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風が少しずつ涼やかさを増している。
夏も終わりが近づいてきたのだろう。
畑では刈り入れが終わり、剥き出しとなった大地を農夫たちが木製の鍬で耕している。
街道を歩けば兎や狐、栗鼠が草原を駆け回っている姿を目にすることができる。
冬が訪れる前に、少しでも多くの食べ物を集めておかなければならない。
「んしょっと」
日の出た時刻から正午まで森を歩き回ったセレナは、食用の木の実や果実、茎や根で人の頭ほども膨れ上がった革袋を担ぎながら河原へと向かった。
集めた食糧のうち、幾ばくかは塩や食べやすい代物と交換し、残りをねぐらに貯め込んでいた。
団栗などは一年を通して採取できるが、食料にするには灰汁抜きなどの手間を必要とする為、主にほかの食べ物との交換に使っている。
河原に集う商人の中には、そうした貧民相手に取引している者も少なからずいるが、弱い人間が銭を貯め込んでもろくな事にはならない。
むしろ迂闊に銭に替えてしばえば、財布を丸ごと奪われた際に一巻の終わりとなる。
乞食や物乞いなどが貯め込むと、不思議と寝込みを襲われて金を奪われることが少なくない。
見ているのだ。とセレナは震えた。
関心がない振りをして、僅かでも隙を見せれば奪う機会を誰も逃さない。
弱者だから助け合うなんてのは、おとぎ話だった。
だからと言って、世の全てが弱肉強食なわけでもない。
貧富に関係なく心醜い者もいるし、きっと美しい者は死ぬまでも美しい。
乞食たちが徒党を組んでも、末路は千差万別だった。
助け合って町暮らしに落ち着いた者たちもいれば、数を頼みに裕福そうな旅人を襲い、略奪を働く盗賊となった者たちもいる。
優しい者もいれば、残酷な者もいる。
誰にだって友人はいるが、異邦人は違う。
異邦人は誰も助けない。
だから、ねぐらに貯め込んでいる。
収穫の乏しい冬の間、貯め込んだ食糧を少しずつ食べ物に替えてやり過ごす。
セレナは隻眼でか弱い女乞食だ。
奪おうと思えば簡単に奪えるが、僅かな食料目当てに襲い掛かっても手に入るとも限らない。
襲う価値さえ持たないのが、今のセレナの処世術だった。