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これで幾度目の夏であろうか。

イシュタリアの燦々たる太陽に肌を焙られたセリアは、溜まらず木陰に逃れて冷たい地面に伏せた。

昼間から寝転がる怠け者の女乞食に軽蔑の眼差しを向けながら、目の前の農道を渋面の農婦が通り過ぎていった。

「うひ」

下層の世界に転落して以来、卑屈さと共に変な笑い声がすっかり身についていた。

腕を枕にしながらセレナが寝転がる丘陵の頂からは、段々に広がる麦畑で野良作業に従事する農民たちの姿がよく見えた。

落穂拾いに励む寡婦や孤児、そして浮浪者の姿も見えるが、しかし、そこに異邦人たるセレナの入る余地はない。

豊穣の中欧諸国に比べれば、イシュタリアの大地は明らかに乾いている。

風も、大地も、多分、人情も。あるいは、最後のは、セレナが外国人ゆえの贔屓目という奴かもしれない。


異邦人は警戒され、下層民は侮蔑されるが常の世であった。

慣れぬ気候。知らない風習。片言の言葉。風体の怪しさを増す左目の眼帯。

赤味の混じったイシュタリア人に対し、白さの目立つ中央諸国の肌の色。

襤褸を纏った異邦の無宿人に、浮き上がる術は皆無であろう。


「あぁ、世界が滅びないかな」

異端審問官や魔狩人に聞きつけられれば即決で吊るされるであろう愚痴を漏らしつつ、セレナはくぁと大きく欠伸を漏らした。


「こう見えても、町でも一番の器量良しだったのに。

 ちゃんとした許婚だっていたし。あーあ、あいつらだ。あいつらが悪い。私悪くないもん」

 弱い立場の非力な女乞食。混沌だなんだと囀るのを迷信深い農民にでも聞きつけられれば、弁解も聞かれずに袋叩きで殺されても仕方ない。故にあいつら。

ぶつぶつと呟き、罵り。寝っ転がっては、天を見上げ、腹を抱えて切なく呻いた。

「腹が減ったよう。家に帰りたいよぅ」



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