*0* アリス・イン……。
例えばの話なんだけど、人間って案外感覚的に生きてるもんなんだな~と思うことってあるよね?
見知った道でもぼんやり歩いている内に今まで曲がったこともないところを曲がっちゃったりして“――……あれ? ここどこだっけ?”ってなるようなこと。
急に何の話かと思うだろうけど、というのも実は今のわたしなんかが正にそんな状態な訳で……。
ここって学園の裏庭じゃない。いつの間にわたしったらこんなところまで来たんだろう?
グルリと周辺を見回してみると良く恋人同士がイチャイチャしているベンチや“誰がこんな所に見に来るんだろう?”みたいなガーデンオブジェや、野生の小鳥には豪華すぎるバードバスがある。
何時間目の講義が終了したところか分からないけど、自由時間でないと講堂の外にいるはずないよねぇ? メリッサ様とイザベラがいないからお昼休みでもなさそうだし。
大体こういう場所って、この学園に入学してからわたしの溢れる魅力に当てられた“獲物”を相手に何回か呼び出したり、呼び出されたりしたかな~っていう場所だけど、呼び出した覚えはないから今回は呼び出された方かな?
でもここに来るまでのことを一つも覚えてないんだけど……まぁ、細かいことは良いか。
それにほら、誰か知らないけど、わたしを呼び出した相手がすぐ傍に立ってるし……ってハロルド様!?
それだけでいつもの、誰に呼び出されたことも覚えていられない風景が急に鮮明に“思い出される”。わたしはすでにこの先の展開を知っているのに、らしくもなく胸の奥が熱く激しい動悸をを起こした。
『急にこんな所に呼び出して悪い。こんな時にクリスやアルバートならもっと気の利いたことが言えんだろうけど……オレにはさっぱり思いつかねぇ。だけどそれでも“オレの言葉”で聞いて欲しい』
……ちょっと待って、待った、一旦落ち着いて。その先の言葉はわたしみたいな生まれの人間相手に言っちゃ駄目だってば。本気にしたらどうするの?
『もしも、ほんの少しでも良い。この学園生活でオレといて楽しいとアリスが思ってくれたんなら――、』
……もう止めて、本当に止めてよ、お坊ちゃん。わたしをこれ以上揺さぶらないで。あんたみたいな“優しい男ひと”が、わたし何か相手にその大切な言葉を使っちゃ駄目なの――。
『絶対に――必ずオレの全てをかけて幸せにしてみせる。だからオレを、アリスの結婚相手として考えてみてくれねぇか?』
馬っ鹿じゃないの、だから止めてって――――、




