める。
はしたないけれど“今夜こそ!”と意気込んでいたわたくしは、その事実を再認識させられる形で深い溜息を吐いた。
「この夜着もお気に召して頂けなかったのかしら……」
――――結婚してから約一年。
わたくしはまだ“正式”なアルバート様の妻になれていないのだわ……。




