干し豆
※舞台は中世欧州風異世界なので、現代人の慣習や生活様式から見ると、不快に思えるシーンもございますぞ。
戦乱のイシュタリアには、浮浪児など掃いて捨てるほどいる。
戦災孤児とは限らない。親が捨てることもあれば、貧困から故郷を捨てる子供たちもいる。
一々、餌付けしていたら限がない。
それでも農場に生まれ育ち、野山を駆け回ったセレナは、食べ物だけなら幾ばくかの余裕があった。
ベルト代わりの縄に結んだ小さな麻袋から、乾燥した豆をパラパラと取り出して、口元に含ませてやるが、硬くて噛み切れない様子だった。
一瞬悩んでから、母親が弟や妹に対してどうしていたかに思い当たる。
豆を口に含んで噛み砕き、唾液と混ぜて柔らかくなったものを口移しに与えてみる。
抱きしめられたまま、子供は口をモグモグと動かして、豆をごくりと飲み込んだ。
食べた。
なるほど可愛い。あー、可愛い。
世情は荒れている。子供が死ぬのを幾度も傍観してきた。
セレナは、知恵も力もないただの小娘だ。
祈る以外に何もできなかった。
だから、今、助けたこれは気まぐれだ。
これから先、面倒を見続ける力などない。拾えば、共倒れになるかもしれない。
恐らくは、いずれこの子も死ぬのだ。
誰かに助けられた思い出があれば、少しは救われるのだろうか。