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セレナは、何故か、輪になって娼婦たちと飯を食べていた。
「ほら、もっと食べなよ」
勧められたスープには得体のしれない肉と野菜が浮かんでいるが、抗いがたい香ばしさが食欲をそそった。
空腹には抗いがたくスープを一口啜ると、人生で初めてだと思えるほどに旨かった。
古来からある『空腹は空腹は最上の調味料』という諺の意味を、頭ではなく胃袋で理解できたよ。姉貴!
スープが胃袋に落ちた瞬間、其の儘、体内に溶け込んでいくのが錯覚ではなくはっきりと感じられた。
ずっと雑穀の粥ばかりだったからか、体がスープの塩と脂を喜んでいる。
理屈ではない。食べても食べても足らない。幾らでも体に入っていく。
汗が滴っていた。
満たされている時に同じスープを食べても、此れほど旨くは感じないだろうな。
「お代わりいるかい?」
三杯目を飲み干したセレナに、猫に似た美人が問いかけてきた。
理性は躊躇するが、本能がもっと食べたいと訴えてくる。
浅ましいかなと思いつつも椀を差し出した。
「お、お願いいたす」
「なんだい、武家みたいな物言いだね。この娘」
娘の一人が闊達な笑顔で笑いだした。
「いいんだよ。もうじき、冬だからね。体に栄養貯めとかないとね」
姉貴分らしい紫色の目をした女から、湯気の立つ椀を受け取りながら、セレナは天幕内に視線を走らせた。
さほど広くない天幕に五人。みんな、意外と肉付きがいい。
普段から、それなりに栄養ある食事をとっている様子であった。
少なくとも、中央諸国。ファラディアの路地裏で見た娼婦たちよりは、ずっと生気に溢れている。
故国の下町で佇んでいた娼婦たちは、誰も彼もが痩せて苦しげで人生の悲嘆が憑りついたかのよう落ちくぼんだくらい眼差しを浮かべていた。
一目見たら忘れられない暗鬱な雰囲気が、目の前の娼婦たちからは感じられない。
本当に娼婦なのだろうか。それともイシュタリアはファラディアよりも豊かなのか。
或いは、それとも目の前の女の人徳か。
口元を拭いながら、セレナは四杯目のスープを受け取った。