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「今から縄を解く。暴れるな」
セレナの記憶にある限りでは、端的な言葉の羅列を好む人間には、荒事に慣れた人間が多かった。
意図を誤解せず伝えることを優先し、機能的なやり取りを好む性質の人間。
酔狂にも王家に出仕して軍人なんぞになった一族のはぐれ者が、似たような言葉遣いを好んでいたのを覚えている。
セレナの拘束を外している、がっしりとした体型の老人の所作を観察する。
隙がない。セレナ自身はてんで弱いが、大きな農場の娘であっただけに、それなりに腕の立つ者たちも見知っていた。
戦場によく出た騎士か、軍人に雰囲気が良く似ている。こいつも、その手合いなのか。
現場指揮官が好む言葉遣いに、節くれだった力強い素手も、セレナのそっ首くらい簡単にへし折れるだろう。
「どうせ暴れたって勝てないし、私、弱いし」
文字通りに手も足も出ないので渋々と頷いたセレナだが、体が痺れているし、冷えているし、鼻水が出てきそうで火の傍にすりすりと近寄った。
「食べるがいい」
粥をよそい、湯気の立つ椀を出してきた屈強の老人。見た目ほどの歳ではないのか声が意外と若い。
「元々、私の食べ物だぞ」
子供が食べかけの黒パンを差し出してきた。
「た、食べますか?」
「私のパンだぞ」
ついでに言うなら、セレナを縛っていた縄も元々、彼女のものだった。
「もうわしらのものだ」老人の返答に頬を膨らませつつ、セレナはパンを受け取った。
「……もらう」
粥に黒パンを浸しては、モソモソと齧りながら、本格的に雨の降り始めた窓の外を眺めた。
「……食べ物は持って行っていいから、雨が止んだら出て行けよ」
雨が降っている。風車小屋の片隅に置いた箱の上に座って、茜色の空を眺めた。
老人は遠慮なしに焚き火に薪を放り込んでいる。
不満だが、文句は言わなかった。また殴られると恐いからだ。
セレナの小さな城は、侵略者の圧倒的な軍事力で制圧されてしまった。
冬まで残りの日数と、1日に集められる薪の数を計算し直してため息を漏らした。
冬になっても、薪を集めないといけない。
老人と子供は一枚の毛布に包まりながら、寄り添って暖を取っていた。
子供は疲れていたのだろう。老人に寄り掛かってウトウトと舟をこいでいる。
まあ、殺されることはないかな。とセレナは判断した。
老人と子供は、身なりがいい。つまりセレナの住処と乏しい財産を奪う必要がない。
だから、殺す理由もない。多分。
招かざる客人たちを眺めつつ、セレナは鼻でため息を漏らした。
なんとはなしに窓際に寄り掛かりながら、しどけなく粉糠雨の降り続ける外を眺めていたが、やがて素っ頓狂な叫び声をあげた。
「ありゃ……街道から外れているのに、どうして今日に限って」
老人が薄く目を見開いた。
「どうした?」
「あれ、あんたたちの仲間?千客万来だね。騎馬の一団が近づいてきているよ」
セレナの呑気な物言いに、老人が血相を変えて立ち上がった。