表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

塔の王

天は昏く、大地は色と形を失い、音のない無限の言葉が死にながら生まれている。

蜘蛛の巣のように薄いヴェールが溶けて気体と空想が入り混じり……


鋼纏う屈強の兵士が、ぺちゃくちゃと脈絡のない言葉を喋っていた。

口から垂れ流れた涎と、大小便が大理石の床を汚している。

が、誰も気にした様子はない。もはや、王城も無人であった。


混沌が迫りつつある。混沌の軍勢が。

人々は逃げた。兵も貴族も王族も逃げた。

都を捨てる気にならぬ老人たち。

ただの強大な敵であれば、絶望して自裁する者もいようが、しかし、混沌に大地が飲まれては安らかに死ぬことも出来ぬ。故に逃げる。絶望から逃れること敵わず、逃げ出していく。


アウナンの王城は、迫る混沌を前にして無人と化していた。

繁栄を誇った王城の主を探して、セレナは早足に歩き回った。


王は逃げたかもしれない。早く逃げねば、間に合わぬかもしれない。

しかし、いるのだ。城の一番高い塔に。男が独り佇んで、迫る混沌を睨みつけている。

その光景を、たまたま、近くの丘よりセレナは目にしていた。


故に留まった。たまたま、目にした光景の、それが王とも限らぬ。

切り捨てられるかもしれぬ。また、言葉が届かぬかもしれぬ。

が、彼女は霊感に打たれたまま、無人となった王城に入り込んで今、王の姿を探していた。


気まぐれ。酔狂もここに極まった。

なにをしてるのだろう。私は。

自嘲ぎみに呟いて、広大な大理石の回廊の左右を見回して、セレナは徒を進める。


時間がない。大地が震えつつある。

魔の者共よりも、暗黒の力よりも、闇の領域より、不死の呪いよりも恐ろしいと言われる、混沌が迫っている。混沌は、この地を飲み込むだろう。

三重の城壁など何の意味も持たない。


逃げるべきだ。間に合わなくなる。約束した訳でもない。

そもそも、あの老人とて狂人かもしれぬ。今なら、間に合うかもしれない。

走っても、難民もろともに飲み込まれるかもしれぬが、混沌が王都をゆっくりと食らうかもしれぬ。


怯える体、人差し指を噛んで震えを止めた。


事ここに至っては、間に合わぬ。いや、逃げれば間に合うかもしれぬが言葉を届けよう。

無価値で終わるかもしれぬ。だが、構わない。いいとも。死んでやろう。

最悪、飲み込まれても、最後まで抗ってやろう。

永劫に死ぬことも出来ず、肉体が粉微塵にされたよりも苦しいらしい。

それがどうした。どれほどであっても、為すべきことをすればいい。


今は、これが私の為すべきことだ、と。

塔の階段を上り切った乞食の娘は、振り返った壮年の男に言葉を告げた。


ロードの剣を探せ。イシュトリアの地にそれは眠る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ